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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
22/80

22、喧嘩するほど仲がいいはず

 「今日はここまで。じゃ、それなりに気をつけて帰れよ」

 先生、それなりにじゃいけないと思わないんですか。生徒が心配じゃないんですか。どうでもいいんですか。ねぇ、先生!

 「さてと、帰ろうか、ソラ」

 「おぅ」

 波月と並んで廊下に出て、下駄箱へ向かう途中、彼が何かを見つけたようだ。

 「あ、矢吹だ」

 「え?」

 あの長ったらしい栗色の髪。うん、間違いなく矢吹だね。

 ……って。

 お、おと、あの、あ、あああああ、あの、あの矢吹が、おと、おととと、おお!

 「ソラ、とりあえず落ち着いて。声に出してないと思ってるところ、全部声に出てるからね」

 ま、マネジメント!? じゃなくて、マジで!?

 「うん、それもね」



                     ****




 と言う事で始まりました! 狙って静かに、尾行だYO!

 何でハイテンションかって? それはね、矢吹が男の人と歩いている事が珍しすぎるからですYO! あ、俺らは例外でお願いします。

 正積優秀、才色兼備、大和撫子。と、言えば、(俺は思わないけど)矢吹なんです! そりゃあもう、モテモテでしょう。男が寄って来るでしょう! けれど、アイツは、矢吹はそれを跳ね返す跳ね返す! 何人の、いや、何百人の男が涙した事か……。今のは言いすぎかな?

 まあとりあえず、それだけ大変な事って訳ですよ。

 「あぁ、ローグ達もいればこの面白い状態に巡り合えたのに……」

 「ちょっとハラハラドキドキするね」

 廊下で矢吹を見つけてから、俺達は廊下の曲がり角や人ごみに紛れながら、その後を追ってました。時々矢吹が振り返ったりするものだから、なかなか刺激があって楽しいものですぞ。

 「あ、右に曲がったっ。行くぞ、波月軍曹っ」

 「うん。でも、何で軍曹?」




 んー、矢吹を尾行してついたトコロ。それはもちろん、あそこですとも。

 「ボコボコにされるのかな?」

 「……ソラ、何で微妙にマイナス思考なの?」

 「いやさ、体育館裏っていったら、リンチかなぁと……」

 「ドラマの見すぎだよ」

 「ごめん……」

 こそこそ囁きあって、茂みの中から様子を窺う。ここまで来る間に、何人かに冷たい目線を送られたとか、ヒソヒソ何か言われてたとか気にしない方向でいきます。

 そんな俺らを露知らず、矢吹はいつも通りつまらなそうな顔をして、その男の前に立ち、その男は何かを言おうと口を開くけれど、また閉じる。それを何度か繰り返していた。

 あぁ、なんとじれったい事か!

 「これってやっぱり、コクハクなのかな!?」

 「シィー! ソラ、声が大きいよ」

 「ご、ごめん……」

 「でも、告白するにはちょっと様子がおかしいね」

 確かに、そうかもしれない。というか、モジモジしすぎだよ男の方。もっとシャキっとせんかい、シャキっとさ!

 「って!」

 「シィー!!」

 咄嗟に波月が俺の頭を押し下げて、茂みに完璧に隠れた。声に反応したかどうかは分からないけど、ここで見つかったら矢吹に俺がボコボコにされる!

 「ご、ごめん……」

 「で、何か気付いたの?」

 「うん。あの人、矢吹の後輩だ」

 「後輩? って事は、柔道部の?」

 「そそ。1回だけ、話した事あるよ」




 『あのぉ、有澄先輩ですよね?』

 『え? あ、え、うぁ』

 『そうよ。コイツが馬鹿で有名な有澄よ』

 『ば、馬鹿とはなんだ!』

 『馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!』

 『馬鹿に馬鹿って言われる俺の気持ちはどうなんだよ!』

 『アンタの方が馬鹿でしょう!』

 『矢吹の方が絶対馬鹿だ!』

 『何ですって!!』

 『んだよ!』

 『あのぅ……』

 『『何!?』』

 『はぅっ! な、なんでもないです』




 「て、感じで」

 「……つまり、ソラに何か話したい事があったのに、ソラが矢吹と喧嘩して、はぐらかされちゃった哀れな後輩って事だね」

 「んー、実に心に突き刺さる一言だけど、そうだねぇ」

 ヒョロッと背が高く、あんまり柔道に向いてない雰囲気をかもし出す彼。ひ弱で頼りなさ気なイメージだけがちょっと残ってる。

 「あ、何か話してるみたいだ」

 「徐に矢吹が嫌そうな顔してるから、やっぱり……」

 「そう、みたいだね」

 「んー、どんな気障な台詞をはいているのか聞いてやりたい」

 「コラ、ソラ。人の事をあんまりからかうもんじゃないよ」

 「いつもからかわれている側としては、たまには他人をからかってみたいんですよ、軍曹」

 「そんなもんなの? ……って、だからなんで軍曹?」

 「とりあえず、もう少し近付いてみよう」

 「そうだね。……なんか楽しくなってきた♪」

 ちゃっかり楽しんじゃってる波月を可愛いと思ってしまった俺は、男失格でしょうか?



                    ****



 「で、私にどうしろって言うのよ」

 もう、今日はローグちゃん達がいなくてただでさえイライラしてるのに! 初の私視点でも嬉しく……って、私視点なのか!

 「だからですね、その……」

 この男は、男にあらずね。そんなモジモジしてちゃダメでしょ、フツーは。

 「高城たかしろは自分で言わなきゃ意味がないとは思わないの?」

 「そうは、……思うんですけど」

 「だったら言いなさいよ」

 「えぇ!?」

 「はっきり言ってさ、遠まわしに言われるより、面と向かって言われた方がいいと私は思うわ」

 「……」

 ったく。こんなに臆病なやつ、1人しか知らないわ。

 「でも、よくそういう気持ち分かりますね、矢吹先輩」

 「べ、別にいいじゃない! 乙女の心は乙女が一番分かってるんだから!」


 ぶふっ


 「ん? 今変な声がしたような……」

 高城は不思議そうに首をかしげた。そんな事より、早く帰りたい。

 「とりあえず、高城の言う事は聞けないから。言いたい事があるなら、ちゃんと本人に自分から言いなさいよ」

 「……はい」

 「じゃね」

 手をひらひらと振って去ろうとした時、呼び止められてしまった。

 「あの、先輩!」

 「ん?」

 首だけを回して、高城をにら……見る。

 「もしかして、先輩はあす―――」

 「うあー! 今日用事があったんだー! じゃ、イソップだから! またね、高城!」

 全力疾走で、その場を去る途中。高城の呟きが聞えてしまった。

 しかし、自分が噛んでる事には気付かなかった……。



 「やっぱり、先輩も好きな人いるんだなぁ」



 失礼な奴め。私だって人の子よ。好きになる人ぐらい……。

 ……ちょっと、読者さん。何ニヤニヤしてるのよ。いいでしょ別に! わ、私だって恋したいし、女の子なんですからね!

 ん? 何々。誰が好きなのかって? バカ! そ、そんな事いえ、言えるわれないれろ!



                     ****



 翌日。の、放課後。

 廊下に出て、ふと前を見れば寝癖の茶髪とサラサラの黒髪が並んで歩いているのを見つけた。これは俗に言う、獲物発見ってところかしら。

 話しかけて、いじめてやろうと近づいた時、

 「もう、ソラが噴出すから矢吹に見つかる所だったじゃないか」

 「ゴメンゴメン……」

 「まあ、気付かれなかったみたいだからいいけどさ」

 「でも、まさか、あの矢吹から乙女なんて言葉が聞けるなんて……」

 「ふーん。予想外だった?」

 ちょっと後ろから首を突っ込んでみる。

 「予想外どころじゃないでしょ。ありえないって」

 両手を広げて、やれやれといった具合にバカがそう言った。

 「あ、そ、ソラ……」

 波月が私に気付き、焦る焦る。

 「ほーう、ありえない、か」

 「だってさぁ、はづ……きぃ!?」

 このバカの右隣にいたはずの波月は、苦い顔をして私を落ち着かせようと頑張っていた。

 「悪かったわねぇ、ありえなくて! えぇ、そりゃあ似合わないでしょうね、私みたいなのが、乙女、なんて、言ってさぁ!!」

 ズン、ズン、ズン! と、馬鹿あすみに詰め寄り、ちょっと背伸びして見下すように睨む。

 「どうせ私なんか、乙女じゃないでしょう。えぇ、そうでしょう」

 「えっとその、あのですね……」

 「人の話をしっかり盗み聞きしといてさぁ、よくもまぁそんな事が言えたわね!」

 「矢吹、ちょっと落ち着けって」

 「あら、無理な相談ねぇ、波月。私を止める前に、この馬鹿の馬鹿らしく馬鹿な行動を止めるべきだったわね!」

 「……ご、ごめんよ」

 「そんな馬鹿馬鹿言うなよ! ハートが、俺のガラスのハートが……!」

 「ガラスのハートが、何?」

 さらにズイっと詰め寄り、壁まで追い詰めた。

 「えぇっと……あのですね……」

 カリカリと頭をかいて、視線を泳がす。茶色がかった瞳が、救いを求めるようにあっちへこっちへ泳ぎ回る。

 ……たまには、こっちを見なさいよ。こんの馬鹿。

 「あ、高城君? だったっけ?」

 「ん? 高城がどうしたのよ」

 「ウミとどっか行く……」

 「え?」

 有澄の視線を追っていけば、確かにウミちゃんと高城が歩いていく姿が見えた。

 というかここ、3年生の下駄箱なんだけど……。1、2年生はこっちに普通はこないでしょう。

 「あぁ、今日はウミも一緒に帰ろうって約束をしたような……」

 「アンタ、兄として最悪ね」

 「でも、なんで高城君一緒なんだろう……」

 「あぁ、それはね―――」

 「とりあえず、矢吹。ソラから離れてあげないの?」

 「ん? あぁ、忘れてたわ」

 2、3歩下がって有澄を解放すると、威勢よくバカが言い返してきた。

 「忘れるなよ!」

 「何よ、アンタの存在感が薄いんでしょうが」

 「薄くないですぅ」

 「薄いんですぅ」

 「違う!」

 「違くないわね!」

 「まあまあ、とりあえず喧嘩はやめてってば」




 で、乱闘を終えて。

 今は帰路についたところで、波月、有澄、私の順に横に並んで歩いている。

 「高城は、アンタにウミちゃんが好きだって事を、伝えて欲しかったんだって」

 「ふーん。で?」

 「で? じゃないわよ! 妹が告白されようとしているのに、何その冷静な態度!」

 「だって、好きならいいじゃん。ウミを幸せにしてくれるんなら、温かく見守るよ」

 穏やかに笑いやがって……。

 「でも、多分高城君フラれちゃうねぇ」

 「え? 何で分かるの?」

 「ん? だって、頼りがいのある感じじゃない人は嫌いだからねぇ」

 「へぇー。良く知ってるのね」

 「ま、兄として当然の事だけどね」

 「……約束忘れかけてたくせに」

 「んだよ」

 「べっつにぃ」

 「むぅー! 一々気に障るやつめ!」

 「何よ、やる気!?」

 「あぁ、やってやろうじゃないか!」

 「あぁもう、だから喧嘩はやめてってば」

 私だって喧嘩したくてしてるわけじゃない。好きで口喧嘩ばっかりしてる訳じゃない。

 ただ、気付いて欲しいだけ。私の本当の気持ちを。



 いつか、言える日が来るかな? 君に、大切な君に―――。

新型インフルの感染拡大を恐れまくっている下弦です。皆様は大丈夫ですか? 手洗いうがい、してますか?


と、ちょっと心配事を暴露したところで。

大変申し訳ないのですが、作者の勝手な都合により、しばらくの間休載させていただきます。

いつ頃から、また連載を始めるかは未定なので申し訳なさがグレートアップします。

なるべく早く、再び連載できるように努力いたしますので、どうか温かい目で見守ってください。


それでは、しばらくの間失礼致します。

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