21、波月 奈津の変わらない一日。
うーん、ネタ切れっぽい……。
ものすごく、もんのすごくネタ切れっぽいぞ……。
まぁ、そんなこんなで(どんなだ)、今回は波月視点でどうぞっ!
今日も晴天。綺麗な青空の朝が来た。鳥がさえずり、優しい風が吹く、変わらない日常の始まり。
でも、変わらない事は、いい事だと俺は思っている。変わりすぎても疲れるだけだし、どうせなら、ずっとずっと、このままでもいいだろう。
そんなオヤジくさい事を思いながら歩いていれば、見覚えのある、いつもより寝癖の目立つ茶髪が見えた。
「おはよう、ソラ」
「ん? あ、おはよー、波月ぃ」
俺の友達、有澄ソラ。彼に間違いないようだった。
「眠そうだね。ちゃんと寝てるの?」
「寝てるよ、寝てますとも!」
「そう、ならいいんだ」
にこやかに笑えば、彼もにこやかに微笑む。伸びた前髪が邪魔そうだったが。
「あれ? そういえば、ローグ達がいないね」
「あぁ、矢吹に会いたくないとか何とか言って、お留守番だよ」
「そうなんだ」
「まあ、可愛い物好きのスイッチが入ると手に負えないからねぇ」
「悪かったわね、手に負えなくて」
俺達の間に、ぬっと現れたまつげの長い女の子。ローグ達もソラも恐れる、矢吹その人だった。
「うげ、矢吹!」
「うげって何よ!」
あ、これはいつものパターンの予感だな。赤信号が青信号に変わる間に、彼は思った。
「べ、別にぃ」
「どうせ、会いたくなかったなぁとか思ってなんでしょ」
「そ、そんな事あるもんか!」
「へぇ〜。じゃあ、会いたかったんだぁ」
「んな訳もないだろうが!」
「何よ! それが友達に言う台詞!?」
「お前を友達なんて思った事ないですぅ」
「失礼な奴ね!」
「失礼な奴はお前みたいなのを言うんだよ!!」
「何ですって!?」
「んだよ!」
「はいはい、喧嘩はそこまでにして」
こうして止めないと、いつまでもいつまでも口喧嘩を続ける。実は、かなりの仲良しだと思っているけど、本人達に言うと全否定されてしまうんだ。
「さて、遅刻しないように歩こうか」
「波月がそういうなら……。矢吹の隣じゃなければ歩くよ」
「私だって、有澄みたいな鈍感な奴の隣なんか歩きたくないもん」
なんて言い合うから、睨み合う2人の間を歩く事になった俺。まあ、もう慣れたから、こういうのも楽しいもんだ。
そして、あっという間に放課後。
「んー、今日もなかなかに疲れたよぅ」
ばったりと机にひれ伏しながらソラは呟いた。
「お疲れ様」
「おつ……カレーライスが食べたいな……」
そしてたまに、いや、たまにじゃなくて、結構良くこんな感じの良く分からない事を言うのも彼の特徴としてあげられるだろうな。
「さてと、帰ろうか」
「ありありさぁ」
うーんと猫みたいに伸びをして、席を立ち、ソラが廊下に出ようとした瞬間。
「うだっ」
「あうっ」
見事にぶつかったのは、
「いったいわね! 何すんのよ!」
「お前こそ、前見て歩け!」
矢吹だった。これも運命ってやつなのかな? 口に出していったら、矢吹は赤面して言い返すだろうけど、ソラは心から嫌そうな顔をしそうだ。
「ていうか、部活サボるなよ」
「サボってないもん」
「だって、今日練習あるだろうが」
「ないわよ」
確かに部活はあるはずだ、今まで通りに。俺は別にサボっても構わないような部活だから、ほとんど幽霊部員だけど、矢吹はきちんと柔道部に参加しているはずだ。
「なんでさ?」
「今日から期末テスト2週間前なんだから、部活はしちゃいけないんだからね」
あぁ、なるほど。そういう事か。
俺が1人で関心しながら納得していると、隣で壮大なため息が吐かれた。
「そんなぁ……」
「なんでそんなあからさまに嫌そうに言うのよ!」
「矢吹と帰らなければならない苦痛の日々が続くなんて……」
「無視すればいいじゃない。それに、一緒に帰らないといけない訳じゃないんだし」
「だって、そうすると波月取られちゃうもん」
「何そのキモい発言」
そろそろまた始まりそうだな。いつも通りに、変わらずに言い合いが始まるだろう。
「キモくない!」
「キモいわよ!」
「キモくないったらない!」
「キモいったらキモい!」
「気持ち悪くない!」
「気持ち悪い!」
「「むぬぅ……」」
なんて、にらめっこを、あ、いや違う。……睨み合いを始めた。
さて、予想通りに始まってしまった。仲が良いのはいいけれど、出入り口は邪魔だからどいてもらわないとね。
「波月!」
「え、うん?」
真面目な顔してソラが俺を見上げる。
「俺、キモくないよな!?」
「いいえ、キモいわよ! ねぇ、波月」
なんて、矢吹も真面目な顔で見上げてくる。
こうなると、流石に手に負えないから、こうするのだ。
「とりあえずさ、マックでも行かない? そこで決着つければ良いよ」
「……は、波月がそういうなら」
「……べ、別に構わないわよ」
「じゃ、行こうか」
人とは不思議な生物である。変わる事をどこかで求めているのに、変わらない事の幸せを知っている。変わってしまっても、また、慣れてしまえる。
「な! それ、俺のポテトだぞ!」
いつものマックで、俺はいつもの席で、ソラはいつもと違う俺の隣の席で、悲鳴にも近い声をあげた。
「いいじゃない。みんなで食べた方が楽しいしおいしいわ」
いつもと違う、俺の目の前に座る矢吹が、ソラのポテトを摘み食いしたらしい。
「1本分の金返せ!」
「何よ、ケチ!」
「矢吹はもう自分のポテト食べただろう!」
「別にいいじゃない、減りが遅いから手伝ってあげてるだけよ。……あーむ」
ソラの隙をついて、矢吹がまたソラのポテトを一本摘む。
「あぁ! また食べたな!!」
「いいでしょ、別にー」
「2本分の金返せぇ!」
「何よ、ドケチ!」
小さな子供のように、また始まった口喧嘩。だいたい勝つのは矢吹だけれど、ソラだって頑張ればきっと勝てる。と、思うんだけど……。
「隙ありっ」
「あぁ、コラー!」
またソラは、矢吹に負けたらしい。今度は3本一気に盗られてしまったようだ。
「クス」
……あぁ、やっぱり。ちょっとくらいは変わった一日も楽しいかもしれない。
「何笑ってるの、波月?」
「いや、別に」
「波月も矢吹に何か言ってよぅ」
「んー、自分の食べたんだし、ソラのは食べないであげたら?」
「えー、だって、有澄ってからかいがあって楽しいんだもん。あーむ」
「あぁ、また食べた! こんの、盗人〜!!」