Scene7 ネ・ボ・ウ・シ・チ・ャ・ッ・タ
こんなはずでは!
そんな漫画みたいなセリフがあたしの頭の中を駆け巡っている。目が覚めたのは待ち合わせの5分前。
慌てて着替えを済まし、あたしは大急ぎで家を飛び出した。
「行ってきまーす!!」
あたしと諒さんは付き合い始めてもうすぐ2か月になる。しかし、丸1日一緒に過ごせるデートの約束というのは今日が初めてだった。
というのも、あたしは専門学生のため平日は夕方までほとんど授業があり、彼は居酒屋、つまり飲食店の正社員なので土日に休めることはほとんどない。
しかし、今月のシフトを見たとき、あたしは嬉しくてたまらなかった。偶然にも彼に土曜の休みがあったからだ。
今日から数えると半月以上前のその日から、何処に行こうか、何をしようか、最高に楽しそうなデートプランを2人で話し始めた。
あたしが今年の夏にオープンしたばかりの海沿いのショッピングモールに行きたいと言ったら、諒さんはそこのレストランフロアにある和風のカフェが気になるらしく、お昼はそこで食べようということになった。
その後も映画を見ようとか、近くの大きな公園を散歩しようとか、話題は尽きなかった。
しかし、あたしはやらかした。
走りながら鞄からスマホを取り出し、着信履歴の1番上に表示されている黄川田諒という名前をタッチして電話をかける。
「もしもし?ひかり、おはよー。」
2コール後に聞こえてきたのはいつもの優しい声だ。しかし、今のあたしにはそれを聞いて安らぐ余裕はない。
「もしもし!諒さん、ごめん!!あたし寝坊しちゃって、今家出たところなの!!」
恐らく待ち合わせ場所まで乗り換えが上手くいっても40分弱はかかる。
「んー。そうなのかー。」
あたしのへまのせいで彼をがっかりさせてしまっただろうか。それとも怒らせてしまっただろうか。せっかくの休みの日に無駄な時間を過ごさせてしまったことに罪悪感を覚える。
「じゃあさ、俺の部屋においでよ。」
「え?でも、それじゃせっかくのデートが・・・」
彼が普段と変わらないトーンで言うので、あたしは余計にペースを乱されてしまう。
「いーの、いーの。じゃ、待ってるね。」
そう言って諒さんは電話を切った。
耳からスマホを離し液晶を見ると<11:08>と表示されている。確かに当初の待ち合わせ場所に向かうよりは若干早く着くかもしれないが、そもそも寝坊なんかしなければ今頃楽しいデートになっていたはずなのに・・・。
あたしは慣れないヒールを履いてきたことを少し後悔しながら、いつもよりおぼつかない足取りで走り続けた。
息を切らしながら電車に乗り込み、土曜日の昼間らしくそれなりに混んだ車内で、あたしはもう1度スマホを見た。諒さんから
<気を付けておいで>
という、短いメールが届いており、ホッとするというよりは自己嫌悪に近い感情が沸き上がり始めた。なんで今日に限って・・・。
昨晩は金曜日にしてはお店はヒマで、いつもは終電よりも1、2本早い電車で帰るあたしが、当初のシフトよりも1時間ほど早く上がることが出来た。たまにはこんな日も悪くないと思いながらタイムカードに打刻しようとすると
「お疲れー。」
と後ろの方で声がした。
「あれ?上がり?早いね。」
諒さんには勤務中は年齢差や社員とバイトという立場もあって敬語を使うようにしているが、こうして自分の中のスイッチがオフになった途端にタメ語が出てしまう。
「うん。今日もともと早番でさ。でも、週末で仕込みが多いから更に早めに来たんだけど、客足はこんな感じだし。だから店長が気ぃ利かして、明日は休みなんだし今日はもう上がっていいよ、だって。」
そう言いながら諒さんは『漢気』という店名が入ったサロンを外しながら言った。
その店長は人当たりの良さそうな笑顔とビールっ腹が印象的なおじさんだが、中身は噂好きのおばさんみたいな人だ。
新しいスタッフが入ってきたら彼氏、彼女がいないと聞く度に誰とくっつくかなどという社内恋愛を傍から見て楽しんでいる彼は、あたしたちが付き合ってるのに気付いて以来、今日みたいなおせっかいやちょっかいをときどき仕掛けてくる。
そんなことを考えながら2人でスタッフ用の出入り口に向かうと、例の男おばさんは満面の笑みで
「りょーちん、ひかりん、気を付けて帰るんだよ。」
と、お見送りまでしてくれた。他のスタッフに対してもそうだが、最後に「ん」の付くあだ名を付けるのが好きらしい。
きっと店内に戻ったら「あいつら絶対に明日デートだよ。」などと他のスタッフに漏らしているだろう。
駅までの道を2人で歩きながら、明日は天気が良さそうだね、とか、もう10月だし海沿いの風は冷たいから上着を持ってきた方がいいよ、と話しているうちにあたしはもう浮き足立っていた。
帰りの電車はそれぞれ逆方向なので一緒にいられるのはホームまでだが、それでも明日はバイト先ではない場所で逢えると思うだけで、普段感じるようなちょっとした寂しさや切なさはなかった。
いつも諒さんは帰り際にあたしの頭をその大きな手で優しく撫でてくれる。今日も例外なくそうしてくれて、その温かさをいつも以上に感じられた今夜はきっといい夢を見られると思った。
しかし現実は、こうして彼の家に向かってる時間ですら、これが夢であってほしいと願ってしまうという悲惨なものだった。
諒さんのことは大好きだ。でも、それと同じくらい抱いている感情がある。
それはきっと人として彼を尊敬しているからだろう。今までの恋愛ではあまり意識してこなかったこと。
「嫌われたくない。」
不安になって電車の中であたしはそれを声に出しそうになった。
「ねーってば、2人とも聞いてる?」
「うん、聞いてるよ。」
と、理沙とあゆちゃんは声を合わせて言った。
あたしたちは今『GLDK』という雑貨屋さんに来ている。あゆちゃんの影響でここ数か月料理にハマり始めた理沙の買い物に付き合うためだ。
この3人で、というかこの2人に会うのは割と久しぶりだ。
さっきから丼ぶりとにらめっこしている理沙とは中学の頃から友達で、同じテニス部だった。高校も同じだったが、この春から彼女は四大に通い始めたので会う回数は減ったが、だからと言って何かが変わった気はしない。
きっと、あたしと理沙は真逆のタイプだし、お互い自覚もしているが、何故か一緒にいると妙に居心地がいい。いつも強気でボーイッシュな彼女があたしに刺激をくれてるのかも知れない。
そんな高校までテニス一筋だった二階堂理沙が幼馴染と19にもなって付き合い始め、彼のために料理だなんて当時の部員たちが聞いたら、どんな顔をするだろうか。これが恋の力というヤツか。
「先輩、この中だったらどれがいいと思います?」
「んー、わたしだったらこの1番大きくて浅いのかな。この形だったら丼物以外にもカレーとかサラダを盛ってもオシャレだと思うの。」
「なるほど・・・さすが歩美先輩。よし!これにします。」
理沙に食器選びのアドバイスをしているのは、彼女のサークルの先輩の四ツ谷歩美、通称あゆちゃんだ。
最初に理沙から紹介してもらったときにタメ語で話したら「私たちより年上なんだから敬語遣いなよ。」と突っ込まれたが、当の本人が「気にしなくていいよ~。」と言ってくれたので、結局そのままの言葉遣いで今に至る。というか、あたしはそういう堅苦しいのが苦手なのだ。
あゆちゃんの料理は本当に美味しい。全部お母さんから習ったらしいが、小さい頃から家で包丁すら握った記憶のないあたしからすれば凄いことのように思える。
そして彼女は隠れ巨乳だ。本人はその体型がコンプレックスらしく、いつもだぼっとした服で隠しているが、小柄でぺったんこのあたしからすれば胸が大きいのが悩みなんて、羨ましい話だ。
でも、以前に彼女の胸を鷲掴みしたら露骨に不機嫌になったので、それ以来その話題には触れないようにしている。減るもんじゃないし、女の子同士なんだから別にいいだろうに。
普段はいろんな人に「元気すぎる」だの「やかましい」だの言われるあたしが何故この2人をこんなに冷静に俯瞰しているかというと、完全に蚊帳の外だからだ。
料理が好きじゃない限り、こんな可愛いお店で食器を買うことはまずないだろう。
「ねー、2人ともー!」
3人で会っているのにこの状況に耐え切れずに思ったより大きい声が出てしまった。
「何かお探しですか?」
それに反応して、店員さんがこちらにやってきた。バツが悪くなり、あたしは「何でもないです・・・」と呟いて視線を逸らした。
その女子力の高そうな店員さんはにっこりとしながら会釈したので、そっと視線を上げて改めて彼女の方を見ると耳には小さな薔薇のピアスが光っていた。凄く可愛いし、彼女自身の雰囲気がこのお店にぴったりだと思った。
店員さんがその場を後にすると
「ひかりちゃんの彼氏さん、年上って言ってたよね?」
と、あゆちゃんが聞いてくれた。「彼氏さん」という響きがむずがゆい。
「そう!そうなの!!なんかね、あたしってきっと年上の彼氏が相性いいと思うんだ。」
嬉しくなってまた声のボリュームが大きくなる。
「やけに嬉しそうじゃん。でも、ひかりって今までも年上の彼氏いなかったっけ?」
「いたけど、やっぱり学生と社会人じゃ全然違うよ。しかも諒さんイケメンだし、仕事もデキるんだよー。」
質問に対してハイテンションで応えるあたしに、理沙はあたしの心情を悟るような表情を崩さず「諒さんっていうんだ。」と相槌を打った後
「そしたらさ、いろいろ気を遣ってあげなきゃじゃない?まだ学生の私たちが言うのも変だけど、仕事がデキるってことはそれなりに大変な思いをしてるってことだろうし。」
と続けた。
「そうだよねー、わたしも自分の彼がバイトで疲れてるだろうなってときは電話よりメールにしたりとか、デートのときも半日くらいは家で過ごしたりするようになったもん。」
あゆちゃんもそれに便乗する。
確かに、あたしは好きな人ができると周りが見えなくなるタイプかも知れない。いや、実際にそうだった。片思いだろうが、付き合おうが、それが原因でフラれたことも何度かある。
「だ、大丈夫だよ。一緒に働いてるし・・・それに・・・いつも優しくしてくれるから・・・」
上手く言葉が見つけられない。これまであまり考えないようにしていたが、確かに7つも年上の諒さんにあたしがどう見えているかなんてわからないからだ。
「まぁ、今度の人は確かに相性良さそうだし、大人の余裕もあるだろうから上手くいきそうだね。陰ながら応援してるよ。」
理沙は屈託のない笑顔でそう言ったが、あたしの胸の内はなかなか晴れない。
「小さな気遣いとか、言葉のチョイスには気を付けてね。」
あゆちゃんも優しい笑顔で言う。「言葉のチョイス」という言葉の意味が自分の中で理解できずにいた。
大丈夫、嫌われたりなんかしない・・・あたしはそう自分に言い聞かせることしか思いつかない。
自宅の最寄り駅から乗ってきた電車を降りたあたしは、諒さんの家の最寄り駅まで行く電車に乗り換えようと階段を降りてホームに向かっていた。
そこで自販機の近くに置かれている鏡を見て気付いてしまった。いや、むしろ慌てすぎてここまで気付かなかった自分を恨んだ。すっぴんだ。
あまり気は進まないが車内でメイクを済ませるしかない。
あたしと諒さんが付き合い始めたのは、というかあたしが彼を好きになったきっかけは今年の夏にあった店の飲み会だった。
男女比8:2くらいのうちの店の飲み会は、酔いが回ってくると男性陣のくだらない下ネタのオンパレードになりがちなのだが、この日は女性陣が全員出席して恋バナで盛り上がっていたこともあって男性陣もそれに便乗していた。
そこであたしは、諒さんがあたしが働き始める少し前に当時の彼女と別れていたことを知った。みんなから「ホントは遊んでんだろー?」などと絡まれていたが、当の本人は
「いやー、彼女ほしいっすよ。」
と笑っていた。そのおどけながらも少し切なさを含んだ笑顔が年上なのに可愛く思えたのをはっきりと覚えている。
あたしが店に入ったばかりの頃からいろいろ教えてくれたり、フォローしてくれたり、カッコよくて仕事のデキる彼のことはずっと尊敬してきた。でも、絶対に彼女がいると思っていたし、恋愛対象として意識もしなかった。
だけど、このとき「もしかしたらあたしにも・・・」という小さな望みに火が着いた。
夏休みに入ってこれまでよりも多く出勤できるようになり、他のバイトの子よりも諒さんとシフトが被ることが多かったのもあって、想いは日に日に強くなるばかりで、8月の終わりにはそれが抑えられなくなっていたあたしは自分から告白しようと決めた。
それも、諒さんが閉め作業の担当の日に自分が退勤した後、他のスタッフが帰って彼が店に1人でいるタイミングを見計らって店に戻って。
というか、これぐらいしか周りに気付かれずに2人きりになる方法が思いつかなかった。
店を出た後、近くのファミレスで時間を潰していると、自分の心拍数が上がっているのがわかった。
もうとっくに終電の時刻は過ぎている。フラれたらきっとここに戻ってきて、メソメソしながら1人で始発を待って、ひと夏の恋の終わりを噛みしめるのだろう。
そうこうしているちに閉店時刻も過ぎ、そろそろ閉め作業も終わるであろう時間帯になっていた。
あたしがファミレスを出て店に戻ると諒さんはレジを閉めていた。
「お疲れ様でーす。」
あたしはわざと明るく声をかける。
「あれ?どうしたの?」
一瞬いつもの笑顔を見せてくれたが、彼の表情は突然曇った。その後は「なんで帰らなかったの?」や「親御さんは知ってるの?」などと質問責めに遭い「友達と飲んでたら終電なくなっちゃって・・・」とか「本当はその子の部屋に泊めてもらうつもりが、向こうの彼氏が来ちゃって・・・」などと適当な嘘を吐いて誤魔化すのが精一杯だった。
呆れた表情でレジ閉めを続ける彼はそれ以上口を開かなかった。あたしも本来の目的よりも、この居心地の悪さをどうすることも出来ずに黙りこくっているだけだった。
「ほら、行くよ。」
レジ閉めを終えた諒さんはこっちを見て言った。一瞬驚きながらも
「諒さん、怒ってますか・・・?」
と、あたしが応えると
「別に怒るとかじゃないけどさ、ひかりちゃんは女の子だし、まだ未成年なんだから。バイト帰りにもしものことがあったら、それはひかりちゃん1人の責任じゃないんだよ。だから、このことは店長やみんなにも内緒にしといてあげるから。もうこんなことしないって約束して。」
自分の軽率さと彼の優しさに胸が締め付けられた。もう我慢できない。
「だから今日は俺が朝まで相手してあげるから・・・って、どうしたの?」
「・・・なさい・・・」
自分の瞳から頬を伝うものの温度を感じる。
「ごめん・・・なさい・・・迷惑かけて・・・ごめんなさい!」
声を絞ってそう言うのがやっとだった。
「あーもう、泣くなよー。俺が悪者みたいだろ?」
そう言って苦笑いしながら、諒さんはあたしの頭を優しく撫でてくれた。なし崩し的になってしまったが、気が付くとあたしは彼に抱き付いていた。内容はどうあれ、作戦は決行したわけだ。
あの日ことを思い出すと、また瞳が潤んできてアイメイクがちっとも上手くいかない。
その矢先、電車はあたしの予想より早く目的地に着いたと思いきや、これで予定通りだった。あたしが気付かずに乗っていただけで電車は急行だったからだ。
思っていたより早く着いたことを喜ぶべきか、メイクが中途半端なことを悲しむべきかはわからないが、あたしは出来上がり切っていない顔のまま、メイク道具を化粧ポーチではなく鞄に直接突っ込んで再び走り始めた。
改札を抜けて彼の部屋までの道を走り出すと、急に強い風が吹いて帽子を飛ばされそうになり手を伸ばした。
しかし、帽子はキャッチできたもののそのままバランスを崩してあたしは転んでしまたった。鞄のファスナーを閉め忘れていたので化粧品が地面に散らばる。
人目は気になったが、もう涙を抑えられなくなっていた。
泣きながらメイク道具を拾い、帽子を被り直して立ち上がると、膝に久しく感じていない痛みを覚えた。膝を擦り剥くなんて中学の頃の部活以来だろう。
「ひかり、どうしたんだよ?その顔とケガ?」
インターフォンを押すと、諒さんはすぐに出てきてくれた。
「ね・・・寝坊して・・・ごめんなさい・・・。」
泣けば泣くほど中途半端なメイクが更に崩れることはわかっていたが、もうそれどころじゃなかった。
「なんだよー、俺は別に気にしてないのに。まぁ、いいよ、上がって。」
泣きながら諒さんに手を引かれて部屋に入るあたしは傍から見たら、まるで駄々っ子みたいじゃないかと思った。
涙も一旦引いて、お風呂場で顔と膝を洗ってきたあたしは諒さんからもらった絆創膏を貼っていた。
擦り傷自体はたいしたことなかったが、思ったより派手に転んだからなのか青あざが出来ている。しばらく生脚はさらせそうにない。
そして完全なすっぴんを彼に見られるのはこれが初めてだった。
「ほれ、お茶。」
諒さんはキッチンから2人分のお茶を持って、男性の1人暮らしにしては少し広めのリビングに入ってきた。
「なんで泣いてたの?」
あたしの隣に座った彼は優しい声でそう聞いてきた。
「だって・・・諒さん休み少ないし、その中で丸1日2人でいられる日なんて今までなかったし・・・これからも何回あるかわかんないし・・・」
「それで?」
「あたしのせいで嫌な思いっていうか・・・無駄な時間遣わせちゃったのが申し訳なくて・・・」
また瞳が潤んできた。
「きっと、こんなことしてたら嫌われて、フラれるんじゃないかと思って・・・」
そのとき彼はいつものように優しくあたしの頭を撫でてくれた。
「ひかりはさ、普段は元気で明るいくせに、俺のことでいろいろ考えすぎなんだよ。寝坊してデートの時間や予定が変わったくらいで俺がひかりのこと嫌いになると思うか?逆だったらどうする?」
「諒さんが寝坊して遅れて来たら?」
彼は黙って頷いた。
「・・・それくらいじゃ全然嫌いになんかならないよ。」
当たり前だ、そんなちっぽけなことで嫌いになれるわけがない。
「だろ?俺も一緒。デートの予定はまた組み直せばいい、一緒にいたけりゃ時間はどうにか作る。ひかりはもっと自然体でいればいいんだよ。そっちのひかりの方が俺は好きだぞ。」
「本当に?あたし、迷惑とかお荷物になってない?」
気が付くと、告白の時と同じようにあたしは彼に抱き付きながらまた泣いていた。
「ああ。」
そう言いながら諒さんはまたあたしの頭を撫でてくれた。
「ほら、ちゃんと顔見せて。すっぴんでも、へましても、ひかりはひかりなんだからさ。俺はそんなひかりが好きだから付き合おうって思ったんだ。」
「あり・・・がとう・・・」
あたしはやっと安心して彼の瞳を見ることが出来た。
「よし!じゃあ、もう今日は泣くなよ。腹減ったろ?すぐにメシできるから、待ってな。」
☆ソース焼きそば☆
材料(2人分)
・焼きそば用麺・・・2玉 ・豚肉(細切れ)・・・150g
・キャベツ・・・1/8個 ・タマネギ・・・1/2個
・もやし・・・2/3パック ・サラダ油・・・適量
・焼きそばソース・・・大さじ4~5 ・ウスターソース・・・大さじ1~2
① キャベツとタマネギは食べやすい大きさにカットする。
② フライパンの底から1cmくらいのところまでサラダ油を注ぎ、中火にかけて軽く温まってきたら麺を入れ菜箸などでかき混ぜながら水分を抜く様にして揚げ焼きにし、麺から出る気泡が小さくなってきたらザルなどに上げて油をしっかり切る。
③ 余分な油を切ったフライパンに豚肉を入れて塩をひとつまみ振ったら中火で炒め、肉が色づいてきたらタマネギも炒め、しんなりしてきたらキャベツともやしも加えて炒める。
④ ③に焼きそばソースを加え全体に馴染ませたら②の麺を戻し、しっかり混ぜ合わせるようにして炒め、仕上げに鍋肌からウスターソースを垂らす。
⑤ 器に盛り、お好みで青のり、紅ショウガ、目玉焼きなどを添える。
HIKARI’s Point♪
「このレシピの最大のポイントは②なんだって!意外な調理法かも知れないけどこうすることでもっちりとしたコシの強い麺になるみたい!加熱しすぎて皿うどんみたいにならないように気を付けてね!」
☆スパムおむすび☆
材料
・スパム(5ミリ幅にスライス)・・・4枚 ・ごはん・・・適量
・マヨネーズ・・・適量 ・サラダ油・・・適量 ・海苔・・・適量
① スパムをサラダ油を少量敷いたフライパンで両面がカリッとするまで中火で焼く。
② ラップを広げ帯状にカットした海苔を敷き、①のスパム、マヨネーズ、軽く握ったごはんの順に載せ、海苔を巻きつけてそのままラップでくるんで形を整えながら握る。
HIKARI’s Point♪
「マヨネーズやごはんは欲張るとはみ出して海苔で巻けなくなるからほどほどに!」
本当にお昼ごはんはすぐに出てきた。
さすが何年も居酒屋で働いてるだけあって手際もいい。炭水化物+炭水化物という組み合わせはいかにも男の料理といった感じだが、やっと気持ちの落ち着いたあたしの嗅覚と胃袋にはこのソースの香りは堪らなかった。
「いただきまーす。・・・美味しい!!」
「だろ?たかが焼きそば、されど焼きそば。このレシピに辿り着くまで苦労したんだからなー。上手く作れるようになるまで何度も特訓してさ、先輩とか店長に『こんなもん客に出せるかー!』とか叱られて。」
「諒さんにもそんな頃があったの?」
スパムおむすびをかじりながらあたしが聞くと
「当たり前じゃん。俺の人生なんか失敗だらけだよ。店に入って最初の1年なんて毎日怒られてたし、恋愛だって・・・初めて付き合った彼女とは最初のデートの日に別れたね。」
「え!?いつ?なんで?」
「高校のときだったかな?緊張しすぎて前の日寝れなくてさ。一緒に映画観に行ったら、気が付くとエンドロールで、隣にはもうその子いなくて・・・。ケータイ見たら『やっぱりお友達のままでいましょう』だって。」
そのことを笑いながら話す諒さんに少し親近感を覚えた。今まで引っ掛かっていたのは、きっと大好きなのに何処か遠くにいる存在のように彼を思っていたからかも知れない。
「意外!でも、そんな諒さんも見てみたかったかも。」
「たぶんこれから嫌というほど見ることになると思うぞ。だから、ひかりも余計な心配しないでいいんだよ。」
笑顔を崩さずそう言ってくれる彼のことが改めて愛おしく思えた。
結局その後はのんびり諒さんの部屋で過ごすことになった。
何でもないけど凄く特別な時間。何処かに行ったり、何かをするよりも、きっと今はこういう時間の方が大切な気がした。
あたしは彼のことを嫌いになれないだろうし、彼のあたしを好きだという言葉も素直に信じたいと今は思える。
「諒さん、今度はきちんと起きるから、お出掛けしよね。」
と、あたしが寄り添いながら言うと
「そしたら次は俺が寝坊したりしてな。」
と、彼は笑った。あたしも連られて笑いながら、これからはもっと自信を持って、自分たちなりの形で関わっていきたいと思った。
だって、この恋はまだまだ始まったばかりなんだから。
<落ち込みそうになったときでも、あたしが笑っていられるのは、
あなたの優しい声と、大きな手があるからだよ。>