第10話 抗えない事
翌朝、気分が悪かった。窓から見上げる空は気持ち悪いくらいに晴れ上がっていた。僕は布団に突っ伏して、今日はわざと遅刻してやろうと思った。自暴自棄になっている原因が、場合によっては自分の誇大妄想の為だという事も理解していたが、何か反抗的な事をしていないと居た堪れなかった。それで、昼頃まで、も一度寝てしまおうと思った。
然し、寝ようと思い立った刹那に、誰かが僕の部屋の扉を叩いた。何故か鍛冶屋の主人かと思い、冷汗が出たが、すぐに声が聞こえ来、それがシーナだと思った。僕は一瞬、自分の心が明るくなるのを感じたが、次の瞬間には、昨晩の出来事を無意識的に反芻しており、とてもシーナと会いたい気分ではなくなっていた。然し…。
僕は適当に身嗜みに気をつけると、扉を少しだけ開けてやった。そこには、少し不安そうな顔をしたシーナが立っていた。僕は扉の狭い隙間から顔の半分を覗かせて、どうしたの、と訊いた。
「昨日…」シーナが言った。「迎えに来てくれなかったね。体調でも悪かったの…?」
どうやら心配してくれているようだった。けれど、僕はなんだかそれを平易に信じる事が出来なかった。
「…悪かったよ…」僕が言った。「でも、無事に帰れたみたいでなによりだ」
彼女は薄く笑んだ。
「昨日は、貴方が全然来てくれなかったから、向こうで知り合ったお友達に送ってもらったの。だから、心配なかったよ」
僕は彼女には解らないように、唇を強く噛んだ。頭に血が上ってしまったのか、少し立ち眩みがした。僕は、彼女の視線を僕の視線で以って辿る事が出来なかった。だから、出来るだけ俯く事にした。
「ねえ」シーナが言った。「明後日、何の日か覚えてる?」
明後日は…シーナの十六の誕生日か…。
僕は、君の誕生日だね、と、少し無愛想に返答した。彼女は満足そうに微笑んだ。
「それでね」シーナが言った。「洋裁店のお友達や、お客を通して知り合ったお友達が、わたしの誕生日を祝ってくれる、って言うの」
僕は少し考えると、小さくかぶりを振った。
「去年は…『太陽亭』だった」
彼女は首肯した。
「でも、今年は、街中の大きな酒場を借りてやって貰えるみたい」僕には、何も想像出来なかった。僕の知らない所で沢山の事が起こっているのだ、という事を、ようやっと認識出来た感じだ…胸糞悪い…。「ねえ…」シーナは続けた。「貴方も、当然来てくれるでしょう? わたし、貴方を招待しに来たのよ」
僕は、これ以上シーナと話していたくなかった。だから、彼女と視線を合わせないまま、考えておくよ、と一言だけ言うと、扉を閉めた。木の扉の向こうで、きっとだからね、とシーナが半ば叫ぶ感じで言うのが聞こえてきた。僕は、故意に、大袈裟に耳を塞いだ。自分があまりにも情けなく思えて、懲りずに涙が出た。
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