オーロラの下で
あまり描写は多くないのですが、今回は『緑に侵食された人のいない世界』を意識して書いています。ですから、できるだけ『世界』の景色を思い浮かべて読んでいただけると嬉しいです。
僕は、幼い頃から音楽を聴くことが好きだった。イヤホンを耳に当てがって、その曲の物語を想いながら、自分の世界に沈む。
本を読むことも好きだった。ページをはらりと捲って、静かな時の中に、誰かが創り出した物語を僕なりに紡ぎ上げていく。
僕はきっと、誰かの物語を考えることが好きなのだ。知らない世界、知らない人。その人の周りにいる、誰か。空想の世界でも良かった。僕は多分、人が好きだったのだと思う。
昔読んだ本に、こんなことが書いてあった。
『世界でたった一人になっても、人はきっと、誰かを探し続ける。』
僕は、十四歳だ。本来なら、部活に汗を流して、勉強をして、友達と楽しく喋って、遊んで、少しだけ怠惰な、それでも充実した日々を送っていたのだろう。来年は受験だな、今、目一杯遊んでおかなくちゃな……。そんなことを思いながら、学校からの課題をこなしていたのだと思う。
実際、僕はそんな中学生だった。ありふれた、本と音楽が好きな中学生──の、筈だった。あの日が来るまでは。
生き物には、時間制限が存在する。死、というものがまず一つ。……そしてもう一つ。普通なら知りえない、時間制限がある。
僕はその、もう一つの時間制限──一つの死から、零れ落ちてしまったのだろう。そして、永遠の時間を、一人で過ごすことになってしまった。不思議な力を植え付けられて。
今、僕は北ヨーロッパにいる。
止まらない、残酷な時間の中で、僕は自分の知らない世界を旅して回った。知りたい世界がたくさんあったから。見たい景色がたくさんあったから。でも、理由はそれだけじゃない。
あの本は、間違っていない。
僕は、まだ希望を探しているのだと思う。半ば諦めながら、それでも、永久に。
空を仰ぐと、緑色の光が見えた。薄く透けた、天空の絹。満点の星空の中で、オーロラは風にはためく旗に見えた。
そろそろ、次の場所へ行かなきゃいけない。誰かを見つけるために。その前に、僕の想いを残しておく。
神様、貴方は本当にいるのですか?
もしも、神様が本当にいるなら、僕は貴方に尋ねたい。
どうして、僕が選ばれたのですか?