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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
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特別編 虹色ラプソディー 中編

 もしかしたら、これは夢なのかもしれない。僕はきっと、悪い夢を見ているんだ。

 「さぁ、恩人さん。遠慮しないで召し上がってくださいね」

 質素で清潔感のあるテーブルクロスの上に、微笑む悪魔が次々と料理を並べていく。

 なあ、これは悪い夢なんだろう? なら、早く覚めてくれ。

 右隣に座っていたひのでちゃんが耳打ちしてきた。

 「……コレ、食べなきゃ死ぬん?」

 「……食べても死ぬだろうね」

 「そ、そんな。せ、折角作ってくれたのに、失礼だよっ」

 ひのでちゃんの向かいの席に座った海梨ちゃんは、悪魔の料理を庇うけど、

 「じゃあ海っちは、コレ食べれる?」

 「え……」

 隣に座ったナオからの問いに返せなかったという事は、食べられないんだろう。

 だって食べれるわけがない、これは料理なんかじゃない。備長炭だ。

 「相変わらず、矢吹の料理は破壊的だよ……」

 「なんか言った、有澄?」

 そう、『男の子』だった有澄さんに連れられてやってきたのが、悪魔のやか……矢吹さんの家。ちょうど財布を捜していたようで、本当に感謝された。そうして、おもてなしをされているわけですが。

 「別に何も言ってねぇし」

 「言ってなくても帰りなさい。アンタのために作った訳じゃないのよ」

 僕らのためだったとしても、帰りたいです。帰らせてください、生きたまま。

 「じゃ、遠慮なく」

 「だ、ダメよ、アンタが一番食べないと料理が残っちゃうでしょ」

 「はあ!? 誰がこんな恐ろしいもん食べるんだよ!」

 「恐ろしいものって何よ! れっきとしたスパゲティにマカロニサラダでしょ!?」

 え、スパゲティってこんなにパサパサしてました? マカロニサラダって、こんな気色悪い黄緑色してましたか?

 「ぼ、僕らも早く帰らないと心配が親すると思うので……」

 「こーちゃん、なんか日本語がおかしくなってるよ」

 僕とした事が、そんなミスをするなんて……。自分では分かってないけど、かなり焦ってるんだろうな。

 「え、そんな。私1人じゃこんなに食べられないし」

 確かに女性1人が食べるにしては、量が多すぎる。だからと言って、手伝えるものじゃない。生命の危機だ、こんな怪しい料理を食べたら。

 「あ、有澄さんが食べてくれますよ、ね?」

 「え゛」

 海梨ちゃん、残酷な事を言うね。

 「育ち盛りはいっぱい食べとかんとね」

 「ちょ!?」

 ひのでちゃん、コレ食べたらきっと成長なんてできなくなると思うんだ。

 「あたし達、お礼目的でお財布拾ったわけじゃありませんからっ」

 ナオ、有澄さんの口に、無理矢理料理を詰めようとするのはやめようか。

 「……結構上手いのに、もったいねぇなぁ」

 「マジでか」

 有澄さんと声が重なった。矢吹さんから殺気を感じたけど、僕ではなく、タクの隣の有澄さんへ向けられているようだった。

 「食べれなくはないぞ?」

 タク、お前の胃は何でできてるんだ?

 「でしょ? 大丈夫よ、自信作ですから」

 胸を張って言われても、色と臭いがヤバすぎです。

 「そ、そうだ。僕らはこれから映画を見に行く予定だったんです」

 「え、そうなの?」

 「はい」

 「あれ、映画は……むぐっ」

 ひのでちゃんが、タクの口にサラダをねじ込んだ。ナイス、ナイスだけど哀れタク。

 「急がないと間に合いそうにないんで、お気持ちだけいただいておきます」

 「そっかぁ……。あ、じゃあ昨日作ったクッキーがあるんだ。それ持って行く?」

 「割れたらもったいないので、遠慮しておきます」

 「そうですか。……じゃあ、お礼だけ。本当に有難うございました」

 「いえいえ」

 「また機会があったら、必ずお返しはしますから!」

 しないでいい。しないでください。

 「有難うございます」

 「ほら、行くでたっくん」

 「ごふふっ……」

 「あ、有難うございました」

 「ありが……うわ!」

 ナオが椅子から立つだけのはずだったのに、机をひっくり返して料理を床にぶちまけた。

 「ご、ごめんなさい! すぐ片付けますから」

 「いえ、いいですよ! 映画、楽しんできてくださいね」

 「で、でも……」

 「俺が手伝いますから、気にしないで下さい。……忙しいのに、連れてきちゃってすみません」

 有澄さんは、最後の一言だけを僕らに聞こえるように言った。

 「あの、」

 「気にしないで。また作ればいいんです」

 最後に悪魔の微笑みだったあの笑みが、どこか寂しげに笑っているように僕には見えた。




 「はぁ、悪い事しちゃったなぁ……」

 ナオのつぶやきに、誰も言葉を返さない。代わりに、ため息がピッタリと揃う。

 「上手かったのになぁ……」

 タクは違う意味でのため息みたいだけど。

 「もうあれよね、手伝うしかないよ」

 何をどう手伝おうって言うんだ?

 「せやなぁ、もうやらなあかんやろ」

 いや、だから何をどうするんだ?

 「そ、そうだよね。私達が応援して恩返しするしかないよね」

 「まさかとは思うけど、バレンタインデーにチョコを渡す作戦を考えて、なんて僕に頼まないよね?」

 「えー、だめなの?」

 「え、だめなん?」

 うん、まさかの図星だったみたい。

 「お、お願い!」

 海梨ちゃん、そんな手をすり合わせて拝まれても困るんだけど……。

 「孝くんに少しでも良心があるなら、ウチらの気持ち分かってぇや」

 まるで僕が良心の欠片もない人のように言わないで欲しいな……。

 「これが最初で最後のお願いだから!」

 絶対最初でもないし、最後でもないよね。だけど、

 「分かったよ。でも、チョコの出来はどうしようもないからな」

 「わーい!」

 「おおきにな!」

 「さっすがこーちゃん!」

 あんな気まずいまま終わるなんて、こっちの気がすまない。恩返しには恩返しをしなくっちゃね。

 「なぁ、何をどうするんだ?」

 さて、話についていけてないタクは、とりあえず話を理解してもらおうか……。




 「なるほど! そういう事だったんだな!」

 「たった3行開けただけで理解できるなんて、すごいなぁ」

 そんな事言わないで、ひのでちゃん。世界観ぶち壊しになるから。

 「で、どんな事をするんだ?」

 「それはあれだ」

 「何?」

 綺麗にみんなの声が重なる。

 「いい? まずは……」



 人に想いを告げる事、人に想いを届ける事。それは意外と難しい。


 普段から傍にいて、当たり前のように話せている相手だとしても、その難しさは変わらない。


 想いが伝わらなかった時の恐れ、伝わった時の喜びを知っているからだと思う。


 だから、このバレンタインデーという日は、誰もが成功したいと願う日になるんだろう。


 変わらぬ愛を、秘めた想いを、チョコという名の媒体に精一杯詰め込んで。




さて、やっと行動に出るようですね。後編でまとめて終わらせようって魂胆が丸見えですね。えぇ、そうですとも!


と、言うわけで、次の次の次で黒犬 純先生作『スクール・ラプソディー』とのコラボは終了です! いやはや、3話だけなのに手に汗握って執筆ですよ。必死ですよ、いろいろと。

次はガルー・ブレスト先生作『平凡ではない日常。』とのコラボ。私は頑張れるのか!? いや、頑張るしかないでしょう!


まあ、本編に戻っている間に落ち着きと緊張感などを取り戻そうと思います。


それでは、また次回お会いする日まで!

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