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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
65/80

60、護逃願


明らかに造語ですね。

読みは『ごとうがん』、意味は『逃げながらも、護りたいと願う』。と、言ったところでしょうか。自分でも分かりません(ぇ

ここは読者の皆様に意味は自由に考えてもらいましょう。考えるのは、本編を読んでからと言う事で!


それでは、本編へどうぞ~。

 ソラを閉じ込めた白い空間の中で、ヴィオロシィは机に魔方陣を書いていた。指先を噛んで切り、そこから流れる自分の血で、さらさらと奇怪な図形と文字を書いていく。それを書き終えると、両手を胸にあて、目を瞑った。

 「我に満ちる魔力よイレスト・レムリ・マギク我に答えたまえアヴェント・ヴィ・レホンダー

 陣が明るい紫に輝く。机から剥がれる様にそれは浮き上がり、ぐるぐるとその場で回った。

 「我が血を糧としモン・サンゲスト・ユティリスその姿を此処に現さんノーリチュル・エティリネ・パライト

 回り続けていた陣が動きを止める。支えを失ったように崩れていくと、丸い形を作っていく。細目を開けて、それを確認したヴィオロシィは、出来立ての球の上に手をかざした。

 「誓いの輪はアフィン・ラバージ我が願いを叶える為にシーメント・アコンプラー・ソゥハイト祈りの輪はニィファ・ラバージ我が想いを届ける為にプリエラ・エンヴォリア・マペンスィー二つの輪はデュクス・ラバージス我だけの為にアイエガード・シュレメント我が魔力を集め高めよラセンブルズ・イト・シュアレベス・マグイ

 不安定に浮いていた球を、金と銀の輪がそこに縛り付けた。その球に魔力を吸われているのを感じながら、ヴィオロシィは大きなため息をついた。

 そして振り返って眠っているソラの傍へ小走りに向かった。先ほどから部屋の中に漂っている、この不思議な匂い。これは、妖精界コミュナット・フェリップに生えている薬草を燃やすと出る、睡眠効果のある香りだ。それのおかげで、ソラはぐっすり眠っている。人の方が効果があるので、妖精にはあまり効果がない。

 「……邪魔、なければ」

 まだ人間界に、この少年の事を覚えている人物がいる。そのせいで、妖精界コミュナット・フェリップへの道が開けない。けれど、まだ策が尽きた訳ではない。記憶を消して、連れ去るのが一番楽だったが、阻止されてしまっては仕方がない。少し乱暴でも、あの手を使うしかない。振り返ったその真っ直ぐな目線の先で、自分の魔力を吸う球が輝いた。

 「……うぅ」

 ソラの寝顔が苦痛に歪んだ。どんな夢を見ているのかは分からないが、こんな顔は見たくない。

 「悪夢よ、去れカティマ・プットロイン

 額に手をかざし、呪文を唱えると、ソラの顔は徐々に穏やかになって言った。その頬にヴィオロシィは軽くキスをして、ソラの背中を抱くように寝転がった。

 「離さない。……絶対、離さない」

 遠い昔にも、同じ事を誓った相手がいた。その彼も人間で、妖精のヴィオロシィの一生の中、一瞬だけを生きていた人間だった。

 ローグ達も、彼の事が大好きだった。けれど、ヴィオロシィは彼を愛してしまった。人と妖精は、寿命も容姿も全てが違う。人はどんどんと老いていくが、妖精は老いる事無く、変わらない姿のままに生きていく。

 ある日、ヴィオロシィは、彼に幻術をかけて妖精界コミュナット・フェリップへと誘った。彼は術の効果がある間は、幸せそうにその世界でも生きていられた。術が解けても、彼は『永遠の命』を喜んで、しばらくはヴィオロシィ達と暮らしていた。

 10年、また10年と月日が流れた日の事だった。彼は、人の世界が見てみたいと、ヴィオロシィに頼んだ。友人達や両親がどうしているか気になるんだと、照れくさそうに言って。

 その願いをヴィオロシィは叶え、湖の水面に人の世界を、彼を良く知る者達を映し出した。それに映し出されたのは、しわくちゃの彼の両親と、随分と大人びた友人達だった。それを見た彼は、湖に涙を流した。過去、自分を愛してくれた人達は、行方知れずになった息子のために今も泣いていた。彼を愛していた女は、村を見渡せる丘の上で、手を合わせて彼の無事を祈っていた。友人達も、どこか寂しげな笑みを浮かべて彼の話をしている。


 そうして、彼は言ったのだ。『人の世界に帰りたい』と。もう一度、彼らに逢いたいと。


 けれど、その願いは叶えられなかった。人の体は、時の流れに逆らえない。少年のままで時を止められた彼の体は、大人へと成長する長い時間の流れには耐えられないからだ。妖精界ここを出てしまえば、時の流れが彼を塵へと変えてしまうだろう。

 そして、ヴィオロシィは彼と別れたくなかった。愛していたからだ。ずっとこのまま、永遠の時を生きていて欲しかった。しかし、人の心は脆いもので、一度崩れかけてしまえば、もう元には戻らない。その傷を癒すために、彼は人の世界へ帰る事を選んだ。誰もが彼を止めたが、彼は妖精界コミュナット・フェリップの女王に頼み込み、人の世界へと帰ってしまった。そして、愛しい者達に会う前に、塵となって消えていったのだ。

 彼は自分が選んだ事なのだから、幸せだっただろう。けれど、ヴィオロシィは彼が消える事を望まなかった。彼女はただ、愛しい者の傍にずっといたかっただけだ。その想いが強すぎて、彼を不幸へ導いてしまった事は事実。だからこそ、誰よりも深く傷付いた。

 そうして、また長い時間が流れた時に、ソラと出会った。光を失いそうなその瞳を、彼と重ねていた。今度こそ大丈夫だと、心に言い訳をして。

 『私、君、1人にしない』

 あの言葉に、嘘偽りはない。今度こそは、失わない。絶対に、彼を、彼だけを護る。





 時を同じくして、別の場所。彼女は1人、唸っていた。

 いつもいつも、強がりな自分が嫌になる。本当はそんな事思っていないのに、強がって本心を言おうとしない。そんな自分が本当に嫌になる。

 そして、言ってしまってから後悔する自分。本当に嫌気がさす。いい加減、もっと自分に素直になれないものか。嫌なら嫌と、はっきり言えばいいのに。

 「あ゛~もう!」

 そんな矛盾を掻き消そうと、濡れた髪をかきむしった。浴槽に顔の半分くらいまで浸かって息を止めてみたり、ブクブクと泡を出してみたりした。そんな事で、頭の中が晴れない事くらい良く分かってる。だけど、何もしてないとついつい考えてしまうんだ。自分の嫌なトコとか、弱さとか、有澄の事を。

 悩んで、唸って、自分にキレて。それを何度繰り返したのかしれない。

 本当に馬鹿よね、私って。

 いつもその答えにたどり着く。変わらない、なにもかも。変われない。

 息苦しくなって、お風呂からでた。何も解決しないで、いつも通りに反省だけした。パジャマに着替え、冷蔵庫の前に立ち、中を物色した。……お、いいもの発見。

 食器棚から自分のコップを取り出す。そして、再び冷蔵庫を開けて目的の物を手に取った。白のコップが、こげ茶の液体にどんどん支配されていく。それを一気に飲み干すと、コップは薄い茶色のベールで包まれる。もう一杯、今度は少なめに入れて、ゆっくりと飲んだ。十分美味しいココアを堪能した後、軽くすすぎ逆さにして水をきる。透明な水は白いコップを支配せず、包み込んでいた。

 支配するこげ茶、包み込む透明。

 ……まるで、今の心みたいじゃないか。コップを心とするのなら、支配するのは、強がりな自分。透明なのは嘘の塊。心を支配する強がりを嘘で洗い流す。いつの間にか溢れ出しても、心には偽りの自分しか残らない。かりそめの私と嘘で成り立つ心。

 私の心なのに、なぜ本当がどこにもないんだろう。素直な私は、どこへ行ったの?

 「……有澄」

 私は私が分からない。だけど、きちんと有澄は自分の事が分かっているでしょ? あんたは私と違うよね。後悔する事を選ばない。誰かが苦しむ事も、選ばないでしょ。そして、誰かが幸せになる事を願ってる。それが自分で分かっているのなら、答えは出てるはずよ。あんたが消えれば悲しむ人がいる事、想う人達がいる事。あんたは、独りなんかじゃないわ。ずっと、独りじゃないから。

 「想うなら、迷いを振り払い、進め」

 突然の声に振り返ると、見慣れた小さな藍色の人形が飛んでいた。

 「あ、あんたどこから!」

 答えは返さず、フォンはただ私の方を見ていた。いつものように、ブルゥを連れてはいないけれど。

 「後悔を破棄するか、明日を破棄するか。それは、貴女の自由」

 私の問いはどうでもいいらしい。言いたい事だけを言いに来たようだ。

 「……後悔なんかしてないわ」

 「心は嘘をつく。嘘は心がつく。心は嘘で、嘘が心」

 ふわふわと飛んでいるフォンは、そのまま真っ直ぐ私に向かって進んでくる。

 「じゃあ真実は、何処にあると思う?」

 「……そんなの分からないわ」

 「そう、分からない。真実も心に基く。即ち、心は偽りと真実。2つは1つ」

 目の前で止まり、何も言わずに私の頬に手を当てた。

 「貴女は嘘も真実も、すべて言葉にする。ならば、伝えるべき人は心が知ってる」

 「知らないわ。私が言葉にするのは、全部嘘よ」

 「嘘と言う真実、真実と言う嘘。貴女が一番分かってる」

 言葉が詰まる。小さな手が優しく頬を撫でた。

 「偽りは恐れから。嘘は強さから。心は、貴女自身だから」

 目深に被った帽子の下から、綺麗な水色が私を見つめて言った。

 「恐れは後悔になる。強さは支えになる。貴女は心そのもの。心を届けるなら、貴女が動きなさい」

 「わ、私は……」

 「今を後悔するか、未来を後悔するか。選ぶのは貴女」

 そっと私から離れていくと、フォンの姿が薄れていった。

 「こ、答えを聞かないまま、消えるつもり!?」

 「選ぶのは貴女。答えを聞く必要はない」

 「言いたい事だけ言って逃げるなんて、傲慢じゃないっ」

 「願う事は逃げる事じゃない。後悔する事が逃げる事」

 慌てて手を伸ばして、捕まえようとした。だけどフォンは、その行動をたった一言で遮った。

 「貴女は逃げる事こうかいを選ぶの?」


                      *



 夜の静けさが住宅街を包み込む頃、ブルゥは1人でベランダにいた。目を閉じて、何かを祈るかのように胸の前で手を合わせたまま、柵の上に立っていた。

 「……そろそろかしら」

 目を閉じたまま、合わせていた手を真っ直ぐに伸ばす。

 「願う者よ、来たれイルソハート・ヴィナペンダー・ディスハズ

 ブルゥの周りに風が集い、奇怪な魔方陣がその手の前に描かれた。そのうち、その魔方陣からにょきにょきと手足が出てきた。そして、やっとこさ出てきたそれは、紛れもなくブルゥプロフォンドだった。

 「おかえり」

 「……ただいま」

 「珍しいですね、自分から移動したいと言うのは」

 「……」

 フォンは何も言わなかったが、ブルゥはうんうんと頷いていた。彼女達にしか分からない伝達方法で、伝え合ったのかもしれない。

 「さあ、部屋に戻りましょう。ローグ達が待ってますから」

 「……うん」

 



 「フォンが戻ってきましたよ~」

 「おかえり」

 口を揃えてみんなそう言った。ウミさんの机に集まった一同の空気は、相変わらず重いけれど。

 「繰り返す訳にはいかねぇもんな」

 ジャウネが重々しく言った。他のみんなも頷き、ローグはスカートの裾を握って涙を堪える。本当に泣き虫だ。まだ泣いてないだけいいけれど、泣かれると面倒だわ。

 「あぁ、繰り返してはならんな」

 「悲しいのは、もう嫌ですの」

 「そうですね」

 「ヴィオロシィの心は傷だらけ。ボク達では救えない。だけど、救わなければならない」

 そう、過ちつみを繰り返してはならない。二度と大切なものを失わない為に、繰り返してはいけない。今度は大丈夫、私達だけではないのだから。

 「泣くなよ、ローグ」

 「なっ、泣いてなんかいばぜんの!」

 「堪えなくてもいいわ。逆に面倒だから」

 「酷いですの!」

 「本当の事よ。まだ泣くのは早いですし」

 ローグにハンカチを投げ渡し、壮大にため息をついた。

 本当にこの子は変わらない。泣き虫で優しくて。他のみんなだってそうだ。何も変わっていない。変わってしまったのは、ヴィオロシィだけ。

 私達も傷ついていない訳じゃない。あんな事になるなんて、思いもしなかった。分かってさえいれば、知ってさえいれば、避けられた事だった。

 後悔しても、あの頃には戻れない。後ろばかり振り返っていても、失ったモノは、消えてしまったモノは戻ってこない。だからこそ、繰り返す訳にはいかない。

 「傷はこれ以上、増やしたりしません」

 私の言葉に一同頷いた。決めた事は護る。『約束』を違えないのが、私達妖精だから。


最近、1話1話が5千文字を越える事が多くなってきました。

詰め込みすぎなのか、はたまたまとまらなすぎるのか。自分的には後者ですね。

伝えたい事が多すぎてまとまりません。グッチャグチャです。カオスです。

それでも、『文字』に現して、公開している訳ですから、少しでも何か伝わるものがあればと思います。


さぁ次回は 虹の平凡ではない一日。後編 です。


『笑い』に飢えている私は、とても楽しく筆が進みましたとも。いや、筆と言うか……キーボード?

どっちにしろ、書いてて楽しかったです。やっぱりコメディーっていいですね!


それでは、また次回お会いしませう!

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