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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
69/80

特別編 ソラヨロット 前編


 更新が大変遅くなってしまった事を、深くお詫び申し上げます。


 その日も朝から雨だった。……あ、いや、訂正しよう。その日は晴れていたけど、お昼前から雨が降り始めた。微妙な時間だけど、朝だという事にするならば、朝から降っている事になる。まあ、もう慣れた事だし、雨河市ココに住む人達なら何の問題も無い事だ。そう、ここに住む人達なら、ね。

 「あーもうなんなのよ! 何で何が何なの店長さん!」

 「え!? いや、質問の意図が掴めないんだけど?」

 長い栗色の髪を豪快に男らしく拭く女の子は、残念ながらココの住民ではなかったために、雨に打たれてしまった可哀想な人。なんとなくだけど、はじめてこの店に来た時の谷垣さんに似てるなぁって思った。

 「すみません、タオル有難うございます」

 ニコニコ、

 「いえいえー。風邪ひかれたら大変ですからね」

 ニコニコ。

 営業スマイルVS悩殺スマイルと言ったところだろうか。営業スマイルはもちろんミオ。対する悩殺スマイルは、ブツブツと小言を言っている少女の連れ。どちらも負けず劣らず恐ろしい威力を持ち合わせてる。引き分けだね。うんうん。

 なんて、考えてる自分って何?

 「あんなに晴れてたのに、なんで雨が降ってくるのよ?」

 急にギロリと睨まれてしまった。え、僕何かしましたか!?

 「ここは天気が変わりやすいんです」

 「そうなんですか?」

 「阻雲山っていう大きな山があって、それが雨雲をとめてここに雨を―――」

 「そんなもん、削っちゃいなさい。ガリガリっと」

 な、なんて無茶苦茶な!

 「波月、頼んだわ」

 「え、俺が?」

 「なんかこう、社会の裏で、こう、ほら、ガリガリっと」

 カマキリのように構えて、突く動作をする。それじゃ削ってるって言わないんじゃ……意味が分からないですよ?

 「店長さん、何か言った?」

 「何も言ってないですよ!?」

 「そーですか」

 び、びっくりしたぁ。心を読まれたのかと思ったよ。

 「葵くん、いつもの!」

 そんな中、元気よく登場したのは言わずもがな。

 谷垣さんは、いつもとちょっと違った店内に動きを止める。いつも彼女が座っている、僕の前の席には見知らぬ女の子。その奥には連れの男の子。その後ろには湿ったタオルを持つミオ。そしてそんな見知らぬ二人にコーヒーを出す僕。

 切り離された時間の中で、谷垣さんが動き出す。


 カツカツ、ポツポツ。


 足音と傘から滴る雫のセッション。

 「ここの妙な名前のオムレツは美味しいから、食べておくべきだよ!」

 栗色の子の肩を叩きながら、わははと笑ってそう言った。どこのお節介おじさんだよ。

 「へー、そうなんですか?」

 『妙な名前』ってところにツッコミを入れて欲しかったんだけど、気にもかけていないようだった。酷いなぁ、妙な名前なんかじゃないのに。

 「よーし、私が奢ってあげるよ! 今日はパーっとやりましょうパーっと!」

 胸を張ってそう言った谷垣さんは、急に何かを思い出したかのようにバッグを漁った。そして、表情が変わる。にこやかな表情が、寂しげに眉をたらした。

 「ごめん、やっぱり今のなしで」

 「大丈夫ですよ、奢ってもらおうなんて最初から思っていませんでしたから」

 今の天気とはうって変わった晴れやかな彼女の笑顔に、谷垣さんはほっと息を吐いた。

 「葵くん、私もコーヒー。それから『フワフワ』オムレツね」

 「プカプカだよ!」

 「プカプカ?」

 見知らぬ二人が小首をかしげながら、同じ言葉を繰り返す。……そろそろ名前が知りたいな。男の子の方は波月君というらしいけど、女の子の方の名前が先ほどの会話から出てこなかった。

 「そうなの! 変だと思わない? 普通はフワフワオムライスでしょ?」

 うんうんと頷く二人。タオルを洗濯機に入れ、帰ってきたミオも、波月君の隣に座りながら頷いていた。ちょっと、酷くないかい?

 「良かったよ、常識人が増えて!」

 「まるで僕が非常識人みたいじゃないか!」

 「あー、そうだね。ごめんごめん」

 舌を少し出して、両手をあわせて謝った。まったく、人をからかって何が楽しいんだか。

 ……まあ、気を取り直して注文の品を作るとしますか。

 「ねぇ、君達どこから来たの? 名前は? どうしてココに来たの?」

 なんて質問が材料を用意している間に聞こえてきた。

 「私は谷垣沙耶! よろしくねっ」

 答える前に名乗っちゃいますか。

 「OLとして雨河市で頑張ってます!」

 谷垣さん、とりあえず相手が答えるのを待とうよ。相手の情報が僕も欲しいんだ。

 「私達は……ちょっと野暮用でココに来たしがない中学生です」

 「ほほー。若いのぅ」

 谷垣さんもまだ十分若いでしょ。それより、変態おじさんみたいなしゃべり方やめようか。

 「本当はもう一人いたんですけど、逸れちゃって」

 「え、そうなの? 二人でデートにでも来たんだと思ってた。何も無いけど」

 ケロッとそんな事を言ってのけたミオ。ガタンと椅子の倒れる音がしたから、どちらかが顔を真っ赤にして立ち上がっている事だろう。

 「そ、そそそんな訳な、なないじゃないれふが!」

 ……声からして、栗色の子かな? 日本語が途中から崩れてますよ。

 「照れ方が初々しくて可愛いなぁ。主、名はなんと言うのじゃ?」

 ちょっと、今日だけでキャラ変わりすぎだよ! どうしたの谷垣さん。職場で何かあったの!?

 「私は矢吹真璃です」

 「へー、マリちゃんね。おーけーおーけー」

 「お連れさんは?」

 「俺は波月奈津って言います」

 真璃ちゃんと奈津君か。これで名前で呼べるね。

 それに……ちょうど完成っと!

 「おまたせしましたー。『プカプカ』オムライスとコーヒーです」

 プカプカを強調して言ったんだけど、聞いてないみたいね。

 「わーい! いっただきまーす」

 例えるなら、ご馳走を目の前に『待て』をされ続けていた子犬。例えるなら、待ちに待ったお子様ランチにかぶりつく子供。

 どちらにしろ、美味しそうに食べてくれてるから、全く構わない。

 「相変わらず美味しい! さすがだね!」

 「お褒めに頂き感謝します」

 そうして、他愛もない会話を繰り広げていると、


 ぐぅぅぅ……


 と、どこからか切ない音が聞こえてきた。自然と視線が音をたどっていく。

 「私じゃないですからね! 断じてお腹の虫が騒いだのは私じゃないんですからね!」

 顔を真っ赤に染めて、みんなの視線が集まった真璃ちゃんは立ち上がった。ぶんぶん首を振る度に、綺麗な茶髪も犬の尻尾のように激しく揺れる。

 「お腹すいたの?」

 いやらしく谷垣さんが笑う。こらこら、お客さんをからかうものじゃないですよ。て、谷垣さんもお客さんだよね。

 「べ、べべ別に美味しそうなオムライスを目の前にして、『私も食べたいなぁ』なんて思ってませんから! お財布の心配なんてしてませんからぁ!」

 ……これは所謂、言い訳ってやつかな?

 「学生って言ってましたよね? 学生証があれば、100円値引きできますよ?」

 「何それズルい! ちょっと家に戻って、学生証探してくる!」

 「谷垣さん。僕に社会人ってもうバレてるのに、それでも持ってくるつもり?」

 傘を片手に席を立とうとしていた彼女は、不格好に動きを止めた。

 「学生時代のセーラー服着て来たら、考えてあげようかな」

 しばしの無言。

 静寂。

 聞き慣れた雨音。

 「葵くん」

 一言が、全てを崩す。

 「そんな趣味してたんだね……。私、知らなかった」

 それ、真顔で言う事!? ていうか、誤解だよ!

 「冗談で言ったつもり何だけど……?」

 「うん、分かってて言ってるから大丈夫」

 笑顔がこぼれる。良かったぁ、在らぬ誤解を招かなくて。

 「それはそれでいいとして」

 右から左へ、何かを動かす動作をして、谷垣さんは再び席についた。

 「若者よ、食べたい時に食べたいだけ食べておかないと、もったいないよ?」

 谷垣さんは、立ち上がったままで固まっていた少女に、満面の笑みでそう言った。なんだかんだで、谷垣さんの笑顔も影響力がある。少女は力なく椅子に座ると、開口一番にこう言った。

 「店長さん。ふかふかオムライスください!」

 「はい、かしこ……ってプカプカだってば!」

 本気で改名しようか悩んだのは、いつ以来だっただろうか……。


はっきりいいます。サブタイで燃え尽きました。(おま


コラボ回はパクリチックなタイトルでいこうと決めて、早数ヶ月。今回はかなりの強敵だったと思います。『アラヨット』、恐るべし。


更新がなかったのは、サブタイが決まらなかったから。という訳ではありません。ただ単に、『小説を書く』という事ができなかっただけです。ちまちま進めていたんですが、ちまちますぎでこんなに時が流れてしまいました。


1週間に1回更新できればいいなぁと、儚い目標を胸に、最終話へ向けて手直ししてまいります。

あぁ、最後に。手直ししていたらちょっと最終話まで伸びたので、『アラヨット』とのコラボも3話掲載しようと企んでおります。やっぱり平等が一番ですたい。


それでは、久しぶりに長々と失礼いたしました。

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