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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第三章 秘められしモノ
46/80

46、孤独な空


メリークリスマス!


ちょっと早いとか気にしちゃいけません。サンタさんが来てくれませんよ?

今年もあともう少し。けれど、アルカンシエルはまだまだ続きますよっ!


それでは、季節外れなんて気にせずに、本編へどうぞ!

 矢吹様達が露天風呂から帰ってくるより先に、ソラ様はお風呂から上がり髪の毛を乾かして、寝床の準備をしていましたの。それをし終えた頃に、矢吹様達が満面の笑みで帰ってきて、それぞれに感想を述べてから、欠伸をしながら歯磨きをしていましたの。

 「んじゃ、おやすみ」

 「おやすみ」

 「また明日」

 「おやすみなさーい」

 そうして、ソラ様と波月様、ウミ様と矢吹様に別れて寝室に入ったんですの。それから、しばらくは矢吹様達の部屋からは物音がしていましたが、静かになったら私達の時間になりましたの。

 「朝や昼よりは、悪い気分はせんな」

 「俺は変わんねぇ」

 ソファの肘掛に腰掛けたウネビガラブは伸びをして、ジャウネはぐったり横たわってますの。

 「私達もジャウネと同じですね」

 ブルゥとブルゥプロフォンドは背もたれに腰掛けて、足を振っていましたわ。

 「私はウネビガラブと同じですの」

 「何の変化があるのかは知らんが、不思議な事が1つあるのは確かじゃな」

 「えぇ、なぜローグが食事の席にいなくても、平然としていたのか」

 「なんつったっけ、さえ……さえ……」

 さえを繰り返し続けるジャウネに助け舟を出したのは、ブルゥプロフォンドでしたの。

 「三枝」

 「そそ」

 ふぅーとため息を吐いて、うんうんと頷くジャウネが本当に辛そうで心配ですわ。

 「あやつが近くにいると居心地が悪いというか、落ち着かぬ」

 「確かに……。それほど強い邪気は感じないのですが」

 「俺ぁ知らねぇ」

 コロコロと狭い肘掛を転がるジャウネを、嫌そうにウネビガラブが睨んでいますの。

 「外の方が嫌な雰囲気があってヤだ」

 「外じゃと?」

 「2つくらい変な感じがする。もやもやする。すっきりしねぇ」

 肘を突いて、不服そうに頬を膨らませるジャウネ。不審そうなのは、ウネビガラブとブルゥ、それにブルゥプロフォンドですの。

 「すっきりせんか……。結界でもあるのじゃろうか」

 「それでしたらはじかれているはずで、中に入る事はできませんね」

 「結界にしては適当で、つくりが荒いと思うぜ。所々に虫食いみたいに穴が開いてる」

 「……術は完璧。壊しているのは、別の力」

 「別の力、ですの?」

 「あの男の力」

 俯いたまま、ブルゥプロフォンドが指差すのはソラ様達の寝室。確かに、ソラ様ならありえなくはありませんのですが……。

 「何かしなければ、壊せないんじゃないですの?」

 「何かしているから壊せているんでしょう」

 ブルゥに先を越されたブルゥプロフォンドは、うんうんと頷いて、服のポケットからどうやってしまいこんだのか、大きな紙を取り出した。

 「飛行機降りた時、飛ばしていたものの1つ」

 広げられたそれは、人の形にも見えますの。

 「ふむ、式じゃな」

 「四季?」

 「違う、式じゃ。式神じゃ」

 「なるほど、これに結界を破らせていたのですね」

 置いてけぼりにされたジャウネが、また頬を膨らませているんですの。ふてくされて、死んだように動かなくなりましたわ。

 「いつの間にこんなものを……。何も持ってきてはいないと、言ってましたのに」

 「確かに何も持ってきてなかった。飛行機のチラシとテッシュで作ってた」

 そ、ソラ様……。

 「我らより先に気付き、先に行動していたか」

 「時々ソラってすごく頼もしくなるよな」

 「そうですね」

 時々って否定してさしあげないのですか、ブルゥ……。

 「露天風呂、頑なに拒んだ理由ってなんなんだろうなぁ」

 不意に私が気になっていた事をジャウネが呟きましたの。

 「気持ちが悪いとは言っておったが」

 「誰がどう見てもウソでしたね」

 「見せたくないものがあったから」

 「見せたくないもの?」

 ブルゥプロフォンド以外のみんなが揃って問いましたの。

 あぁ、ブルゥプロフォンド、彼女には物を見通す、透視する才能に長けているんですのよ。

 「あの男は隠したいと願った、絶対に隠したいと。だから、ボクは言わない」

 あ、ボクって言ってますけれど、女の子ですの。男の子はジャウネとベートだけなんですの。

 「隠すなよ、気になるじゃん」

 「……隠されると、気になるものじゃな」

 「聞こえてますよ、ウネビガラブ。今はウネ、でしたね」

 「ウネと呼ぶな! お前まで略す必要はなかろう!」

 「あら、ごめんあそばせ」

 ウネビガラブをからかっていますね、ブルゥ。

 「人が隠したいと願うのは、他人が傷つくのが怖いから」

 「え?」

 「人が隠したいのは、人を傷つける言葉や物。大切な人を守る為の涙の証拠」

 「意味が分からん」

 「悪しき心は、真実を隠すために。清き心は人を守るために」

 ブルゥプロフォンドはそう言うと、大きな窓に敷き詰められた星屑を見つめる。それにつられて、ブルゥが、ウネビガラブが、ジャウネが星空を見ましたの。私も、もちろん見ていましたの。

 薄暗い夜空に、小さな星達が遠慮がちに輝きを放っていますの。ソラ様達の家から見る空よりも綺麗で、星も多い気がしましたわ。

 「空は嘘を吐かない。だから、同じ名前のあの男をボクは信じてる」

 詩を朗読するように、ゆっくり告げるブルゥプロフォンド。

 「ソラさんは、人を傷つけるのが怖くって隠したいものがあり、大切な人の為に涙を流した証拠がある。綺麗な心の持ち主と言いたいのね」

 うんうんと頷くブルゥプロフォンドに、優しく微笑みかけるブルゥ。私にも、たまには笑いかけて欲しいんですの。

 「空は孤独じゃない。けれど、地上の空は孤独ね」

 最後の言葉の意味が、よく分からなかったのは、私だけじゃなかったようですの。ジャウネもウネビガラブも、ブルゥも首をかしげていましたの。

 空は孤独じゃない。それはきっと、雲や星達がいるからだと思いますの。

 じゃあ、地上の空は? 話の筋からしたら、ソラ様のことなのでしょう。

 でも、ソラ様は孤独じゃありませんの。たった1人の肉親のウミ様がいますの。よく喧嘩はするけれど、仲の良い矢吹様がいますの。ソラ様を気遣ってくれる、優しい波月様がいますの。

 孤独なんかじゃ、ありませんわ。家族が、友がいるんですの。だから、孤独なんかじゃないですの。

 そうでしょう、ソラ様。

 「踏み入れる事のできない闇は、まだ深いか……」

 感慨深げにウネビガラブが呟きましたの。

 ソラ様が抱えている、心の重さが分かりませんの。無力な私には、何もできない私には、ソラ様に何をしてさしあげればいいのか、全然分かりませんわ。

 ソラ様が誰の為に、何をしたいのか。それすらも、私は分からないんですわね。私の事は知ってくださっているのに、ソラ様の事を私は全然知らないですの。


 いつか、教えていただけるのでしょうか? 貴方が苦しむ理由を。


 いつか、荷を降ろしてくださるのでしょうか? 貴方が背負う全てを。


 いつか、気付く事ができるのでしょうか? 貴方の周りのぬくもりを。


 届かない思いがもどかしいです。届かない手が虚しいです。届かない心が悲しいですの。

 貴方様が遠いですの。こんなにも近くにいるのに、とっても遠いですの。

 「ローグ?」

 「はい?」

 「ん」

 「はわわっ」

 ソファに腰掛けていた私に、ジャウネが投げたハンカチが被さりましたの。

 「お前、泣き虫じゃな」

 「虫じゃないですの!」

 「それは誰だって分かってらぁ」

 「今宵は月が綺麗ですねぇ」

 ゴシゴシと顔を拭いてから、再び空を見上げる。

 大丈夫、空は孤独などではありませんわ。輝く月が、儚い星が、淡い雲が傍についている。

 だから、大丈夫ですの。




 知らずうちに強くハンカチを握り締めて、なぜか流れ出てくる涙を必死に押さえつけていた。

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