ファティアとの出会い
エクセルは手際よく地面に敷いていたマントを拾い上げて、全身を覆うように着て、首元でマント止めの金具を付けた。
ついでに置いておいたランプを持ち上げ、肩の高さまで持ち上げる。
「ようやく会えた……、白髪のエルフ」
「あら? アタシのこと知ってる……の?! ぎゃふ!!」
エクセルに向かって真っすぐに歩いていたと思われていたそのエルフは、石も枝も根っこもないところで足をつまづかせて転んだ。
足元にブービートラップがあったわけでもない。単純に、転んだ。
顔面から地面に落ちたからか、どこか致命傷にでもあったか、ファティアは地面につっぷしたまま動こうとしない。
「おいおい、大丈夫か?」
エクセルはランプを地に置きファティアを起こしにかかる。ぐったりとした体は想像以上に重く、上半身をやや持ち上げただけになってしまった。
「はぁ……しんどいわ」
ファティアはそう言うと、自力で上向きに体位変換をして上半身を起き上がらせる。
よく見てみると、ファティアはしっかり座っているようで、そうではなかった。ふらふらと体を泳がせている。
『酒くさっ!』
ファティアに対するエクセルの第一印象は残念なことに、吐息の酒臭さだった。
「あら……あなた、ずいぶんとイケメンじゃなーい!」
ランプでお互いの顔が照らされる。
ファティアはさっきまで目を半分座らせて仏頂面をしていたのだが、エクセルを見るや否や表情を一変、獲物を見るかのような目になった。声色も黄色く変わっている。
「いや、オレは……」
と、言いかけてエクセルは口を閉じた。
『男好きなら、男で通しておいたほうが、いろいろ都合がいい、か?』
「アタシの名前はファティアよ。あなたの名前は? 名前だけじゃなく、出身とか今住んでる場所とか、彼女いるのかとか色々、」
元気にしゃべっていたところで、突然頭が重力をうしなったように、もたげ、しばらくして元に戻る。
「……そう、色々知りたいわ。あなたのことなら何でも教えて?」
『今、首が変な方向に曲がったぞ……!』
ニコニコと笑っているように見えるが、しばしば目を光らせ、ほとんど目を曇らせている。
『完全にまだ酔っ払いだな……』
「オレの名前はエクセル、ずっとあんたを探してたんだ」
「本当!? 理由は知らないけど、うれしいわっ!」
と言って、ファティアはエクセルに抱き着く。
「ちょっと、おいっ、離れ……」
「あら―――? あなた……」
ファティアはエクセルを押し倒して、マントの胸元を広げる。
「女じゃない! あーもう!」
男ではないとわかった途端、高かった声色も、地声に変わる。地面にあてた手を放し、立ち上がろうとして、バランスを崩し……
「はうっ!」
そのままエクセルの上に倒れかかった。
「ぐはっ!!」
まさか倒れ掛かってくるとは思っていなかったエクセルは完全に防御できないまま、酔っ払いの肉体に押しつぶされた。