5、手掛かりと、気付いた事
てな訳で、というか、どんな訳だかサッパリ分からないけれど、矢吹も『ローグの仲間捜し団』(この変な名前、矢吹が勝手に付けました。)に加わる事になった。
「で、ローグちゃん。仲間の行き先、全然知らないの?」
「訳の分からない単語だらけでしたので、そういうのは、ちょっと……」
「いいよ、気にしないで! 有澄だったら、ぶん殴ってるトコだけど!」
「何で俺は殴るんだよ! 差別だ! 差別反対!」
「だってローグちゃんは正直で可愛いけど、あんたは可愛くないし、見てると何かムカつく」
「な、何かムカつくって……」
「まあまあ、そうやってまたわき道にそれないで。なぁローグ、何言ってたか思い出せないか?」
仲裁に入った波月。ああ、やっぱり今日もカッコいい。
俺らは今、マックに来てます。モチ、百円マック目当てで。前はチョコだったから、今日はバニラです! ウマウマ~♪
「そうですわねぇ。ウネビガラブは……浅草とかって言ってましたの。ジャウネも同じような事を言っていましたわ。ヴィオロシィは元々無口なので、あまり話してなかった気がしますですの。ベートと、ブルゥプロフォンドは、温泉だとか、おっきな城だとか、……一番いろいろな事を言って、よく覚えてませんわ」
「ウネビガラブ? 何それ、早口言葉?」
知らない単語だらけで、もう脳みそがショートしそうなんですけど……。
「違いますわ、ソラ様。それらは私の仲間の名前ですの。『橙』のウネビガラブ。『黄』のジャウネ。『緑』のベートに、『藍』のブレウプロフォンド。最後は『紫』のヴィオロシィ。ちなみに『赤』は私、ローグですの」
「……それって、前言ってた『仕事』に関係あるの?」
「大有りですわ!!」
そう言ってデンと構えたはいいけど、カップの蓋の上でバランスを崩して、真っ逆さまに落下運動。あんまり落ちた気はしないけど、本人にはかなりの衝撃だったようで、
「痛いですのぉ!!」
と、言って泣き出した。
そんなローグを、そっと矢吹は手で包みながらあやしていた。こういうのは、得意だよなぁ、こいつ。何せ、下に妹や弟やらがいたからな。……あ、俺もそうか。
ローグはしばらくして泣き止んで、矢吹に礼を言い、再び話は再会された。
「私達の仕事は、空に虹を架ける事ですの。そして、それが消えるまで護るのも、私達の仕事ですの」
「つまり、……どゆ事?」
サッパリわっかりまっせぇん! お手上げです!
「分かり易く説明しますと、私達は虹の妖精ですの。と、言う事は虹に関する仕事をするのが勤めという事ですの。……ここまではいいですか、ソラ様」
うん、うん。だいたいOK!
俺は頷きでそれを知らせた。ローグも1つ頷き返すと、話を続けた。
「虹の妖精は、色に分かれて仕事をなします。『赤』なら赤い虹を、『橙』なら橙の虹をと言った具合にですの。あの、大丈夫ですの?」
「……ま、まだ大丈夫」
自信はないけど、とりあえず頷く。
「では続けますの。私達がそれらを繋ぎ合わせる事によって、あの大きな虹はできているんですの」
「て事は、それぞれ担当があるって事だよね?」
ほー、そういう事だったんだぁ。初めて知ったよ。
て、あれ? 何故か冷たい視線を感じるんだけど。
「……漸く理解したの、有澄」
「漸くとは失礼だな! お前も分かってなかっただろ?」
「……ハァ」
「何だ、そのため息は!」
「細かい所まで聞いて、やっと理解できたあんたが、哀れになっただけ。気にしないで」
「いや、気にしないでって……」
ん? 何だこの気まずい空気は!? 何だ何だ!?
「ソラ、もう少し勉強しろ」
何故に命令形なんですか。波月なら許すけど、何故に命令形?
「ま、馬鹿はほっといて、大体居そうな場所がつかめてる……なんて言ったっけ? アブラカタブラ? と、ジャストだっけ?」
「いや、違う。開けゴマと、ジャガイモだ!」
「……いや、二人とも違うからな」
「もしかして、ウネビガラブとジャウネの事ですの?」
「「そうそう、それそれ!」」
うっ、またハモった。……どうせなら、波月とハモりたいんだけどなぁ。
「ま、浅草はそこまで遠くないし、何とかなるでしょ」
胸を張る矢吹。威張ってんじゃねぇ、脇役! て、心で叫ぶ。
「そうなんですの?」
「そうなのですのよ」
「……真似しなくていいんだって、ソラ」
苦笑気味にまた、同じようなツッコミされたけど、波月だから許す! 矢吹だったら、許さない!
「じゃあ、早速明日にでも行く? どうせ、明日は学校ないんだし」
「いいよ」
「ありありさぁ」
「……」
「何人?」
冷たい波月の言葉がやけに突き刺さったのは、言うまでもありません。
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「ただいまぁ」
「お帰りソラにぃ!」
元気でいいよなぁ、中学生は。……って、俺もそうだった。
「遅かったね? まさか、また寄り道してきたの? 今月ピンチなんだから、外出は避けてよね。ついでに、寄り道もね」
「あ〜い」
……浅草の件は、黙っておこう。あとが怖いもん。
「あ、ソラにぃ!」
「あい?」
階段登りかけで、不自然な角度で振り返る。
グギッ。
あ、今腰が……。
「今日の食事当番、ソラにぃだからね。朝に学校の花壇に水あげないといけないから、早めによろしく!」
「ありありさぁ」
「……どこの人?」
波月と似たようなツッコミをされ、再び心が傷つきました……。
「ぷはぁっ! 狭かったですわ」
「そりゃ、バックの中だからな」
「教科書に踏み潰されそうになって、大変でしたのよ!」
「あい、すみません」
「まあ、ソラ様なら許して差し上げますの。……それにしても、何故こんな狭いものの中へ入らなくちゃならなかったのですの?」
真っ赤なドレスに付いた、(彼女からして)大粒の埃を取ってやる。せめてもの償いに。
「いやぁ、ウミに見つかると、また口喧嘩が始まりそうだったから」
「ソラ様が下手にまわってはいけませんわ! 男として、堂々と構えなさいといけませんの!」
「あい」
「返事は『はい』ですの!」
「はい!」
……う〜ん、スパルタの家庭教師が来たみたいで、ちょっとヤダかも。でもまあ、虹の妖精の仲間が集まるまでの短い間なんだから、仲良くしたいと思うのは俺だけじゃないですよね?