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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
27/80

27、妖精の想い


今回、シリアスなのかコメディーなのか、分からないお話になってしまいました……。

中途半端で申し訳ないです……。

と、とりあえず、楽しんで読んでいただけると幸いです。

 誰もが寝静まった夜に、静かな町を歩く少女は、ある家を見上げて、涙を流した。

 「……望む、……行こう」

 小さな囁きは、誰に向けられたものだろうか。悲しみと哀れみに満ちた言葉は、冷たさを抱いたままに、風に消えた。



                        ****



 「……起きてますの?」

 「……あぁ」

 「ぐがぁ……ぬぅ……ふぐっ……がぁ……」

 「寝てますわねぇ」

 「まあ、良いじゃろう。そういう奴だ、ジャウネは」

 寝ていたと思われたローグ達は、ジャウネを除いて起きていたらしい。

 「とりあえず、静かに話しましょうか」

 「じゃな」

 「……めしぃ……俺のぅ……がぁ……」

 さて、ジャウネよ。君は夢の中でも食べるのかい。まだ食べ足りないって言うのかい。

 「……波月様とソラ様は、本当に仲がいいようで」

 「だが、青年は鈍いようだ」

 ウネビガラブが視線を右に泳がす。その瞳に、ベッドにもたれかかり、毛布に包まって眠るソラの姿が映る。ベッドには波月が寝ているが、顔をこちらに向けていない。本当に寝ているのか疑わしいが、規則正しく動く肩に、眠っていないとは思えなかった。

 「ウネビガラブも、感じましたの?」

 「あぁ。あれは紛れもなく、ヴィオロシィのヴェントの気配」

 「彼女自身も近くにいたようですわね」

 どうやら、彼女達は仲間の気配に気付いて起きたらしい。しかし、それだけではなさそうだ。

 「……ソラ様、悲しそうな顔をしていましたわね」

 「本人は気付いておらぬようだが」

 「波月様も、心配だったようですし……」

 「誰だって友人があんな顔をしたら、心配になるじゃろうて」

 思いつめたような、悲しみの表情。ニコニコとしている口元も、その優しげな笑みを奥深く隠し、輝きに満ちている瞳も、暗くて寂しそうだった。そんなソラの表情を、薄目を開けてローグとウネビガラブは見ていたのだ。

 「悲しみが、ヴィオロシィを引き寄せておるな」

 「ソラ様は、あんなに幸せそうに笑えるのに、どうして……」

 学校で冗談を言って友達と笑いあい、矢吹とも喧嘩ばかりしているが、波月が仲裁して笑っていられる。ウミといる時だって、本当に愛しい者を見る目で彼女を見、彼女が笑えば彼も笑っていた。

 それなのに。

 「……何が、足りないのでしょうか?」

 「足りないものなんて、なかろうにな」

 優しい彼が何を想い、何を感じて生きているのかなんて、妖精のローグ達には分からない。同じ人だとしても、誰も分かりはしないだろう。

 「ヴィオロシィはきっと、ソラ様を妖精界コミュナット・フェリップへ連れて行こうとするのでしょうね……」

 「幸せと永遠に満ちた世界。終わりなき、……悲しみの世、か」

 ウネビガラブの言葉に、ローグがスカートの裾を握りしめる。

 彼女達は知っている。妖精界コミュナット・フェリップが、どれだけ美しく、悲しい所か。決められた幸せと秩序の中で、永遠を過ごす。イコール、『死ねない』という哀しみ。

 永遠というのは、誰もが望む事だろう。しかし、永遠を手に入れてしまえば、永遠になってしまえば、終わりあるものとの別れが、永遠に続くと同じ。彼女達も、手に入れてしまった永遠に、何度哀しみを抱いたか知れない。

 「もし、ソラ様が妖精界(コミュナット・フェリップ)を望んだとしたら、私達はどうすればいいんですの?」

 「どうする事もできぬだろう。青年が望んだ事ならば、仕方あるまい」

 「そうですわね……。でも、」

 「ローグ、前にも忠告したと思うが、人に心を許しすぎるな」

 「別に、そういう訳で言っているのでは―――」

 「別れは永久に、我らといる。永久に別れは、我らの中にある」

 「……」

 揺ぎ無いウネビガラブの言葉が、ローグの言い訳をかき消す。彼女はさらにスカートを握る手に力を込めた。

 「忘れてはならぬ。今は、仲間を探すためだけに、ここにいるのじゃ」

 「分かってます。分かってますわ」

 「……なら、よいのじゃ」

 二人の会話が途切れると、静寂が彼女達を包み込んだ。それは哀れみか、優しさか。冷たい夜風が、どこからか入り込む。

 「でも、ウネビガラブ」

 「……なんじゃ」

 「人の幸せを、……ソラ様の幸せを願う事すら、叶いませんの?」

 「あぁ」

 容赦ないウネビガラブに、ローグはついカッとなった。

 「どうしていけないんですの? どうして貴方はそこまで冷徹になれるんですの?」

 「さっきも言ったであろう。情を移しすぎてはならぬのだと」

 ローグの問いから逃れるように、ウネビガラブは彼女から視線を外した。空を見つめる橙の瞳の奥にある、何も読めない感情がさらにローグを苛立たせた。

 「どうして情を移してはいけないんですの? 人を想っては、どうしていけないんですの!」

 「馬鹿たれが!」

 バシンと乾いた音が響いた。ウネビガラブがローグの頬を強く叩いたのだ。

 「ったいですの!」

 「分かっておらぬではないか! お主は忘れたか? 人の生の時と、我らの生の時の時間は違うのじゃ。情を移せば、悲しみが残る。想ってしまえば、別れが辛くなるのじゃ!」

 「それでも! それでも、私は……!」

 そこでやっとローグは気付いた。冷静で落ち着きはらったウネビガラブの声が、感情の波に流されている事に。

 「我はもう、仲間が泣く顔を見とうないのじゃ! 泣く顔は悲しすぎるのだよ! 辛すぎるのじゃ……。我にはな、永遠には、悲しみは……重すぎるのじゃ……」

 震えながら消えていったウネビガラブの声に、ローグは自分の失態に黙り込んで俯いた。

 彼女は見てしまった。仲間が、ウネビガラブが瞳を潤ませているのを。心から仲間を大切に想うからこそ、泣き顔を見たくなく、涙を見せたくないのだ。彼女は必死に堪えているようだったが、堪え切れなかった一滴が頬を伝う。彼女も、心の底から冷徹になってはいないのだ。



 ウネビガラブは、知っているのですわね。



 人と関われば関わるほど、懸命に短い生を生きる彼らが愛しくなり、別れの時が苦しい事を。いつか来ると分かっていても、分かっているからこそ余計に辛いんですわよね。終わりのない私達と、いつかは終わる人の生。同じ時間を生きているのに、同じ時の流れを生きていないのですわね。



 私は、知っているフリをしていただけなんですわね。



 本当は、別れも悲しみも怖いのに、知ったフリをして平然としているだけですわ。いつか、崩れてしまいそうなバランスの中で、自分の本当の気持ちを無視し続けて……。

 「……ごめんなさいですの」

 「いや、よいのじゃ。我も言い過ぎた」

 重い空気の中で、ある音が鳴り響く。


 ぐぅぅぅ……


 「おいおい、ジャウネ。お前って奴は……」

 「……それがジャウネのいいところなんですわよ」

 いつでも自由で、何事にも捕らわれず、誰よりも自分が思った通りに生きているだけ。

 「……ヴィオロシィも、別れが辛かったんですわね」

 「青年も、別れが辛かったのじゃろう」

 2人とも辛かったから、何かに救いを求めて手を伸ばした。

 その先にあったのが、



 ―――妖精界コミュナット・フェリップ



 「ねぇ、今だけ、この時だけわがままを言わせて欲しいんですの」

 「……言いたい事は分かっておる」

 「こ、今度はなんと言われようと、私は」

 「我も、この青年と、周りの者の笑顔を護りたい」

 「! ウネビガラブも……」

 「さて、眠くなってきたな。我は寝るぞ。おやすみ、ローグ」

 「あ、え、……おやすみですの」

 有無を言わさず、ウネビガラブは毛布にもぐりこんでしまった。

 アワアワとしていたローグだったが、ふぅ……とため息をついてはにかんだ。


 ウネビガラブ。言っている事、珍しく矛盾してますわね。






 静かな夜に吹く風は、朝の匂いを漂わせながら、全てに『おはよう』を囁いた。

さて、次回からはテストvsソラ君編ですっ!

コメディーまっしぐらです! えぇ、突っ走りきってやりますよ、この『コメディー』という名の道を!!

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