ライトニング
エクセルはうなり声が聞こえたほうを注視する。林の中から二つの緑色の光が見えた。
『1匹か』
しばらく獣の動きに集中していると、一瞬強い風が横切った。
「ガウッ!!」
風の音が合図となったか、林から飛び出した獣の影は、一気にエクセルに距離を詰める。狙うは右腕。よだれをたらし牙をむいて、大きな口を広げる。
ザッ
エクセルの右足が大地を踏む。半身ほど体をよじらせて、獣の攻撃をかわした。獣はそのまま草むらに着地すると、反転し、後ろ足を蹴る。再び右腕が狙われた。
「しつこいっ」
両手に握りしめたショートソードで一撃を放つ。月の光が反射して、弧を描く。
「ギャウッ」
わずかに飛び散る獣の血が、エクセルの腕にかかる。剣は獣のどこかを切り裂いた。
魔法ランプと月明りに照らされて、獣のシルエットがあきらかになってくる。
『ジャッカル!』
エクセルはショートソードを握りなおして獲物に向かって構えをとった。
肩口を斬られたジャッカルは、より殺気を増して今度はエクセルの太ももを狙って飛びかかる。
「ライトニング!」
エクセルの声とともに、空中に光が現れ、ジャッカルの体に雷がまとわりつく。一瞬ひるんだ隙にすかさずエクセルのショートソードが振り下ろされる。
しかしジャッカルは獣、しびれながらも、横に跳び、剣をかわした。
「逃すかっ」
ジャッカルが飛んだ方向にエクセルも体の重心を移動させ、振り下ろした剣を片手で横に切った。
間合いの伸びた剣はジャッカルをとらえた、ように見えた。が、実際はブンと音を立てて空を斬った。
もうひとたびジャッカルは横に跳んでいた。着地するやいなや、クルリと身をひるがえし、林のほうへ逃げ出す。
「ライトニング!」
エクセルの声とは違う女の声が響くと、視界を奪うほどのまぶしい光が現れ、轟音とともに複数の雷がジャッカルに命中した。
ジャッカルは悲鳴をあげる暇すらなく、バチバチと小さな光を帯電させ、地面に倒れていた。
血と肉の焦げる臭いが充満するとともに、落雷後特有のオゾン臭も充満した。
エクセルは声のしたほうを見やる。
そこには長身長髪の薄白い人影が歩いていた。
「ワンスペル魔法が使えるのはすごいけど、アタシにはまだまだほど遠いわね」
白い髪をなびかせて、赤いルージュが塗られた唇がクスリと笑う。
エクセルはその姿に自分が思い描いていたある姿を投影させて、確信を持った。
「あんた、ファティアか……?!」