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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
66/80

特別編 虹の平凡ではない一日。 後編

更新が大変遅くなってしまって、申し訳ございませんでした。


 「きょ、今日はいい天気ですね~!」

 「そうだな」

 「……」

 何よこれ! これなんていじめなのよ! 由美さんはあんまりしゃべってくれないし、狼牙さんはしゃべりにくいし! ねぇ、今祭りの最中なんですよ? なのになんでそんなにローテンションなんですか。そんなしけた面して何をするおつもりで?

 「お二人は何か好きな屋台とかないんですか?」

 「特にコレというものはないな」

 「特にない」

 ちょ、それじゃ会話が広がらないじゃない! やめて、息苦しいからやめて!

 というか、なんかもう疲れたんだけど。お腹もすいたなぁ。隣を歩く、二人の顔を見る。変化なし。……あぁ、話題を振るのがこんなに辛い事だったなんて、私、初めて知った。

 「お腹空いてません? そろそろお昼食べませんか?」

 「ふむ、そうだな。そろそろ頃合だ」

 由美さんも頷いてる。よかったぁ、やっと会話らしい会話ができそうね。

 「それじゃ、それぞれ食べたい物があったら買って、川辺に行きましょう。川辺の桜が一番綺麗ですから」

 「あぁ、分かった」

 「……了解」

 桜祭りなんだから、せめて桜を楽しまなくちゃ損ですよね。ね?



                  *



 銃雷姉弟と一緒にいて分かった事。私がいない方がよくない?

 いや、だってね、仲良すぎでしょ。会話に入れないわよ。時々振ってくれるけどさ、「うん」だの「そうですねぇ」くらいしか言えてないからね? あーあ、どうせならあす……変な事を考えないの私! これはお礼であって、その、あの、やましい考えを起こしてはならぬのだよ!

 「あ、また射的の屋台発見!」

 「またやるつもり?」

 「その為に来たんだからね」

 偉そうに胸を張る千さん。なんとなく、纏う空気が有澄に似てるのよねぇ。ていうか、今また射的やるって言った!?

 「ちょ、ストッ!」

 「すみません、一回分お願いしまーす!」

 「あいよぉ!」

 遅かった。申し訳ないけど、屋台のおじさん赤字覚悟して!

 「さぁてさて、どうやって落とそうかなぁ」

 千さんは持参した銃にコルク玉を込めながら、上唇を少し舐めた。楽しそうでいいですねぇ、うん。その為に招いたのよね、そうだったわね、うん。

 「全部落とすのはもうよしたら? 荷物が増えて大変よ」

 「あ~そうだね。じゃ、1つだけにしておこうかな」

 そう、私が千さんを止めようとした理由はまさしくそれなんです。全部落としちゃうんです。一回で。一回って言ったけど、一回分の玉、つまり5つ使わないで全部落とすんですよ。1つで全部って、どこの暗殺者? ちがっ、どこの射的名人?

 「じゃ、矢吹さん。何か欲しいのあります?」

 「はい?」

 「僕らはこれだけありますし、矢吹さんの欲しい物を落とそうと思いまして」

 にこやかで爽やかな笑顔で、これまでやった射的屋さんから奪……景品としてもらった戦利品を詰めた袋を見やった。私も千里さんも、落とした本人の千さんも両手に持ったそれは、ぬいぐるみやらで溢れ返っていた。まあ、これだけ取ってまだ取り足りないとか言ったら、私が背負い投げかましている所だと思う。だって、屋台のおじさん泣いてたのよ?

 「何かありますか?」

 「そうですねぇ……」

 少し苦笑いして、おそらく唯一潰されずに済むであろう屋台の商品を見た。ありきたりなぬいぐるみや貯金箱、小さな箱のお菓子が並んでいる。あ、あのキャラメル好きなのよね。

 「左から二番目の、あのキャラメルが欲しいです」

 「りょーかい!」

 「外したりしないでね」

 少し冷ややかに千里さんが言ったけれど、まったく千さんは聞いていなかった。もう的しか見ていない。真剣なその眼は笑っていなかった。その真剣な表情に、おじさんも私も息を飲む。まるで本当の戦場で、その銃を手に獲物を狙っているハンターのような千さんは、たかがキャラメルごときを、本気で狙い撃ちしようと銃を構えた。

 「矢吹さんだぁぁっ!」

 「! う、ウミちゃん!?」

 振り返れば、全速力で駆け寄ってくる女の子。その後ろに、並んで歩く狼牙さんと由美さんの姿があった。けれど、ウミちゃんは速度を緩めるつもりはないらしい。衝撃に備えて体制を整えた。


 パンッ!


 小気味いい音と同時に、ウミちゃんを受け止めた。

 「あっちゃぁ、失敗失敗」

 そんな千さんの声が聞こえたので、外してしまったのかと思いそちらを見て、思わずため息が出てしまった。

 私はキャラメルって言った。けど、明らかに狙いが違った。キャラメルは確かに当たって倒れてた。だけど、その横一列全てが倒れていたの。商品同士の跳ね返りと屋台の壁を利用して、また倒したんでしょう。もういいわよ、疲れたわ。

 「会いたかった! しゃべりたかったよ矢吹さぁん!」

 口の隅にソースをつけたウミちゃんが、今にも泣きそうな声で言う。ソースを擦り付けられる前にハンカチで拭ってやると、えぐえぐと変な風に泣くものだから、返答に困った。

 「言ってる事とやってる事が違うわね」

 「結果そうなっちゃいましたね。だけど、キャラメルはちゃんと落ちてるから勘弁で」

 いやいや、勘弁して欲しいのは屋台のおじさんだと思いますよ。だって開いた口がふさがってませんから。信じられない顔して千さんを見てますから。ちょっと涙流れてますから。

 「ほう、射的か」

 「おー、狼牙君。一緒にどう?」

 「そうだな、久しぶりにやるか」

 「二人ともほどほどにね」

 そしてやっぱり、今年の射的の屋台は赤字になる事が決定となりました。

 「……このたこ焼き、美味しい」

 あぁ。頬に青海苔ついてますよ、由美さん。



                    *



 初めてこうやって、大勢で賑やかに遊んだ気がした。昔は変なモノが視えるせいで、周囲から浮いていて馴染めなかったせいだろう。最近は波月や矢吹が絡んでくれるおかげで、なんとなく『友達』と言うものが増えていった。もちろん、零牙さん達もその中に入る。だからきっと、一緒にいて『楽しい』と思えるんだろうなぁ、なんて、過去を振り返るおじいさんみたいな事を考えた。

 「すっかり日が暮れちゃいましたねぇ」

 「そうだなぁ」

 「なんかあっという間だったわね」

 「もうちょっとこうして居たかったなぁ」

 夕日に照らされて、それぞれしみじみと言った。零さんの言う通り、もう少しだけでいから一緒に居たかった。

 「おっ、馬鹿澄発見!」

 「誰が馬鹿澄だコノヤロウっ」

 川辺へ伸びる石造りの階段を降りながら、矢吹が手を振っていたので、一応振り返した。ウミや狼牙さん達も一緒みたいだね。

 「今年の桜も綺麗に咲いたみたいね」

 「なかなか風流な場所があるものだな」

 「本当に綺麗ですねぇ」

 「そうねぇ、とっても綺麗」

 「美しい」

 「なんたって桜の名所ですからね!」

 狭いベンチの回りにこれだけ人が集まると、少し威圧感がある。座っていられなくなって立ち上がると、それに習うように零牙さん達も立ち上がった。

 「あとは波月達だけね」

 「そーだね。……って言ってる傍から発見!」

 俺が見つけた橋の上の王子さ……波月に手を振ると、それに気付いた波月も手を振り返してくれた。本当に、別れの時が迫ってきているみたいだねぇ。

 「ごめん、待たせちゃったかな?」

 「全然!」

 それにしても、派遣部の皆々様は何をやったんだろう。やけに荷物が多いような……。まあ、それだけ楽しんでもらえたって事でいいのかな? 屋台のおじさん達も儲かった事だろうしね。

 「そろそろ木戸先生が迎えに来る頃か?」

 「そうね、夕方頃って言ってたし」

 「もしかしたら、もう待ってるかも?」

 「ありえなくはないな」

 「それじゃあ、急いであの広場に行った方がいいわね」

 「急がなくても良さそうだけどね」

 「同感」

 「じゃさ、桜を見ながら行こうぜ」

 「おぉ、それ賛成だぜ!」

 「私もぉ♪」

 えっと、零牙さん、明さん、零さん、狼牙さん、千里さん、千さん、由美さん、殊日さん、炎人さん、未来さん。うん、人多いね。ていうか、今考えてみたら凛水さん、内人さん、孤助さんが行方不明のままなんだけどいいのかな?

 「まだ時間があるなら、噂のあそこ、行ってみませんかっ」

 ノリノリで何を言い出すんだ妹よ。先に凛水さん達を探そうと思おうよ。

 「あそこ?」

 ほら、零牙さんがノっちゃったじゃないか。何か起きてからじゃ遅いんだぞ!

 「実はですね、最近友達の間で結構な噂になってましてね」

 「どんな噂だ?」

 炎人さんもノってきちゃったじゃないか。もう引き返せないじゃないか!

 「この川沿いに進むと、古い洋館があるんですけど、そこに出るらしいんですよ!」

 「な、何が出るの?」

 予想できてますよね、明さん。ちょっと震えてますけど、大丈夫ですか?

 「日が沈む少し前、ちょうど今ぐらいの時間に幽霊が出るんですよ!」

 「いやぁぁぁっ」

 ウミが少し声のトーンを落としてそう言っただけなのに、約3名から悲鳴が上がる。てか、矢吹が怯えてる事が一番怖いよ。

 「帰ろう、サクッと帰ろう!」

 まず零さんが言う。激しく頷く明さん。それくらいならいいけど、零牙さんの首が絞まっていますから、お二人ともそれはやめてあげて! 死ぬ、死んじゃうよ!

 「木戸先生待たせちゃいけないもん!」

 「え~、楽しそうなのにぃ。ねぇ、炎人?」

 「だな。……もしかしたら、奴らかも知れねぇし」

 『奴ら』と言う言葉に、零牙さん達の顔が引き締まる。明さんと零さんは泣きそうな顔だけれども。

 「覗く程度に行ってみよう。問題があれば解決させれば良い」

 狼牙さんがそういうと、一同うな……うーん、若干二名は首振ってるけど、頷いている事に無理矢理しておこうかな。

 「ウミちゃん、案内頼めるか?」

 「モチコース!」

 妹よ、普通に「もちろん」とは言えなかったのかい?



                     *



 ウミちゃんに連れられて、俺達はその噂の元凶の前にやってきた。確かに、出そうだな。

 「ここはあれよ、あれだから大丈夫だから帰ろうよ」

 日本語を発してくれないか、明。

 「そうだよ。あれはあれだからあれであるからにしてあれなんだもん帰ろう」

 早口言葉みたいになってるぞ、零。

 「悪霊ナイトメアの気配はしないな」

 「確かに」

 真面目な会話の狼牙と由美。炎人と未来、凛水達も頷いている。……!?

 「お、おま、いつの間に!?」

 「失礼な奴だな。途中で合流したというのに、気付いていなかったのか?」

 気付いてなかったよ、悪かったなコンチクショウ。

 「また変わった奴らもいるものだな」

 「何の事だ」

 「いや、ただの独り言さ。しかし、ここに君達が思っているようなモノはいないよ」

 くるりと背を向けて、凛水が歩き出す。それに内人と孤助が続く。

 「おい、どういう事だよ!」

 「私達には関係がないモノだと言う事だ。アレはそれ専門がいる」

 「アレ?」

 凛水は俺の反応を面白そうに笑って、目線である人物を指した。……ソラ君?

 「悪霊ナイトメアも彼の目には映るだろうな」

 は?

 「そして私達に視えないモノもな」

 「それってどういう―――」

 「おーいたいた。探したぞ」

 バスの運転手の格好をした木戸先生の声で、俺の問いはかき消された。悔しく思い、凛水を睨むと、不敵に笑ってこう言った。

 「人とは秘密の多い生き物だ。全てが分かるまで時間がかかる。ひとつひとつ、知るべき時がある」

 「……今はその時じゃないってか?」

 「どう捕らえるかは、君次第だよ、零牙君」

 何だか負けた気がするが、そう思わない事にする。視界の隅で、木戸先生に頭を何度も下げるソラ君と、彼の友人達を捉えた。彼らにも秘密があるように、俺にも秘密がある。それを知るのは、知らせるのはまた次の時でも遅くはないだろう。それに、こんな日に考える事じゃない。今日は楽しかった。それだけでいいじゃないか。

 「零牙、帰るわよ」

 「ん、あぁ」

 振り返ってみれば、みんなはもう木戸先生の乗ってきたバスに乗り込んでいる所だった。

 「またぜひ遊びに来てくださいね」

 「楽しみにしてるよ、元気でな」

 笑顔で手を振るソラ君達に、俺達も同じように手を振った。

ガルー先生、今ではガル・フォーリアス先生作の『平凡ではない日常。』とのコラボ最終回でしたが、いかがでしたか?

バトルがない分、物足りない所や、何だこの駄文はコノヤロウ! な部分が多々あると思います。コラボすると、なんだか原作が良すぎて腰が低くなります。ひぃ申し訳ないっ!


コラボもこれで最後。いんやぁめでたしめでたし。

のはずでしたが、航平先生作『アラヨット』とのコラボも決定いたしました事を今更ご報告させていただきます。本編の都合上、3話構成が難しいのですが、まあ大丈夫だろうとぬるく考えております。


だって、下弦 鴉は馬鹿だもん。


と言う事なので、苦情などございましたら、私までご報告を。




さて、これは本編に全く関係ない話なのですが、最近作者は病んでおります。いや、風邪とかじゃないんです。風邪だったら1日で治せますから。

『自分は居ない方が良いのでは?』 『死んだ方が幸せなのかもしれない』 『あぁ、また同じ悪夢だ』

なんて調子なので、マイナスイメージしか浮かびません。今までの小さなミスやらを思い出してはうなされてます。精神的病って奴でしょうか? コレ、結構キツいんですね。冗談抜きでホントに死にそう。

こんな事は近状報告に書けばいいんでしょうが、使い方がいまいち分かりません。設定ってどうやって変更するの? そこから問題の子なんです。それに、初の書き込みがネガティブなんて嫌ですから、人間的に。


そんな訳で、更新が今まで以上に不安定、もしくは休載の恐れがある事をここで宣言させていただきます。ですが、絶対に物語りは完結させます。これも、もうひとつも。

いつの日か、再び光が訪れるまでゆっくり生きていこうと思います。


それでは、こんな駄文をここまで読んでくださった皆様に最大の感謝を。そして、これからもご愛読していただける皆様にも最大の感謝を。

何だか最終回みたいなノリですが、これにて鴉は失礼します。

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