4、女の子って怖い
なんやかんやで一日経っちゃいました。ウミとローグの冷戦は、いまだ続いております……。
「ソラにぃ、醤油」
「……はい」
「ソラ様、ソース」
「……はい」
「玉子焼きにソースって、あんたどんな味覚の持ち主!?」
「いいでしょう!? 自分好みにして、何が悪いんですの!?」
「悪いに決まってるじゃない! 朝から胸糞悪いもの見せないで!!」
「貴方の顔を見なくてはならない、私の気持ちにもなってくれません!?」
「何よ!! 私の顔が汚いって言うの!?」
「別にそこまで言ってないですの! あとの事は勝手に貴方が考えた事ですわ!」
「……あ、あの、二人―――」
「ソラにぃは黙ってて!」
「ソラ様は黙っていらして!」
「……あい」
てな感じで、もう、冷戦どころじゃない気がしています。これが平々凡々な平日の朝の光景であっていいのでしょうか?
「ソラにぃ、おかわり」
「ソラ様、おかわりですの」
「……あい」
「「返事は、『はい』!!」」
見事なハモりで、空になったお椀を俺に突き出す。
「……はい」
こ、怖いよぉ。怖いよぉ、この2人。仲が悪いにも程があるっていうか、相性悪過ぎっていうか。……助けてぇ、波月ぃ。
******
「どうした、ソラ。朝からやつれて」
「……女の子って、怖いね」
「?」
波月は分かってないみたいだけど、俺にはよく分かったよ……。
「よく分からないけど、頑張れよ、ソラ」
しゅ、瞬殺スマイル! 再び、朝から有難うございます!
「何か、元気出てきたかも」
「ポ○イみたい」
「……マニアックじゃね?」
「そうか? 俺、アレ結構好きだった。子供の頃からよく見てた」
「へぇ〜」
「今度、ソラも見てみたら?」
「じゃあ、レンタルショップにでも逝くよ」
「……気をつけてね」
苦笑いの波月に、癒される。いいねぇ、いつ見ても綺麗だよ……笑顔。
……はっ! この不快なまでの背後の殺気! もしや、奴だな!
「隙ありぃーーー!」
「無駄だっ!」
カバンを振るスイングで、返り討ち!
モチ、攻撃しかけてきたのは矢吹です。死ね、このクソアマ!!
「今、死ね、クソアマ! って、思ったでしょ?」
「思いましたけど?」
「あんたが死ねぇえ!」
至近距離で跳び蹴りをくらった。ちょっと待て、それってありかよ!
「矢吹は元気だねぇ、朝から」
「一応これでも柔道部だから」
「じゅ、柔道部のくせに、帰宅部の俺に、こんな弱い者いじめ的な事していいのかよ」
「いいのよ、有澄だから」
「また屁理屈!」
「前にも言ったでしょ? これは―――」
「ソラ様ーーーーーーー! 大丈夫ですの!?」
まさかの眼球にタックル!
「い゛っでぇーーーー!!」
は、初めてだ! 眼球に直に突っ込んでくる人、初めてだよ!
「そ、そんなに痛みますの? 私が介抱して差し上げますわ!」
いや、とどめの一発入れたの、君だよ? それに気付いてますか?
「……おはよう、ローグ」
「あら、おはようございます、波月様」
……アレ? 介抱してくれるんじゃなかったの。
「誰、この子?」
「む……!」
アレ? もしかして矢吹にも―――
「ローグが、見えてる?」
「見えちゃいけないの?」
「いけない訳は、ないけど」
「ならいいじゃない! ……それにしても」
急に顔がほころぶ。……ん? これは、ヤバいかもしれないな。
「ローグ、こっちに―――」
「カワユーーーーーーイッ!!」
「うへいっ!?」
奇声を発するローグを、頬擦りしまくる矢吹。
忘れてたというか、今更思い出した。こいつ、根っからの可愛い物好きだったんだ。
「何これ何これ何これ! 可愛くない!? メッサ可愛くない可愛すぎない!」
「な、なな、なんですの!?」
「!」
驚いてローグを遠目から見る矢吹。……何に驚いたんだ??
「お嬢様口調萌えぇ!」
「ひえぇーーー!」
「可愛い! 真面目にマジ可愛い! ていうか可愛い!」
……何回可愛いって言ったら気がすむんだろう、この人。
「ヤバいでしょ尋常じゃないでしょありえないでしょ!」
お前の反応の方がありえないから安心しろ、矢吹。
「何か言った? 有澄」
「いえ何も!」
こ、心を読んだ!? ま、まさか、そんな事できる訳なんて……!
わ、笑ってやがる! こいつ、ローグを抱きしめながら笑ってやがる!! もしや、これも計算のうちか!?
「まあ、ここで止まってても遅刻しかできないし、放課後にまた会おう」
「えぇ〜。この子も持ってく!!」
ローグは荷物ですか。
「ローグはどうしたい?」
「そ、ソラ様といたいですぅ」
ヘトヘトのローグ。可愛いドレスもシワシワになってしまっている。……お疲れ様です。
「だってさ。放してやりなよ、矢吹」
「ちぇー」
フラフラしながら俺の肩に止まったローグは、疲れきってへたり込んだ。
「また会おうね、ローグちゃん♪」
「も、もう会いたくないですわ……」
そんな声が聞こえた気がした。……やっぱり女って、ある意味恐ろしい。
******
てな訳で、もう放課後。細かい事情とかは気にしないでください。というか、気にしちゃダメ!
「ただいま、ローグちゃん!」
「た、助けてください! ソラ様!」
別のクラスの矢吹が、当然のように入り込んでくる。満面の笑顔で。
見とれる男子生徒諸君よ、あんな暴力女のどこがいいんだ。理由を簡潔に20文字程度で述べて欲しいよ。
「あれ。ねぇ、有澄。ローグちゃんは?」
「ローグ? ローグなら―――フゴッ!!」
突然波月に口を塞がれて、続きが言えなかった。……い、息が……。
「気分が優れないからって、先にソラんちに帰ったよ」
「えぇ〜、そうなの。つまんなぁい……」
ギブだよ、波月! この手をどけて!! ち、窒息死するぅ……。
「あ、ゴメンねソラ。忘れてた」
わ、忘れてたって、かなりショックなんだけど……。
「そうしょげないで、ソラ。今度また、百円マックおごるからさ」
さ、爽やかスマァイル! もうやめて、その笑顔で俺は死ねるからマジやめて! あ、いや、やっぱやめないでくださいお願いします!
ひゃ、百円マックでなくても、君の笑顔で十分だよ、波月。
「どした、ソラ」
「アホはほっといて」
アホってどんな言われようですか。
「で、あの子は何? ていうか、何で他の生徒には見えないの?」
「それは俺らにもよく分からない。だけど、はぐれた仲間を探して欲しいって、頼まれたんだ」
「……で、それを受けたのね、この馬鹿が」
軽く頭をはたかれる。何をする、この暴力女め!
「何で叩く! 何で俺だと分かる!」
「そりゃあ、真面目できちんとした波月がそんな事を信じると思うの? ていうか、波月がYESって答える訳がない、そんな事ありえない!」
「……それってある意味、心が冷たい奴だって事?」
ひ、冷ややかな笑みが怖いよ、波月……。
「あ、えっとぉ、そういう事じゃないんだけど……」
「じゃあ、どういう訳?」
さ、さらに冷ややか! 顔がハンニャみたいになってるよ!!
どうしよう。波月のブラックスイッチ押しちゃった……。あ、ちなみに、ブラックスイッチって言うのは、この波月しかないからご安心を。……安心できないけど。
と、とりあえず、ブラックスイッチて言うのは、ともかく黒い事。いつもはイケメンなH君も、怒れば鬼になるって言う事です。で、それが一番怖いのがこの人、波月です。だって実家が、組長だから。……って、意味分からないね。でも、ともかく怖い人なのです。
「……それは、ねぇ、有澄」
「え!? 何で俺に振るの!?」
「だって、ねぇ?」
「ねぇって、ねぇ?」
「いいじゃない! ここは男らしく、ビシッと言いなさい!!」
「何をだよ!」
「……」
「何故に黙る!」
「……ごめんなさい、波月様。……ホラ、有澄も謝って」
「何で俺も―――!」
「ゴメン!」
机と頭がゴツッンこ! 今綺麗なお星様が見えたよ!
「い゛っでぇぇぇぇ!!」
無理矢理頭を下げられたせいで、机と正面衝突事故だよ。俺のおでこは重傷なのに、机は平気な面してますよ。なんでこんな目に俺が遭わないといけないんだよ。机も何か言ったらどうなんだよ。口ないけど。
「アハハッ! やっぱ面白いなぁ、ソラは」
瞬殺スマイル! というか、見事なまでに美しい笑顔でごぜぇますだ!
「よし、ソラに免じて許してあげよう。で、何の話してたんだっけ?」
「「忘れたのかよ!」」
ゲッ! 昨日みたいに、また矢吹となんかとハモっちゃった! ショック……。
「何落ち込んでんのよ」
「別に」
「何かあるでしょ? 言いなさいよ!」
「特にありませんけど?」
「あんたはエリ○様?」
「違いますけど」
「アハハ! やっぱりソラってサイコーだよ!」
腹を抱えて笑い転げる波月と、プンスカプンスカ怒ってる矢吹。何なんだ、この異色の共演は。
てか、今回はこれで終わっちゃっていいの!?