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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
32/80

32、夏休み……前の試練?

 この世の中に、テストという悪魔を生み出した人よ。なんという事をしてくれちゃってるんですか。どうしてくれるんですか。どう責任とってくれるんですか。どうやって俺の重く沈みこんだ暗い心を癒してくれるんですか。

 「有澄〜。とりに来ないのなら、投げるぞ〜」

 「えぇ!?」

 人の解答用紙(数学の)をヒラヒラ振らないで! 教卓に近い人に俺の低い点数が見えるじゃないですか! ていうか教師がそんな事しないでください!

 「嫌なら早くとりに来い」

 ちょっとアナタ、それでも先生ですかっ。実は人の皮被った悪魔なんじゃ……。

 しぶしぶ席を立ち、とぼとぼと先生の前に立つ。解答用紙を俺に返して、先生は俺の頭をさらっと撫でて言った。

 「中間よりは頑張ったな」

 「あ、ありがとうございます……」

 中間よりはって事は、中間より今回の方が点数良いんだ……。視線を落として恐怖の点数欄を見る。なんだろう、このなんとも言えない点数。67って、あまりにも中途半端だよ。あと3点プラスして70いきたかったよ……。

 「ソラ様?」

 席につくと、筆箱に座っているローグが俺を見上げて言った。

 「ん?」

 「手が震えているようですが、どうかなさいましたか?」

 「これはあれだよ。……うん、あれだ」

 「どれですの?」

 「腹減ってガマンできねぇとか」

 「それはジャウネだけだろ」

 空腹のジャウネでも、4,5分なら耐えられると思うんだけど。

 ローグの隣に座っていたウネとジャウネが、俺の頭の上に移動する。ぽてっと2人乗ったところで、俺も席につく。

 「ガマンくらいできるぜ。30秒くらいな」

 おいおい、想像以上に短いな……。

 「そんなのはガマンとは言えんな」

 「俺にとってはガマンなんだよ。お堅い奴だなぁウネは」

 「ジャウネが軽過ぎるだけだろう」

 「そんな事ねぇよ」

 「いいや、あるな」

 ゴメン、人の頭の上で騒がないでくれない? 全然先生の説明聞こえないからさ……。

 「ねぇ、ソラ様」

 「何?」

 「努力の結果がどうであれ、頑張った事には変わりないですわ」

 真面目な顔で俺を見上げて、両手でガッツポーズをしているローグ。可愛いなぁもう。励ましのつもりなのかなぁ……。そこまで落ち込んでるつもりはないんだけどねぇ。

 「ありがとー、ローグ。上の2匹と違って優しいねぇ」

 人差し指で赤い頭を撫でてやると、はにかんで照れていた。

 「上の2匹とは聞き捨てならんな」

 「げ、聞いてたの?」

 てっきり口喧嘩に夢中で聞いていないものだと思ってたよ。

 「聞いてたっつーか、聞こえてきた?」

 聞かなくて良い事は聞くのね、君達って。

 「あはは……」

 「ジャウネは良いが、我まで匹とは許さんぞ」

 「ゴメンね」

 「俺も匹なんてヤだぞ」

 「ゴメンゴメン」

 「分かれば宜しい」

 「許してしんぜようってな」

 おそらく、上の2ひ……2人は、偉そうに胸を張って座っている事だろう。

 というか、ジャウネ。どこからそんな言葉を学んできた……。



 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン



 ……今日は真面目なチャイムだな。気味が悪いくらいだ。

 「んじゃ、今日はここまで。来週から夏休みだ。はしゃぎすぎるなよ、青春はしてくれて構わないがな。ほどほどにしないと、俺が青春を潰してやるぞ」

 ちょ、脅迫!? 先生って本当は生徒嫌い!?

 「はーい」

 それにしても、従順な生徒もいるものなんだね。

 「なあ、青年」

 「ん?」

 解答用紙をクリアファイルにはさみ、教科書も片付けてカバンに仕舞った。

 「夏休みとはなんだ?」

 「夏休みは……夏休みだよ」

 「だから、なんなのだ」

 「だからその、……夏休みだよ」

 「それはなんだと聞いているんだ」

 「いや、だから夏休みだって答えてるし……」

 夏休みは夏休みで、夏休みだから夏休みなんだよね? 自分で言ってて分からなくなってきたよ。

 「夏休みはどういったものなのじゃ?」

 「夏休みは……。長い期間休みだから出された宿題やったり、友達と遊びに出かけたり。部活入ってたら部活あるしね。3年生は引退してる人が多いから、少ないけど。あとは……家族で、旅行したり。だね」

 「……そうか」

 家族で旅行か。小学校以来、行ってないなぁ……。最後に行ったのは動物園だったかな。父さんに肩車してもらって、人が多くて見えなかったパンダ見せてもらったりしたなぁ。ウミも見たいって駄々こねてたっけ。そーいや、キリンにニンジンあげる時、ウミは怖がって泣いてたなぁ。

 ふふふ、懐かしいや。帰りの車の中で、次は遊園地に行こうって話したんだよね……。

 「あの、ソラ様……?」

 「ソラ、帰ろう」

 ローグと波月の声が被った。薄れた思い出の中から、濃い現実の世界に帰ってくる。

 「え、あぁ、あれ? ホームルームは?」

 「さっき終わったよ。聞いてなかったの?」

 学校指定のカバンを背負って、波月は不思議そうな顔をした。

 「うん、聞いてなかった……。でも、特に重要な連絡とかないよね?」

 「コレと言ってないね。いつも通りだったよ」

 いつも通りって事は、『それなりに気をつけて帰れよ』って事だね。

 「そかー、よかった。それで、何かあった? ローグ」

 両手と首を同時に振って、ローグは全否定する。

 「い、いい、いいえ! なんでもないですのよ」

 「馬鹿澄ばかすみ帰りましょー」

 矢吹の声がすると、ローグは急いで俺の肩に乗った。前、机に寝てたローグをおいて帰っちゃったんだよねぇ。そのせいか、矢吹の声がすると、ローグはいつも俺の右肩に座るようになった。

 「馬鹿澄って誰だ! 俺は有澄だ!」

 「はいはい。ささ、早く帰ろ。お腹すいたわ、マック寄って帰りましょ」

 教室の出入り口で矢吹が身を翻すと、クラスメイトの男子達がざわめく。ねぇ君達、矢吹のどこが良いのか聞かせてくれないか?

 「ありありさ」

 「待ってソラ」

 「ん?」

 波月に呼び止められて振り返ると、彼は2つ目のカバンをその手に持っていた。

 「カバン、忘れないようにね」

 「あぁ、ごめん。ありがとう」

 「いえいえ」

 波月から自分のカバンを受け取って、並んで教室を出る。初めて手ぶらで帰ろうとしちゃったよ。どうしたんだろう、いつもよりボーっとしてる……。

 「なぁなぁ、俺も腹減ったぞ、ソラ」

 「じゃ、ポテト頼んでやるよ」

 「おぉ、サンキュー! あれってウマいよなぁ」

 頭の上からジャウネの嬉しそうな声が降ってくる。

 「うん、俺も好き」

 「そんなに美味いのか?」

 ウネよ、そんなにはっきりと嫌そうに言わなくても良いじゃないか。

 「しなしなぁっとしているものが好きですわ」

 うっとりとした顔でローグが言った。ウネは理解できないといった風にため息をつく。

 「トロいわね、やっと準備できたの?」

 昇降口につくと、矢吹が開口一番ムカつく言葉を投げつけてきた。腹立たしく思いながら、上履きから運動靴へ履き替える。

 「いいだろ、遅くたって」

 「アンタの場合は遅すぎるのよ!」

 『遅すぎる』を強調しやがって……!

 「とりあえず、帰ろうか」

 「ありありさー」

 「……いつも思うけど、『ありありさー』ってなんなのよ……」

 ありありさーはありありさーだもん。

 「そうだ、ソラ」

 「ん?」

 「折角履き替えたのに、校舎に戻ろうとしちゃいけないよ」

 「あぁ……ゴメンゴメン。ありがとう」

 廊下は上履きで歩きましょう。掲示板のポスターの文字が、こういう時に限って目立って見えるから嫌になる。ボーッとしてるのはきっとテストのせいだ。テストが返ってきちゃったから、こんなに動揺してるんだ。

 「よし、オッケー! さあ、帰ろっ」

 「言われなくても帰るわよ」

 「んだとっ」

 「まあまあ、口喧嘩はもううんざりだよ。……それに、口喧嘩なら歩きながらも出来るでしょ?」

 天使のような微笑みで、何気に悪魔の様な事を言い放ちますね。まあ、それが波月なんだけどね。

 「……波月、アンタの正体って本当は悪魔なの?」

 「ん? 何か言った?」

 「え、いやいや! べ、別に」

 「波月はね、あく……いだっ」

 ちょ、人の頭はタンバリンじゃないんだぞ! 俺をそんなに叩いたって音なんてならないんだからな!

 「うるさいわよ、低脳」

 「てっ低脳……だと!?」

 「あーもう! 行こう、というか帰ろうよ!」

 「……波月がそういうなら」

 「……分かったわよ」

 波月がいなかったら、矢吹との争いは永遠と続く気がする。……っていうか、永遠と続くね、絶対に。

 そんな事より、夏休みだ! エンジョイするぞ! 早く来週にならないかなぁ……。

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