49、花の香りと緑色
はっきり言います。サブタイ、あまり意味がありません!
もう使い果たしちゃった感じですね、ネタを。もっと考えればどうにかなるんだろうけど、作者はもう限界を迎えたようです。あはは。(笑うな
そんなこんなで、投稿する時間が遅すぎる件はスルーすると言う事でお願いします!
まあ何事も気にせずに、ちょっぴりシリアス、ちょっぴり笑えるかもしれない本編へどうぞっ!
急激に元気を取り戻しやがった矢吹に、見事にジャンケンで惨敗し、もう何度目かの料理を運ぶ事になった俺。パーティーが楽しくないの、はじめてなんだけど。
「つまらなそうな顔してないでくれない? 料理が不味くなるわ」
「あ、ごめんなさい」
純白の体のラインが活きたドレスを着た女性に、これでもかと睨まれてしまった。
およ、見た事あるようなないような顔だな。
『こんばんは、有澄さん』
「……っ!」
よく耐えた、耐え抜いたよ俺。今叫んでごらんよ、冷たい目線にさらされてましたよ。
「どうしたの、有澄?」
「え、いや。汐見、綺麗だなぁと思って」
「そ、そんなの当たり前でしょう?」
さすがお嬢様。褒められなれているようで。
『すみません、驚かせてしまいましたね』
「気にしないで」
小声で囁けば、安堵したかのように篠枝さんが笑った。んー、幽霊は慣れたつもりなんだけどなぁ。まだダメっぽいねぇ……。
「あら、お友達ですか?」
「いえ、ただの同級生です」
「私は華見崎ささな。この礼奈の友達、よろしくね」
「ども。……あ、俺は有澄ソラです」
差し出された手をとって、軽く握手。人見知りにしては上出来だぞ、俺。
『華見崎様は幼少の頃より仲良くしてくださった方なんですよ。一流のピアニストなのです』
ほえー、ピアニストか。すごいなぁ。
「礼奈がこんなに照れてるの、始めて見たわ」
え、あれで照れてたんですか。
「ちょ、ささなさん!」
汐見は自分より背の高い華身崎さんを、見上げるように睨む。慌てすぎて、手に持ったグラスを落としそうになっていた。
「照れないで、礼奈。大丈夫よ、とったりしないから」
「とるもなにも、狙ってすらいませんから!」
クスクスと笑う華見崎さん。汐見と似たようなドレスを着て、サラサラと流れる長い綺麗な黒髪と花のコサージュが印象的だ。
「礼奈のプライベート気になるわね。有澄君、だっけ? ちょっと話さない?」
「え゛?」
初対面の人とろくに話せないですが。というか、プライベートも何も、汐見の事なんて全然知らないんですけども。てか、どっからそんな流れになるの?
「礼奈、これは任せたから」
細い指が俺の手から料理の乗った皿を取って、汐見に預ける。ぽかーんとして何も言わない汐見の後ろでは、あわあわしている篠枝さんがいた。
『お持ちしてあげたいのにぃ~』
もどかしい気持ち、痛いほど分かるよ。
「じゃ、またね」
華見崎さんは、優雅に手を振る。最近、俺に決定権とかの権利が全然ない気がするんだけど、なんでなの? 酷くね?
「さてと……行きましょうか、陰陽師」
俺の腰を抱いて、耳元で華見崎さんがそう囁いた。
「んなっ」
「大丈夫ですよ、騒がない限りは」
「……」
「良い子ですね。ホテルの外へ出ましょうか」
そして、そのまま自然な動作で外へ連れてこられました。途中で三枝さんにあったけど、笑顔で見送られてしまった。見捨てられたよね、確実に。
「わっとっと!」
危うくアスファルトにキスするところだったじゃないかっ。急に放り出すのは反則じゃない!?
「貴方、有澄家の血筋でしょう?」
「そうですけど」
なんで知ってんの? ストーカーですか? 一般市民の中学生相手に?
「私達は力が必要なのです」
「なんの話ですか?」
カツカツとヒールをならして、距離を詰める華見崎さん。温和そうだった目が、どこか冷たい光を宿して睨んでくる。走って逃げるにも、さっきの言葉が気になって仕方ない。
「知らないとは言わせませんよ。香雲から聞いているはずです、私達の事を」
「え、なんで母さんの名前を!?」
香雲。珍しい名前だもん、そう何人といるわけじゃないだろうし……。それに、私達って?
「華見崎ささなは別の名です。本当の名は、諏墺ささな。諏墺の名なら、聞き覚えがあるでしょう?」
「いえ、全く」
「ほら、おぼえ……てぇ!?」
え、いやいや。そんなに驚かれても。
「同級生か何かですか? 華見崎はピアニストとしての名前なんですねぇ。そーいうのってカッコいいですよねぇ」
「あ、そうですけれど。え、あれ?」
あれ? って言われても。こっちがなんでこんな状況になったのか聞きたいんですけど。
「し、知っていても知らなくても、べ、べつ、別に構わないのです」
構わないならそんなに焦らないでください。そんなにポロポロ涙流さないでください。ハンカチはないんですよ、矢吹に貸しちゃったから。
「と、ともかく! 有澄家に伝わるひじゅちゅ、教えていただきます」
「……ひじゅちゅ?」
「ひじゅちゅ、ひじゅじゅ、秘術、です!」
してやったり、そんな顔をしているけれど、それまでに可愛いミスをしすぎです。
「秘術なんて知らないですけど。てゆーか、はな……諏墺さんは何者ですか?」
「良くぞ聞いてくれましたね!」
いや、気になったから聞いただけだよ? そんなハイテンションにならないで。
「諏墺家は有澄家に次ぐ、陰陽道の名家です。力こそ敵いませんが、技術ではほぼ互角です」
「ほえー。じゃ、結界も諏墺さんが?」
「はい、ことごとく破壊されてしまいましたがね」
「何のために?」
「邪魔をされないよう、貴方の力も弱めるつもりだったのですがね」
えっとぉ、これはどういう意味かな?
「貴方に拒否権はありません。私達と共に来てもらいますよ!」
ドレスを脱ぎ捨てると、見覚えのある袴姿に変わった諏墺さん。よくばっちゃんが着てたものにそっくりだ。そして、ごそごそとゆったりとした袖を荒らすと、何かを見つけて取り出した。
「縛!」
「ちょっ!」
飛んできた札を避けて、一息。人に向けて、しかも無防備な人に術をかけようとは何事か!
「卑怯じゃないですか?」
「これくらいしないと、香雲も捕まらなかったものでして」
母さんと一緒にしないで欲しいな。俺はそんなに力ないんだよ? 専用の札も筆もないんですけど?
「逃げてるだけでは、いずれ捕まりますよっ」
いや、抵抗できるものが何もないんですが。ローグ達がいれば、何とかしてくれたかもしれないけど、部屋でぐっすりオヤスミ中だし。
「てか、人に術かけちゃいけないの、陰陽師なら知って」
「ますが、人は人でも貴方は陰陽師。禁忌は犯していません」
「札も筆もないんですけどっ」
「え!?」
これでもかと飛ばされていた札がピタリとやむ。ふぅ、よかったよかった。
「で、でも、式を使っていたでしょう?」
「あれはお清めしたチラシとティッシュに、呪をかけたサインペンで作ったものなんですが」
「そ、そんなもので!?」
だって、旅行にそんな物騒なものいらないでしょ、フツー。
「そんなものに、そんなものに、そんな……」
『そんなものに』をブツブツ繰り返し呟いて、仕舞いにはアスファストの地面にしゃがんで膝をついた。
「そんな即席の式に、私の結界が破られたのですか……」
「まぁ、そうなっちゃいますね」
俺の一言にビクッと反応すると、地面に「の」の字を書き出した。
「そうですよ、そうですよ。どうせ私は諏墺家でも最弱ですよ。ずっとずっと香雲に憧れて頑張ってましたけど、力も恋愛も惨敗ですよ。えぇ、私はなんのとりえもありませんよ。これっぽちもありません。もう三十路なのに、中学生に負けますよ。敵いませんでしたよ、全く。えぇ、えぇ、私は無力ですとも。なーんにもどうせできませんよ」
これは、呪いの儀式ですか? それとも魔物召還の呪文か何か?
「おーい、ささな。そんな気ぃ落とすなや」
そんな彼女の肩を叩く男の子が1人。うん、落ち込んでる人を励ましてあげるとは、良い子じゃの。
……って、いつの間にいたの!?
「そりゃあ香雲の息子だし、それなりの準備をしてきたんですよ? 自分なりに対策考えて今日の日を待ちましたよ。だけど―――」
「負の世界から帰って来いよー」
バシバシ肩を叩く男の子。それでも負の世界帰ってこない諏墺さん。悪い事しちゃったかな?
「ったく、有澄家なめんなって言ったの、お前のくせにさ」
バシッとトドメの如く頭を叩く少年。さすがにやりすぎだと思うよ?
「いった! ちょ、嵐暫! なにを、ちょ、やめ!」
嵐暫という名前らしい彼は、諏墺さんが負の世界から帰ってきたのにかかわらず、バシバシ叩き続ける。
「おー、帰ってきたか。今日は遅かったな」
「嵐暫が叩くのに夢中で、私に気付かなかったからでしょう!?」
「あれ、そーだったか。そーりー」
「ったく、貴方という人は……っ」
「あのー」
「なんですか!」
「俺、帰っていいですよね?」
「え、ダメに決まってんじゃん」
ちょ、年上にタメ口か。タメ口なのかこのやろう!
「少々口は悪いですが、嵐暫に同意です。このまま貴方を帰らせるつもりは、な!?」
「縛!」
「がびょーん」
そこの、嵐暫とかいうやつ。やる気ナッシングだろ? そうなのか、そうだろう?
「ふ、札と筆はないと言ってたじゃないですか!」
ロープのようなものに絡まれ、地面に倒れた諏墺さんが、抜け出そうともがきながら言った。
「確かにそう言いましたけど、ろ……お気に入りの式達が体調優れないって言うから、」
胸ポケットをあさる。取り出したのは、サインペンとポケットティッシュ。
「念には念を、て奴ですな」
「ま、またそんなものに私は―――」
そして再び負の世界へ帰っていく諏墺さん。
「助けにきた俺まで捕まっちまったじゃねぇかよ!」
諏墺さんを器用に足で蹴る嵐暫。ちょ、可哀想だからやめたげて!
「ま、まあ。ラッキーだっただけですから」
うん、ラッキーだっただけなんだ。偶然に偶然が重なった感じ?
「こうなったらぁ! ベート、ベート!」
むん? 聞き覚えのある名前だな。
「緑ー緑色ー」
緑? んー、緑なベート。ベートな緑。
「ベート、呼んでいるのですが!?」
「嗚呼、すまないでござる。気が付やないでござる」
ふわふわと舞い降りてくるのは、もう見慣れた空飛ぶ人形。深緑のポニーテールが風に揺れて、真っ直ぐに切りそろえられた前髪から、髪と同じ色をした鋭い瞳がのぞいていた。服装は純和風。つまり、和服ですね。袴だと思うけど。
「お呼びでござるか? 諏墺殿」
っていうか、口調に特徴ありすぎない? キャラ濃いめじゃない!?
「この、邪魔なものをどうにかして欲しいんです」
「御意」
脇に差した刀を抜くと、あっという間に札を切ってしまった。
「助かりました、ベート」
「礼には及びませぬ」
ペコリと頭を下げると、諏墺さんと並んで俺を真っ直ぐに見ました。
「恩輩に手をば出す人は、それがしが許さんで候」
「うぇ? えっと、んーと、じゃ、じゃぱにーずでよろしく?」
「じゃ、じゃぱ?」
小首をかしげる、仮定虹の妖精さん。あー、ローグ達がいればよかったんだけどなぁ。本当に。
「そうです、許してはならないのです。私達にはあの少年の血が必要なんです!」
「え、陰陽師じゃなくて、吸血鬼だったんですか?」
「そうですよ、実はにんにくがですねぇ……じゃありません!」
お、いいノリですね、諏墺さん。
「なーんか、完璧にアイツのペースにのまれてね?」
君は年上を敬うという事を知らないのか。
「ベート、頼みがあります。あの少年を捕らえて下さい」
「真田の旦那が仰せがままに」
え、旦那じゃないでしょう。諏墺さんは女性でしょ? ていうか、真田さんって誰っすか?
「て、ちょっと! ちょーっと待った!」
「待ったはござらぬ!」
刀を構えるおそらく虹の妖精ベート。
「覚悟!」
「ちょ、たんまって!」
止まる気配は見せずに刀を振りかざすベートに、もう説得は遅い。ならば、賭けに出るしかないじゃないか!
「君、もしかして仲間とか探してない!?」
「な、なんと申した?」
ピッタリとすんでのところで止まった刀に一息ついて、安心した。
「ローグとかウネビガラブとかジャウネとか、そーいう子達知ってるでしょ?」
「何故それがしが友が名をば存じておる?」
「そ、その子達は迷子になったローグが探してって頼んできたから、見つけた子達で、それで、もしかして君もそうなんじゃないかなぁと」
刀を鞘にしまう。そして、切れ長の目で真っ直ぐに俺を見つめる。見つめ続ける。
「ち、違うかな?」
「……」
ちょ、そろそろ恥ずかしいよ? 早いかもしれないけど、ギブアップ寸前よ?
「諏墺殿」
「なんです、ベート」
「それがしとが契りをば覚えているでござるや?」
「……仲間が見付かるまでは、私に仕えてくれると言いましたね」
「見付やったでござるようゆえ、無礼するでござる」
クルッと振り返って、その一言と共に深々とお辞儀。礼儀正しいのね、この子は。
「え、あっさりしすぎじゃね!?」
「ら、嵐暫の言うとおりですよ、ベート!」
「すまぬが、契りは、契りゆえ」
顔を上げずに、さらに頭を下げる。ジャウネとそこの嵐暫とかいう男の子、ベートを見習いなさい!
「そ、そんな!」
「ざけんなよ!」
「ふざけるも少しも、 最初よりさふ申す契りでござった手筈でござるよ」
顔を上げた彼は、しれっとそんなことを言ってのける。薄情というか、淡白というか……。
「そいつがウソ吐いてたらどうすんだよ」
「そう、そうですよ!」
こっちはこっちで悪あがきというか、むなしい抵抗というか……。
「こが若者が眼に濁りはござりませぬ。ほらをば吐いておるなぞ、到底思えないでござる、諏墺殿」
かたじけない。そう言って、また深々と頭を下げる。
「あぁ、諏墺家は終わりです。破滅です、壊滅です、絶滅です!」
一方諏墺さんはヒステリックでも起こしましたか!? 急に叫ぶのはアウトです、心臓に悪いです!
「どうしても、私達には、力が、力が必要なんですよ、有澄ソラ」
涙で滲んだ大きめな黒目が、ゆらりと俺を捕らえる。地面に足が縫い付けられたみたいに動かなくなる。
「この腐った国を作り直すためには、強大な力が必要なんです」
ゆらり、ゆらり。諏墺さんの黒髪が揺れる。
「私達だけでは足りないのです。諏墺家だけでは、足りないのです。だから、だから貴方の力が」
肩をガッシリ捕まれる。俺の隣で、鞘に納まった刀に触れるベート。
「どうしても、必要なんですよ」
うなだれる、黒髪が流れて表情を完全に隠す。目で、刀は抜くなとベートに指示して、肩を掴む手に触れた。ゆっくりと指を解いて、肩からはずした。その手は、とても冷たい。
「俺は、そんな力持ってないですよ?」
「いいえ、ある。貴方にはできるはずです。秘術をあのクソババアから教わっていないとは言わせません」
く、クソババアって……。アナタ、人の祖母をなんて酷い呼び方するかね。
「秘術、『鏡花』。美しく強靭で、最高の術です」
「……聞いたことありま」
「いえ、あります! 絶対、ある! 伝統を重んじる有澄家に、あの術が後継者へ受け継がれない訳がない! 怨霊も妖怪も、人からも恐れられた最強の術を!」
知っている。答えてしまえばいいのに。だけど、その凶悪なまでの威力を知っているから。
「すみません」
「……これだけ接近したのです。貴方、気付いたでしょう?」
「……禁忌、犯してますね」
禁忌とは。まあ、簡単に言えばルールを破ってる事。そして、それを犯した陰陽師は人の温度を失うって聞いた事がある。死人のように冷たく、暗いオーラを纏うとも。
「私は怨霊を生み出し、礼奈の家へ送り込んだ張本人です。それは、礼奈を傷付けたいからではなく、実力が知りたかったから」
「でも俺、怨霊は祓ってないですよ?」
「けれど、魂と憎悪は引き剥がせた。あれだけ念入りに作り上げた怨霊から、善意だけ拾い上げた。それだけの実力と、判断力があれば十分。鏡花だって扱えるはずです」
「例えそうだとしても、諏墺さん達には教えられませんよ」
「だから、血が必要と言ったのです。鏡花に必要なのは、有澄家の血と美しい花だと言う事だけは、こちらも掴んでいるのです」
「それだけじゃ、術には足りない」
「だからこうして、呪を教えて欲しいと……!」
喉元に、冷たい感触がする。
「こっちは命賭けてんだ。アンタも命賭けやがれ」
「有澄殿っ」
「ベート、手を出さないで。これは陰陽師の話」
全く、だから嫌いなんだよね。陰陽道ってさ。
「鏡花を使ったって、国は変わらないんじゃないです?」
「力ある者に平伏す。それが人というものです」
「力だけ振り翳したって、なんの意味もないですよ」
「俺達の支配下にいれねぇなら、そんな人間切り捨てちまえばいいんだよ」
なんて残忍な考え方するんだか。
「どっちにしろ、あんまり血ぃ使われると俺が辛いと言う事に変わりないね」
「妹の血だって構わないですよ?」
「ウミに力はないよ。でも、ウミに手を出したら、俺は自殺でも考えないとね」
押し黙る2人。歯を食いしばるベートは、抜けない刀をカチカチ言わせていた。
「あー、お腹減ったぁ」
「この不利な状況で、よくそんな事が言えますね」
「減らず口もいい加減にしねぇと……!?」
「吹きすさぶ風に、身を裂かせよ」
ダンッと足で地面を踏みつければ、コッソリと足で描いていた陣が発動する。ごめんね、こういう卑怯なのは好きじゃないんだけど。
「空腹には敵わないから、失礼するよ~」
猛烈な風に吹き飛ばされていった諏墺さん達を見ずに手を振り、唖然として口を開けたまま動かないベートを掴んでホテルへと俺は引き返した。