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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第三章 秘められしモノ
42/80

42、修学旅行と家族旅行の違いは紙一重?


はい、タイトルはあまり気にせず読んで頂けると幸いです。

そして更新をサボって申し訳ないです。すっかり忘れてました。(おい

一週一回更新の前に、『忘れない』事の大切さを思い知らされました。切実に。

もう一つの小説も進めなきゃ……と、思いつつ、ついつい『アルカンシエル』を更新する下弦です。努力が足りませんね。精進します!


そんなこんなで(どんなだ)、ワクワクドキドキ? な本編へどうぞ!


 「戸締りしてきたよね?」

 「うん、おっけー」

 「忘れ物ない?」

 「だいじょーぶ」

 「えっと、それから、うーん」

 「もう、大丈夫だよウミ。ちゃんと俺が確認しといたから」

 「……だから心配なんだけど」

 矢吹の隣の席で、ウミが深々とため息をついたのが、遠目からでも分かった。そんなに俺って、頼りないですか?

 「今日はおめかしできて、よかったわねぇ」

 「はいですの! ソラ様が、この旅行のために作ってくださったんですの!」

 「まあ、普段のドレスよりはいいだろう」

 「ソラって意外と器用だよなぁ」

 「急に来てしまった私の分まで作ってくださって、本当にありがたいです」

 「……」

 「似合ってるよー。もちろん、みんなね」

 「ありがとうございます!」

 微笑ましい会話をするのは、通路を挟んで隣の席の矢吹。矢吹の肩に、ローグが座り、ウネとジャウネはいつも通りに俺の頭の上。ブルゥとフォンは、通路側の手すりの上に足をぶらぶらさせながら座ってる。

 いつもと違うのは、服だけ。ローグは袖口に可愛らしいフリルをあしらったボレロに細身のワンピース。色はもちろん、イメージカラーの赤でまとめてある。ウネはスカートが断じて嫌だというので、普段のジャウネと似た服を着せてみた。ボーイッシュだけれど、可愛らしさは残したつもりです。ブルゥはつばの広い帽子と、ロングワンピース。時間がなかったから、これくらいしか作れなかったけれど、本当に嬉しそうに「ありがとうございます」を言ってくれたから、こっちも嬉しかったね。ジャウネは別にいいって言うし、フォンにいたっては全力で拒否されたので、服を作りさえしなかったけど。

 「結構長く乗ってるけど、乗り物酔いとか大丈夫?」

 「ん、俺は平気だよ」

 「そっか。もうそろそろ、着くのかな?」

 「たぶん、もうちょっとかかるかなぁ」

 「まだかかるのか……。いい加減、座ってるのには飽きてきたな」

 うーんと伸びをするのは、隣の波月。眠そうな半開きの目が、優しく微笑む。

 「俺らも誘ってくれて、ありがとうな」

 「いやいや! 逆に来てくれて有難う」

 「誘われなかったら誘われなかったで、多分ひねくれてただろうなぁ」

 「え゛」

 「あぁ、心配するなよ、ソラ。家に殴りこんで行ったりしないから」

 いえ、君が言うと、本当にそういうことが起こりそうだからやめてもらえません?

 「さぁて、到着するまでもうひと寝入りするよ」

 「ありありさー」

 「……久しぶりに、それ聞いたね」

 「ん?」

 「なんでもないよ、おやすみ」

 にっこりと微笑んでから、頬杖をついて眠る波月に、惚れそうになったのは秘密です。

 「ねぇ、そこの変態」

 「誰が変態だよ、誰が!」

 「あんた意外にいないでしょ。お腹すいた、なんかちょーだい」

 「なんかって言われても、お前に出すもんなんて何にもねぇよ」

 「ケチ」

 「何とでも呼べ」

 「いけず」

 「はいはい」

 「バカ」

 「なんだと!?」

 「何とでも呼べって言ったのはあんたでしょう!?」

 「だからってなんだ! バカってなんだ!」

 「バカにバカって言っただけですよ、バーカ」

 「バカバカ言うな!」

 「バカにバカって言って何が悪いのよ!」

 「だいたいなぁ、バカって言ってる方が―――!」

 「そこ、うるさい。黙って」

 「はい」

 明らかに不機嫌なウミに、たった一言で静められる俺だから頼りないんですね。よーく分かりました。はい。もう、何も言いません。……あ、最後に一言。

 飛行機から見た雲って、綺麗ですよね。



                       **



 「う~ん! やっぱり外の空気ってサイコー!」

 「だねぇ」

 「あぁ、肩こったぁ」

 「ガス、ちゃんととめてあるかなぁ。電気つけっぱなしじゃなかったよね」

 伸びをするのは年長3人のみ。心配性は猫背でぶつぶつ言っている。妖精達は、

 「すごい、すごーいですの!」

 「あまりはしゃぐな、うるさい」

 「しっかしキレーな所だなぁ」

 「散歩しがいがありそうね、フォン!」

 「……うん」

 てな具合に、個々遠足気分でワクワクしているみたいです。まあ、遠足と変わりないから、どうこう言う筋合いもないんだけど。

 「迷子にはならないでね、ローグ」

 「大丈夫ですの! ソラ様からは、離れないようにするんですの!」

 「そーですか」

 「はいですの!」

 まあ、よろしいご返事で。

 「で、着いたはいいけど、このあとはどーすんの?」

 よっこらせと、大きすぎる旅行カバンを肩にかけて、……なぜだ。なぜそんな冷たい目で見られなくてはならないんだ。

 「よし、矢吹は置いてく」

 「なんでよっ」

 「招待してやったのに、何その目!」

 「『してやった』ですって!? 来たくて来た訳じゃないんだからね!」

 「じゃあ帰れ。帰ってください、お願いします」

 「ひどっ」

 「仲良くするのはいいけど、とりあえず今はウザいからやめて」

 「はいっ」

 ダメだ、ダメだよ……。折角楽しみにしていた豪華ホテルへ来れたのに、そんな冷えた目をしたら。

 「だけど、本当にどうすればいいの? ホテルに行った方がいいの?」

 「いや、そのホテルから迎えが来るらしいんだけど……」

 その気配、まったくないのよね。あははー。

 「すみません」

 「ぴゃい!」

 不意に後ろから声かけちゃダメ! 変な声出るから! 冷たい目線浴びるのは俺なんだから!

 俺に声をかけてきて人は、綺麗に七三分けにされた黒髪に、眼鏡の男性。きっちりとしたスーツはしわひとつない。どこかの貴族? 誰かの執事?

 「つかぬことお伺いしますが、有澄様でいらっしゃいますか?」

 「えぅ、あぅ……」

 「はい、そうです」

 ありがとー、王子様ぁ! 惚れ直したよ~。

 「それは良かった。予定より早めに来て正解でしたね」

 「失礼ですが、あなたは?」

 「あぁ、紹介が遅れました。(わたくし)はシェルバランホテルの者で、三枝(さえぐさ)と申します。本日から皆様がお帰りになるまでの世話役でございます」

 お辞儀をした時に、胸元にあった銀のプレートの名札が光った。しかし、3本の枝で『さえぐさ』って読むんだ。ふっつーに『みえだ』とか『さんえだ』って読んでたよ。……バカって思わないで、言わないで。

 「さあ、重かったでしょう。お荷物は私がお持ちいたします」

 「あ、でもさすがに重いでしょう? 俺は、自分のは自分で持ちますから」

 長身ではあるけれど、細い三枝さんにはこの人数分の荷物は持ちきれないだろう。1人分だって結構重いのに。

 「大丈夫ですよ。こう見えて、力はあるんです」

 人当たりのいい笑みを浮かべて、足元においていた荷物(俺と波月、それに矢吹とウミ)のを軽々と両腕にかけて、一言。

 「ほら、全然まだいけますよ」

 「すごい」

 これ以外に何も言えないよ。うん。

 「伊達にホテルマンはやっていませんよ」

 冷たくて近寄りがたい感じがあったけれど、あの笑みのせいか、何でも話せる気がする。この人ならあんまり人見知りしないで話せそうだ。

 「それで、奥様方は?」

 はっ! すっかり忘れてた……。

 「い、今、トイレに行ってるんでますです」

 「? そうですか」

 日本語っぽい日本語じゃない言葉を発したけれど、ツッコんでくれなくって良かった。

 「私、様子見てきます」

 矢吹が挙手してそう告げる。挙手の必要、ある? 修学旅行とかじゃないんだから……。

 そして、近くを飛んでいたローグを掴んで、トイレへ向かって去っていく。他の妖精達はというと、何をするでもなく、ただボーっとしていた。

 「ローグ達なんだか、様子がおかしいよねぇ」

 「そうだね。ココに着いてから何も言わなくなっちゃったけど、ついて来てくれてるからまだいいんじゃないか?」

 「……そーだね」

 三枝さんには聞こえないように、コソコソと話した。波月は「何も言わなくなった」って言ってるけれど、無口な訳じゃない。俺にはローグ達の声がきちんと聞こえてるけど、波月達には聞こえなくなってしまっただけだと思う。なぜ? そんなの俺に聞かないでください! というか、逆に聞かせてください。なんで声が聞こえなくなっちゃったの? ……知らない? そーですよねー。

 「青年、おい、青年」

 「うぃ?」

 頭の上に乗った、ウネがパコパコと頭を叩きながら呼ぶ。痛いから、やめようね。

 「ココは居心地が悪い」

 「え?」

 「いや、頭の上が、という訳ではない。この土地が、我らには良くないようだ」

 「どーゆー事?」

 「そうじゃな……」

 うーんと悩み始めたウネの隣に、ジャウネが座る。そして、左肩にはブルゥとフォンが。

 「ソラの傍とか、触れてればそうでもねぇんだ」

 「そうですね。この地に何があるのかは分かりませんが、ソラさんといれば辛くないのです」

 「ココは、木が泣いてる。虫も、鳥も。生き物全てが泣いてる」

 「ふむぅ……」

 難しい事は俺には分からない。でも、居心地が悪いって言うんなら、あんまり長居はしたくないけれど。

 「でも、ウミが楽しみにしていた所なんだ。とんぼ返りなんてできないよ。だから、2泊3日絶えてもらえない?」

 「青年の傍におれば、辛くはない。それくらいは耐えられる」

 「まー、本当にヤバくなったら助けてくれよな」

 「私達は心配なさらずに、この旅行を楽しんでください」

 「……」

 「うん、ありがとー」

 無言のフォンも頷いてたし、まあ大丈夫って事で。あと、心配なのはローグだけかな。

 「大丈夫だ。アイツはそれほど弱くない」

 心を読むなよ。久しぶりに。

 「悪かったな」

 「お待たせー」

 実体化したローグを引っ張って、矢吹が帰ってくる。ローグは口だけ動かすだけで、言葉は出ないみたいだ。飛行機の中では、実体化してもしゃべれてたのに。

 「綺麗なお母様ですね」

 「ぁう、はい」

 ニッコリとする三枝さん。悪い感じはしないけど、本当にちょっぴり、違和感がある。

 「それで……、お荷物は?」

 「あー、っと。ウミ……妹の荷物と一緒にしてあるんです」

 「そうでしたか。では、ホテルの方へ向かいましょうか」

 「はい」

 背を向ける三枝さんのあとに続いて、俺と波月、ウミとローグに矢吹が続く。3日間、何事もなく終わるといいんだけど……。あーあ、念のためにお札とか持ってくるべきだったかな? 肝試しとか、本当に出たら祓いたいし。怖いじゃん、だって。

 「ゴフッ」

 急停止はないよ、王子様……。

 「あ、ごめんソラ」

 「ちゃんと前向いて歩きなさいよ、有澄。バカが波月にうつるでしょ」

 「失礼な! 前向いて歩いてたし! ただ考え事してただけだし!」

 「はあ? あんたが考え事? ありえなーい」

 「なぁにが『ありえなーい』だ! 俺だって考える時は考える人より考えてるぞ!」

 「意味分かんないし!」

 「なんだよ、文句でもあるのかよ!」

 火花散る、俺と矢吹。本気で誘った事を後悔している俺がいる!

 「仲がよいのですね」

 「えぇ、まあ」

 「良くない!」

 「さ、さようですか」

 「波月も賛成しないでよね!」

 「ご、ごめんね」

 「波月せめるな!」

 「何よ、変態!」

 「誰が変態だよ、このじゃじゃ馬!」

 「誰がじゃじゃ馬よ、変質者!」

 「誰が変質者だよ、猫かぶり!」

 「なによ!」

 「んだよ!」

 「まあまあ、その辺にして。三枝さんも困ってるから」

 「はっ……。つい、ごめんなさい」

 「いえいえ、お気になさらずに」

 とりあえず、静まったのは口喧嘩だけ。火花は散り続けています。

 「さあ、これに乗ってください」

 「……これって?」

 「もちろん、これです」

 波月が止まった理由。車に乗るため、なんだけど。

 「……これって?」

 「車です」

 はい、そうですね。車ですよね、高級な。

 「まさか、こんなのに乗るとは思ってなかったな」

 「俺もだよ、波月」

 「もっとおしゃれすべきだったかな」

 「十分お綺麗ですよ」

 「……あ、ありがとうございます」

 で、高級車こと、リムジンに乗り込む俺達。荷物をトランクにしまって、三枝さんが一息つくのが、中からでも良く見えた。しゃべらない奥様、ローグは三枝さん気にしてないみたいだ。それはそれでいいんだけど、この車はないよ。居辛いどころか、今すぐ降りたいよ。

 「では、出発いたしますね」

 そうして、豪華ホテルへ向けて、心配と不安、期待を胸に車は走り出した。



                        **



 「あれが有澄家の陰陽師? みえねー」

 「そういうものじゃありませんよ。実力は本物ですからね」

 「へぇー。強いのか?」

 「ええ、そりゃあ有澄家の血統ですからね。折角私が丹精込めてつくった怨霊が、一夜にして祓われてしまいましたよ」

 「おぉー、すっげ!」

 「だからこそ、私達には、力が、有澄家の血が必要なのですよ」

 「……つーことは、れねぇのかぁ」

 「当たり前です! 何を考えているのですか!」

 「じょーだんじょーだん、冗談だって。怖い顔すんなよ」

 「……まあ、いいです。帰りますよ」

 「へいへい」

 風に紛れて消えた影は、黒く残像を残して不吉を告げた。

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