Scene6 ト・シ・ウ・エ・ト・シ・シ・タ
「山吹伊織です!よろしくお願いします!」
約半年前、今年の4月1日。彼は私の勤める会社に入社し、私と同じ営業部に配属になった。
つまり、私の後輩であり部下になった。そして、彼が私の恋人になるのにそれほど時間はかからなかった。
左手の手首の内側を見ると待ち合わせの時刻まであと10分を切っていた。
伊織君に逢うのは半月ぶりだ。何気にこんなに顔を見なかったのは出逢って以来初めてだということを改めて思う。
もちろん今は恋人としての意識の方が強いが、それ以前にというかそれと同時に同じ会社の社員なわけで、夏季休暇を除けば基本的には嫌でも平日5日間、たまには土日も仕事場で顔を合わせる日々がもう半年も続いている。
社内恋愛を今まで経験してこなかったわけではないが、上手くやれているとは思う。仕事中は一貫して「山吹君」と呼び続けているし、必要以上の会話も避けている。
うちの部署のメンツにはきっと私たちが付き合っていることはバレていないはず。お互い恋人がいるとはみんなには言っているものの、それがこんなに近いところにいる相手だとは予想してないだろう。
写メを見せろだの紹介しろだの何度か言われたが「いやいや、あなたたちも毎日見てるから。」というツッコミを入れたい気持ちを抑えて、かわし続けている。
年下とは付き合ったことがなかったので最初こそ戸惑っていたが、いわゆるゆとり世代のど真ん中にもかかわらず彼は凄く良識があって、仕事熱心だ。
そして恋愛においても真摯に私に向き合ってくれているのが伝わってくる。
そんな伊織君と親密になったきっかけは今年のGW頃。
4月に入社した彼を含む3人の指導係を任された私は、特に感情移入することもなく3人とも平等に接してきたつもりだった。
というより就職したばかりの頃の自分を振り返り「5年目、もう中堅かぁ。」などと思った程度で、上司に渡されたマニュアル通りの指導項目を日々こなしていただけだった。
しかし、相手は新入社員だ。上司である私が張り切っていないと、きっとモチベーションも上がらないだろうと思い、普段よりも元気なフリをしていたら周囲からは「頑張ってるね」と頻繁に声をかけられ、研修中の彼らも思ったより早く成長してくれたのでまんざらでもなかった。
そして、もうすぐ研修が終わろうとしていた4月の終わり頃、最後の課題は私が抱えている仕事の補佐を務めるというものだった。
とは言っても私が1人で行く予定だったプレゼンに同行させ、営業の醍醐味とも言えるクライアントとの関わりや実際のプレゼンの様子などを見学してもらい、資料を配るなどの簡単な仕事は手伝ってもらうという感じだ。
先方にも新入社員を研修の一環で同行させる旨は伝えてあり、普段から私が親しくさせていただいてることもあって「気軽にどうぞ」と担当の方からも言ってもらっている。
しかし、その前日である。伊織君は季節外れのインフルエンザで寝込んでしまい、出社出来なかった。
ちょっと熱がある程度なら「這ってでも来い!」となりそうだが、周囲に感染する可能性があるとなれば仕方ない。というか、みんなGWを目前に浮かれていたので、このタイミングで体調を崩してたまるかという勢いを感じるのがうちの部署だ。
そんなこんなで会社側が彼に出した結論は連休返上で「私からの指導を受ける」というものだった。つまり指導係の私も巻き添えを食らったわけだ。今年のGWは久しぶりに実家に帰ろうと思っていたが、もちろんキャンセル。
誰もいない営業部のオフィスで私による彼のための補習授業のようなものが始まった。
その初日、会って挨拶をするなり彼は私に平謝りしてきた。そうなる気持ちもわからないでもないが仕方ないことだ。私も「気にしないで。」の一点張りで、その様子は我ながら妙におかしかった。
そんな調子で始まったこの研修の特別コースは予定以上に順調に進み、毎日フルタイムではないとはいえ本来なら5日間まるまるかかるところが4日目で終わりそうだった。
私自身も指導係を務めるのは初めてだったこともあって、人材を育てる面白みを実感していたうえに、彼の飲み込みの早さはこちらまで嬉しくさせてくれた。
そのご褒美と言いたら語弊があるが、予定の空いた最終日の夜に
「もし良かったらごはんでもに食べに行かない?」
と私から誘った。単なる部下とのコミュニケーションのつもりではあったが、まだあどけなさが残る瞳をキラキラさせて嬉しそうに返事をする彼が凄く可愛く思えたのを今でもよく覚えている。
それをきっかけに急に親しくなり2人で何度か逢っているうちに、彼の方から告白してくれて今に至る。
あれから5カ月が経ち、今となっては彼も戦力の1人として数えられるくらいに成長した。
今日は2週間の外部研修を終え、彼が帰って来る日だ。
年下の彼氏というのは初めてだが私たちの関係はとても順調だ。というか、これまで気付かなかったが、今の私には伊織君のようなしっかり者の年下がぴったりなんだと思う。
今までは無理に相手に合わせることで「お似合いの彼女」でいようとしていたのか、その結果、本音を言ったのがきっかけでケンカになったり、相手に本心を見透かされて別れたりということが何度かあった。
だが、若さ故なのか素直な伊織君に対してはいつでも自然体の自分で接していられてると思った。
本当に順調だ。少なくとも今は・・・。
伊織君が研修で会社を離れていた先週のこと。
「あ、彩乃ちゃん、お疲れ様―。」
社内の休憩スペースで私に声をかけてきたのは製作部に所属するデザイナーの八城ミナミさんだった。彼女とは入社した年が同じで、2年目くらいからは一緒に仕事する機会も増えたため親しくしている。
とは言っても彼女は専門卒の中途採用なので社会人としては私よりも丸3年先輩で年も1つ上だ。
前の会社の同僚だった人と今でも付き合っているらしいが、いつも恋より仕事という生き方を体現したような人なので、よく続いてるなと思う。
「あのショッピングモール、売り上げいいみたいだね。」
最近もいくつも企画を掛け持ちしているはずなのに、疲れた顔を見せずにコーヒー片手にニッコリ微笑むミナミさんは働く女性の理想形のようにも感じる。本当に仕事熱心でいつも頑張り屋のお姉さん。きっと、私には真似出来ない。
「はい。そろそろクリスマスと年末年始のセールの広告のデザインも発注がかかるんじゃないですかー。」
「うわー。もう9月半ばだもんねー。今年も早かったなー。」
今年の夏にうちの会社がオープンに向けて携わった大型ショッピングモール。
海が見えるそのロケーションとアクセスの良さも相まって、世間で言うところの夏休みに合わせてのオープンは商業的に大成功を収めた。
会社的にも相当大きい仕事で、まさに総力戦の最中にはトラブルも多々あったが、こうして無事に形となりクライアントからも長い付き合いをしていきたいとお褒めの言葉をいただいている。何よりこんな大きい案件を取ってきた我ら営業部の株は社内で急上昇だった。
「でも、また納期の2日前とかにちゃぶ台返しは勘弁だよねー。」
そこにトレードマークの赤いフレームのメガネを拭きながら入ってきたのが三村貴未恵さんだ。いつも思うが咥え煙草と金髪が似合う。
「きみさん、お疲れ様です。」
「お疲れー。あれはしんどかったなー。おばちゃんをあんまりこき使わないでほしいよねー、この会社。」
と冗談っぽく笑いながら言うきみさんに合わせて私とミナミさんも笑う。
フリーのコピーライターとしてうちの会社に出入りしている彼女に初めて会ったときは恐い人なのかと思って構えてしまったが、誰に対してもフランクに接してサバサバしている姿に今では少し憧れさえ覚える。
ただし、酔って私にセクハラをしてくるときを除いて。
「ていうか貴未恵さんがおばちゃんだったら、わたしたちもみんな同類じゃないですか。」
「いやー、八城。28と29の差はね、でかいよ。来年になったらわかるって。」
「でも、そんなに年の離れてない私が言うのも変ですけど、きみさん若いですよ。」
「そう?つーか、最近自分でも若返ったような気がするんだよね。ガキみたいなヤツと付き合ってるからかなぁ。」
「あ、音也さんですか?上手くいってるんですね。」
ミナミさんはいつもの笑顔を崩さず相槌を打つ。
「まーねー。ほんっと、写真撮る以外は能が無いんだけど。でも、この前とか珍しくあたしの好きな店のケーキとか買って来てさ、誕生日でもないのに。どうしたの?って聞いたら、いつも部屋片付けたりメシ作ったりしてもらってるから、って。なんでこのタイミングなのかわかんないけど、そういうネタは尽きないかもね。」
「そういえば、彩乃ちゃんは?あんまり話さないけど、貴未恵さんと同じくらいの時期に彼氏できなかったっけ?」
「え、ええ。できましたけど・・・。」
頼む、今この場所ではその話題はやめてくれ。
「あー、言ってたよね。確か同じ営業部の後輩って・・・」
「ストップ!きみさん、声大きい!!」
と言った私の方がよっぽど大きい声を出していた。周囲を見渡して決して広くない休憩室には私たちしかいないことを確認すると、少しホッとした。
「このことは会社では内緒にしてるんです。」
私は声のトーンとボリュームを下げて言った。
「なんで?彩ちゃんってそういうことあんまり気にしないタイプじゃない?」
きみさんの瞳が赤いフレームの奥でクエスチョンマークを描く。これまでの私は確かにそうだったと思う。
「私は別にいいんですけど・・・彼が・・・」
「あ、なるほど。」
ミナミさんがいつもの調子で相槌を打ってくれる。
「うちの会社ってそんなに大きくないじゃないですか。だから女子トイレとか、エレベーターで女だけになったときって出来損ないの掲示板みたいで・・・」
「あー無理無理。あたし、そういう女同士のゴタゴタって苦手。」
きみさんも察してくれたらしい。
「そう。ほら、私が2年くらい前に付き合ってた人って会社辞めて転職したの覚えてます?」
「あー、そんな人もいたね。で、その理由が・・・」
さすがミナミさん。同じ会社に何年もいるだけある。
「あたしがとてつもなく酷いフリ方をしたからってことになってたんですよ、一時!」
「仮に事実だったとしても、それで辞めるとかどんだけ豆腐メンタルだよ。」
きみさんは苦笑いしながら新しい煙草に火を着けた。
「ホントですよ!!っていうか、フラれたの私の方だし!!」
「彩乃ちゃん、落ち着いて。」
ミナミさんはきみさんとは違ったタイプの苦笑いを浮かべている。
「まぁ、過ぎたことはいいとして・・・。今の彼、新人の中では営業成績がトップで。そこで上司の私と付き合ってるのが周りに知れたら絶対に良くない噂が立つ気がして・・・。」
「考えすぎじゃない?」
きみさんの眉間に皺が寄る。
「でも、貴未恵さん、うちの会社の出来損ないの掲示板って意外とやっかいですよ。」
「特に、うちの彼まだ新卒ですから。それこそ実は豆腐メンタルかも・・・。」
ミナミさんに私も続く。
「あー、めんどくせ―なー、女って。」
きみさん、私も同意します。そして、あなたも女です。
噂のことはさておき、半月ぶりに逢えるのは正直言って嬉しかった。
そんな伊織君のために私は自宅の近くにあるスーパーの精肉コーナーでステーキ用の牛肉とにらめっこをしている。値段はこの際どうだっていい、とびきり美味しければ。
相手は23歳の好青年だ。こういうがっつりした料理が好きなのはわかっている。
しかし、若いとはいえ健康にも気を遣ってほしいと思うのは私が四捨五入してもう三十路だからだろうか。先に籠に放り込んだ野菜スープの材料がときどき左右前後に転がる振動がそんなことを思わせる。
肉を選び終わり会計を済ませた私はスーパーを出て、家路を急いだ。今日は午後の打ち合わせを終えてから直帰したとはいえ、もう夕方の5時過ぎだ。
待ち合わせの時刻まであと1時間ちょっと。ステーキは焼くだけだが、さすがにスープは作り終えてから彼を迎えに行きたい。
部屋に戻ってきた私はすぐにキッチンに向かい、野菜を切り始めた。
彼氏のために料理を作るなんてもう何度も繰り返してきた行為だが、数年前の私からしたら考えられないだろう。
まだ大学生の頃、家庭的な女性が好きだと言っていた当時の彼氏のためにお弁当を作ったことがあった。それまでろくに料理なんかしたことなかったが、売れっ子のフードコーディネーターが出したビギナー向けのレシピ本を見ながらだったこともあって見栄えは悪くないと思った。
しかし味は散々なものだったらしい。確かに自分で味身はしなかったが、分量通り作ったのに・・・。
その数日後に「別に苦手なことを無理してやらなくていいのに」と言われたのがカチンときて(今思えば彼の言っていたことはもっともだが)ケンカになり、そのまま別れてしまった。
でも、転んでもタダでは起きないのが私という女だ。それから授業とバイトの合間を縫って料理教室に通い、基本的な家庭料理はほとんどマスターした。
今となっては社外に出ることが多くなったため作る機会は減ったが、新人の頃なんかは毎日手作りのお弁当を持って出社していたので、男性陣からは必要以上にちやほやされたものだ。
そんな過去を振り返っているうちにスープの支度は終わり、時計を見ると約束の時刻まであと20分くらい。待ち合わせの最寄り駅までは徒歩5分ほどだが、少し早めに家を出ると外はもうすっかり暗くなっており、陽が落ちてからの秋の風は想像以上に冷たく感じた。
駅までの道を歩いていると後ろから楽しそうな笑い声が聞こえたので振り向くと、大学生と思わしきカップルが手を繋いで歩いていた。
「ねぇ、蓮君。ここの駅前って11月くらいからイルミネーションが凄い綺麗なんだって。」
イルミネーション。もうすぐそんな時期か。大学を卒業してから月日が経つのが物凄く早く感じる。こうして季節を感じる感覚さえ鈍り始めているのは年齢のせいだろうか。
「じゃあ、一緒に見に来よっか。今日行ったのとはまた別の店のプリンも食べてみたいし。」
男の子の方がそれに答える。プリンが好きなんだろうか。
「すっかり蓮君もプリンにハマっちゃってー。」
「歩美の影響だよー。」
なんとも若々しくて、微笑ましい会話だ。
彼らの方が私より早く歩いていったので一瞬すれ違う形になって2人の顔をちらっと見たが、1年くらい前までは伊織君もあんな感じだったのかと思うと、年齢差という現実を感じずにはいられなかった。
そんなことを考えていると、次は高校生のカップルが自転車を2人乗りしながら通り過ぎていった。。
割と新しい自転車と少し大きめのブレザーが男の子の方はきっとまだ1年生なんだと私に感じさせた。そして歳の割に少し派手なメイクをした彼女の方はきっと先輩だろう。すれ違い様に
「あたしが卒業して寂しくなっても浮気しないでよ。」
という言葉を残して私の前から遠ざかっていく彼女たち。
学生らしい会話だと一瞬思いつつも、何故か他人事として受け止められなかった。
私が27、伊織君は23。決して大きな歳の差ではないと思う。だが、それは27歳の私から見た場合だ。23歳の彼から見たらどうだろう。
単に今はこの年代にありがちな興味本意で私と付き合っている部分もあるかもしれないし、ましてや同じ年齢だとしてもその意味合いは男女によって大きく分かれる。
彼が27のときには私はもう31だ。そのとき私は今の会社に勤め続けているのか、彼との関係はこのまま続くのだろうか。
それ以前にまだまだ多感な彼が今と同じように30を過ぎた私を愛してくれるのだろうか・・・。足枷にはならないだろうか・・・。
きっと4年後も私はそんなに変わらない。でも、きっと彼は大きく変わるだろう。そのときのことを考えると・・・いや想像すら出来ないのに何故かとても怖くなった・・・。
「彩乃さーん!」
大袈裟なくらいに振られた彼の腕はまるで犬の尻尾のように思えておかしかった。駅前で人目もはばからずこういうことが出来るのは、やはり若さの賜物だ。
「お疲れ様。それと、お帰りなさい。伊織君。」
「彩乃さんの部屋に来るの久しぶりだなー。」
伊織君がそう言うのは研修でこの街を離れていたからではなく、本当に久しぶりだからだ。たぶん最後に来たのは夏休みだったと思う。
「そうだね。ごはん、すぐ出来るから待ってて。」
私が答えてキッチンに向かうと珍しく彼も着いてきた。
「今日は何作ってくれるの?」
「ステーキとガーリックライス、それと野菜スープ。」
背中越しにそう言って「だから、ちょっと待ってて。」と続けようとした途端、後ろから抱きしめられた。
「彩乃さん・・・ただいま。逢いたかったよ。」
こういう感情表現がストレートなところが好きだと改めて思った。
その体勢のまま私の顎に手を添えて首の角度だけを変え、伊織君は少し強引に唇を奪いに来た。
しばらくそのままでいたがこのままだと奮発して買ってきたお肉より先に私が彼の餌食になりそうだったので身体を離した。
「続きはごはんのあと・・・ね?」
顔の距離はキスのときとほとんど変わらないまま私が言うと「はーい。」と少しすねたような素振りで彼はリビングに向かった。
こういうところはまだまだ可愛い。
☆ビーフステーキ・ガーリックライス☆
材料
・牛肉(ステーキ用)・・・150g×2枚 ・ごはん・・・お茶碗2杯分
・タマネギ・・・1/2個 ・マッシュルーム・・・6個 ・ニンニク・・・2片
・塩・・・適量 ・コショウ・・・適量 ・サラダ油・・・大さじ2
ガーリックソース
☆ニンニク・・・3片 ☆タマネギ・・・1/2個 ☆リンゴ・・・1/2個
・みりん・・・50cc ・赤ワイン・・・50cc ・しょうゆ・・・50cc
・水・・・200cc ・バター20g ・サラダ油・・・適量
① ガーリックソースを作る。☆の材料はすべてすりおろしてサラダ油と共に中火にかけ、 塩をひとつまみ振って水気が飛ぶまで炒める。
② 赤ワインとみりんを加えアルコールが飛んだら水、しょうゆを加えて、好みの濃度まで 煮詰め、ひと煮立ちさせたら火を止め、仕上げにバターを加えてソースは出来上がり。
③ 肉はキッチンペーパーのどで表面の水気を切り、ニンニクはスライス、タマネギは粗め のみじん切り、マッシュルームはやや厚めにスライスしておく。
④ フライパンにサラダ油とニンニクを入れて弱火にかけ、香りが立ってニンニクが色づいてきたら取り出す。
⑤ 強火にして塩、コショウをした肉の表面を色が着くまでしっかり焼き、ひっくり返して同様に焼いたら取り出し、肉をアルミホイルでくるむ。
⑥ ⑤のフライパンでタマネギとマッシュルームを炒め、タマネギが透き通ってきたら温めたごはんを加えて塩、コショウで味を整えながら更に炒める。
⑦ ⑥を皿に盛り付けたら肉を食べやすい大きさにカットして盛り付け、仕上げにソースを かけ、⑤で取り出したニンニクを散らし、お好みでドライパセリなどを振る。
AYANO’s Point♪
「①と④ではニンニクを焦がさないように気を付けて!ステーキはアルミホイルで
くるむことで中までじっくり熱が入って、保温効果もあるよ!」
☆野菜たっぷりスープ☆
材料
☆ベーコン(ブロック)・・・80g ☆タマネギ・・・1/2個
☆ニンジン・・・1/2本 ☆トマト・・・1/2個 ・キャベツ・・・1/8個
・塩・・・適量 ・コショウ・・・適量 ・オリーブオイル・・・大さじ1
・ローリエ・・・1枚
① ☆の材料をすべて1cm角にカットし、キャベツは葉と芯に分けて、芯は1cm幅に切り、葉は1口大にちぎっておく。
② オリーブオイルと①のベーコンを弱火にかけ、カリッとしてきたらトマトとキャベツの葉以外の野菜も加える。
③ 野菜がしんなりしてきたら水とローリエ、塩をひとつまみ加えて野菜が柔らかくなるまで煮込む。
④ キャベツの葉とトマトを加えてひと煮立ちさせ、塩、コショウで味を調えてカップなどに盛る。
AYANO’s Point♪
「野菜は焦がさないようにじっくり炒めることで甘味と旨みが引き立つよ!」
「いただきまーす!」
ミディアムレアに焼けたステーキを見て露骨に伊織君のテンションが上がっているのがわかる。
「彩乃さん、俺さぁ、研修の間にいろんなこと考えたんだ。」
「珍しいね、プライベートな時間に仕事の話なんて。」
「うーん、仕事っていうか、それも含む今後の彩乃さんとのこと。」
予想外の返答にスープを飲もうとする私の手が止まった。
「研修のトレーナーがさ、もともとは車の営業マンだったんだって。で、その人が現役の頃ってその会社は国内最大手で、その人は3年連続で営業成績のトップを取ってて・・・」
ガーリックライスを口に運びながら彼は続ける。私は黙って頷く。
「で、そうやって年間200台以上車売ってた頃にモーターショーに行ったら、確かイタリアだったかな?なんかヨーロッパの最大手の自動車メーカーのトップの営業マンがスピーチしてて、そいつはもっと値段のする車を年間500台以上世界中で売ってたんだって。」
もぐもぐしながらそう語る彼に微笑みながら「凄いね。」と正直な感想を返す。
「それを聞いたときにその人は『自分は天狗になっていた。上には上がいるんだ。』ってやっと実感したんだって。だから俺もね・・・ん!!」
珍しく捲くし立てるように喋っていたうえに咀嚼の最中だったからなのか、喉に何か詰まったらしい。私は
「食べるか喋るかどっちかにしたら?」
と呆れ笑いしながら言った。すると、水を飲んで一呼吸着いた彼が
「ごめん・・・。それでね、俺も自分はまだまだ甘いなって思ったんだ。」
「でも、伊織君は十分頑張ってるよ。これは上司として素直に思ってる。」
お世辞ではない。毎年新卒が入って来るわけではないが、少なくとも私は1年目からこんなに仕事をこなせてはいなかった。
「周りから見たらそうかも知れないけど、だけど・・・俺この半年間で明確な目標ってなかったんだ。がむしゃらにやってきただけ。でも、それじゃダメなんだって思った。」
その眼差しは私の知っているこれまでの伊織君と違っていた。
「だから俺、決めたんだ。まずは彩乃さんに追いつくって。営業成績もだけど、人として、1人の男として。彩乃さんがこれから俺のこと心配したり、不安になったりしなくていいくらい・・・なんて言うか・・・彩乃さんに相応しい男になりたい。 」
研修中に何があったのか詳しくはわからないが、今の私にはその言葉が何より嬉しかった。
なんで歳の差なんて些細なことで不安になっていたのだろう。無意識のうちに距離を置こうとしていたのは自分の方だったと気付くと同時に涙が零れそうになる。
「彩乃さん・・・どうかした?」
「ううん・・・伊織君、ありがとう・・・。でも、私も待ってないからね。早く追いついてよ!」
「うん!見てろよー、すぐに追いつくからなー!」
目じりを指先で軽く拭いながら彼の瞳を見つめ返した私は、そう遠くないうちに彼が追い付いてくれると確信していた。
<もう可愛いだけじゃない、少しずつ男らしくなっていく
君のために今日はちょっとだけゼイタクな気分。>