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アルカンシエル  作者: 下弦 鴉
第二章 穏やかに流れる日常
16/80

16、妖精の『約束』

 「ふーん、それでもう1人増えてるんだね」

 昨日あった出来事を、簡潔にまとめて波月に伝えた結果、返ってきた反応がこれって寂しいな……。もうちょっと濃い反応を期待していた俺が悪いのだろうか。

 「今度は女の子じゃないのね」

 おまけの矢吹がジャウネを掌に乗せて呟く。あぁ、こうして見ると改めてローグ達の小ささを感じるねぇ。

 「虹の妖精が全て女な訳じゃないからな」

 「あとはベートが男の子ですの」

 「ふーん」

 そうそう、ココはいつものマックでございまする。所謂寄り道中って訳ですよ。俺の隣で波月はポテト食べてます。俺の目の前でジンジャエールを飲みながら、ジャウネと話してるのが矢吹。俺は節約のために何も頼んでません。ローグは俺の右肩、ウネは頭の上で落ち着いているみたいだね。あぁ、シェイクが飲みたい。

 「ジャウネはさ、ウネの気配を追ってここまで来たんだよね?」

 「そうだぜ」

 「じゃあ、他の仲間の居場所とか分からない?」

 「あぁ、ウネちゃんが分かるなら他の子達も分かるはずだもんね」

 「え? どゆ事ですか?」

 ボーっとしてたら話が急展開しちゃったよ。もうついていけないかも、あはは♪

 「……ソラ、冗談はよして」

 そ、そんな思いっきり呆れられても分からないもんは分からないよ!?

 「ホント有澄って馬鹿だよね……」

 「馬鹿じゃない!」

 「馬鹿よ、こんな簡単な事も分からないなんて」

 「か、簡単じゃないもん! ね、ローグ!」

 「え!? えっと、その、あのぅ……」

 「ローグよ、はっきり言ってやればいいのじゃ。馬鹿だと」

 「酷いよウネ!」

 「馬鹿っつーかなんつーか……マヌケ?」

 そ、揃いも揃って酷くない!? なんでみんなそんなに呆れた表情で俺を見るのさ。俺だって頑張って考えて、出てこないから聞いてるだけなんだよ!

 「とりあえず、話を戻そう」

 「このままじゃ私達にも馬鹿がうつりそうだもんね」

 「「「確かに……」」」

 妖精みんな揃ってハモるなんてすごいけど悲しい!

 「で、どうなのジャウネ?」

 「何の事だっけか」

 「他の仲間の気配は追えないの?」

 「うん、無理だな」

 「そうか、無理なのか……って」

 「「えぇ!?」」

 おぉ! 珍しい波月が驚くなんて! そしてハモった矢吹が羨まし、じゃない妬ましい。

 「俺はウネビガラブと『約束』をしたから見つけられただけだし」

 「あ、あんなの『約束』のうちに入らぬではないか!」

 「俺にとっては『約束』だったからな」

 「我にとってはそうではないぞ!」

 「んだよ、そんなに必死になって否定しなくてもよくね?」

 ウネとジャウネの間に火花が散り始めた。仲がいいのか悪いのか分からないよ、この子達……。

 「ちょっと待ってよ、お二人さん」

 「「なんだ!」」

 「えっと、そのね、あのね―――」

 「『約束』って何の事なの?」

 鋭い問いに焦りすぎた矢吹を、フォローする波月様のなんと神々しい事か……。

 「『約束』は『約束』だ」

 「それじゃ良く分からないんだけど……」

 「よ、妖精の言う『約束』と、人間の言う約束とではちょっと違うんですの」

 バチバチ火花散る中、ローグが賢明に二人を止めようとしつつ答える。

 「人の約束はきちんと守る事もいろいろな理由で破る事もできますが、妖精の『約束』は破る事が許されませんの」

 「というと?」

 「約束……というより、人で言う契約みたいなものですね。例えば……ああもう! ウネビガラブもジャウネも黙っていてくださいですの!」

 痺れを切らしたローグが叫ぶ。それでもウネとジャウネの言い争いは続いていた。……お疲れ様です。

 「はいはい、大人しくしてましょーねぇ」

 「な、何をするのだ!」

 「放せ、おばさん!」

 「はあ? おばさんですって? まだピチピチの私に向かって何言ってるのよ」

 右手にジャウネを握り、左手でウネビガラブをつまみあげて矢吹が席を立った。

 「どこ行くんだよ矢吹おばさん」

 「アンタも調子に乗ってんじゃないわよ、有澄。ちょっとこの子達に教えてあげなきゃならない事があるみたいだから、お手洗い行ってくるわ」

 「……ほどほどにね」

 「放せ! どこへ連れて行く気じゃ!」

 「放せよ、放せぇ!」

 哀れなり、橙ちゃんと黄色君……。

 「だ、大丈夫でしょうか」

 「多分、大丈夫じゃないだろうね」

 「え!?」

 ぎょっとしたローグが矢吹の背中を目線だけで追う。仲間を助けるべきか、話を続けるべきか悩んでいるらしい。

 「心配しなくても平気だよ。矢吹も手加減を知っているから」

 さすがの波月も、苦笑いしながらフォローしてくれた。矢吹のお仕置きの怖さを知っているのは、俺と波月だけだと思う。

 「それって大丈夫って言えるんですの?」

 拭いきれない不安に、ローグの目に涙が浮かべ始めた。

 「多分だけど、ダイジョブだよ。うん、きっと大丈夫」

 「……そうですか。ソラ様がそこまで言うのでしたら、もう心配しないですの」

 両手で拳を作って、小さくガッツポーズをする。まあ、矢吹だってそこまで非常な女じゃないし、心に傷が多少つくだろうが、致命傷にはならない。

 それはさておき、はっきり言わせてもらってもいいかな。何この子可愛すぎるんだけど!

 「さて、静かになったし、話の続きを聞かせてもらってもいい?」

 「はい。……えっと、妖精の約束の違いと人間の約束の違いは分かっていただけましたか?」

 「破っちゃいけないって事だけはしっかりと」

 「妖精の『約束』は、それが果たされるまで続きますの。例えるなら、ソラ様と波月様が遊ぶ約束をしたとしますの。それは人ではただの約束に過ぎませんが、妖精にとっては重要なものなのですわ。どんな事があっても、相手との『約束』は違えられません」

 「律儀、というかなんというか……」

 「まあ、人から見ればそうでしょうが、妖精にはとても大切なものなのですの。『約束』があるからこそ、私達は存在している訳ですから」

 「へー、そうなんだ」

 波月もうんうんと頷きながら、ポテトをつまんでいた。ローグはそれを少し羨ましそうに見ながら、分かりやすく話を続けていく。

 「はい。私達は空に虹をかけるという仕事と一緒に『約束』をしましたの。それがあるから私達はこうして生きていられるんですの」

 「もしも、その『約束』を破ったら?」

 「……それは、分からないんですの」

 少し気まずそうにローグはそう言った。

 「分からないって、なんで?」

 「私達にとって『約束』を破る事は禁忌ですの。『約束』を破った者がどうなったかなんて分からないですし、伝えられていませんの……」

 「じゃあ、ウネとジャウネの約束って何なの?」

 「多分、約束の場所って言ってましたから、どこまで待ち合わせでもしていたのでしょう。でも、ウネがいなかったから、ジャウネは『契りの糸』を辿ってきたのかもしれませんわ」

 ……今回、意味不明ワード多すぎだよ。つ、ついていけなくなりそうだ。なんとなく波月を見てみたけど、顔色ひとつ変えずに話を真剣に聞いているようだった。ここでいつもの調子で話すのはまずい。そう俺の野生の勘が告げている。

 「『契りの糸』って?」

 「『約束』をした者同士だけに見えるモノだと聞いていますが、正式な『約束』ではないようなので、気配しかしなかったのだと思うんですの。正式な『約束』だったら、」

 左手の子指だけをピンと立てて、ローグは続けた。

 「この指に、銀の糸がついているはずですの。それが、約束の証、『契りの糸』ですの」

 「ほえぇ〜……」

 「まあ、ソラ様達に見えなくて当然ですの」

 くすぐったそうに笑うローグ。……か、可愛すぎるじゃないか!

 「たっだいまー。話し終わった?」

 そこへ傷心のウネとジャウネを連れた矢吹が、やけに元気よく帰ってきた。ストレスなんて一切ありませんとでも言っている様なその顔を見れば、どれだけ彼女達が悲惨な目にあったのかが分かってしまった。

 「うん、約束についてよく分かったよ。それに、ジャウネが他の子達の気配が追えない理由もね」

 「じゃ、今日は解散かな?」

 「そうだね」

 「あら? ウネビガラブとジャウネはどこですの?」

 「いるわよ、ここに」

 右手の平に大人しく座っていた2人は、半泣きで俺の頭へと飛び移ってきた。

 「「お、お許しを〜」」

 「ウネビガラブ!? ジャウネ!?」

 ローグは仲間を心配して、肩から頭へ移動する。3人乗っても全然重さを感じないのは、やはり彼らが妖精だからだろうか。

 「どうしたんですの?」

 「それはおぞましい事が!」

 「あんなんもう嫌だ!」

 「……大丈夫じゃなさそうですの」

 「だって、多分って言ったしね」

 冷たい目線を避ける俺。こういう時は、大体逃げるでしょう。真正面からぶつかったら泣いちゃうよ、うん。

 「さぁてと! 帰って夕飯の用意でもするかな」

 「私も塾行かなくちゃ」

 「じゃ、みんなで帰ろうか」

 「ちょっと待ってですの! 2人に何があったのか聞きたいんですのー!」

 叫ぶローグをそれとなく誤魔化しながら、矢吹以外はその場から逃げるように帰ったとさ。

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