「追い上げ」
テストまで残り一週間
「じゃあ、この問題解いてみて」
俺とうえははテスト勉強の真っ最中だった。
今日は朝からうえはに起こされ、俺の家でテスト勉強をしている。
寝ぐせで頭がぼさぼさなうえに寝巻である。
朝からうえはの手料理を食べられたことはうれしかったが、食べ終わったらすぐにテスト勉強となり、今に至る。
まるで俺はうえはに飼われている犬のようであった。
「この問題昨日やった気が・・・」
「復習が大切なの、ほら、早く」
「はい」
「よくできました。二つ返事」
「二つ返事くらいできます」
「犬みたい」
うえはは笑っていた。
まさにさっき俺が思っていたことをうえはが口にしたので、俺も笑ってしまった。
俺はふと思った。
そういえば昨日も一昨日もうえはは俺につきっきりで勉強を教えてくれているが、本当にうえはは大丈夫なのだろうか。確かにあの日は大丈夫と言っていたが、本当だろうかと。
そんなことを思ったせいでペンが止まっていた。
「解けないんでしょ」
「いや」
なんとも覇気のない返事をした。
「なぁ」
「ん?」
「うえはは大丈夫なのか」
「だいじょうぶだよ。この前も言ったでしょ」
うえはは自慢げに言った。
「それにこれは恩返しでもあるの」
(恩返し?そんな覚えないぞ)
俺は心の中で問いかけていた。
それが声となって出た。
「恩返しって?」
「それはね」
うえはは嬉しそうに言った。
「私はうれしかったんだよ。顕が毎日病院に来て私の話し相手になってくれて。返しきれないくらいの恩をもらったんだよ。顕が毎日来てくれたおかげで退屈なはずの病院での生活がいつも間にかいつまでも続けばいいのにって思ってしまったくらい。だからね。顕。その恩も少しずつでも返させてほしいの」
こんな話初めて聞いた。少し照れ臭かった。
「おれはそんなつもりじゃ」
「いいの。私がやりたいからやってるの。だって私顕のこと・・」
突然ドアが開いた。
「うえはちゃん、紅茶飲む?」
声の主は紗夢だった。
「あ、飲むよ。紗夢ちゃんおはよう」
うえはは少し顔をおからめてあっけにとられながら言った。
何たるタイミングの持ち主だろうか。
何かを見計らったとしか思えない。
今日はそれ以降その話をすることはなかった。
しかし、俺にはうえはが最後に何を言いたかったのかはなんとなく察しがついていた。
きっとお父さんみたいだと思っているに違いない。
てか、自分ですらそう思ったことが何度もある。