42、修学旅行と家族旅行の違いは紙一重?
はい、タイトルはあまり気にせず読んで頂けると幸いです。
そして更新をサボって申し訳ないです。すっかり忘れてました。(おい
一週一回更新の前に、『忘れない』事の大切さを思い知らされました。切実に。
もう一つの小説も進めなきゃ……と、思いつつ、ついつい『アルカンシエル』を更新する下弦です。努力が足りませんね。精進します!
そんなこんなで(どんなだ)、ワクワクドキドキ? な本編へどうぞ!
「戸締りしてきたよね?」
「うん、おっけー」
「忘れ物ない?」
「だいじょーぶ」
「えっと、それから、うーん」
「もう、大丈夫だよウミ。ちゃんと俺が確認しといたから」
「……だから心配なんだけど」
矢吹の隣の席で、ウミが深々とため息をついたのが、遠目からでも分かった。そんなに俺って、頼りないですか?
「今日はおめかしできて、よかったわねぇ」
「はいですの! ソラ様が、この旅行のために作ってくださったんですの!」
「まあ、普段のドレスよりはいいだろう」
「ソラって意外と器用だよなぁ」
「急に来てしまった私の分まで作ってくださって、本当にありがたいです」
「……」
「似合ってるよー。もちろん、みんなね」
「ありがとうございます!」
微笑ましい会話をするのは、通路を挟んで隣の席の矢吹。矢吹の肩に、ローグが座り、ウネとジャウネはいつも通りに俺の頭の上。ブルゥとフォンは、通路側の手すりの上に足をぶらぶらさせながら座ってる。
いつもと違うのは、服だけ。ローグは袖口に可愛らしいフリルをあしらったボレロに細身のワンピース。色はもちろん、イメージカラーの赤でまとめてある。ウネはスカートが断じて嫌だというので、普段のジャウネと似た服を着せてみた。ボーイッシュだけれど、可愛らしさは残したつもりです。ブルゥはつばの広い帽子と、ロングワンピース。時間がなかったから、これくらいしか作れなかったけれど、本当に嬉しそうに「ありがとうございます」を言ってくれたから、こっちも嬉しかったね。ジャウネは別にいいって言うし、フォンにいたっては全力で拒否されたので、服を作りさえしなかったけど。
「結構長く乗ってるけど、乗り物酔いとか大丈夫?」
「ん、俺は平気だよ」
「そっか。もうそろそろ、着くのかな?」
「たぶん、もうちょっとかかるかなぁ」
「まだかかるのか……。いい加減、座ってるのには飽きてきたな」
うーんと伸びをするのは、隣の波月。眠そうな半開きの目が、優しく微笑む。
「俺らも誘ってくれて、ありがとうな」
「いやいや! 逆に来てくれて有難う」
「誘われなかったら誘われなかったで、多分ひねくれてただろうなぁ」
「え゛」
「あぁ、心配するなよ、ソラ。家に殴りこんで行ったりしないから」
いえ、君が言うと、本当にそういうことが起こりそうだからやめてもらえません?
「さぁて、到着するまでもうひと寝入りするよ」
「ありありさー」
「……久しぶりに、それ聞いたね」
「ん?」
「なんでもないよ、おやすみ」
にっこりと微笑んでから、頬杖をついて眠る波月に、惚れそうになったのは秘密です。
「ねぇ、そこの変態」
「誰が変態だよ、誰が!」
「あんた意外にいないでしょ。お腹すいた、なんかちょーだい」
「なんかって言われても、お前に出すもんなんて何にもねぇよ」
「ケチ」
「何とでも呼べ」
「いけず」
「はいはい」
「バカ」
「なんだと!?」
「何とでも呼べって言ったのはあんたでしょう!?」
「だからってなんだ! バカってなんだ!」
「バカにバカって言っただけですよ、バーカ」
「バカバカ言うな!」
「バカにバカって言って何が悪いのよ!」
「だいたいなぁ、バカって言ってる方が―――!」
「そこ、うるさい。黙って」
「はい」
明らかに不機嫌なウミに、たった一言で静められる俺だから頼りないんですね。よーく分かりました。はい。もう、何も言いません。……あ、最後に一言。
飛行機から見た雲って、綺麗ですよね。
**
「う~ん! やっぱり外の空気ってサイコー!」
「だねぇ」
「あぁ、肩こったぁ」
「ガス、ちゃんととめてあるかなぁ。電気つけっぱなしじゃなかったよね」
伸びをするのは年長3人のみ。心配性は猫背でぶつぶつ言っている。妖精達は、
「すごい、すごーいですの!」
「あまりはしゃぐな、うるさい」
「しっかしキレーな所だなぁ」
「散歩しがいがありそうね、フォン!」
「……うん」
てな具合に、個々遠足気分でワクワクしているみたいです。まあ、遠足と変わりないから、どうこう言う筋合いもないんだけど。
「迷子にはならないでね、ローグ」
「大丈夫ですの! ソラ様からは、離れないようにするんですの!」
「そーですか」
「はいですの!」
まあ、よろしいご返事で。
「で、着いたはいいけど、このあとはどーすんの?」
よっこらせと、大きすぎる旅行カバンを肩にかけて、……なぜだ。なぜそんな冷たい目で見られなくてはならないんだ。
「よし、矢吹は置いてく」
「なんでよっ」
「招待してやったのに、何その目!」
「『してやった』ですって!? 来たくて来た訳じゃないんだからね!」
「じゃあ帰れ。帰ってください、お願いします」
「ひどっ」
「仲良くするのはいいけど、とりあえず今はウザいからやめて」
「はいっ」
ダメだ、ダメだよ……。折角楽しみにしていた豪華ホテルへ来れたのに、そんな冷えた目をしたら。
「だけど、本当にどうすればいいの? ホテルに行った方がいいの?」
「いや、そのホテルから迎えが来るらしいんだけど……」
その気配、まったくないのよね。あははー。
「すみません」
「ぴゃい!」
不意に後ろから声かけちゃダメ! 変な声出るから! 冷たい目線浴びるのは俺なんだから!
俺に声をかけてきて人は、綺麗に七三分けにされた黒髪に、眼鏡の男性。きっちりとしたスーツはしわひとつない。どこかの貴族? 誰かの執事?
「つかぬことお伺いしますが、有澄様でいらっしゃいますか?」
「えぅ、あぅ……」
「はい、そうです」
ありがとー、王子様ぁ! 惚れ直したよ~。
「それは良かった。予定より早めに来て正解でしたね」
「失礼ですが、あなたは?」
「あぁ、紹介が遅れました。私はシェルバランホテルの者で、三枝と申します。本日から皆様がお帰りになるまでの世話役でございます」
お辞儀をした時に、胸元にあった銀のプレートの名札が光った。しかし、3本の枝で『さえぐさ』って読むんだ。ふっつーに『みえだ』とか『さんえだ』って読んでたよ。……バカって思わないで、言わないで。
「さあ、重かったでしょう。お荷物は私がお持ちいたします」
「あ、でもさすがに重いでしょう? 俺は、自分のは自分で持ちますから」
長身ではあるけれど、細い三枝さんにはこの人数分の荷物は持ちきれないだろう。1人分だって結構重いのに。
「大丈夫ですよ。こう見えて、力はあるんです」
人当たりのいい笑みを浮かべて、足元においていた荷物(俺と波月、それに矢吹とウミ)のを軽々と両腕にかけて、一言。
「ほら、全然まだいけますよ」
「すごい」
これ以外に何も言えないよ。うん。
「伊達にホテルマンはやっていませんよ」
冷たくて近寄りがたい感じがあったけれど、あの笑みのせいか、何でも話せる気がする。この人ならあんまり人見知りしないで話せそうだ。
「それで、奥様方は?」
はっ! すっかり忘れてた……。
「い、今、トイレに行ってるんでますです」
「? そうですか」
日本語っぽい日本語じゃない言葉を発したけれど、ツッコんでくれなくって良かった。
「私、様子見てきます」
矢吹が挙手してそう告げる。挙手の必要、ある? 修学旅行とかじゃないんだから……。
そして、近くを飛んでいたローグを掴んで、トイレへ向かって去っていく。他の妖精達はというと、何をするでもなく、ただボーっとしていた。
「ローグ達なんだか、様子がおかしいよねぇ」
「そうだね。ココに着いてから何も言わなくなっちゃったけど、ついて来てくれてるからまだいいんじゃないか?」
「……そーだね」
三枝さんには聞こえないように、コソコソと話した。波月は「何も言わなくなった」って言ってるけれど、無口な訳じゃない。俺にはローグ達の声がきちんと聞こえてるけど、波月達には聞こえなくなってしまっただけだと思う。なぜ? そんなの俺に聞かないでください! というか、逆に聞かせてください。なんで声が聞こえなくなっちゃったの? ……知らない? そーですよねー。
「青年、おい、青年」
「うぃ?」
頭の上に乗った、ウネがパコパコと頭を叩きながら呼ぶ。痛いから、やめようね。
「ココは居心地が悪い」
「え?」
「いや、頭の上が、という訳ではない。この土地が、我らには良くないようだ」
「どーゆー事?」
「そうじゃな……」
うーんと悩み始めたウネの隣に、ジャウネが座る。そして、左肩にはブルゥとフォンが。
「ソラの傍とか、触れてればそうでもねぇんだ」
「そうですね。この地に何があるのかは分かりませんが、ソラさんといれば辛くないのです」
「ココは、木が泣いてる。虫も、鳥も。生き物全てが泣いてる」
「ふむぅ……」
難しい事は俺には分からない。でも、居心地が悪いって言うんなら、あんまり長居はしたくないけれど。
「でも、ウミが楽しみにしていた所なんだ。とんぼ返りなんてできないよ。だから、2泊3日絶えてもらえない?」
「青年の傍におれば、辛くはない。それくらいは耐えられる」
「まー、本当にヤバくなったら助けてくれよな」
「私達は心配なさらずに、この旅行を楽しんでください」
「……」
「うん、ありがとー」
無言のフォンも頷いてたし、まあ大丈夫って事で。あと、心配なのはローグだけかな。
「大丈夫だ。アイツはそれほど弱くない」
心を読むなよ。久しぶりに。
「悪かったな」
「お待たせー」
実体化したローグを引っ張って、矢吹が帰ってくる。ローグは口だけ動かすだけで、言葉は出ないみたいだ。飛行機の中では、実体化してもしゃべれてたのに。
「綺麗なお母様ですね」
「ぁう、はい」
ニッコリとする三枝さん。悪い感じはしないけど、本当にちょっぴり、違和感がある。
「それで……、お荷物は?」
「あー、っと。ウミ……妹の荷物と一緒にしてあるんです」
「そうでしたか。では、ホテルの方へ向かいましょうか」
「はい」
背を向ける三枝さんのあとに続いて、俺と波月、ウミとローグに矢吹が続く。3日間、何事もなく終わるといいんだけど……。あーあ、念のためにお札とか持ってくるべきだったかな? 肝試しとか、本当に出たら祓いたいし。怖いじゃん、だって。
「ゴフッ」
急停止はないよ、王子様……。
「あ、ごめんソラ」
「ちゃんと前向いて歩きなさいよ、有澄。バカが波月にうつるでしょ」
「失礼な! 前向いて歩いてたし! ただ考え事してただけだし!」
「はあ? あんたが考え事? ありえなーい」
「なぁにが『ありえなーい』だ! 俺だって考える時は考える人より考えてるぞ!」
「意味分かんないし!」
「なんだよ、文句でもあるのかよ!」
火花散る、俺と矢吹。本気で誘った事を後悔している俺がいる!
「仲がよいのですね」
「えぇ、まあ」
「良くない!」
「さ、さようですか」
「波月も賛成しないでよね!」
「ご、ごめんね」
「波月せめるな!」
「何よ、変態!」
「誰が変態だよ、このじゃじゃ馬!」
「誰がじゃじゃ馬よ、変質者!」
「誰が変質者だよ、猫かぶり!」
「なによ!」
「んだよ!」
「まあまあ、その辺にして。三枝さんも困ってるから」
「はっ……。つい、ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらずに」
とりあえず、静まったのは口喧嘩だけ。火花は散り続けています。
「さあ、これに乗ってください」
「……これって?」
「もちろん、これです」
波月が止まった理由。車に乗るため、なんだけど。
「……これって?」
「車です」
はい、そうですね。車ですよね、高級な。
「まさか、こんなのに乗るとは思ってなかったな」
「俺もだよ、波月」
「もっとおしゃれすべきだったかな」
「十分お綺麗ですよ」
「……あ、ありがとうございます」
で、高級車こと、リムジンに乗り込む俺達。荷物をトランクにしまって、三枝さんが一息つくのが、中からでも良く見えた。しゃべらない奥様、ローグは三枝さん気にしてないみたいだ。それはそれでいいんだけど、この車はないよ。居辛いどころか、今すぐ降りたいよ。
「では、出発いたしますね」
そうして、豪華ホテルへ向けて、心配と不安、期待を胸に車は走り出した。
**
「あれが有澄家の陰陽師? みえねー」
「そういうものじゃありませんよ。実力は本物ですからね」
「へぇー。強いのか?」
「ええ、そりゃあ有澄家の血統ですからね。折角私が丹精込めてつくった怨霊が、一夜にして祓われてしまいましたよ」
「おぉー、すっげ!」
「だからこそ、私達には、力が、有澄家の血が必要なのですよ」
「……つーことは、殺れねぇのかぁ」
「当たり前です! 何を考えているのですか!」
「じょーだんじょーだん、冗談だって。怖い顔すんなよ」
「……まあ、いいです。帰りますよ」
「へいへい」
風に紛れて消えた影は、黒く残像を残して不吉を告げた。