隼人 偶然の発見
これは偶然なのだろうか。
隼人は今、アメリカ・ニューヨークのカフェにいた。手には少し色褪せたノート。その裏表紙が、目に映っている。
つい先ほど──。
一冊目のノートがどこにあるか思い出そうとしていた時だ。
(一冊目のノートは、アメリカだったかな。)
そう思った途端、景色が揺らぐあの感覚が襲ってきて、驚いて目を瞬いているうちに、このカフェに立っていたのだ。
真っ先に見えたのは、ノート。
水色の表紙は色褪せてはいたが、自分の名前はしっかりと残っていて、そして未だに窓際のテーブルには、そのノートが載っていた。
やはり、誰も見てないのか……。
そう思い、苦笑を浮かべながらそのノートを取った。
隼人には、本やノートを取った時に、裏表紙を確認する癖があった。本屋によく通っていて、値段表示を確かめる為に裏表紙を見ていたからだ。だから、ノートでも本でも教科書でも、とにかく裏表紙を確認することが癖だったのだ。
だから、隼人はノートを取った時、裏表紙を確かめた。
──そして、見つけた。
青色のペンで書かれた、少ないが確かなメッセージを。
『紺堂 文花 カナダに向かいます。』
こんなに確かな情報はない。これは、この紺堂という人が意図的に残した、存在証明に違いない。それも、自分のこのノートの裏表紙に書いたのだ。他に何といえよう。
カナダは、次のノートを置いた場所だ。紛らわしくならないように、二冊目からは一国で一冊、つまり一国に一月留まることにしていた。だから、彼女がノートを上手く見つけていれば、ここから順に追っていけばいつかは追いつく筈だ。
何としても、彼女に会いたい。
不老不死な動物達は星の数ほど見てきた。時には、寂しさを紛らわす為に彼らと喋ったりしていた。一人でいる時(ずっと一人だったが)も、喋れなくならないようにしょっちゅう独り言を言っていた。──しかし、人と喋れないことはやはり辛かった。
三年の月日の中で、人間の存在がいかに大切なのか骨身に染みた隼人は、このまま孤独に生きていくことはできないととうに悟っていた。もともと人が好きな隼人にとって、これほどの苦痛はなかった。
だから、彼女に合わなければ。
彼女がどんな人なのかは、さっぱり分からない。名前から想像するに女性、それだけだ。しかし、例えその人が男でも女でもオカマでもオナベでも赤子でも老人でも、とにかく会いたかった。
(カナダか。ケベックシティだったっけ。)
隼人は呪文を唱えるように素早く念じると、目を閉じた。ノートを抱きしめて。