47、夏といえば、暑さと海とカキ氷!
あけました、おめでとうございました!
はい、もう過去形ですね。遅いですね、完璧に出遅れました。
そしてまだまだ寒いこの季節に、おいサブタイ。それでいいのか!?
年明けても、アルカンシエルは『夏』です。何度でも言います、更新が遅いがために『夏』です!
ずるずると引きずっても仕方がありません。ゆえに、パパッと本文へ行きましょうか。
では、まだまだ真夏のアルカンシエル、47話っ。どうぞ、お楽しみくださいませ!
三枝さんが言った通りに、朝はサンドウィッチだった。温かいコーンポタージュと、簡単なサラダ付。俺からしてみれば、これだけ出れば十分というほど十分すぎて、タッパーでのテイクアウトを切に希望します。というか、お持ち帰りさせてください。どうか、どうかお願いします!
とまあ、美味しい朝食を終えて。そして、興味があるのでダンスパーティーに参加する旨も伝えて。
「海だー!」
「夏だー!」
「ハワイアンだー!」
波月、2人のノリにのるのはいいけど、ハワイじゃないよ。砂浜にいるの、完璧に日本人だから。
急に話が飛んじゃってすみませんねぇ。矢吹という子供が、「海だっ海だっ海だぁ♪」うるさいから……。無理矢理つれて来られた訳です。食後すぐに水泳は体に良くないらしいのに!
「ジャパンにいながらハワイに来たみたいねっ」
「ですねですねっ」
矢吹、意味分からないぞ。そしてのるなウミ。悪いものがうつるぞ。
「ソラにぃ、カキ氷が売ってるよ!」
「なんだって! ブルーハワイは、ブルーハワイはあるか!」
「あるよ! 私イチゴね」
「じゃ、私はメロンで」
「俺は無難にグレープかな」
で、小銭を突き出す3人組み。え、何これ。嫌な予感しかしないんだけど。
「我はレモンが食べたいぞ」
「俺はウネに分けてもらおー」
「わ、私はウミ様にイチゴをいただきたいんですの」
「いいよー」
「ありがとうございますの!」
「私達はソラさんからブルーハワイをいただこうかしら」
あの、妖精さんまでなんですか。え、これはあれですか。あれなんですか。
「と、言う訳だから買ってきて」
「悪魔! 鬼! 人でなし!」
「露天風呂にも海にも入らないんだから、暇でしょ」
「暇じゃないやい。砂の城でも作って遊ぶんだい」
「破壊してあげるから、買ってきなさい」
「いやいやいやいや! 破壊されたら困るから! 破壊されたら嫌だから!」
「っさいわねぇ、つべこべ言わずに買ってきなさい!」
なんですか、これ。イジメですか、イジメなんですか、イジメですよね。
普通はさ、ジャンケンとかして負けた人が行かない? なんか勝負して負けた人が行くんじゃない? 無差別に、嫌味に、無理矢理お金を押し付けないよね?
「頼んだわよ、有澄」
「お願いね、ソラにぃ」
「ごめんね、ソラ」
「よろしく頼むぞ」
「いってこーい」
「えっと、その……お願いします、ソラ様」
「私達はついてきますよ、ソラさん」
俺の味方は、いないようですね。泣いても……いいですか?
「はぁ、財布が泣くよ……」
「あら、それにも心があるんですか?」
「いやぁ、喩えだよ」
ズボンのポケットに入った財布がね、明らかに薄くなった気がするんだ……。小銭が減っただけさ、小銭がちょっと、減っただけさ。うん、ポジティブで偉いぞ俺。頑張ってるぞ、俺!
「とりま、冷たい……」
店員さんにも驚かれたじゃないか。1人でこんなに食べないってーの、いくらなんでも。
しかし、両手を使ってカキ氷を5つは辛い。冷たい、溶ける、シロップベタつく。あぁ、最悪……。しかも矢吹だけお金足りなかったし。ふざけてる。俺はアイツの召使でもなんでもないぞ。友達だとも思ってない。腐れ縁だ。……って、結局は友達だって認めてないか? いやいや、そんな事は無いだろ。だいたい、あの小娘はいつから俺に絡み始めた? 小学校だったか、幼稚園か? 引っ越してきた可愛い子がいるってドキドキしてた、淡い俺の男心をどうしてくれる。もしかしたら、隣の席にその子が座るかもしれない。もしかしたら、一番最初に仲良くなるかもしれない。もしかしたら、恋愛に発展してまさかのゴールインするかもしれない。そんな純粋な俺の、俺の大切な心を……っ!
「きゃっ」
「っとと」
まさかの大激突。カキ氷は、ブルーハワイは無事か!
……なんて事よりも!
「す、すみません、ちょっと考え事してて。だ、大丈夫ですか?」
「……つつ」
見覚えのあるような、長髪のビキニの女性が立ち上がる。んー?
「って、有澄!?」
「んー、どちら様でしたっけ?」
「また同級生の顔を忘れたって言うの!?」
お、なんかデジャヴ。
「んーと、あー……お、汐見か」
「気付くのが遅いわよ!」
「ごめんごめん」
苛立たしげに腕を組んだと思ったら、顔を真っ赤に染めて腰に巻いてたパーカーを羽織った。
「顔赤いよ? 暑いんなら、パーカー着ないほ」
「うるさい!」
え、最後まで言い終わってないんですけど! 怒られるような事言ったつもりはないんですけど!
「で、なんで貧乏人がこんな所に?」
え、なんで急に冷たい態度? しかも貧乏人って酷くない? 確かに貧乏だよ、裕福じゃないよ。でも酷いじゃないか。俺だって泣くよ? カキ氷買わされる件からもう泣きそうなのに!
「答えなさいよ」
「うぇあ。あっと、当たったんだ」
「何が」
「え、えっと、抽選会で」
「そう」
え、素っ気な。つーかそれだけ!?
「そういう汐見は?」
「え?」
「旅行かなんかじゃないの?」
友達一緒とか、家族とか、妖精とか……。妖精はないか。
『あー、有澄さん。どうも』
にょっきり汐見の後ろから篠枝さんが現れた。うん、不気味だからやめて。怖いから、心臓に悪いからやめて。とりあえず、目だけでお辞儀をして挨拶。
「汐見は1人?」
後ろにいるけども。
「いいえ、パパが一緒よ。あのホテルの設立者がパパだから」
指差すホテルは、シェルバランホテル。おー、なるほど。反応が薄い理由が分かった。
「主催のパーティーがあるから来たんだ」
「ダンスは嫌いじゃないの。それに、家にいてもする事がないのよね」
家って書いて『やしき』と読むんですよね、分かります。
「宿題は?」
「貴方とは違うの。終わってるに決まってるでしょ」
「俺だって終わってるよ!」
「それは失礼しましたね」
謝る気は全くないんですね、痛いほど良く分かります。
「ねぇ、有澄」
「ん?」
「そんなに1人で食べる気? お腹壊すんじゃないの」
「食べねぇから! 流石にそこまで馬鹿じゃない!」
「届ける人がいるんなら、早く行った方が良いんじゃないの。溶けるわよ」
「おおぅ、そだね。じゃあ、またねぇ汐見」
「じゃあね」
照れくさそうに笑って汐見は手を振る。まだ顔が赤い。暑いのにパーカーなんて着るのがいけないんだ。
「遅い! トロい! のろま!」
「買ってきてやったのに、何だよその言い草!」
「溶けてるじゃないのよ!」
「少しだけだろうが! つーか、お前だけお金足りなかったんだぞ! 払ってやった俺に敬意ってものはないのか!?」
「ある訳ないじゃない!」
「んだとぅ!」
「なによぅ!」
「まあまあ、食べられるだけ良いじゃないか」
「つめはーい」
「ですのー」
シャクシャク大人しく食べてるウミ達を見習いたまえ! そして「ありがとう」の一言でも述べよ!
「しっかし冷たいな」
「頭にキーンってくるぜ」
いつの間にやら実体化した妖精達。と、言ってもブルゥとフォンはかわってないけど。ジャウネの実体化をはじめてみたけど、ローグとウネみたいに俺らと同い年って感じじゃなくて、小学生みたいだ。
あぁ、言い忘れたけど俺以外はみんな水着です。
「おいしいカキ氷に免じて、今日のところは許してあげる」
「そーですか。そりゃーありがたい」
「何よその棒読み。文句でもある?」
ありありですけど? ありすぎて困るんですけど?
「ねぇよ」
「そーですかー」
うっわぁ、いちいちムカつく! 一言一言が癪に障る!
「パラソル頑張って立てたんだよ、矢吹さん。ソラにぃが海に入らないって言うかりゅあ!?」
「あーらウミちゃん。お口に何かついてますよー」
それ、拭くって言わないんだよ、矢吹。塞ぐって言うんだよ。そして、妹を殺そうとしないでくれるかな!?
「ま、有難うと言ってやる」
「仕方なくよ。ず、ずっと泳いでても楽しくないでしょ」
顔が赤い。頬が赤い。
「ちょ、な、なななななな!!」
おでこに温度差なし。俺が冷たく感じるって事は、大丈夫って事かな?
「ソラにぃ、離れてあげて」
「むん?」
「矢吹さん、違う意味で倒れちゃうから」
「違う意味??」
「はいはい、とりあえず、離れなさいソラにぃ」
「りょーかい」
くっつけてたおでこを離す。ウミがさっきより赤くなった矢吹を手で扇ぐ。波月が笑いを堪えている。ローグは顔を手で覆い、ウネウネコンビは大爆笑だ。ブルゥは満足げに頷いてるし、フォンは表情が変わらない。その前に彼女の表情が見えない。
え、何。俺なにかしでかした?
「ソラ、女性に無闇に近づいちゃダメだよ」
「え、なんで? 熱があったら困るだろ?」
「でもね、その……」
波月がポリポリと頬をかく時は、本当に困っている時なのです。
「以後気をつけまする」
「うむ」
にっこり爽やかスマァァァイル! だ、ダメだ。可愛い、素敵、惚れます!
「おやおや、もう少し賑やかだと思っていたのですが」
場違いだよ、三枝さん。ばっちりスーツで砂浜はダメだよ。
「昼食の準備ができましたので、お呼びにあがったのですが、よろしいでしょうか?」
いつから気付いていたのか、妖精達は実体化をこっそり解いて俺の周囲に集まる。ローグは例外として。
「はーい、行きます行きます! ね、矢吹さん」
「ふぁひ」
「様子がおかしいようですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっと事故がありまして」
「事故、ですか?」
あからさまに不安そうな表情をして、胸ポケットからハンカチを取り出し、持っていたペットボトルの水をかけて濡らす。それを矢吹の額に当てて、水を持たせる。
「熱中症でしょうか? ホテルに戻りますか?」
「たいろーふです」
「ですが」
「だ、だいじょーぶれす」
「……そこまで言うのでしたら。ご案内いたします、ついてきてください」
「はーい」
「ふぁーい」
矢吹は魂が抜けたような歩き方&しゃべり方で、まだ心配そうな三枝さんの後を追う。食欲がなせる業か、はたまたこの夏の太陽の影響か。女性陣はそれに従う。
「気がつかないソラって、鈍感だよね」
「ん?」
「なんでもないよ、俺らも行こう」
「ありありさー」
気付かないって何に? 鈍感って何に対して? 分かんないぞ、どうしよう。ものすごーく、置いてけぼりな気分。気持ちが悪い、あーもやもやする!
「おふぉいわよ、有澄」
「うるさい、千鳥足」
中年サラリーマンの酔っ払いと化した矢吹を、支えるようにするウミが悪い笑みをした。何か耳元で矢吹に囁くと、動きが止まって、振り向く。俺を、俺を睨んでいる?
「バカ」
たった一言それだけ言われて、夜のパーティーが始まるまで口を利かなくなった。