15、彼らの運命はソテー?
ふっふ〜ん♪ ふふふ〜〜〜ん♪
今日はちょっと奮発して、ソラにぃの好物ハンバーグなのだぁ♪
あぁ、ソラにぃのあの馬鹿らしい笑顔が目に浮かぶわ。下ごしらえもちゃんとしたし、この前みたいに焦がさなければ大丈夫。テレビに夢中にさえならなければ、大切なハンバーグちゃんが悲惨な目に遭う事もないし、絶対大丈夫よ!
「おぉ、ハンバーグだな!」
ん? ソラにぃ早いわね……。それよりも、いつもより声のトーンが高い気がする。
「おかえ……り?」
読者の皆さん、これは……。
「誰よ、アンタ」
「ん? 俺か? 俺はジャウネってんだ。よろしくな」
「え、よ、よろしく……」
あんの馬鹿にぃ、また変なの増やしたわね……!
「ウミィィィィィ! ストォップ!」
噂をすればなんとやら……。右肩に橙の人形乗せた馬鹿が帰ってきたわ。
「ダメ! ダメだよ! にぃちゃんは許さない!」
「何をよ」
「ダメなんだよ、ダメダメ!!」
「だから何が」
あ、そろそろいつも見てる番組が始まる頃ね。テレビのリモコンはどこ置いたかしら。
アホ面下げたソラにぃの前を通り過ぎて、自分の席についてため息をついた。そういえば、リモコンの電池切れてるんだった。学校の帰りに買ってこようと思ってたのに、忘れたわ……。
「その子はね、あれだよね。うん、あれ?」
「主語を含めてしゃべってくれない? 何がなんだかサッパリよ?」
よっこらっしょ。確か、予備の電池が和室にあったはずよね。どこにしまったかしら。
「で、何がストップ? 何がダメなの?」
「えっと、その、あれでして……」
「それより、ウネは何してるの?」
「見れば分かるだろう。青年において行かれない様にしがみついておったのじゃ」
「ふーん。はぐれて迷子になればよかったのに」
「「酷くない!?」」
見事なソラにぃとのハモりですこと。あ、あったわ電池。リモコンのは……単3ね、コレなら大丈夫そうね。さーて、今日のゲストは誰だったかな。
「で、ローグは? あの子、お風呂掃除当番でしょ?」
「え、俺知らないよ?」
馬鹿にぃ。ため息をつきつつ、電池を交換する。再びリビングに戻って電源を押したけど、なかなかつかないから乱暴にリモコンを叩いてみた。
「青年が爆走するから置いて行かれたのであろう」
……ホント馬鹿にぃ。あ、ついた。なんだか今日のゲストはつまらなそうね。私この人知らないし。他に何かやってたかなぁ。
「めっし♪ めっし♪」
そうだ、忘れてた。ソラにぃが頑張って直したテーブルの上で、嬉しそうに踊る黄色い物体は何?
「で、それは何?」
「それって?」
「そこで踊ってるオブジェ」
「オブジェとは……」
「黙ってなさい、ウネ」
「すまぬ、だからソテーはやめてくれ」
あー、なるほど。ストップの意味が分かった。ついでにダメの意味も。
「大丈夫よ、こき使える人数が増えるんだから、ソテーなんかにしないわ」
「ホントか!?」
そこまで薄情者ではないって事よ、ソラにぃ。たまには妹を信じてちょうだい。
「ふぅ、安心だ……」
私だって悪魔じゃないからね。まぁ、働かないなら話は別だけど……。
「なぁ、飯は、飯はまだか!?」
「うるさいわね、ウネと布団でも敷いてきなさい」
「うどん?」
「布団!」
「フトンってなんだ? 美味いのか?」
……この子、私に殺されたいのかしら。
「う、ウミ? 握ってるリモコンが悲鳴をあげてるよ?」
「じゃ、ジャウネよ! 我と共に来い!」
「んでだよぅ」
「いいから来いと言っとるだろうが!」
……絶対いつかソテーにしてやる。
ふぃ……。ジャウネのソテー化は何とか防げたけど……。
「ソラにぃ、おかわり」
「あい」
「返事は?」
「はいっ」
何このピリピリした空気! 夕食ってもっと和気藹々と、楽しそうに食べるものじゃないんですか? 張り詰めた空気の中で食べるようなものじゃないですよね、そうですよね!
「ローグ、お椀はちゃんと持って食べなさい。ウネ、フォークとナイフの持ち方が反対よ」
「「は、はいぃ」」
迷子だったローグは何とか帰って来れたはいいよ、いいんだけど何この恐ろしい空気。ウミよ、兄は息苦しくて窒息死しそうだよ。助けてくれ、俺に空気と安心をおくれ。
「ジャウネって言ったっけ?」
「にゃんだ?」
「しゃべる時は飲み込んでからにしなさい」
「別にいいじゃねぇか」
「見苦しいのよ」
「そりゃ失敬。ごめそー」
火に油を注ぐかの如く、ジャウネが返すものだからウミのオーラが黒いのなんのって。いや、もう慣れつつあるけど、怖いものは怖いじゃないですか。分かってください。
「……ソラにぃ」
「は、はい!」
「フライパンを火にかけておいて」
「そ、それは……?」
「明日の朝食の準備をするの、そう決まってるでしょ?」
ガチャガチャン
「そこ、フォークとナイフ落とさない!」
「「す、すみません!」」
今更ですが、ローグ達は実体化して食事してます。別に食べなくてもいいらしいけど、お腹がどうしても減る時は、食べなきゃ生きていけないらしいです。
「ソラにぃ」
「な、なんでしょう!」
「それ、フライパンじゃなくて土鍋よ」
あへ?
「あは、あははー……。間違えちった」
「馬鹿にぃ……」
そんなに飽きれないで! 俺だって、俺だって頑張れば何でもできる子だよ! たぶん。
「ソラにぃ」
「ん?」
「それはフライパンの蓋なんだけど」
あら?
「たははー、ミスっちゃった♪」
「アホにぃ……」
うぅ、いつもよりため息が深いよ……。しかもアホって言った。久しぶりにアホって言われた!
「ソラにぃ」
「え?」
こ、今度こそフライパンだよ? 何もミスは犯していないぞ。
「もういいわ、なんか疲れた。お風呂入って寝るよ」
「え、うん。おやすみー」
「おやすみ、ソラにぃ」
なんで? 俺が疲れさせたのか?
「ソラ様、あのぅ」
「なに?」
「それ、油じゃなくて……」
「放せ! 放せと言っておるじゃろうが! 聞えんのか青年!!」
「あれ? えぇ!?」
あれ、俺、油を手にとったつもりだったのに、なんでウネ握ってるの?
「こっちが驚きたいんですの……」
「えぇい! 放せと言っておるじゃろう!」
「え、あ、ウネごめんね」
「ったく、なぜ私がソテーされかけなければならんのだ!」
「だっはははははははははは!!」
「ジャウネ! 笑うでない!」
「だって笑わなきゃ損だろ?」
「まあ、ウネが無事だったからいいですの」
「あはははははっ」
「笑うな!」
とまぁ、ウネとジャウネの不毛な争いが始まりまして……。
「なぁ、ローグ」
「なんですの?」
「なんで俺、油じゃなくてウネ握ってたの?」
「あぁ、それはですね―――あいたっ! 何するんですの!」
「鈍いんだよ!」
「ジャウネに同じく!」
「物は投げるものじゃありませんのー!!」
なぁんて、ローグも加わっちゃいまして。
あい、なぜ油じゃなくて、ウネを持っていたのかは聞けずじまいでした。
「コラ! 逃げるなジャウネ!」
「へっへーんだ! 相変わらずトロいなぁウネビガラブ」
「待ちなさい! 人様の家をめちゃくちゃにするのは許さないんですのー!」
君もね、ローグ。
翌朝、ウミにこっぴどく叱られていた三匹の妖精がいたというのは、また別の話。
水月五月雨さん作、『桜ヶ丘高校生徒会役員』とのコラボされました、はい。
こんなくだらないものとコラボなんていいのか? いいのですか!? なんて思いつつ、OKしちゃいました♪
私は書いていませんのですが、是非読んでみてくださーい。