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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
26/80

26、強制的勉強会の開始後には

更新が遅れてしまった申し訳ございませんでした。


さて、頑張れソラ君! な、本編へどうぞっ!


 「ここはね、Xを代入して」

 「ふんふん」

 矢吹がシャーペンを動かして、ウミのノートに何かを書き込む。

 「そうすると、こうなるのね」

 「ほうほう」

 ウミはそれに感心しながら、自分のノートで解かれていく計算式を真剣に見つめていた。

 「で、ここをこうして、これはこうなるから……」

 「おぉー!」

 「これが答えよ」

 「わぁ、さっすが矢吹さん! ソラにぃとは全然違うね」

 「あんなのと一緒にしないでよ」

 アハハと笑い合う女子達よ、頑張って勉強している俺の心に、鋭い矢が刺さって抜けないじゃないか……。

 「ソラだって、あれくらい解けるよね」

 「もちろんだ!」

 「つまらない意地張らなくて大丈夫よ」

 「そうだよソラにぃ。無理したって得しないよ」

 ……俺、君達に何かいやがらせでもしましたか?

 「まあ、青年も頑張る事だな」

 「頑張ってもソラの知識じゃ無理じゃね?」

 「そ、ソラ様だってやれば出来る人ですわ!」

 黄色と橙め……。恩知らずな子達だ! それに比べてローグは優しい、うん。

 さて、拒否権もなく強制的に始められたお泊まり勉強会。ウミは喜んで家に招き入れちゃうし、遠慮なんて知らずにずかずかと矢吹達は家に上がるし……。本当に強制的としか言えない勉強会。

 で、今はと言うと。食事を済ませて、俺の部屋で勉強開始な訳ですな。矢吹とウミは、ベットの隣に簡易のテーブルを組み立てて、二人並んで数学等の理数を勉強。俺と波月は、狭い勉強机を二人して使ってる。一つ足りない椅子はウミの部屋から借りてきた。波月が座っているけど、クッションが可愛らしい模様だから……。はい、波月も可愛く見えちゃってますね。

 「ソラ、ボーっとしてる暇はないよ」

 「だね……」

 でもね、人には集中力と言うものがあってですね、それが尽きるとですね、そのですね……。まあ、簡潔に言うと、飽きたんです。

 「青年よ、始めてからまだ2時間も経っていないぞ」

 人の心を久しぶりに読むな!

 「飽きたと言うから、喝でも入れてやろうかと思ったのだ」

 「もう飽きたのか? 早すぎね?」

 「だからダメなのよ、有澄は」

 「もうちょっとさ、みんな協力してくれてるんだし、頑張ろうよ」

 「……すみません、ソラ様。フォローの言葉が見つかりません」

 と、言う訳で。心に新たに4本の矢が刺さりました。とっても痛いよ……。

 「でも頑張れるよね、ソラ」

 「うん、頑張るよ!」

 君のその爽やかな笑顔が隣にある限り! 俺は力尽きるまで頑張ってやろうじゃないか!

 「じゃ、社会科もう少しやってみようか」

 「ありありさぁ!」

 夜はまだ、いや、戦いはまだ始まったばかりですよね! 燃えろ、有澄ソラ! この魂燃え尽きるまで!

 ……あ、でも、燃え尽きちゃダメですね。明日テストなんだから……。

 「馬鹿な奴だな」

 ウネの読心術を、心から恨み、また矢が刺さったのは言うまでもなく。




 「ここは、あのやり方の応用でね。これはこうなって」

 「あぁ、ちょっと待ってください。どうしてこうなるんですか」

 「それはね、ここをこうすると、あれはこうなるの。で、それはこうなるから……」

 「なるほど!」

 「じゃ、続き頑張ろっか」

 「はい!」

 ウミと矢吹の集中力がなんでずーっと続くのか、羨ましく思いもすれば、すごいとも思うんだ。

 「大丈夫、ソラ」

 「だいほーふ」

 「……大丈夫じゃなさそうだね」

 うん、やっぱダメです。もう、プシューッて頭から湯気が出ちゃって……。

 「すぅ……すぅ……」

 ウミが小さい頃遊んでいた人形のベッドで、ローグ達が安らかな寝息を

 「ぐがぁ……むにゃむにゃ……に、肉ぅ……ぐがぁ……」

 ジャウネェーーーーーー! 君のせいで安らかな感じが全くしない! どうして君はいつもそうなの? どうしてそう自由なの!?

 しかし、人形のベッドといっても、小さいものを二つ並べておいてあるだけで、狭そうに見えるな。今度給料はいったら、一人一つずつ買ってあげよう……。

 「さて、復習しようか」

 「あぇ?」

 「聞いてなかった?」

 「……えへ」

 「じゃ、もう1回言うから、覚えてね」

 「ありありさぁ」

 「鉄と硫黄の『混合物』を加熱すると、熱や光を出す激しい反応が起こって、硫化鉄って言う『化合物』ができる。また、硫黄の中に銅を入れても、同じような反応が起きて、『酸化銅』っていう化合物ができるんだ。……OK?」

 「う、うん。混ざってるのが化合物で、加熱させたら化合物!」

 「ソラ、混ざってるのは混合物だよ」

 「あれ? 俺、何か違う事言った?」

 「同じ事を繰り返してたね……」

 「うーん……」

 「まあ、深く考えないで。大丈夫、化合物はちゃんと覚えられてるみたいだし」

 なんて爽やかな笑顔。教科書を片手に、しかもちょっとずれたメガネがなんとも……。

 「あれ? 波月ってメガネしてたっけ?」

 「ん? あぁ、これか。なんとなく、伊達メガネを親から借りたんだよ」

 「そうなんだ……」

 なんとなくって……。

 「さてと、続きいくよ。鉄鉱石には、『酸化鉄』が多く含まれていて、それは『鉄と酸素』の化合物なんだ」

 「ふむふむ……」

 「まあ、これくらい覚えておけば、大丈夫だと思うよ?」

 「覚えられてたらいいけど……」

 「大丈夫だよ、ソラ。自分を信じて。今までよくやってたし、一生懸命やった事は忘れないと思うから」

 「波月ぃ……」

 君と言う、王子様は……。なんて、なんていい人なんだぁ!

 「俺、頑張るよ!」

 「うん。俺も頑張るよ。理科は苦手分野なんだ」

 照れくさそうに笑って、少し鼻の頭をかく。それは、波月が困ったり照れたりした時に良くやる行動だ。長く一緒にいると、そういう事も分かっちゃうんだねぇ……。

 「……さあ、俺らも寝ようか」

 「え? でも、矢吹達はまだ……あ」

 「ふすぅ……ふ……すぅ……」

 「らめよもぅ……この……むふふ……すぅすぅ……」

 ウミと矢吹は、机に突っ伏して幸せそうな寝息を立てていた。ふいに、矢吹の顔がほころぶ。

 「矢吹、何の夢を見てるんだ……」

 「やけに幸せそうな顔してるね」

 「あっちの小僧ジャウネと一緒の顔だねぇ」

 ……人の寝顔は、ウミの意外見るのは久しぶりだなぁ。

 昔、両親が生きていた頃は、よく川の字で眠ったりしていた。寝たふりをして、母さんや父さんの安らかな寝顔を見るのが好きで、夜更かしする事もあった。2人とも、未来に起こる事なんて知らずに、ただただ幸せそうな顔をして。ただただ、幸福を噛み締めて。そんな両親の顔が、本当に好きだった。それに、小さなウミの可愛い顔も。みんな大切で、愛しくて……。

 「ソラ?」

 波月の声で現実に帰ってくる。彼はずれたメガネを外すと、それを黒いメガネケースにしまった。

 「……ん?」

 「おばさんの事、考えてた?」

 「え?」

 「ソラはおばさん達の事を思い出すと、いつも……。ううん、なんでもないや」

 「何? 気になるじゃないか」

 「あはは。……でも、ソラ。ソラには俺らがいるよ」

 「な、ななな!」

 そんなカッコいい顔で格好良い事言われたら、惚れてしまうじゃないか!

 「だから、無理はしないでね」

 教科書を閉じ、机の上に置くと、波月は俺を真っすぐに見てそう言った。

 「別に無理なんかしてないよ?」

 「そう、ならいいんだ」

 そう言って、波月はほんわりと笑う。

 時々、波月はわからない事を言うけれど、それは俺の事を思っての事なのに、分かってあげられない。それは、悲しい事だけど、いつか分かると思うから。

 「さてと、風邪引かないように毛布かけてあげないと」

 「そうだね」

 とりあえず今は、今の幸せを噛み締めて、明日のテストと戦うために寝るとしようかな。

 「おやすみ、ソラ」

 「おやすみぃ、波月」

 静かな夜に、冷たい風が吹きぬけた。

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