6、仲間探しに出発!
気持ちいいはずの、翌朝。快適なはずの、翌朝。目覚めがいいはずの、翌朝。
けれど、俺にとっては、翌朝もクソも、何もねぇ。在るのはただ……。
「ね、ねね、寝坊したぁっ!」
といった具合に、最悪の翌朝だね、うん。
神様ぁ、何故に起こしてはくれなかったのですか? どうして俺を、叩き起こしてくれなかったのですかぁ!
「遅刻だ遅刻、遅刻だぁぁぁぁぁぁ!」
「朝から騒々しいよ、ソラにぃ」
「すみません! 遅刻だぁぁぁぁぁ!」
「だから、ご近所とあたしに迷惑でしょ!? もうちょっと静かに慌てなさい!」
「どんな感じに?」
「静かに慌てればいいの」
「……」
それ、答えになってないよね。
「あ、そういえば、携帯鳴ってたよ。ええっと、確か『スターウォーズ』」
「は、波月だ!」
「音楽と人のイメージがつり合ってないよ、ソラにぃ」
「……ど、どうしよ。こ、ここ、こ、ころられる!!」
「スルー!? ……ていうか、『ころられる』って何!?」
「……舌が回らなかった」
「ばかにぃ」
「ば、ばば……」
「落ち込んでる暇あったら、急いだら??」
「あ、そうだった!! 遅刻だぁぁぁぁぁぁ!!」
「ホント、騒々しいね、ソラにぃ」
財布、携帯、ローグをバックに詰め込んで、家を飛び出しました! 間に合うかなぁ。
「って朝食作ってない……」
後でウミにこっぴどく叱られそうだなぁ。
******
ぜぇハァ、ぜぇハァ、ぜぇ……。つ、ついたぁ、駅。自宅から全力ダッシュで4分かかる筈の駅に、記録更新。2分で着いた。
き、奇跡としか思えないぞ。
「あ、有澄! 遅いわよ!」
……顔を上げてすぐ見えるのが矢吹だと、生きる気力をなくしそうだ……。
今日は制服じゃない奴は、腰の部分が細くなってる白いワンピに、つばの広い帽子を被っているだけの、なんともシンプルな格好をしてた。
「ソラ、電車が来る。早く切符買って」
と急かす波月は、夏でも長袖長ズボン。もちろん、冬でも長袖長ズボン。って、それは当たり前か。
黒いジャケットの下には、カッコいい骸骨がプリントされた白いTシャツ、そして、ダメージカットされたジーンズといった、カジュアルな格好だった。……カッコいいなぁ、波月。こういう格好似合うよなぁ。
「早くしなさい、この寝ぼ助!」
「五月蝿い! 誰も寝坊なんて一言も言ってないだろ!」
「言わなくても分かるわよ。だって、寝癖が直ってないもの」
「忘れただけかもしれないだろ!?」
「かもしれないって事は、ありって事でしょ!?」
「なしって事だね!」
「いいえ、ありよ!!」
「いや、なしだっ!!」
「いいえ―――!」
「いや―――!」
「口喧嘩は! ……普段から十分に聞いてるから、もういいよ。ソラ、早く切符買って。電車が来たみたいだ」
「う、ウイッス……」
普段はとても大人しい人に怒られる事が、一番恐いかもしれない。というか、言い方が恐かったよ、波月。さすがっちゃあ、さすがかなぁ。
「え、ええと、えっと、……どこ駅だっけ?」
「浅草駅だよ。ホラ、早く!」
財布を矢吹に奪われ、勝手にあさられ、勝手に切符を買って押し付けてきた。
「早くしないと置いてくわよ!!」
あぁどうせなら、波月がよかった。
なぁんて思いながら、波月達を追ってホームに下りた。
〜 数分後 〜
しばらく電車に揺られつつ、再び眠りにつきそうになった頃、浅草に到着しました!イエィ!!
食って食って遊んで食って、遊びまくるぞぉ〜!!
「目的、忘れてない?」
「何が♪」
「語尾が楽しげな時点で、あんた、忘れてるでしょ??」
「だから、何を♪」
「馬鹿」
「酷いですわ! 私の仲間を探してくれるんじゃなかったんですの!?」
「あ!」
「……忘れてたでしょ。今の今まで」
いつの間にかバックから飛び出てきてた、ローグに睨まれる。その赤い瞳が、潤んでいた。
わ、忘れてたなんて、口が裂けても言えない……。
「まあ、とりあえず、この暴食馬鹿はほっといて、探してみましょ?」
「はいですの!」
「そうしようか」
あれ? 皆様同意見!?
「あの、謝るんで、仲間に戻してくれません?」
「で、思い出せそうな地名とか他にある?」
波月、スルーなの?
「よく思い出してみたんですけど、カミナリマンが一番印象に残っているんですの」
「カミナリマン?」
「似たような発音だと、雷門っぽいけど違うかしら」
「それかもしれませんわ」
「とりあえず行ってみようか」
ローグに矢吹まで!?
「あ、あのぉ……」
「地図によると、雷門は……あっちみたいだな」
「さぁて、仲間はいるかしら」
「いると嬉しいのですが……」
三人揃って、完全にスルー!?
……何か、ものすごーく悲しいよ。
足並みそろえて歩いていく三人のうちの一人、神は振り向いた。
「早くしないと、置いてくよ?」
「はじゅきぃ〜〜〜」
「泣くなよ、ソラ。ホラ、行くよ?」
「あ゛い」
「……やっぱ、ソラは面白い」
やっぱ、波月は神様です。
波月が貸してくれたハンカチで涙を拭き、その頼りたい背中を追って、俺は走っていきました。