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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
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59、思う事はゆらりゆれて。

 妖精達が言っていた事は、にわかに信じがたい事だった。でも、あれだけ焦っていたのだから、きっと本当の事なんだって分かっているつもり。そう、つもり・・・なだけで、完璧に理解しようとしていない。ほら、良くあるじゃない。頭で分かっていても、絶対認めたくない事。今とそれは一緒だ。

 私は、私の本音を言ったつもりになってる。私は、自分の選択が正しいつもりでいる。だから、正確な事はあやふやになってしまって、結果が出てこない。自分の中で、全部片付いたつもり・・・でいるから。

 「んー、じゃあこの問題。誰か分かる奴いるか?」

 そうして出た結果が、『私は何もしない』。今日、波月の姿を見ていないから、きっと彼は協力しているんだと思う。ああ見えて、意外と行動力あるし。

 だけど、私は避けた。有澄の幸せを祈っているつもりで、自分は逃げただけだ。目の前で失うのが怖い。この手が、想いが届かなかったらと思うと、たったの一歩すら踏み出せなくなった。

 「なんだ、誰もいないのか? ……じゃ、適当に指すぞー」

 もしも自分の我侭で、有澄をこの世界にとどめられたとしても、彼のこれからが幸せになるかどうかなんて分からない。傍にいて欲しいと願われても、死ぬまでずっといれる自信もなければ、「うん、いいよ」と言う勇気さえも持っていない。

 「矢吹、これ解いてみろ」

 私は、有澄のおばさん達がどういう人か知ってる。人前ではとても感じのいい笑顔をする。だけど目が笑っていない。どこか人を突き放しているようで、近付けない刺々しさを感じさせる、そんな笑顔。その人達に手を握られて、小さな有澄は明らかに震えていた。他の人に気付かれないように、必死に作った笑顔をしているんだ。授業参観、体育大会、音楽会。帰り道で、彼らに連れられて歩く、あの頼りない背中はさらに小さく見える。

 「おい、矢吹。聞いてるか?」

 その頃に私は波月に出会って、彼から聞いた事がある。おばさん達が家にいる間、やけに有澄が怪我をしている事が多いと。服に隠れて見えないところ、背中とか腕とか、そういうところに包帯を巻いている事が多くなると。その頃の私には、転んだりしているだけだろうとしか思えなかったけど、今になれば分かる。家で、おばさん達に虐待されているんだって。

 「やーぶきー。やーぶーきー!」

 「ひゃい!」

 「ったく珍しくボーっとしてたな」

 いけないいけない。今は授業中だったんだ。席を立って目の前の黒板を見やれば、教科書を筒状に丸めて、肩を叩く少しハゲた先生が苦笑いしていた。えっと、何ページだろう?

 「まさか、お前にも春の芽生えが?」

 「はい?」

 クラス中の男子の目線が刺さる。なによその目は! 私が恋しちゃいけないって言うの!? ていうか恋じゃないから!

 「まあともかく、ココ、分かるか?」

 「すみません。分からないです」

 「へー、めっずらしい。お前の事だから分からなくても意地で答えると思ったんだが」

 先生の中の私のイメージってなんですか。

 「顔色悪いな。調子でも悪いのか?」

 「いあ、そーいう訳じゃないです」

 「そうか、あんまり無理するなよ」

 ポンポンと丸めた教科書で頭を叩かれた。大人しく座ると、すらすらと先生が説明を始めた。覚えよう。ノートに書こう。そう思うのに、言葉が右から左にどんどん流れていってしまって、頭に入らなかった。




 「今日元気なかったみたいだけど、平気?」

 「うん、だいじょーぶ」

 帰り道、久しぶりに友達と歩いて帰った。いつもなら、有澄や波月と絡んで帰るから、女2人で並んで帰るのはとても久しぶりなんだ。

 「そーそー、珍しく桜井先生も元気なかったよねぇ」

 「そうかな?」

 「えー、そうだよぉ。いきなり知らない子の名前呼んだりさ。ちょっとおかしかったよねぇ」

 「そんな事あったっけ?」

 「もう忘れたの? なんだっけ、ほら、……あすみ、だっけ?」

 その言葉に反応して、立ち止まる。ウソだ、先生が有澄の事を覚えているだなんて。ローグ達が言ってたじゃないか、繋がりがないと忘れてしまうって。

 「どうしたの?」

 「え!? いや、うん、なんでもないわよ」

 「奥さんと喧嘩でもしたのかなぁ。鬼嫁らしいからぁ」

 「そ、そうかもね」

 とりあえず落ち着け落ち着け。深呼吸、しんこきゅー。

 「あとさぁ、あの気高いお嬢様の汐見さんも同じ事言ってたんだってぇ」

 「えぇ!?」

 汐見って、あの汐見? 有澄と同じクラスの汐見礼奈の事?

 「どうしたの?」

 「え、は、話の続きは?」

 「んーとねぇ、クラスの席が1つ空いてるのがおかしいって話になってぇ」

 私がうんうんと頷きながら話を聞くと、頬に人差し指を置いて何か思い出しながら友達は続ける。

 「『そこは有澄の席でしょ』って言ったんだってぇ。ウチの学校に有澄なんていないのにねぇ」

 「いるよ」

 「え?」

 「へ? あ、いや、その、あれよ。後輩にはいるよって事」

 「あー、そうなんだぁ。でもなんか変だよねぇ」

 それは記憶が消されているからだよ。本当はいるんだよ、同じクラスではないけれど、同じ学年に彼はいたんだよ。

 「もしかしたら、その子神隠しに遭ってたりしてね」

 どんぴしゃり。言ってる事はほぼあってる。ちょっと違うような気もするけど。

 「あれ、またどーしたの? 気分悪い?」

 「大丈夫だって。……じゃあ、また明日ね」

 「今日は寄り道しないの、マックでさぁ」

 「今日は遠慮しておく。また明日行こ」

 「約束だからねぇ。じゃーねー」

 手を振る彼女に、私も小さく振り替えして背を向けた。彼女の頭の中の記憶どおりだと、きっと私達はマックに寄り道するのが日課だったんだろう。だけど私は、いつもあの子と帰っている訳じゃない。私は彼らと帰る事の方が多かったから。その記憶の違いがあるのは、私だけじゃないんだ。有澄の担任の桜井先生や、なぜか汐見さんも覚えてる。実はローグ達の仲間がかけた魔法には、むらがあったんじゃないかしら。もしかしたら、もっと有澄の事を覚えている人がいるかもしれない。本気で探せば、もっともっといるんだ。その人達と協力して、有澄を取り返せばいい。


 だけど―――。


 彼を、この世界に連れ戻すべきじゃない。私はそう思うんだ。一日中、ろくに授業も聞かないで出た結果はそれで間違いない。だって、彼が幸せになるには障害が多い。 あの意地悪なおばさん達。おばさん達は、親戚内でどうにかしてもらうしかない。でも、それは私が口を出せるような事じゃないから、完璧に解決はしないと思う。

 有澄にだけえるモノ達。有澄は昔から私に視えないモノを視る。それはなぜか分からないし、変える事も出来ない。視える事を秘密にし続ける事も、難しい。今は隠していれるけど、その事が分かった時、周りの人は変わらず彼に接してくれるだろうか。

 身体に残った傷、心に残った傷跡。虐待が世に露見すれば、解決する事の方が多い。だけど、それが彼の望みどおりの解決の仕方とは限らない。彼はウミちゃんの傍に在る事を望んでいるのに、離れ離れになったりでもしたら、それはもう彼の幸せには繋がらない。身体の傷の事は、偶然見てしまったから私は知っているけれど、あれは一生消えずに残り続けるんだと思う。彼が忘れたとしても、いたみとしてその身体に残り続けるんだ。大好きな両親を一度に亡くした、深く根付く心の傷の癒し方も私は知らない。どうする事も出来ない。

 時々、私はなんでもできると思う事がある。だけど、有澄の顔に張り付いた悲しい笑顔を見ると、無力さを思い知る。私にできる事なんて、本当にあるのかすら分からなくなってしまうくらいに。


 あぁ、ネガティブになっていく。自分でも分かっているんだ、本当は分かっているんだよ。


 「ただいま……」

 返事がないのはいつもの事。親は仕事で夜中に帰ってくるから。

 薄暗い部屋。照明が淡い光で見慣れた部屋を照らし出す。


 ―――分かってる。

 闇を照らす光に、なれない事くらい―――。

今回はあまり話しに関係ない事をグダグダ綴ります。興味のない方はまた次回お会いしましょう!

え? いつもグダグダですって? ……スミマセン。



と、言う訳でして、なんとなくアクセス解析をしてみたところ、いつの間にやらPVが5万アクセスを超えていました。ユニークも1万超えていました。一日のアクセス数が三桁になっていました。え、何この奇跡。私明日死ぬの?

60話近く続けておいてこの程度か。と、思う方もいらっしゃるでしょうが、一日に何百人の人が読んでくれているんだと思うと嬉しいのやら恥ずかしいのやら……。なんだか涙が出てきます。(ぇ


こんなグッダグダで先に連載してた小説ほっぽいて、この小説を続けているような私ですが、嬉しいものは嬉しいです。よし、この調子であっちの小説の人気を上回るように頑張るんだ!

更新が順調に出来ればの話なんですがね、ハイ。


それでは、無駄な事を長々とすみません。でも、私にとっては無駄じゃないんです。嬉しい結果なんです。

では、また次回でお会いいたしましょう!

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