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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
58/80

55、知る事、策略。



 朝起きて、まず自分の部屋ではない事に気付いた。全体的に青を基調として揃えられた部屋に、見慣れた学ランが粗雑にハンガーにかけてあった。どうやら、昨日はあのままソラにぃの部屋で眠ってしまったみたいね。

 「……あれ?」

 でも何かが変だ。この部屋の主が、また消えている。私がベッドで寝たせいかもしれないけど、ソラにぃがいない。あ、もしかして朝食作ってるのかな?

 目に付いたのは、ペンギンの目覚まし時計だった。ビンゴ大会でソラにぃが当ててきた景品で、おなかが時計になってる、よくある可愛いやつだ。それはまだ、午前4時をさしている。壊れているのでなければ、まだ起き出して朝食を作るには早すぎた。

 ベッドから這い出して、縮こまった背中を伸ばすために大きく伸び、深く息を吐いた。それにしても、やけに静かで、時間が止まっているみたいに何の音もしない。

 ペタペタと歩き、開かれたままのノートに触れた。最後の問題まで終わっていない、そのノートをなんとなく閉じる。終わらせもしないで、どこに行ったんだろう。まさか、またおじさん達に呼び出されたのかな。それにしても、静かすぎる。怖いくらいに静かだ。

 「あ、ローグ達がうるさくないからね」

 1人で納得して、ソラにぃの部屋を出て行く。ここにいないなら、私の部屋にならいるだろうし。ブルゥとフォンは、いつも朝早く散歩に行くのでいないだろうけど、他の賑やかな奴らはいるはずだ。

 「……あれ?」

 自分の部屋にも変わりはない。小さな人形のような妖精達の姿がない。いつもなら、クッションの上にローグとウネ、そこから滑り落ちた寝相の悪いジャウネに、机で正座のまま寝るベートがいるはずなのに。クッションにも机にも、ベッドにもいない。珍しく妖精みんなで朝の散歩にでも行ったのかな? 寝起きが恐ろしいジャウネまで連れて、わざわざこんな早くに散歩?


 ガタガタッ


 突然背後で音がして、固まってしまった。べ、別に怖い訳じゃないわ。警戒よ。


 ガタ ガタガタッ


 また音がする。何かを訴えているみたいに。

 「ねぇ、どこ? 誰がどうしたの?」

 日本語としておかしい気はするけれど、寝ぼけた頭で考えられる事が少なすぎた。冷静になろうとする頭と、ドキドキする心。リズムが合わなくなって、ずれたダンスみたいに変な感じがする。


 ガタガタッ


 タンスだ。タンスの方から音が……。

 「……!」

 声もする。え、まさか。

 クルッと回って、タンスに向かい合う。静かに様子を見ていると、ここにいるぞといわんばかりに引き出しがガタガタいった。恐る恐る手を伸ばし、引き出しに手をかけた。

 「ぷっはー!!」

 「! ちょ、あんた達、こんなところで何やってるの!?」

 丁寧にたたまれたハンカチと靴下に挟まれて、もぞもぞと動く虫は、紛れもなくローグ達だった。

 「虫とは何じゃ、虫とは!」

 そこから抜け出せないらしいウネが、もがきながら言い返す。勝手に人の心を読むなんて、最低ね。ウネだけこのままにしておこう。

 「す、すまん」

 うん、分かればよろしい。



 そうして、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた6色全員を助け出した。個々様々に礼を言い、深く息を吐いて安堵していた。

 「で、なんであんなトコにいたの?」

 「……それが分からないんですの」

 「分からないってどういう事よ」

 「昨日、青年と話していた時までの記憶はあるが、そこから先がないのじゃ」

 「へ?」

 「だーかーらー、お前が寝て、そこからの記憶がぽろーっとねぇんだよ」

 「なんでよ」

 「こっちが聞きたいです」

 いや、こっちの方がもっと聞きたいんだけど。

 「ベートとフォンも覚えてないの?」

 「……かたじけない」

 「……知らない」

 妖精達の中ではまだまともな2人も覚えてないなんて……。あ、そうだ。

 「ねぇ、ソラにぃは?」

 「ソラ様、ですか?」

 「うん。いないのよ」

 「我らが知っている訳なかろう」

 「だな。助けてもらうまであれの中だったし」

 ジャウネが顎をしゃくって、ジャウネはタンスをさす。一同、うんうんと頷いた。

 「ゴミ捨てにでも行ったんじゃないですか?」

 「こんな早くに? 私が起きたのが4時だったから、それより先に出てって、それきり帰ってきてない事になるのよ?」

 「其れは面妖でござるな」

 「……うん」

 うーんと唸る一同に、ハッと何かを思い出したかのようにウネが飛び上がった。

 「ヴィオロシィかもしれんぞ」

 「ヴィオロシィ? あんた達の最後の仲間の名前よね。その子がどうしたのよ」

 「それは……」

 なぜ黙る。気になるじゃない、途中でやめられると。

 「その、ヴィオロシィとソラにぃに何の関係があるの?」

 どうやら、赤と黄色も分かったらしい。目線を泳がせて、一切私を見ようとしない。もちろん、ウネも。

 「ねぇ、何なのよ。教えなさい!」

 状況を飲み込めていない、緑と青と藍は首をかしげる。

 「……どんな事であっても、お前は受け止めるか?」

 「ジャウネっ」

 「お前は聞きたいんだろう? 真実を知る辛さを知っても、それでも聞きたいんだろ?」

 ウネの静止を気にもせず、ジャウネが真っ直ぐ私を見て言った。珍しい、こんな真剣な顔するなんて。それほど重大な事なんだろう。

 けれど、引く訳にはいかない。きっと良い事ではないのだろうと予想は出来てる。もう、一歩も引かない。それが、きっとソラにぃのためになるって信じているから。

 「いいわ、話して」

 一呼吸置いてそう言った私に、ジャウネは頷いた。そして、知っている限りの事を全て話してくれた。ヴィオロシィがソラにぃと『何か』を約束した事。汐見さんの騒動の時、助けてくれた事。そして、そこで分かった『何か』の事も。

 「俺らが知ってるのはそこまでだ」

 「でも、ソラにぃはまだ独りぼっちになんてなってない! 私も、波月さんや矢吹さんだっているのよ!?」

 「ウミ殿、落ち着かれよ!」

 「私達は、身勝手に人を妖精界コミュナット・フェリップに連れ込む事は出来ないんですよ」

 「……何が言いたいの?」

 「我ら妖精は『約束』をたがえる事は出来ぬ。ヴィオロシィと青年が『約束』をしていたのなら、まだ妖精界コミュナット・フェリップに青年を連れて行けないはずなんじゃ」

 「まあ、どっかに連れてったのは確かだけどな」

 「妖精界コミュナット・フェリップに行くには、条件がありますのよ。私達のような妖精と共に足を踏み入れるか、魔回廊クリーレスリット・ヌヴァスに迷い込む事ですの」

 「……クリーレスリット・ニュヴァス?」

 「ヌヴァス、じゃ。簡単に言えば、ワープホールみたいなものじゃな」

 「その場合は、何の関係なしに、妖精界コミュナット・フェリップに連れ込まれちまうんだ」

 「そして、二度と戻って来れませんの。私達が連れ出す事も可能ですが、人間界ここ妖精界あちらでは時間の流れが違いますの。……出た瞬間、その人間は塵になると聞いた事がありますわ」

 「そ、そんな!」

 もしもソラにぃが妖精界コミュナット・フェリップに行ってしまったら、二度とこっちにはこれないなんて……。

 「何のために、ソラをどっかにやったのかは分からねぇけど、ヤバいよな」

 嫌な予感がする。急に温度が下がったみたいで、全身に鳥肌が立つのを感じた。

 「魔回廊クリーレスリット・ヌヴァスを探すのは簡単な事ではありません。神出鬼没ですから」

 「『約束』を無視して、ソラ様を妖精界コミュナット・フェリップに連れて行く方法の1つではありますが、他の手段を使ってくると思うんですの」

 だったら、すぐにでも動き出さなくちゃ。ヴィオロシィがソラにぃを妖精界コミュナット・フェリップに連れて行く前に!

 「私、どうしたらいいの? ヴィオロシィを見つけなきゃ。ソラにぃを取り返さなきゃ……」

 あれが最後なんて嫌だ。あんな別れ方なんて、嫌よ。もう、誰とも別れたくない。

 「ジャウネならヴィオロシィの気配が追えるでしょ? どこにいるか分からないの?」

 「簡単に言うなよ。アイツ、日頃から気配を消すのが上手いんだ。そう簡単に見つかる訳ねぇよ」

 「でも、早く探さないと!」

 「見付かったとしても、逃げられるのが落ちじゃろう」

 「何もしないよりマシだわ!」

 「なれど、ウミ殿には、寺子屋がござるじゃろ?」

 「寺子屋……? あぁ、学校ね。適当に言って休んじゃえば―――」

 「ウミちゃん? 1人で何してるの?」

 「お、おばさん!」

 部屋の扉から顔を覗かせたおばさんは、不思議そうな顔で聞いたけれど、すぐに笑顔になって言葉を続けた。

 「早く降りていらっしゃい、ご飯の準備できてるから」

 え、もうそんな時間?

 壁にかけられた花の形の時計を見る、6時すぎだった。

 「わ、私、ソラにぃに頼まれて、学校の花壇の水遣り手伝う事になったの! ご、ご飯食べてる時間がないから、着替えたらすぐ行くねっ」

 「そらにぃ? 誰、新しいお友達?」

 「え、何言ってるのよ、おばさん。ソラにぃは私のお兄ちゃんだよ」

 一瞬驚いた顔をして、笑い混じりにおばさんは信じられない事を口にした。

 「ウミちゃんこそ何を言っているの? あなたは一人っ子・・・・でしょ」

 「え……?」

 ふふふと笑ったおばさんは、嘘をついている様子もなく、ただ事実・・としてすらすらと話していった。

 「お兄さんが欲しいって日頃から言ってたから、夢でも見たんじゃないの? まあ、忙しいなら仕方ないわね。でも、トーストぐらい食べていきなさいよ」

 おばさんが階段を下りていく足音を聞きながら、私は返事も出来ないで固まってしまった。

 それから思い立って立ち上がり、隣にあるはずの部屋へ向かった。扉を勢いよく開けると、何もない空間が私を出迎えた。

 「そんな。なん、で……?」

 その扉を開けたまま、私と同じように呆けていたローグ達のいる部屋に戻り、机に飾られた写真立てを手に取った。今は亡き両親と、私だけ・・・が笑う写真がそこにあった。


「サブタイが浮かばないとネタ切れの法則」が発動してるぞ……。

略して、サブ切れの法則……!(黙れ


さて、書きだめはあるんですがいまいち納得がいかないというか、こんなんじゃダメだぁぁぁぁ! という謎の症状にみまわれ、更新が停滞中です。頑張って進めてますけど。

なんと言うか、自分が納得してから更新していきたいので、胸のモヤモヤが晴れる前に投稿するのだけは避けたいんですよね。自己満足に過ぎない気はしますが、自分が満足して出来上がったものを更新しなければ、読者様も満足してはいただけないと思っていますので。


本当に申し訳ないとは思いますが、これからもスローペースの更新になると思います。読者の皆様に、理解して欲しいとは言いませんが、心のどこかで認めてやってください。


『あぁ、サブ切れの法則がまた来たのか』と。


それでは、長々と失礼しました。また次回、会う日まで。

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