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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
18/80

18、風の答えと


更新が遅くなってすみません……。

今回、ちょっぴりシリアスです。



 「ただいま、ですのー」

 リビングの扉を開けて、実体化を解く。テーブルで向かい合わせに座っていたソラ様とその妹さんが、おかえりーと返してくれた。挨拶に返してもらえると、なんだか心が温かくなる。嬉しい気持ちでソラ様の右肩に座る。うふふー、なんだかとっても幸せですの!

 「おう、ご苦労じゃったな」

 上から眠たそうな声が降ってきた。こ、この生意気な言い方は……。

 「ウネビガラブ! ゴミ捨て当番サボるなんて最悪ですの!」

 「サボってなんぞおらん。我がやろうと思った頃には終わっていた。それだけの事じゃ」

 「それをサボリと言うのです!」

 「いいや、勝手にやられてしまったのじゃぞ。サボリなどではない」

 「だったら、もっと早く起きるんですの!」

 「我は早く起きたつもりじゃが?」

 「つもりじゃダメなんですの! だいたい―――「いだっ」」

 う、ウミ様……。叩くなんて酷いですわ!

 「痛いじゃないか!」

 「そうですわ!」

 「あー、うるさいうるさい。それを静かにしただけだけど?」

 お、鬼ですわ! 角が見えますわ!

 ふん、と鼻を鳴らして、ウミ様は隣の和室へ入っていく。ソラ様は気にも留めずに、温かいお茶を啜ってのほほんと息を吐いた。

 「そうだ、ローグ。お手伝いありがとねぇ」

 「いえいえ、当然の事をしたまでですの」

 「あぁ、ウネとジャウネは見習って欲しい……」

 「何か言ったか? 青年よ」

 「ん、飯か?」

 ソラ様の頭の上から、眠そうにジャウネも言った。貴方もそこにいらしたのですわね。

 ……それよりジャウネ、貴方はそれだけしか考えてないんですの?

 「さぁ、ソラにぃ。こんなバカ共置いて、さっさと行こう」

 和室から出てきたウミ様は、深いため気息をついて、ショルダーバックを右から左へかけた。裾にフリルのついた淡い水色のグラデーションのワンピースの下には、グレーのスパッツ。余所行きの格好だということは、ウミ様はお出かけするのでしょうか。

 「馬鹿じゃないですわ!」

 「我はそんなではないぞ!」

 「うなぎの蒲焼?」

 あの、どこをどう間違えればうなぎの蒲焼になるんですの。

 そういえば、ソラ様もだらしない格好だけれど、外に出れない格好はしていない。可愛いキャラクターのイラストが真ん中にどんとあるTシャツに、ジーンズを履いている。2人で出かけるには、あまりにもソラ様が浮いてしまう気がします。

 「ソラ様、どこかお出かけですの?」

 「うん、ちょっと買出しにねぇ」

 エヘヘとソラ様が照れくさそうに笑って席を立ち、キッチンから持ってきた大きな手提げ袋を私に見せる。

 「今日はね、特売日だから戦わないといけないんだ」

 「トクバイビ?」

 「まあ、妖精は知らない方がいいのかな? んー、知っててもいいけど、知らなくてもいいっていうか、うーん……」

 「ソラにぃ。馬鹿な事考えてると、売り切れちゃうよ」

 「え、それはいけないよ! 断じてダメであるよ!」

 ソラ様、言葉が変ですの。

 「とりあえず、ローグ達はお留守番しててくれるかな? 誰も来ないと思うけど」

 「了解ですの」

 「我らは連いて行ってはならぬのか?」

 「来てみたい?」

 「来るな」

 なんて正反対な兄妹ですの……。まるで天使と悪魔のようですわ。

 「ウミが怖くてもいいならおいでぇ」

 「やめておく」

 「隣に同じくー」

 「私も大人しくしていますわ」

 ウミ様と一緒は、ちょっと怖いですの。なんて、口が裂けても言える訳がないのですが。

 「ヤッター! よし、行こ行こソラにぃ♪」

 ウミ様がはしゃいで、ソラ様の腕を引っ張る。ウミ様とソラ様の姿は、リビングの扉が閉じて見えなくなった。楽しそうに弾んだ声だけが微かに響いてくる。

 ……なんだかちょっと羨ましいんですの。

 「あ、待って、ちょ、靴! 靴がまだ履けてな、うあっ」

 ……頑張ってください、ソラ様。



                   ****



 ソラ様達が出かけて、もう数時間が経とうとしている。「そんなに長くはならないからぁ」なんて言いながら、ソラ様は引っ張られていきましたけど、流石にちょっと心配ですの。

 「そういやぁ、ローグからヴィオロシィっぽい匂いがするな。どこかで会ったのか?」

 「あ、ゴミ捨ての時に会いましたの」

 「……よく利く鼻だな、ジャウネ」

 「俺だけの特権だからなぁ」

 確かに、ジャウネは仲間の気配とかに敏感ですわ。私達が遠く離れていても、微かに気配を感じたりできるんでしたわね。

 「ウネビガラブはさぁ、使えねぇよな」

 「急に何を言い出すのだ!」

 「べぇっつにぃ」

 「その妙に伸ばした言い方をやめろ!」

 「……ジャウネの言う通りかもしれませんわね」

 「あん? 何か言ったか、迷子のローグ」

 「迷子なんかじゃありませんの!」

 「誰のせいで今この家で居候しているというのだ!」

 「それは、その……まぐ」

 「れではないな」

 うぐっ……。なかなか鋭い一言ですわね。

 とりあえず、私達の特徴を簡単に説明いたしましょう。ジャウネはさっき言ったので省いてっと……。

 まず、私から。私はちょっと魔法が使えるだけで、他には特にありませんの。物を動かしたり、ヴェントに言の葉をくくりつけたり……。それくらいですの。ヴィオロシィならもっとたくさんできる事があるんですの。

 ウネビガラブは、ヴェントを操るのに長けていますの。突風もそよ風も、彼女にお任せ! ですの。

 「まあ、そんな事はどうでもよいのだ」

 「いいのかよ」

 「うるさい、ジャウネ。黙っていてくれ」

 「へいへい」

 「ローグよ、なぜヴィオロシィに会ったのに、一緒にここまで来なかったのじゃ?」

 「……ヴェントに乗って逃げられてしまったんですの」

 「逃げる? なぜだ」

 「『約束』を守りに来たと、彼女は言っていたんですの」

 「誰とじゃ?」

 「……」

 「何故黙る」

 私がヴェントに乗せて送った問いの答え。それは信じたくもなくて、信じられなくて。

 「……身近な者との、『約束』だったのか?」

 「波月、矢吹。あとは、俺らの近くっつったら、ソラかウミもありだな」

 「……」

 「黙るな、ローグ。抱え込んでも仕方ないぞ」

 「どんな『約束』かは知らねぇけど、妖精界コミュナット・フェリップがらみじゃ黙ってらんねぇぞ」

 真剣な目つきをして、私を睨む二人。でも、でもね……。

 「まだ、信じられないんですの」

 「それでもいい。言ってみろ」

 「聞くだけ聞いてやるぜ」

 言葉を紡ぐ事がこんなに辛い事だったでしょうか。こんなに、重いものでしたでしょうか。

 「……ヴィオロシィは、ある少年と昔、『約束』をしたんだそうですの。もしも、僕が独りぼっちになったら迎えに来てと。その少年の名前は―――」

 「たっだいまー。ローグとウネウネコンビィ、遅くなってゴメンねぇ」

 ソラ様の元気な声と重なって、私の言葉はかき消されたけれど、少し驚いたように眉を動かしたウネビガラブと、珍しく強張った表情をしたジャウネを見れば、私の言葉が届いてしまったのは間違いないようですの。






 「―――その少年の名前は、有澄ソラ、なんですの」

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