50、煌びやかな生活より、小汚い生活
めでたく50話目! そして旅行も終わり! 区切りよく終わって良かった良かった!
正直、40話くらいで終わるだろうと思っていた作者でしたが、伸びた伸びた。まだ続きそうな予感です。
……前書きが長い? スミマセン。以後気をつけます。
それでは、のほほんとした本文、どうぞお楽しみくださいませ!
忠犬ハチ公のように、たくさんの料理が乗ったお皿を持ったまま突っ立っていた汐見に、矢吹にそれを届けてほしいと頼み込んでから、三枝さんを探した。汐見がなかなか了承してくれないから、無駄な時間をすごした気がしてならない。まあ、「土下座しなさい」とか言われなかっただけ、よしとしておこうかな。
「あ、三枝さん!」
ワイングラスがたくさん乗ったお盆を片手にもつ、黒い背広が振り返る。良かった、間違いなく三枝さんだ。違ってたら、心臓停止しちゃうよ。
「? どうしました、有澄様」
さ、様って呼ばれると、なんか恥ずかしいな……。
「えっと、そろそろ部屋に戻りたいんですけど」
「そうですか。あ、鍵は私が持っていたのですね。失礼しました」
「あ、いえいえ。いつもドアを開けてくださって、有難うございます」
「それが役目ですから。はい、こちらが合鍵です」
胸ポケットから、見慣れた銀の細い鍵を取り出して、俺に渡してくれた。
「気付くのが遅くなってしまって、申し訳ございません」
「いやいやいやいや」
あんなに深くお辞儀をしても、グラスがバランスを崩さないのはプロがなせる技か。
「禁忌を犯しているのが、貴方ではなく本当に良かった」
「え?」
上げられた顔は、いつも通り笑ってる。
「いいえ、こちらの話ですよ」
いや、ものすごく重要な一言でしたよね? 聞き逃しちゃったけど、かなり重要な一言だった気がするんですけれども。
「では、私は仕事に戻りますので」
「あぇ、あ、はい」
ニッコリ。あの笑顔で、何もかも隠されてしまった気がものすごーくした。
扉を開けてすぐ、鏡の前でポーズをとっていたローグと目が合ってしまった。
「ローグ?」
「あ、お、おかえりなさい、ソラ様」
「ただいま、ローグ。ところで、何やってたの?」
「い、いえ。あ、あの、服が嬉しくて……」
恥ずかしそうに俯いて、後ろ手に腕を組んだ。
「気に入ってもらえたみたいで、俺も嬉しいよ~」
「初めてもらったものですから」
にっこり笑って顔を上げたローグの頬は赤かった。本当に喜んでもらえてるみたいで、俺まで恥ずかしくなる。ていうか、照れくさい。かなりね。
左手がムズムズする。何かがうごめいているような……。
・・・。
あぁ!
「あ、そう言えばお土産が……」
今更ながら、握ったままだったベートを解放してあげる。俺の肩あたりまで飛び上がると、深々と息を吐いた。
「お、お土産って、ベートじゃないですの!」
「ベートだね」
「ど、どどどどこにいたんですの?」
「ん~、偶然?」
「偶然って、そんな……」
「あぁローグよ、無事であったか!」
「ウネビガラブもジャウネも、ブルゥもブルゥプロフォンドも無事ですのよ」
手を握り合う、その光景が微笑ましすぎるんだけど。可愛い、可愛いよこの子達!
「ベートも元気そうで良かったですわ」
「しばし、親切な輩に世話になり申しておりきがにて」
「そうでしたの。その方には感謝しなければなりませんわね」
「なれど、そが輩は―――」
「お、何か賑やかだと思ったらベートもいんじゃん」
いいタイミングでジャウネがベートの言葉を遮って、ふよふよ飛んできた。
「またあやつの僕が増えるな……」
こっそり言ったつもりだろうけど、しっかり聞き取れちゃったよ。ごめんよ、ウネ……。
「あら、おかえりなさい、有澄さん。パーティーとやらは終わったんですか?」
「いや、まだやってるよ。俺は先に帰って来たんだ」
「そうなんですか。楽しめましたか?」
「まあまあかな」
「楽しくなかったよりはいいだろう。贅沢するのではないぞ、青年」
そんな事をぬかしながら、ちゃっかり定位置に落ち着くウネ。何気なくジャウネもついてきた。
「ウネの言う通りですよ、有澄さん。何事もなかっただけ、良かったと思いましょう」
「そだね」
何事もなかった訳じゃないけどね。
「ブルゥプロフォンドがおらぬごとしが?」
「彼女なら、外で星を見てますわよ」
「ホントにアイツは星が好きだよなぁ」
「あんな小さな光でもなかなか優美であるが、ジャウネには分からないじゃろうな」
「ふふ、そうですね」
「んだよ、俺にだって分かるよ」
「そう食りて掛やるな、ジャウネ」
始まりかけた喧嘩の火種を消し止めるベートに、あわあわしているローグ。ブルゥとウネはジャウネを笑い、そんな彼は不服そうに頬を膨らませている。なんでもないような、平凡な日常の事だけど、こういうのが本当に大切な事なんだと思う。
「何人の不幸笑ってんだよ、ソラァ」
「笑ってないよ、微笑んでるんだよ」
「似たようなもんじゃねぇか」
「そう言われれば、そうかもね」
「んだよ、その曖昧な答えは」
拗ねたジャウネが、本気で髪の毛を引っ張るもんだから、痛いのなんのって。
「ほどほどにしておけ、ジャウネ。青年がハゲるぞ」
「そうですのよ、ジャウネ」
「わーったよ! 何もしねぇよ! どうせ俺はジャガイモだよ!」
「じゃ、ジャガイモですか?」
「『邪魔者』であると云おりきいがではござらぬか?」
「あぁ、なるほど……」
よく通じたね。というかさ、なんでベートの話し方に違和感なくついていけるの? 俺、結構前から置いてけぼりな気がしてならないんだけど。あれ、本当に日本語?
「さぁて、俺はウミ達が帰ってくる前に風呂でも入ってくるよ」
「一緒に入る約束をしてませんでしたか?」
「してたけど、待ってる間に寝ちゃいそうだから。じゃ、留守番ヨロシクね、妖精さん達」
*
そうして、あっさりと2泊3日の旅行は終わりとなって、豪華絢爛で夢のような生活も終わりを告げました。質素かつ地味な生活に戻ったけど、静かで平和とは言えません。
「ソラにぃ、買い物行って来るから。その間に掃除、洗濯、終わらせておきなさい」
あ、兄に対して命令口調って……。
「それから、あの馬鹿達どうにかしておかなかったら、夕飯抜きだから」
「え!? ちょ、それは」
「何か文句あんの?」
「いえ、何にもございません」
「そ。じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
とまぁ、こんな感じでウミが冷たいのなんのって。最後の晩に、一緒に露天風呂入らなかったのが原因みたいだけど、そろそろ許してくれてもいいんじゃないかと本気で思う。ていうか、お願いするよ。
「これはお前の仕事だろ! お前がやらんで誰がやる!」
「少し休んでるだけだろ? いいんじゃん、後でも」
「ベート、そ、それは斬っちゃダメですの!」
「嗚呼、すまないでござる。つい癖にて……」
「今日もお茶が美味しいわね、フォン。……あら、茶柱。何か良い事がありそうね」
「……うん」
和室で2匹は喧嘩、キッチンで2匹は危なっかしく仕事をし、俺の目の前で2匹は傍観中。うん、どうにかしようもないよね。何をどうすればいいのかね。
「いい加減にせぬか! お前がサボる度に我らにも多大なる被害が及ぶのだぞっ」
「えー、いいじゃん」
「どこがいいのじゃっ」
「からかいがいあるし、ウネ見てるとウケるし」
「我は不愉快だ! つべこべ言わず、さっさとやる事をやれ! この馬鹿者め!!」
「んだと!?」
はあ、なんでこう黄色と橙色は仲が悪いのさ。似たような色してるくせに。
「表に出ろ! 一度痛い目に遭わせてやらねば気がすまぬ!」
「いいぜ。やってやろーじゃねぇか!」
って、そろそろとめないと。昨日はうっかりほっといたら、部屋中がものすごい事になってたし……。それでウミに俺までこっぴどく叱られたんだよね。俺、何もしてないよ? 本当に。
「ウネもジャウネも、いい加減に―――」
「ソラ様危ないっ」
「ふぇ?」
椅子から立ち上がった俺の真横を、何かが猛スピードで通り過ぎていきました。なんだか鋭い物が頬をかすった気がするよ。毛先が少し切られた気がするよ?
「かたじけない。手が滑りて手裏剣が飛みていりてしもうた」
どう手を滑らせたの!? どこに手裏剣しまってたの!? つか、手裏剣使うような場面がありましたか!?
「怪我はありませんか、有澄さん」
「うん、大丈夫」
でもね、まさか飛んでくるとは思わなかった。洗い物してるはずの人から手裏剣が飛んでくるなんて思わなかったよ。
「……静かになった」
ポツリとフォンがそんな事を言う。言われてみれば、ウネウネコンビが静かだ。
……あれ、嫌な予感がするんだけど。とっても嫌な予感がするんだけど。うん。これ、気のせいだと思っていいっすか? あ、ダメですか。ですよねぇ……。
そうして、恐る恐る和室を見やれば。なんと見事か、ちょうどウネとジャウネの間に、大きな手裏剣が刺さっていましたよ。どこに刺さってたかって? もちろん、我が家の壁ですよ? えぇえぇ、ウミに半殺しにされますけど何か!
「よき加減に私闘など身の程を弁えろ。でないでござるであると、そなふち其れが貴様をば切り裂くやもしれぬ」
「す、すまない」
「あぁ、悪かったな……」
そして確信犯ですかそうですか。そして仲間を脅しますか。
「今度よりご留意めされいで候」
「うむ」
「あぃよ」
仲が悪いのか良いのか。そんなの分からないけど。
「ただいまー。安かったからプリン買って……て、あの壁の奴何よ!」
「わ、我らのせいではないぞ!」
「俺らのせいかも知れねぇけど、これは俺らじゃないぞ!」
「何よそれっ。意味わかんないから!」
罵声が飛んだり。
「あぁ、ベート! たわしでお皿を洗ってはいけませんわ!」
「そうでござるかや? 知らなんだ」
「お皿はこのスポンサーで洗うんですの」
「ほう、かはスポンサーと云ふとか」
「スポンサーじゃなくて、スポンジですがね」
「……茶柱」
可愛い会話が繰り広げられたり。
「これ、抜けない上に穴塞げなかったら、二度と家にあげないから」
「そんな!」
「ひでぇ!」
悲鳴が飛ぶ、この変わらない日常があるんだから、それでじゅーぶんだと思うんです。
「ソラにぃもだからね?」
「え、ウソ……えぇぇぇぇぇ!?」
この『アルカンシエル』の書き溜めが底を尽きたら、埃を被った作品がわんさか出てきました。新作とか、休止中の小説のとか、新作とか。あ、短編もあったな。
なんて、ここで言っても意味ないのですが。
さて、これで主な登場人物達は揃った訳です。最終話に向け、一直線です。
ですが、その前に少しチラつかせていたコラボです。えぇ、コラボですとも!
勇者が現れたのかって? 妄想じゃないのかって?
勇者現れましたよ、妄想じゃなくて現実で! 嬉しくて嬉しくてたまりませんが何か!
と、言うことで。(どういう事だ
次回から、『番外編』としてコラボをあげていきます。あくまで番外編なので、メインの間にちょくちょく挟む感じで……。で、できるかしら……。
これからも、わたくし、下弦 鴉は頑張っていこうと思いますので、最後までお付き合いいただけたらと思います。
それでは、長くなってしまいましたが、これにて失礼しようかと思います。
また次回、お会いいたしましょうっ!