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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第三章 秘められしモノ
40/80

40、人を想うと言う事

 いつもソラにぃは、全部一人で抱え込もうとする。


 いつもいつもソラにぃは、私に何一つ言わないで事を進めていってしまう。


 ずっと、寂しかった。ずっと、悲しかった。ずっと、ずぅっと辛かった。


 お母さん達が死んでから、ソラにぃは泣かなくなった。ソラにぃは、私に涙ではなく、悲しい笑顔を見せるようになった。彼は、『ソラにぃ』ではなくなってしまった。


 だから、謝らないで欲しいし、何でも相談して欲しい。私は無力かもしれない。何もできないかもしれないけど、心配する事も帰りを待っている事もできる。

 だからこそ、包み隠さずなんでも言って欲しいんだ。自分が寂しいからじゃない。ソラにぃに苦しんで欲しくないからなんだ。頼りなくて、支えきれないかもしれないけれど、再び立てるようになるまで、手を差し伸べるから。だから―――。


 コンコン


 「えっと、矢吹だけど」

 ノック音と一緒に、遠慮がちに矢吹さんの声が頼りなさげに聞こえた。

 ベッドで丸くなり、抱いていた熊の大きなぬいぐるみと一緒に、パジャマ姿の矢吹さんを迎え入れると、「ちょっと失礼するよ」と言って、それきり何も言わなくなってしまったから、静かな時間だけがすぎていく。

 隣の部屋が少し騒がしい。ソラにぃ達は、何の話をしているのかな。

 再びベッドで丸くなって据わっていた私の隣に、扉の近くで直立不動だった矢吹さんがロボット歩きで近づいて、ゆっくりと腰掛けだ。

 「男はいいよね、無関心で」

 ため息と失笑混じりに、矢吹さんは言う。私と同じように丸くなると、長い髪がサラサラと流れて、横顔を隠してしまう。それを、慣れた手つきで耳にかけて、優しい顔をした。

 「でもさぁ、深く考えすぎないで、だからと言って深追いもしない。適度な位置を保てるのってすごいよね」

 誰の事を言っているのか大体分かる。矢吹さんがこうやって優しい顔をする時は、ソラにぃの事を想っている時だけだからね。

 なんたって伊達に妹やってませんからねぇ。矢吹さんがソラにぃを好きな事くらい、ずっと前から知ってる。というか、勘付いてる、かな?

 「怒らせた相手を想うから、言葉があっても声に出さない。心配をかけたくないからって、全部一人で持って行っちゃう」

 綺麗に整えられた足の爪を、矢吹さんはいじりながら、少しだけ眉をひそめる。

 「だからってこっちから声をかけると逃げていくし。荷を降ろさせて、『よし、背負うぞ!』って思っている間に、いつの間にかまた背負って歩かせてる」

 揃えた膝の上に整った白い顔を乗せて、私の方に笑いかける。綺麗だなって、素直に思った。

 「ごめんね、意味分かんないね。私も分かんない」

 「……いえいえ」


 ごめんね。立った一言の大切さを知っているから、もっと相手のためにと自分より先に考える。


 大丈夫? そう聞けば絶対彼は『大丈夫』だと無理して笑う。


 支えてあげる。そうしようとする前に、彼はどんどん先に行ってしまって、重い荷ばかりを背負い続ける。


 そんな人だから、周りが勝手にハラハラしてしまって、こちらの想いは伝わらないどころか届きすらしない。『本当』は全部、消えうせてしまう。近くにいるのに届かない、歯がゆい気持ち。


 「……心配してたよ? 怒らせたって」

 「……分かってます」

 だけどね、矢吹さん。分かっているからこそ、辛いんだよ。

 「怒ってないの?」

 「はい、全然。怒るよりも先に、呆れとか慣れちゃったっていうか……」

 「それなら、……うん、いいんだけどね、うん」

 ガッガッとでも音が鳴りそうな動きで、首を回して俯いた矢吹さんは深々とため息をついた。

 「妹と友達心配させといて、アイツはなんで気付かないんだろうね」

 「え、矢吹さんは友達のままでいいの?」

 「ふぇ!?」

 驚きすぎてひっくり返る矢吹さん。見事に一回転して、逆さまになった。

 「いっててぇ……」

 ……可愛い。どうしよう、か、可愛いよ。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「ん、へいきー」

 えへへと、顔を赤らめて笑う。そして、勢いをつけてクルッと回り、テディベアのように床に座った。そして、振り返って怖い顔をする。

 「もう、年上をからかうものじゃないよ!」

 「でも、好きでしょ?」

 「だー! はっきり言わないで!」

 慌てて立ち上がって、私の口をふさいで、左右に視線を走らせる。上下も確認するけど……何もいないと思いますよ? 今の季節なら、お化けとかでそうだけども。

 「ごっほん! と、とりあえず、おほってないならいいんだ」

 おほってないってないですか。怒ってないじゃないんですか?

 そのまま床に座って、近くにあったクッションを引っ張り寄せて自分のお尻の下に引く。あぐらをかいて、立てた肘に自分の顔を乗せて、まじまじと私の顔を見る。

 「良い妹を持ったよね、有澄ってさ」

 「ふぇ!?」

 今度は私が不意をつかれました。

 「可愛いし、料理上手いし、気立ても良いし」

 「そ、そんな事はないですよ!」

 「んーん、あるよ。そんな謙遜しないで」

 にっこり笑う。これは……さっきの仕返しだなっ!

 「そだ、あれはどうしたの?」

 「あれ、ですか?」

 「ほらあの、高城の告白は?」

 「告白? あー、されましたね」

 「ちょ、何この兄弟は! 恋愛事はどうでもいいみたいな……」

 どうでもいい訳じゃないけれど、それほど重要な事じゃないかなぁって。そう思いません? ……思いませんか。それは失礼しました。どーもすみませんでした……。

 「で、どうしたの?」

 「どうしたのって、OKしましたけど?」

 「そう……てぇ!? え、ウソ、え、えぇ!?」

 身を引く矢吹さん。なんで引く必要があるんですか。

 「え、でも、有澄は頼りないのはどうのこうの……」

 「確かに頼りないですけど、真っ直ぐな言い方してくれましたし。わざわざ友達からメアド聞いてメールしてきたり電話してきたり、手紙置いてくだけとかよりはマシじゃないですか?」

 「で、でも、最初は有澄に言ってもらおうとしてたんだよ?」

 「それも言ってましたよ。だけど、『矢吹先輩が、面と向かっていった方がいいから、伝えに来たんだ』って言ってました」

 「そ、それをOKしたの?」

 「ええ。ちょっとなよなよしてるけど、印象も悪くなかったですから」

 「な、なるほど……」

 お、いい事ひらめいちゃった……。えっへへ、これは楽しそうだ、うふ、ふふふ……。

 「何ニヤけてるの、ウミちゃん。惚気?」

 「え、いやー。矢吹さんはどうやってソラにぃに告白するのかなぁって思っただけです」

 にっこりと最上の笑みで返す。うーん、いい事をひらめいた、よくひらめいてくれたよ、私!

 「じょ、じょータン塩じゃないわ!」

 そりゃあ、上タン塩じゃないでしょう……。

 「でも、矢吹さん。何もしなかったらソラにぃ他の人にとられちゃいますよ?」

 「え!?」

 そ、その異常なまでな驚きは何ですか! さっき引いていた体が前のめりに、それどころか私の前まで詰め寄ってきて、顔と顔の距離が半端じゃない。

 「な、なんで!? あ、アイツはノーマークでしょ? 人気があるのはアイツの隣の波月でしょ?」

 「確かに、波月さんの方が人気はありますが……」

 「が、何? 何、何、何よ!?」

 さらに、そしてさらに近づいてくる矢吹さん。勢いが良すぎて怖い。そして鼻先がくっつきそうで悪い。そうして、壁に追いやられた私は、抱いていた熊のぬいぐるみで矢吹さんとの間を無理やりに作った。

 「し、知らないんですか?」

 「何を?」

 「そ、ソラにぃって、昔は変な子で通ってたけど、ほら、あのキャラですし。評判とかは悪くないし、誰とでもフレンドリーに接してくれるから、友達も多いです」

 「そうね、で?」

 「だ、だから、明るい性格が好きな子とか、ソラにぃの優しさを好きになった人とか、け、結構いるん……で、すよ?」

 熊のぬいぐるみを下に押さえつけて、鼻息を少し荒くしてぎりぎりまで近づいてきた矢吹さん。もう、鼻どころじゃない。ファーストキスを奪われそうな勢いですよ! 怖い、怖いよぉ。助けて!

 「……予想外だわ」

 そりゃあ、読者様だって驚いてると思いますよ。だけど、こんな反応はしないと思います。というかしないで欲しいです、積極的に。

 「モテるんだ、アイツも」

 「波月さんには負けますよ」

 「そりゃあ、うん」

 口をへの字に曲げて、やっと私から目をそらして俯く。その瞳が寂しげに揺れていた。

 「有澄……」

 ほんの小さな吐息。それに紛れた言葉。

 「だ、大丈夫ですよ、矢吹さん」

 「……何が?」

 「えっと……。や、矢吹さんはいつもソラにぃと仲良くしている訳だから、付き合ってるとか思って諦めてるかもしれないですし、それに、綺麗ですし、その……うーん……」


 ふふっ


 笑い声がした。泳がせていた視線をその声に向けてみれば、クッションで大人しく座っている矢吹さんが目に付いた。必死に笑いをこらえるように、口元に手を当てて。

 「な、なんで笑ってるんですか」

 「ん、ウミちゃんも有澄と一緒なんだなって」

 「え?」

 「人が少しでも悲しいとか、寂しいとかを表情に出せば、フォローする言葉もないのに励まそうとする。自分の気持ちより、人の気持ちを優先にどんどん考える。面白い兄妹だよね。だから、大好き」

 にっと笑う矢吹さんの顔に、嘘はない。ただ単純に、大切な人を、大好きな人を心から愛しているだけだ。

 「ありがとう、矢吹さん」

 笑い返せば、なんだか変な気分になって2人揃って笑い出す。何が可笑しいのかも、何が楽しいかも分からなくって、ただ笑いたかった。

 「そうやってはっきりソラにぃに言えばいいのに、『大好き』って」

 ……あ、ヤバい。

 笑っていた矢吹さんの表情が固まる。そして、鬼になった。

 「なぁんですってー!」

 最後の最後に地雷、見事に踏みました……。



気がつけば40話。気がつけば秋。気がつけばサイトのリニューアル。


さて、今更ながら気付いた事がいっぱいな今日この頃。作者の独り言だと思って聞き流していただけると嬉しいです、はい。


あれ、私だけコラボ作品書いてなくない?


気付いたのは、やっぱり今日だったり……。コメディー同盟の皆様方は何気にコラボされていたり……。あっれぇ、これ、いいのか? と、一人悩む野鳥です。


という訳で。コラボしてやってもいいぞって勇者の方や、こんなコラボどう? ってのも受け付けようかなぁと思う、今日この頃。


ご存知のとおり、私は小心者かつ臆病者です。初心者以下の低レベル文章しか書けない私です。それを忘れないでください!


ではでは、勇者が現れるその日まで……。

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