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翡翠のピアス

作者: KeiTa

雪の降る街に夜の帳が降りる。

私はきっちりコートを着込んでいるにもかかわらず、すっかり冷えきっている。

自分で言うのもなんだが、随分歳をとった。

若りし頃は雪が降っていようが全く寒さを感じなかった。

そんな昔の影をぼんやり思っている私を、突如痛みが走った。

腹部に走る今まで感じたことの無い激痛。

そして、ゆっくりとコートまで滲んでいく赤い液体。

その傷口を眺めていると、痛みはなぜか感じなくなった。

暗闇でよく見えないが、傷口に銀色の刃が見えた。

………日本刀?

私は犯人の姿も見ようとしないまま、現代社会では珍しい銀色の刃を見て、あることを思い出すのだった。



あれは若りし頃、旅をしていた私は、ロシアのとある小さな街を訪れた。

そこで遭遇した通り魔の話だった。

何の宛もなく夜の街をさ迷っていると、路地で悲鳴が聞こえ、僅かながら正義感のあった私は、路地へと走って行った。


「…………た、助けて!」


路地を曲がると、旅行者と思わしき女性が右太ももを押さえながら倒れかかっていた。

そして、さらに奥の暗闇には光る銀色の刃。

私は確信した。

……この女性は通り魔に襲われていると。

危機を察知した頃には時すでに遅し…………とはならなかった。

犯人は私を見ると直ぐ様逃亡した。

私には武術の心得が無かったので、ひとまず救急車を呼び、女性の安否を心配することにした。


「……女性は無事でしたよ、すみませんが、事件の詳細をお聞かせ願いますか?」


救急車と共にパトカーがやって来て、女性を運んだあと警官にこう聞かれた。


「……すまない、私が路地を曲がると犯人は逃げていって顔をよく見ていないんだ。」


多少不安の残るロシア語で答えた。

警官はそう聞くと頭を悩まし、さっていった。

少し観光でもしようかと思っていたのがこのざまだ。

時刻は午前3時、宿をとるにも空いているだろうか?

ふと空を見上げる。

ロシアの空は日本より澄んでいて星空が広がっていた。

視界の片隅に看板が目に入る。

ロシア語を「読む」のは得意なので、ここの場面では不自由しない。

『200メートル先、宿あります 午前5時までチェックイン可能』


「……運には見放されていなかったな。」


こうして私はその日の宿を見つけれた。

ホテルとなっているが、実際行ってみれば三階建てのアパートのような感じだった。

本当に営業しているのか?と思うほどだ。

事件を目撃して4時間ほど、私は思考が鈍っていたのか問題なくチェックインし、重大な点を見逃していることに気づくことができなかった。

翌朝


ホテルの窓に差し込む朝日に目を冷まし、私は街へ出た。

街へ出ると、右耳だけに、翡翠のピアスをしている男が目に入った。

この地ではピアスなどをつけるものは少ないので、妙に目立った。

ロシアの極寒の風が私の体を突き刺していく。


「何か用か?」


私は尋ねた。

なぜならその男は、静かに沈むその瞳で私を見ていたからだ。


「……あんた日本人の旅人か? こんな時期に、運が悪いな。」


その言葉が引っ掛かった。


「……どういう事だ?」


男は不気味な笑みを浮かべ、言った。


「この時期は、通り魔が現れる。毎年な。この街を知っている旅人は、この時期だけは絶対にこない。ここではとても有名な話さ。」


私は思い出した。

昨日見た日本刀の通り魔。

そして、襲われた女性の悲鳴。

あれは、日本語だった。


「………日本人を狙っているのか?」


男は曖昧に


「さぁ。……ただ言えるのは、ここ数年の被害者は、すべて日本人だ。」


男はそういって去っていく。

なぜかはわからないが、その翡翠のピアスを忘れることはなかった。


私は、後に知ることになる。

この地でおこる通り魔事件は、ロシア警察が公表しないために、市民で知っているものは極少数であることを。

また、知っているものは、この地の警察に賄賂を渡され、誰にも言わないことを。

ではなぜあの男は知っているのだろう?

それにもう1つ、不思議な点を見つけた。

ホテルの看板だ。

あのホテルは悪いがとてもボロかった。

おそらくまともに営業できていないだろう。

そして看板を出すには毎月、あるいは毎年お金がかかる。

私は考えた。

あの看板は、何者かが意図的に作り出したものではないか?


私の中で全ての謎が繋がった。

通り魔はあのピアスの男だ。

男は日本人に恨みがあった。

緻密に計画を練り、日本人を襲っていた。

男は目撃者の私を見て、思い付いたのだ。

自ら、通り魔の話をし、震え上がらせて帰国させよう、と。




鋭い痛みが再び押し寄せてきた。

私は歩道に倒れ、死を覚悟した。

意識が薄れる最中、私は最後の力を出しきり、後ろを見た。

犯人の耳に、光るものが見えた。

翡翠に輝くそのピアス早く覚えていた。

記憶の片隅に、ずっと張り付いていた。


――――翡翠のピアスを見て、私の命は尽きた。






 数か月前に書きかけだったものを、最近になって思い出しながら書いたら無茶苦茶になってしましたwwww

ハハハハハハハ・・・・・。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 構成、終わり方すべてシリアスな調子を崩さず読みながらはらはらできました。 [一言] 彷徨う○さ迷う×だった気がします。確か一頁目の。
2013/02/06 12:35 退会済み
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