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いいから魔法を教えやがれ!  作者: サトウユミコ
第一章 無銭飲食の犯人
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犯人のゆくえ

「……さん、……客さん……、着きましたよ!」

乗り合い馬車は町の入り口で馬留めに繋がれ、御者は馬車を降り、客室へ入り込んだ。到着したというのに降りない客がいたからだ。御者は魔導書に夢中になって動かない客の肩を軽く叩き、迷惑そうに声をかける。

「ちょっと、お客さん、着きましたってば」

「む?」

肩を叩かれてようやく御者の存在に気が付いたエクセルは、馬車の窓から街並みが見えるのに気が付いて、バタンと魔導書を閉じ、いそいそとカバンにしまった。

「どれだけ熱中して読んでたんですか……。早く降りてください。すぐにでも次のお客さんを乗せたいんですよ」

馬車は車輪が大きく、客室もやや高いところに設置されてるため、乗り降りが大変な作りになっている。エクセルは御者に一言詫びると、馬車の客室から軽く飛び降りた。


 町に着いたエクセルは、いの一番にこの町の魔導士ギルドを訪れた。魔導士としてギルドに登録している以上、活動時には必ず各拠点のギルドに報告する義務があるからだ。

「冒険者さんでしたらあちらの担当官へ。こちらは魔導士ギルドの受付となります」

小さな町では冒険者ギルドと魔導士ギルドを同じ建物で運営していることも多い。ショートソードを装備しているエクセルはしばしば冒険者として扱われることがあった。

「いや、こっちであってる。エクセル・ファオラス、名簿に載ってるだろ?」

「ファオラス……、ああ、ありました」

魔導士ギルドの担当官は名簿の裏側からページを開くと、2ページ目にエクセルの名前を見つけた。ファオラスという名前はスーリヤの次に珍しい名前だからほとんどのギルドの名簿で一番最後に書かれていることが多い。

「白髪のエルフを探してるんだが、この町にいないか? 隣町で無銭飲食をやらかした犯人らしいんだ」

「エルフ族の登録は今日はあなたが初めてですね。と、言いますか、犯罪者がわざわざギルドに報告しにくるとも思えませんけど」

エクセルは眉間を押さえ、肩をうだらせると

「それもそうだよな。失敬」

と、失笑混じりに担当官に謝った。


 青空がオレンジ色に染まり、月が上り、太陽が沈むと、夕方だった空は真っ黒になり、まばゆい星を何万とちらつかせた。

「やっべ、また読みふけっちまった!」

冒険者兼魔導士ギルドの宿舎で魔導書を読みふけっていたエクセルは、尿意で立ち上がったあと、自室の窓の外を見て驚いた。

「まだやってるかな……」

脱ぎ散らかしていた装備品を慌てて装備し、カバンに魔導書をしまい込んで、ドタバタと部屋を出た。


 あらかじめギルドから聞き出しておいた、ホストクラブへと急ぐエクセル。月は頭上で煌々と輝き、街灯の魔法ランプはすでに消され、深夜であることを意味していた。

 目的地と思われる建物に到着すると、中からガヤガヤとした人の声と、ランプの光を感じることができた。建物のドアの前には男が一人。ピシリとしたスーツを着て、背筋をピンと伸ばし、深夜の来訪者に目をやった。

「同業者? 困るんだけどなぁ。あ、うちで働きたいなら昼間来てよ、面接するからさ……うっ!」

エクセルは無言で、男の股間を蹴っ飛ばす。

 酒場の扉をあけると、むわっとした酒の匂いと、化粧の匂いがした。

「うへ……」

普通、建物の扉を開けた場合、その開けた人物に中の人々の視線が一斉に向くものだが、今回はそうではなかった。がやがやと自分たちの話に夢中で、誰一人としてエクセルを見るものはいない。

「なんだ? 雰囲気が妙だな」

エクセルはマントを脱ぎ、片手に抱えると、酒場……ホストクラブの中に入っていった。


 マントを脱ぐと、さすがに体のラインがわかりやすい革のボディスーツを着ているせいか、男と見間違われることはなかった。ゆえに、女客が騒ぐこともなかった。ホストはというと、自分の客の対応にいっぱいいっぱいでエクセルを見ようともしなかった。

「ようやく捕まったわね、あの女! いい気味だわ!」

「あぁん、愛しのオニキス様がかわいそう、あんなに酔わされて」

「私、どこかであの人見たことがある気がするんだけど……どこだったかしら」

女たちは口々に悪口や噂話をしていた。エクセルは端から端まで店内を見渡すが、白髪のエルフは見当たらない。逆に、ちょっと見知った顔を見つけ出した。

「お前ら、本当に来てたんだな」

そこにいたのは、朝会った親子だった。体はふらふらとしていてだいぶ酔っている様子なのだが、厚化粧のせいで、顔色はまったく変わっていないように見える。

 母親はぐったりとお付きのホストにもたれかかっていた。娘はというと、エクセルに気が付くと、ニコニコと笑い、両手を広げてこう言った。


「あら、エクセル様! 残念でした、白髪のエルフはもう捕まったあとですよ」


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