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翻弄2

 確かに初日は怖いくらい手荒く扱われた。疑いもかけれて、周りに私の言い分は全く受け入れられず納得いかったけれど、後からきちんと場を設けて話も聞いてくれた。

 最終的に椎名さんに罰を与えられた時には引いたくらいだ。私は帰れたら良いだけだから、処罰を想像して私のせいで罰が重いのかとも一人思い悩みもした。


 疑いが晴れた今では、無意識に身体は強張るけれど怖さは薄れている。周りが良くしてくれて、生活を制限はされても考えられない位に良い待遇をしてくれ、帰れるように動いてくれているから安心できてそう思えているんだろう。


 なので、今は椎名さんにでさえ感じる嫌悪も小さくなっている。謝られて終わりにできる訳では無いけれど、わざとでは無いことは私も分かっているから。

 ただ、顔を合わせた時にどう対応して良いか分からないし、苦手意識は変わらないままだけれども。こう言いながら悪く言うかもしれないけれど、いつか帰る時に出来る事ならサヨナラ位は言いたいとは思っている。帰れさえすれば私はいい。


 今の待遇の理由には、私が王女に巻き込まれたからの立場だからとか、国の責任問題とか、椎名さんの自分勝手な行為を公にさせたくない為とかもあるからかもしれない。

 けれど、安心できる生活をさせてくれている。気詰まりもあるが解説をバイト代のつもりで一人暮しにむけて貯蓄も頑張っている。


 厳重に管理されているらしい、国宝を私利私欲で無断に持ち出す度胸なんて椎名さんにしか出なかっただろう。それにトリップの理由を聞き、病床で魔鏡に興味を掻き立てられたと言われると…椎名さんが悪いとだけに思えなかった。


 それもあり私は、ランバートの話を聞いて危険を救われていたのかと素直に感謝を深められていた。


 それなのに今のランバートを見ると、王族やクロスやディンとは何か違う気がする。友好的な笑顔なはずのに、笑っていないようにしか見えないのはどうしてだろうか。観察されている感じもしない。


 問いの場での誰もが緊張した空気とは違う種類の張り詰めたような空気になっている。この場には、助けてくれたディンやクロスが居ないから私が一人で対応しないといけない。


 こんな人は今まで周りにいなかった。私が付き合いにくいと思ったら、関わらないでいたからだろうか。

 それでも、派手なタイプの誰かにお願いという名目の用事を押し付けられる空気は、たまにでも分かっていたから少しは空気が読めていたはずなのに。

 ちゃんと私に都合か良かったり、何もない時には渋々お互い様と受けて、嫌な時やダメな時はやんわりと断ってもいた。だから、付き合いも大丈夫なはずだったはず。けれど、今回は無理そうだ。


 ランバートは、そんなにしてまで私から何を聞きだしたいんだろう。


 困惑しながら助けを求めるようにロイズを見て目が合っても「ん?どした?」というように顔に文字がでているだけだ。

 その隣のランバートの表情は変わらない。笑顔が崩れないままだ。これが普通のランバートの顔なら距離をおいたお付き合いをしたい。


 それともこれは、愛想笑いか?まさかこの違和感は、もしかして噂の目が笑っていないという事か?


 自分のレベルの低さに、相手の心の機微を瞬時に見抜ける物語のヒロインの無自覚な観察眼が今は心底うらやましくなった。

 けれど、鈍い私にも素直に笑顔を鵜呑みにしてはいけないくらいは感じている。


 「本気」と書いて「マジ」と読むと親が楽しそうに言っていたから、私はそう覚えてしまった。そして、テストで素直に「本気」を「マジ」と書いてピンをつけられ、親に文句を言うと大笑いされた事があった。あの苦い思い出の人生勉強と似たような事だと勘が働いているからだ。

 あの時には、悔しさのあまり泣いた覚えもある。


 黙りこんだ私は逃げ道のお茶を飲み干していた為、お代わりを用意する事を理由に席を立とうとしたけれど言葉が押し留めてきた。


「僕らの任務は色々あるんだよ。

 僕はクロス隊長の元で主に魔術に関してだけれど、ロイズはディン隊長の元で騎士の名の元で暗躍もしている。副の名のある僕らはユウリちゃんより深く詳しく世界を知っている。忠誠もある。

 ただ僕は、純粋な興味でユウリちゃんの世界の生活を知りたいだけなんだ。僕が一つ教えてあげたんだから、ユウリちゃんもたった少しでも僕に教えてくれてもいいと思わない?

普段の生活の様子とかさ。

あ、これ食べる?城下街で一番人気がある甘いお菓子なんだ」


「おい…いい加減にしろ。まぁいいや。後はしらないぞ」


 とても暗躍しているようには見えないロイズが、その見た目のままの穏やかさでランバートを嗜めた。

 それを相手にもせず、ランバートがテーブルに出してきたお菓子はカラフルで色とりどりだ。見覚えのある形の小さな物だ。

 それを目に入れた瞬間、私の中の警戒心はあっさりと甘さ恋しさに負けてしまった。


「ユウリちゃんが喜ぶかと思って持ってきたんだ。さぁ、どうぞ」


 ランバートにすすめられるがまま、お菓子に手をのばし口に入れてしまう。

 たまに用意してくれるここのデザートの甘さはダイナミックで、懐かしい形状に妙に心惹かれてしまったからだ。

 口にした後で、自分の迂闊さを後悔した。


 固めなラムネの様な味と食感は、懐かしさを口に残しながら溶けていく。


 本当に懐かしい味だ。小さな頃は親におやつにと買ってもらっていたお菓子の味にそっくりだ。

 こんな世界でこんな時にこんな風に、私の世界で思い出す事は私には厳しすぎた。慣れた生活の家に帰りたくてたまらなくなって仕方がない。


 予想外に訪れた深い郷愁と小さな頃の思い出のダブル攻撃に涙が出てしまいそうになる。顔も上げられない。

 二人が目の前にいるのに、こんな時に泣きたくなかった。


「そういえばさぁ…」


 ロイズとランバートしかいない部屋の気安さで、また一つを口に含んで、その場だけを取り繕うように言葉を紡ぎながら席を立つ。

 さりげなさを装いながら窓辺に立ち窓を開けると、木の緑が飛び込んできた。もちろん、続きの言葉は頭の中に何もない。


 窓の外の木を涙がこぼれないように睨むように見る。そんな私の頬を、風が優しく撫でていく。妖精なんだろう。


 と、言うことは木の聖霊もあの木にいたの?いやいや、木の聖霊を睨んでいた訳じゃないのよぉ。


 内心慌てながら外に向かい取り繕う為にあくびの真似をして、こぼれそうだった涙を指で拭う。聖霊もいるのかと辺りを見回しても、いないようでひと安心だ。


 安心と同時に、この世界で私の気が休まる場所は限られているのかもしれないと落胆してしまう。いまの、この場も何か話さなければと焦るほど、何も話す事が浮かんでこない。


「ユウリちゃん、お茶のお代わりもらってもいい?ユウリちゃんのお茶は美味しいから、もう一杯ほしいんだ」


 なんですと?美味しい?


 予想外な言葉に涙も引っ込みかけてしまう。

 これまで聞きたかった言葉はロイズからだった。振り向いても顔は見れなかったけれど、ロイズの背中からいそいそとお茶の用意をはじめているのが分かる。


「ほら、ユウリちゃんがいれてくれなきゃ美味しくならないよ。ほら…こっちにおいで」


 慌てて私も手招きする笑顔のロイズの隣にならんで催促されるがまま、お茶の用意を始めた。その距離と空気に、じんわり心も温かくなりロイズによりそうようになりながら用意を始めた。


「ね、窓の外に何か珍しい物でもあったの?」


「いや、あのね…私が通っていた保育園も緑が多くて、大きな木が沢山あったんだ。ここも緑が多いなって思ってさ…」


「保育園?なにそれ?」


「親が働いていたりとかで子供の面倒みられない家は、小学校行くまで保育園が預かってくれるんだよ。私は二歳から通ってたんだ。ここにはないの?」


「預かるって…ずっと?小学校もはじめて聞くなぁ」


「預かるっていっても、朝行って給食食べて夕方にお迎えに来てくれて家に帰るんだよ。友達と遊んだりしてたよ。ずっと生活する施設もあるけど…」


「へぇ、なんだか楽しそうだね。俺は親が家に居なかったけど、ずっと兄弟や近所の子とだけ遊んでたよ。どんな事して遊んでたの?」


 たわいもない話題が楽しくて、これまでの緊張もほぐれていく。


 聞かれても正直あまり覚えていないし、詳しくもない。そう断りながら、保育園や小学校とかの教育についてロイズと話すうちに気がつけば、私の進路の問題まで話していた。


 ロイズの口調は終始とても穏やかで、とても暗躍しているようには見えない。素のロイズで私に対応してくれているんだろうと信じたい。むしろ、怪しいのはランバートのはずだったけれど、どこか様子がおかしい。

 ロイズを睨むように見ている。


「ロイズ…お前って奴は…。しかも、素かよ」


「素だよ。何もない普通。世間話してただけだよね。泣き虫ユウリちゃん」


「それは保育園の時の話しだよ!」


 この楽しい時間が切り替えになり、お菓子のお礼の一つかと思えてランバートに向かい口を開いた。


「あの…実は…これはあんまり言いたくないんだけど」


「ん?なに?」


 シャキッと音をたてるかのように、いつもの笑顔になったランバートに恥をしのんで言ってみる。


「えっと、私はこの部屋の二つ分の位の広さ家に住んでいたの。家族の両親と弟一人と私でね。私の部屋はこの部屋半分より狭かったな…。だから、なかなかこの部屋になじめないや」


 人が恥じらいながら伝えた住宅情報にランバートは脱力したように溜息をつき、ロイズは声を上げて笑いだした。


「絶対にユウリちゃんはロイズに騙されてる…」


「なにを言うんだ。俺とユウリちゃんは、仲良しなんだ。ユウリ、俺の実家もそんな感じだよ。兄弟相部屋だし」


「いや、私の世界でもね、狭くはないはずだよ。ここが広すぎるんだってば」


 ロイズの言葉は本当だ。私は初めからロイズに懐いていた。仕方ないじゃないか。ランバートの脱力具合に言うんじゃなかったと後悔するじゃないか。


 話題を考えてはみたけれど、車を語ろうにもエンジンの仕組みが分からない。飛行機を語ろうにも、なんで鉄の塊が空を飛ぶかわからない。

 翻訳のバイトがあるから、農作物には前よりも詳しくなったけれど、それは王がどうするか決める事だ。消去法でいくと、怪しいランバートに何か話すにはそれしか頭に浮かばなかったんだ。


「ほんと、俺の実家も似た様なもんだよ」


「いや、ロイズは違う気がする」


「あ、じゃあ城下に出る許可が下りた時に周りを見てみなよ。その時は俺も行けるようにするし」


「え?本当?嬉しい」


 普通の割に暗躍するロイズが城下で暮らしていたとは思えなかったけれど、距離が縮まった気がして私はとても嬉しかった。けれどランバートの機嫌は急降下したらしく、ロイズに肩を叩かれていた。


「もういい。本題にはいろう」


 え?まだ何かあるの?もういいじゃん。




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