11、緊張しすぎかな?
しばらくの間、更新が出来なくて、大変申し訳ございませんでした。
これからは、こつこつ地道に頑張っていこうと思うので、応援よろしくお願いします。
愛しの給食の時間も終わって、今は職員室の前に来ております! 状況が把握できていない方は、前回をチラッと読んで、またお越しくださぁい。
「失礼しまぁす」
「有澄、ノックを忘れてるぞ」
「あ、すみません。やり直してきます」
「いやいや、時間の無駄になるからやらんでいい」
「じゃ、普通に失礼しまぁす」
時々ノックの存在忘れちゃうんだよねぇ。なんか、やらなくてもいい動作に思えちゃってさぁ。アハハ〜。
あり? そういえば、なんで俺ってここに来たんだっけ? ……まあ、いいや。話の流れで分かるだろう、多分!
「有澄、とりあえず、こっちに来なさい」
とりあえずって……そっちは校長室じゃないですか? 何? 俺、そこまで悪い事しましたか!? ……あ、バイトの事か? ああでも、バイトしないと生活費が……。
「失礼します」
「失礼しまぁす」
先生が入る前にノックしたから、俺はしなくていいんだよね? これ、常識(?)だよね。
「ああ、来ましたね。桜井先生、それに有澄君」
軽く会釈する先生に習って、俺もちょっとだけ頭を下げておく。礼儀として、これくらいはやらないといけない気がした。あ、桜井先生ってのは、俺の担任だから。……言わなくても、分かる……かな?
「まあ、貴方がソラね」
いきなり下呼び? しかも誰このおばさん! 全然知らないんだけど!?
あ、もしかして、教育委員会の人? え!? 俺って、そこまで悪い事した? え!? この状況的に退学処分? えぇっ!? そんなの嫌だよぅ!
「立派に育っているようだね」
そうやって褒めて、地獄のそこに叩き落すつもりだろ? 分かってるぞ! こんなに馬鹿な俺だって、それぐらい、……それぐらい分かるさ!!
ていうか、おじさんまでいらしたんですか!? え!? 教育委員会委員長的な人!? ヤバいじゃん、俺! 俺の立場、かなりヤバいじゃん!!
「ど、ども」
い、一応、挨拶はしとかなきゃ! い、印象を良くすれば、きっと退学処分が軽くなって、停学処分になるかもしれない! てか、そうなってください!!
「そんなに固くならないでいいのよ」
「そうだぞ、わしらは君を叱りに来た訳じゃないんだから」
いや、普通固くなって当然じゃ……。
あり? でも、叱りに来た訳じゃないって事は、何? え? 身柄を拘束しに来たとか? あり? もう思考がネガティブな方にしか働かなくなってるぞ。
そだ! ウミだけは許してもらえるようにしなきゃ! あいつには、何の罪はないんだからな!
「あ、あの……」
「なぁに、ソラ」
すみませぇん。異常に緊張するので、下呼びしないでください。いや、ホントにマジで緊張するんで、やめてください!
「あの、こいつにはまだ説明してないんです。元から上がり症な部分があるんで、ちょっとそっとしておいてはくれませんか?」
おお、先生! 有難う!! 俺の心は、先生の一言で救われましたよ!
「有澄、ちょっといいか」
「はい」
部屋の角におしやられてぇ、
「あの方達は、有澄の親だと言っているんだよ。……でも、有澄の両親はずっと前に事故で亡くなったはずだろ? それに今はおじさん達が面倒を見てくれているはずだ。何か身に覚えはないか?」
え、親? へ? 俺らの? は? この人達が?
「混乱するのは分かる。だが、本当にそう言っているんだ。私達は有澄ソラと、有澄ウミの父と母だって」
え、ちょいまち。俺らの親って、死んじゃったよね? 事故で。あり? て事は、もうこの世にはいませんよね。じゃあ何、この人達。俺らの親が、この人達? 全然似てないし、血の繋がりすら微塵も感じないし、上がりまくってるのに? ……最後のは違うか。
で、でも、とりあえず言える事。この人達は、全く知らない人であります!
「身にも心にも頭にも、全く覚えがございません」
「そうか。なら、それでいいんだ」
*****
「てな感じで、もうずっとパニック。おかげでお嬢様に叱られるし、親衛隊を名乗る人達に拉致られそうになるし。もう、ロクな日じゃなかったよ」
「そうでしたの」
「まぁ、親が出来るってのも、いいのではないのか?」
「ウネ、俺らの親は、あの2人だけでいいの」
お仏壇を指差して、麦茶をズズッと啜る。それにあわせて、実体化してるローグ達も、麦茶を啜る。……う〜ん、いい加減ドレスは見飽きたなぁ。服でも買ってきてあげようかな。あ、お金がないんだった……。
「さあ、ウミが帰ってくる前に掃除しないと」
「あ、私は部屋の掃除をしないといけなかったんですの」
「我は洗濯物を取り込まなくてはならなかったのぅ」
で、自分の仕事をすべく、去って行きましたぁ。
「♪♪〜」
「ご機嫌ねぇ、ソラ。学校で何かいい事でもあった?」
「いい事ですか? う〜ん、特にないです……ね!?」
振り向いてみてびっくり! な、なんと、昼間のおばさん達がいるではありませんか!
「ふ、不法侵入じゃ……」
「なぁに?」
俺の呟きなんてつゆ知らず、呑気でいいねぇ、この野郎!
「お母さん、何か手伝おうか? 掃除なら、得意だから」
「……いいです」
お、お母さんって、俺の母さんは、事故で死んだ母さんだけなんですけど……。
「そんなに緊張するな。私達の息子なんだから」
いや、緊張するなって、無理なお願いじゃないですか? ていうかこれは、不法侵入ですよね? 訴えますよ? そんな勇気があったらの話ですけどね。
「じゃあ、お母さんが腕によりをかけて夕ご飯作るから、待っててね」
え、いやいやいや! 勝手な事しないでくださいよ、困るから!
って、口に出して言えない! 緊張しすぎて、舌が回らない。
「あら? お客様ですの?」
ローグ! 君は心の救いだ!
「あら、このお嬢さんは誰?」
そんな嫌そうな目でローグを見ないでください!
部屋の掃除を終えて、実体化したまま戻ってきたローグは、俺の隣まで来た。訝しげに2人を一瞥すると、俺の耳元で囁いた。
「ソラ様のお知り合いの方達ですの?」
「ホラ、昼間言ったおばさん達って、この人達の事だよ」
ローグはうんうんと頷くと、さらに囁き返す。
「悪そうな人には見えませんけれど……、ソラ様は嫌なんですの?」
「だって、知らない人って俺は苦手……」
「じゃあ、私が何とかして帰ってもらいますわ。その代わり、今日の残りの当番を全て代わってくださいですの」
「喜んで!」
「なぁに? お母さん達には秘密の話?」
「すみません。気にしないでくださいですの。何でもありませんの」
「……そうなの?」
おばさんは眉を寄せて俺を見たけど、その視線の間に割って入ったローグが、ニコリともせずに俺が言いたい事を言ってくれた。
「はい。それより、ここには何をしに?」
「何って、私は母親ですよ。ここに帰ってくるのが当然でしょ?」
「けれど、ソラ様達のご両親は、既に亡くなってますわ。アナタが母親のはずがありませんわ」
「まぁ、失礼な子ね。私は、ソラとウミの母ですよ」
いえ、違います。お仏壇にある写真の人が、俺らの母さんです! そして、父さんです!
「じゃあ、あの写真の方々は?」
「あの方々も、ソラとウミの両親です」
「2人も両親はいませんわ。何かの間違いじゃなくって?」
いいぞ、ローグ! 畳み掛けて、ここから追い出しちゃえ!
「それもそうですよ。私達はソラの叔母様達から頼まれて、ここにやって来たのですから」
「叔母様達から、頼まれたって? じゃあ、叔母さん達に会ったの?」
「そうよ、ソラ」
思わず口挟んじゃった……うう、気まずいよぉ。
「いくら頼まれたからと言って、他人が勝手に人の家に上がっていいものではありませんわ」
おお、ローグ。まだ粘ってくれるのかい! 有澄ソラは、嬉しいです!
「勝手じゃない。きちんと許可は取ったよ」
お、黙ってたおじさんが口を開いた。寄り添うようにおばさんの隣に立つ。だけど、なんだか偉そうな立ち方だなぁと思った。
「誰にですの?」
「叔母さん達と、国にさ」
「え!?」
言い返す言葉も出ないいよぅ。国に許可取ったって事は、もう、戸籍上は家族にされてるって事だよね? ど、どうしよう、ウミが帰ってきちゃう。ウミが混乱しちゃうよぅ。
「息子達の意見も聞かずに、勝手に決めた事なんて誰が認めるか。彼らの意見を尊重しろ。それから親を名乗れ」
全員の視線が、その声の主に集まった。リビングの扉を開け放って、そこに寄りかかるオレンジの少女。ウネは口をへの字に曲げて、明らかに不服そうな面持ちでため息をついた。
「けれど、決まった事は決まった事だよ。覆されない」
「で、でも、……俺ら、今のままで、十分幸せにやってますよ」
は! また口を挟んでしまった!!
「本当に?」
「……」
「聞いているんだよ、ソラ」
どうしようどうしようどうしよう! こういう空気が嫌いだよぅ。言葉が出ないから、大嫌いだよぅ。
「ソラ」
「お、俺の親は、あの2人だけです。死んでしまったけれど……。あの2人だけが、俺の、俺らの両親……なんです」
よ、弱気になるなよ、俺。もう少し頑張るんだ、俺!
「それで?」
「……は、初めて会って、今日話したばっかの人に、あの2人につけてもらった名前で呼ばれたくない、です」
よく言い切った。偉い、偉いぞ! 今日だけは褒めるよ、俺!
「そうか。……じゃあ、気が変わる頃に、また来るとするよ」
すみません、もう二度と来ないでください。できればじゃなくて、本気で来ないでください。
「じゃあね。また、来るからね」
そ、そんな寂しそうな顔したってダメです! お、俺は、気持ちを変えたりしませんからね!
ガッチャン
ドアが閉まる音がした。ウネは小さく愚痴を言うと妖精の姿に戻って、俺の頭の上に乗った。ローグも同じように実体化を解くと、俺の右肩に乗る。はあ、やっと息が出来るよぅ。緊張しすぎ&酸欠で倒れそうだったよぅ。
「ただいまぁ。ねね、今誰か出てったけど、何だったの?」
「ウミ!」
もう帰ってきちゃったの!? いつもより、早くない!?
「どうしたのソラにぃ。いじめられた?」
「うぅ、違うよ。俺がいじめられる訳ないだろ」
「一番いじられキャラに見えるわよ、その顔」
「どんな顔だよぅ」
「そんな顔よ。で、あの人達、誰? 教育委員会か何かの人?」
おお、さすが妹。考える事が似通ってる……。
「バイトがバレた?」
「んにゃ、バレてないよ」
「じゃあ、何? って、どうしたのソラにぃ。泣きそうな顔して」
「今だけ泣かせてぇ」
「え!? ちょ、ちょっと待―――!」
怖かったよぉ。初対面の人、メッサ怖かったよぅ。ローグやウネ達がいなかったら、俺、俺ぇ……。
「……よしよし。いい子だから、泣き止みなさい、ソラにぃ」
「う゛う゛〜〜〜」
「良く初体面の人と会話できたわねぇ。偉い、偉い」
よしよししてくれるウミの手が、こんなに優しいとは思わなったよぅ。
「さあ、早く夕飯にしましょ。私、おなかが空いて、餓死寸前だよ」
「……うう、そうだな。夕飯にしよう。俺も、腹減った」
もう、こんな事は二度といやだぁぁぁぁぁ……。