13、ソラと馬鹿と疲れと。
あんな最低な日曜日は、何日ぶりだろう……。
「はぁ……」
「おはよう、ソラ」
「おはよ…」
「あら、奈津様。おはようございます」
「おはよう、波月」
「ローグとウネビガラブもおはよう」
あぁ、白馬の王子様が隣にいるのにぃ、俺の癒しである存在が隣にいるのにぃ。
「はあぁ……」
元気100倍もでない、有澄ソラ……。
「どうした? 元気ないけど」
「なぁんかさぁ、疲れた」
「何に?」
「んー、いもう―――。なんて言ったら殺されそうだ……」
「ウミちゃんか。あの子はソラ以上にいつでも元気だからね」
「元気ありすぎなんだよぅ。あの元気、少しわけてもらいたいものじゃ……」
「あー! ローグちゃんに、ウネちゃん発見!!」
あ、一番疲れる存在、忘れてたわ……。
「「ひえぇぇぇぇぇぇぇ」」
急いで俺のカバンに避難する、ローグ&ウネ。……ご愁傷様。
「あ、いたの馬鹿」
「馬鹿じゃないやい、有澄ソラだい」
「おはよー波月」
「おはよ」
俺はスルーかっ!
「ねぇ、波月はこんな馬鹿と毎朝話しながら学校に通って、疲れないの?」
「うーん。馬鹿っぽいところが面白いから、いいかな」
「ぽいじゃなくて、完璧なる馬鹿だと思うけど?」
「面白ければ、いいんじゃないかな」
「馬鹿でも?」
「うん、馬鹿でも」
すみません、隣で馬鹿馬鹿言われると、心にグサッグサッと矢が刺さるんだけど……。
「てか、俺には挨拶なしか、小娘」
「猿に用はないわ」
「猿じゃないやい、あす―――」
「はいはいはいはい」
「流したなぁっ」
「いいでしょ別に。あんたと話してると、ストレスが溜まるのよね」
「俺もだよ」
「じゃあ話しかけないでよ!」
「そっちが勝手に会話に入ってくるんだろう!」
「あんたに話しかける馬鹿はいないと思うけど!?」
「んだと!?」
俺と矢吹の目線がぶつかり合って火花を散らす。その間にいる波月は苦笑しながら、頭をかいた。
「俺、ソラに話しかけてるけど」
「波月はもちろん例外ね」
「波月以外にも話しかけてくる奴はいっぱいいるぞ!」
「波月は慈悲の心で話してやってんのよ、その他諸々もね!」
「優しいけど、ホントに波月は優しいけど、慈悲の心だけじゃないやい!」
「まあ、親友だからな」
「親友だから、仲良くしなくちゃいけない。あぁ、可哀相な波月」
「お前みたいな奴にたかられるローグとウネも哀れじゃわい!」
「んですって!」
「やるのかこのやろうっ!」
「柔道部主将の座を、甘く見ないで欲しいわね!」
「帰宅部長の俺の逃げ足の速さあなどるな!」
「ソラ、それ威張るような事じゃないよ。それにさ―――」
キーーーンコーンカーンコーーーン
「「む」」
「遅刻記録更新かな、俺達」
「私の今までの努力が水の泡に!」
もうダッシュで走り出す矢吹、ならぬ悪女。
「俺も遅刻は初めてかも」
なぁんて、楽しそうに言いながら矢吹に続いて走り出す波月、ならぬ白馬の王子様。
「あ、ホントに遅刻記録更新じゃ……」
なんてのどかに思う俺、ならぬ疲れた農民。
あぁ、なんでこんなに疲れてるのに、走らねばならぬか。
「ソラー! 先生がもう階段登ってるぞー」
「なんだとぅ!」
「いそげー♪」
……あくまで楽しそうな白馬の王子様であった。
*****
まあ、急いだかいがあって、滑り込み、超ギリギリセーフで遅刻は免れました。
「間に合ったという奇跡……」
「遅刻寸前って、あんなスリリングなんだな」
「楽しそうだね、波月は」
「遅刻なんて、初めての体験だったからね」
「真面目な良い子じゃのぅ、波月は」
「ソラがただ単に寝坊しすぎなだけさ」
うは、今のはちょっと心に刺さったよ……。
「ソラ様は反省するという心が欠けていますのよ」
「そうじゃな」
筆箱の上に偉そう座って何を言うか、ローグ&ウネよ。
「ちょ、ひどいよ」
「青年はもう少し波月を見習うべきじゃな」
「そうですわ」
激しく頷くローグに、真剣な顔つきなウネ。まあ確かに、授業の内容真面目に聞いてないよ。右から左に流れいくよ。意味を理解する前にもう次にいってますとも。でもさ、これでも結構頑張ってるんだよ。
「ちょっといいかい。消しゴムとりたいから」
「あら、ノートをきちんととっていたんですわね」
「珍しいな、寝ないとは」
え、俺ってそんな不真面目な感じですか? 不真面目な雰囲気ありますか?
「そんな意地悪いうと、仲間探してあげないぞ」
「「あ」」
ん? なぜか見事なハモリング。机の右端に二人が
「……そ、それはひどいですわ、ソラ様」
「そ、そうだぞ、青年」
んー、やけにあたふたしてるな。怪しい、これは怪しいぞ。
「もしや……」
「な、なんですの?」
「……なんだ?」
「わす―――あいだっ」
先生! 教科書で頭をはたくとはっ。生徒虐待ですか!? しかも角が当たって痛かったじゃないですか!
「ちゃんと聞いとるのか、有澄」
「何をですか?」
「教科書59ページ。3行目から読めと、何度言ったと思う?」
「初耳です」
「そうか」
「そうです。あはは」
「笑って済ませるな、全く……」
そんなあからさまにため息つかないで。こいつはダメなやつだとか思わないで。やれば出来る子だよ、有澄ソラは! 頑張る時は、頑張るよ! ほどほどにだけど!
「とりあえず、教科書開いて、さあ、読んでくれ」
「えぇっと……」
あー、何ページだったかな?
「有澄」
「あい? じゃないや、はい?」
「それは国語の教科書だ」
ん? 確かに国語の教科書ですな……。
「今は何の時間だ?」
ええと、月曜日課の2時間目は国語だね。うん。まちがいない。
「国語です」
「公民だよ、有澄……」
あれ? あれれー??
「あら、本当ですわ」
「本当だな」
時間割票の周りを飛ぶローグに、筆箱を枕にして横になっているウネ。
あれ? 公民は4時間目じゃなかったかな?
「あ、今が4時間目なのかぁ」
「「今気付いたのか!?」」
うむ、見事なハモりいただきました。まぁ、先生とウネじゃ、周りには分からないか……。
「どうもすいやせんでした」
「謝る時は、すみませんでしただろ」
「そうですねぇ、すみません」
えーっと、公民公民ムーミンッと……。あれ、何か違うのが混ざったような……。まあいいや♪
「あれ?」
「どうした?」
「教科書がありませんでしたー。アッハハ~」
あははー、どぉっこいっちゃたかなぁ。
「お前って奴は……」
あ、見捨てないで。見捨てないでよ、先生!
「ソラ、俺の貸してやるから……」
「おぉー。有難う波月」
と、言う事で、無事に事件(?)は解決です。
「ソラ様って、天然って言うか、なんと言うか……」
「ただ単に、単純に、馬鹿なだけじゃ」
「あら、珍しく意見が合うじゃない」
「そうだな……」
あぁ、やっぱりなんか疲れてるのかなぁ。ローグとウネに馬鹿だって言われた気がする……。