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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
最終章 ユネプロミス―約束―
53/80

52、すれ違う兄と妹

 私が思っていた以上に夏休みはあっさりと終わってしまった。早く終われと望んでいたけど、終わってみるとまだ続いて欲しかったなんて望んでる自分がいた。友人達も夏休み最中は宿題が終わってから暇で仕方なかったそうだけど、終わってしまうとあのまったりとした日光みたいな暇な時間が愛しくてたまらないみたいだった。

 「またねぇ」

 「まったねぇ」

 始業式が終わって、最初の一週間も終わった。部活も終わって、こうるさい友人達と別れた。ぶんぶん手を振るので、負けじと振りかえした。




 「ただいま」

 「おかえりなさい」

 「おかえりー」

 リビングからおじさんの声、2階からはおばさんの声が届いた。ソラにぃはまだ帰ってないのかな。

 「ソラ様があの方達に追い出されましたわ!」

 「! なんだ、ローグじゃない」

 「のん気な事言ってて良いのか!」

 「どうせ買い物頼まれただけでしょ」

 「服をいっぱい持たされてたんだぞ!」

 「あぁ、クリーニングか」

 「くりいんぐ?」

 「クリーニングですよ、ベート」

 「でもさでもさ!」

 階段を上る私についてきながら、妖精達は不安と一緒に文句を言う。

 「明らかにお前と話す時の口調が違うんだぜ?」

 「確かに、あからさまに冷たかったな」

 「ソラ様をけして名前で呼ぼうとしませんの」

 「それがしには、ソラ殿を奴隷の如く扱りているごとく見え申した」

 「あの方達とソラさんとの間に何かあったんですか?」

 机にバックを投げ出して、部屋の扉を閉めてからベッドにダイブ。一息ついてから、蒸し暑くなる前に窓を全部開けて、椅子を引いて腰掛けた。

 「私にだって分かる事と分からない事があるの。ブツブツ文句言われたって、言える事もあれば言えない事だってあるんだからね」

 「だけどさぁ!」

 「どうしようもないの! ソラにぃは絶対話してくれない。おばさん達も私には優しい顔しかしてくれないの」

 「……」

 やっと全員が口をつぐんだ。掃除も洗濯も、何もかもできなくなったから、自分達の時間は増えたんだと思う。だけど、おばさん達がいる限りは実体化はできないし、食事もできない。ちょっとストレスが溜まってきたんだろうなぁ。なんて、1人で思ってる。

 「ともかく、聞くならソラにぃに聞いてみなさい。私は何にも分からないの。……知らないのよ」

 そう、知らないんだ。一番近くにいて、一番長い付き合いで、一番大切な人なのに私は知らない。




 「ただいまー」

 「おかえりなさい、ソラ様」

 「おかえり」

 返事はローグ達だけかぁ。

 「玄関にみんな揃ってるなんて、なんか笑っちゃうね」

 「あのババァ達はどうせ返事などしないじゃろ」

 「あはは、ババァ達って口が悪いな」

 靴を脱いで、顔を上げた俺の目の前にローグが。

 「眼球タックルは簡便ね?」

 「そんな事しませんわ」

 「ちょっと失礼」

 リビングへ歩いていって、扉を開ける。予想通りにおばさん達はテレビを見ていた。ドアの開いた気配に気付いたのか、おじさんは振り返ったけれど何も言わずにテレビに向き直った。

 「……麦茶のむ?」

 小声でローグ達に聞くと、青と藍色以外は頷いた。

 冷蔵庫の前に立ち、麦茶の入ったペットボトルを取り出して、ついでに夕飯を考えた。たまにはシチューとかでも作ろうかな。あ、そうめんもよさげだな。よし、そうめんにしよう。

 「いつまで開けておくんだ」

 「あ、すみません」

 冷蔵庫って夏の間は涼しいからずっと開けていたくなるんだよね。今のはそのためじゃなかったんだけど。

 ガラスのコップに自分の分を、ローグ達にはミニチュアのコップに麦茶を注ぐ。とはいっても、そのまま入れるんじゃ大洪水だから、俺のコップからスポイトで吸い取った麦茶を入れる。もちろん、おばさん達に気付かれないようにしながら。

 「よし、上に行こうか」

 「いつも見ている番組がそろそろ始まるぞ?」

 「いいんだよ、おばさん達が何か見てるみたいだし」

 「ちぇ、つまんねぇの」

 それぞれのイメージ色のコップを持って、俺の後に続く。扉に挟まらないようにローグ達が通り過ぎたのを確認してから、ゆっくりと閉じた。




 「なあなあ」

 「んー?」

 夏休み終わって早々出された数学の宿題とにらめっこしている俺の前に、ジャウネが頭から下りてきた。

 「なんであのババァ達はお前に冷たいんだ?」

 うわ、超直球。もっと遠まわしに聞いてみようとか思わないのかな?

 「さぁ、なんでだろうね」

 「知っておるんだろ、本当は」

 今度はウネが降りてきた。ちょ、そこはちょうど解いてた問題のところなのに!

 「だからここに降りてきたのじゃ」

 うわ、人の心詠むタイミングがえげつない。

 「青年が話そうとせんからいけないのだ」

 「人にはね、言える事と言えない事があるんだよ。はい、どいたどいたっ」

 「うわっ」

 「あわっ」

 ノートをひっくり返して、ジャウネとウネを無理矢理どける。可哀想だと思うけど、明日までにやらないといけないから仕方ない……。

 「ソラ様」

 「むー、ローグも邪魔する気?」

 「ち、違いますの! そろそろ夕飯の支度をする時間じゃないんですの?」

 「え、あぁもうそんな時間!? ……仕方ない、宿題は後回しにしよう」

 あともうちょっとなんだけど……。まあ、夕飯の時間が遅くなったら、おばさん達がうるさそうだしねぇ。

 「教えてくれて有難う、ローグ」

 「い、いえいえ!」

 さて、気分を変えてご飯作るぞー!




 なんだかなぁ、なーんもやる気がでないなぁ。

 「うがー」

 なんとなく、部屋の壁を殴ってみた。痛い、結構痛かった……。

 「何やってんの」

 「ちょ!?」

 ベッドから跳ね起きて、敬礼。え、なんでこんなことやってんの。

 「ど、どうしたんですか……?」

 「え、いや、その、あれよ」

 「どれじゃ」

 「あれはあれよ! いいでしょ別に!」

 なぜか勢揃いの妖精達に講義したけど、虚しくなっただけだった。

 「それで、何しにきたの? 暇つぶし?」

 「いつでも絶賛暇つぶし中だぜ」

 意味分からないから。

 「ソラさんに聞こうと思ったんですが、聞けなかったんです」

 あら、意外と行動派なのね。

 「幾度聞いても、流させてしまりてね……」

 しつこい人は嫌われるのよ、注意しておきなさい。

 「我らだから教えてはくれんのかもしれん」

 「妹の私に話せない事を、あんた達に話してたらちょっとムッとするわ」

 仁王立ちで腕組みをし、全員を一睨みした。特に理由はないわ。

 「そいえば、赤色は?」

 「赤色? あぁ、ローグですか」

 「ん、言われてみればいねぇな」

 「青年についていると言ってたじゃろう。聞いてなかったのか」

 「おう!」

 「胸をば張りて申す事しからばぬぞ」

 「気にすんな」

 のん気でいいわね、こいつら。私は悩んでるのに、こいつらはなーんも悩んでないみたい。私が深く考えすぎなんだと思うけど、考えなさすぎもいけない気がする訳で……。んー、なんて言うのかな。案ずるより生むが易しって言うし、考えていてもしかたないんだから、私も行動するべきよね、うん。そうよね! よし、そうと決まれば寝る前にソラにぃと話してみよう。流されても、何度でも答えるまで聞いてみよう。そうよ、行動が大切なのよ!

 「ウミ?」

 「わっちょ!」

 し、心臓に悪い! い、いつの間にいたの、この男は!

 「さっきから1人でずーっとしゃべってたけど、どうしたの?」

 「へ?」

 「んーと、杏より梅が美味しい……とか?」

 え、な、なにそれ。

 「案ずるより生むが易し、と言いたいんだと思うぞ」

 「あぁー」

 そ、そんなところから聞かれていたのね。というか、どこから独り言始まってたんだろ……。

 「ご飯出来たよ、おばさん達も待ってるから早く食べよう」

 「そ、ソラにぃ」

 「話しは後で聞くよ。答えられる限りで答えてあげる」

 優しく笑う、空色のエプロンがよく似合う笑顔だった。片手に握った菜箸さえなければ。

 ……ん、あれ?

 「おばさん達待たせるとうるさいから、早く来てね」

 「うん」

 部屋を出て行くソラにぃの背中を目で追う。うん、やっぱりおかしい。

 「どうかしたか?」

 「え、うん。……なんでもないわ、多分」

 右腕に包帯してたし、左足をちょっと引きずっているみたいだった。どこかで転んだりしたのかな?

 「悪い事に考えるのは簡単。だけど、本当に最悪の場合だった時、それを受け止められるかは分からない」

 ……フォンは私にナゾナゾを出すのが好きなのかしら? いつも意味の分からない事を言われてる気がする。いや、いつもじゃないわね、普段は話さないから。

 「ウミー、ごーはーんー!」

 「あ、はいはーい!」

前回書き忘れていたので、ここで……。


コラボ作品は、本編2話を投稿してから続き、という形にする事にしました。

中途半端な数なのは、更新があまりにも不定期で不安定なのでその数で設定しました。本編も最終話へと動き出しているので、それもありなのですがね。


と、言う事ですので、次回は 虹色ラプソディー 中編 になります。

なぜ中編なんだ? と、思ったそこのアナタ! 後編があまりにも長くなったので分割したんです。長すぎるのは読みにくいかと思いまして……。


さて、次回はどうなる事やら!? お楽しみにっ。

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