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無駄かもしれない訴え


 逃げ出したベランダは、もう暗くなっいた。何気なく見上げた空もだ。


 いつの間にそんな時間になったのかと、一日の時間の流れる早さに驚いてしまった。

 光源が少ないからか私の世界で見た事がない程の星が瞬いてるから余計にだ。


 異世界だから私でも知っている有名な星座の一つもないけれど、満天の星空は綺麗で見ているうちに吸い込まれてしまいそうだ。


 そんな中で私は自然の広大さと星の輝きに、何の力も知恵も無いちっぽけな自分をまざまざと突き付けられていた。


「ユウリ、私はユウリを責めている訳ではありません。確認したいのです。変幻を使い夜会には出席しても、棟は嫌なのですね?」


 後ろからクロスの声が聞こえた。追ってきてくれたのか近づいてくる足音もする。


 怒ったり責められている訳ではないとクロスの言葉と口調で分かり安心したが、振り返り言葉にする気になれず背を向けたまま頷き返事をした。


「分かりました。では、夜会に出ると決めたならドレスは必要不可欠な物です。ユウリも素直に仕立てて下さい。装飾品もです。

 それと、棟といってもユウリが戻り使われなくなれば、客室や王族が親しい者と過ごす憩いの場として使われるはずです。何も進まずになっていましたが、以前にも棟の話は出ていたんですよ。この城は国の規模に比べては小さな城ですからね」


 へ?そうなの?私の為だけじゃなかったの?


 目から鱗が落ちた。

 この城は十分大きいと思うけれど、増築が必要なのと似た感じなんだろうか。ひとりよがりに考えてしまったんだと分かり恥ずかしくなってしまう。


 あの時も、規模が違いすぎる話だから私には分からなかっただけかもしれない。フォルの言葉を受ける私の取り方がおかしかっただけなのかも知れない。


 私の持っている感覚は庶民なので国やその城の話となると、どうしても大掛かりに思えて構えて避けようと考えてしまうからかなんだろう。

 けれど、この夜会は城にいる以上は避けられない事なのだろう。


 多数の一般家庭が喜ぶ臨時収入源にもなる夜会のドレスは用意してもらうとしても、それに合う装飾とは、もしかしてキラキラと輝く宝石を使ったアクセサリーの事なんだろうか。

 自慢じゃないけれど私の世界ではネックレスの一本も持っていなかった。それでも、装飾品といわれたらネックレスにピアスに指輪とかのセットを想像出来てしまう。


 そんな物を身につけたら、落として無くしたらどうしようかと気になって絶対に落ち着かないじゃないか。


 避けられないと決めたくせに、私は話しの大きさにおののいてしまい、どうすればよいか分からないまま涙が滲み出てしまう。そのまま振り返り助けを求めクロスを見上げた。


「大丈夫です。

 私はユウリが嫌がる事はしたくありませんし、しないようにしています。嘘もいいません。

 だから言いますが、もしもユウリがいるうちに棟が出来たとしても気にせず使って下さい。一つの理由の棟ではありませんから。

 ユウリが棟に入れば、そこを訪ねる事も私は楽しみです。ゆっくりと会えるのですから。その時は、ぜひ私が好きなユウリが入れたお茶を御馳走して下さい」


 もう私の何が、どう大丈夫とクロスが思うのか知らない。自惚れそうな言葉も考えたくない。


 ただ親指で私の目尻の涙を慰めるように拭い微笑みを浮かべるクロスは、ありのままを私に言ってくれる約束をしてくれた。クロスは本当の事を言ったんだろうとだけ思った。


 これじゃあ私は嫌だ嫌だばかり言う子供みたいだ。これじゃあ、まるで私の為に棟を建てるようなフォルの言い方に慌ててしまっただけじゃないか。


 これ以上、恥ずかしい勘違いをしないようにまずは落ち着こう。


 頭の中でクラスにいた頭のいい大人びた子を思い出す。あの子みたいに落ち着こう。あの子ならどうするだろうか。なんて言うだろうか。


 私と違いすぎる子だけれど、自分の思いは自分で伝えるだろうと、考えて口を開いた。


「あの、ここには私に良くしてくれる人が沢山います。感謝ばかりです。けれど、そういう経緯があって棟が建ったとしても私が使わせてもらうには贅沢すぎるし、ただの居候の一般人の私が入るなんておかしいと思うんです。夜会も私が暮らしやすくするために歓迎とお披露目をしてくれるんだろうけど、私は出来る事なら今でも城の厨房で普通に働きたいんです。目立つ事は苦手だし、いずれは帰るんだから…。まだ解説に時間がかかりそうだけど、帰る前に解説が終わればそうしたいんです」


「それは…。もしかしてユウリは夜会に参加した事がないんですか?」


 クロスの問いは意外なものだった。質問の意図が分からない。内心、当たり前でしょうと言いたかったけど今の私はいつもと違う。


「はい。私は、私の世界では一般家庭のの女子高生でしたから、そんな機会はありませんでした。親類の皆が集まる場も法事に制服で出た事しかありません」


 よし、相手がクロスだからか結構ハッキリと言えたぜ。この落ち着きもあの子のおかげかもしれない。


「法事とは分かりませんが親類の集まりですか…。制服とはユウリが初めに着ていた服ですね?この夜会についてはフォルニール様から何と聞いていますか?」


「法事とは亡くなった方を偲あつまり…かな?私は学生です。学生は学校の制服を着ていると畏まった場でも失礼がない無難な服装だそうです。フォルニール様からは招待状を受けとっただけで、王様主催の限られた人数の内々の夜会とリンダから聞きました」


 いや、ただ親が、礼服もないし制服でいんじゃね?ってそんなふうに言っていただけなんだけどさ。


「リンダ?侍女ですね。じゃあ、招待はいつ受けましたか?お披露目の意味は分かりますか?」


 やけに質問ばかりだな。


 不思議に思いながら、その時の様子を詳しく話すうちにクロスの眉間が険しくなり凄みのある美麗に変わっていく。それに伴い私の落ち着きもガラガラと崩壊していってしまう。


 私、なにか悪い事を言ったんだろうか…。


「あの…お披露目ってただ紹介するって事ですよね?」


 しばらくしてからおずおずとたずねると、額に手を当て考える様子をしていたクロスが教えてくれた。


「私とした事が…。ずいぶん前に招待を受けていたので頭から抜け落ちていました。

 この夜会は年に一度開かれる例年行事の一つです。招待されるのは、王族と役職の高い者や高位の貴族達とその日に滞在している客人です。あまり無いんですがね。ユウリは客人として当日も滞在しているからの招待でしょう。

 お披露目とは今のユウリならば婚姻、また養子などで出来た縁を伝える意味となります。心当たりがありますか?」


 え?そんな大きな会なの?ぜんぜん内々じゃないじゃん。

 じゃあそこでお披露目扱いされるという事は、客人扱い以上となりえるんじゃあ…。

 そんな事よりも知らない!してない!


「あの、私、結婚も養子になった覚えも全くないんですけど!」


 あの子の事はすでに頭から綺麗に消えてしまっていた。所詮、あの子と私は違いすぎるから長くは続かない事だ。


 もしかして私は、フォルの言葉巧みな策略にまんまと嵌まってしまったんだろうか。

 よくよく考えれば、一国の内々の夜会と一般人の内々の法事を比べたら規模も人数も意味合いも全てが比べる事すら出来ないと、いくら私でも落ち着いて考えれば分かりそうな事なのに。

 それが分からない程に、この城での待遇が慣れた日常になってしまっていたんだろうか。


 色々な事を話たかったけれど、頭の中で渦巻くだけだった。


「そうですか…。まぁ確かに、なにもユウリに悪い事ばかりではないです。フォルニール様がおっしゃったように城の内外で今より自由に動く事ができます。これは、堂々と城を歩き、街にも出られるという事です。これまでは、あやふやな部分か多かったので公になる事は控えられていましたが、紹介するとなれば確かな身元か滞在理由を考えての事でしょう。以前の話もありましたかが、状況も変わっていますので確認しておかなければなりませんね。

 しかし一旦、客人として夜会に出席して王族から紹介されたとなれば、今後はその身分を変える事は出来ません。城で働く事も、まず無理でしょう」


 うそっなんで?あ、普通そうよね。王様から夜会に招待されて紹介されたお客様が、ある日突然に城で雇われて働いていたらおかしいよね。


 私は、自分で夢を潰してしまったんだろうか…。あぁ、なにやってんだろ。


「しかし、解説を終えれば何とでも言って私の家の手伝いをしてもらう事もできましょう。私には城の外に家があるのですが、空ける事も多く戻った時に誰かいてくれると助かると思っていた所なんですよ。もちろん働いてもらい、私が賃金を払います。まぁ、ユウリがその時、その気になればの話ですけどね」


 表情を読んでか何も言わなくても、落ち込む私の髪を長い指で繰り返しすきながら話すクロスは優しい。魔術師団の役職のある人なのに。ここでも私が一般人だとしたら口をきく機会も無い人なのかもしれないのに、こんなにも私の先を考えてくれている。

 フォルも私から聞かれなかったから知っていると思い言わなかっただけの、王子様基準で悪気なく私に良かれと話を進めてくれていたのかもしれないと思えなくもない。


 そう考えたら、申し訳なくなってきてしまい何も言えず無言で頷いた。


 本当に私はここにきてから何かしようとせず、何も知ろうともしていなかった。けれど、なぜか誰にも悪く思われてはいないようだ。


 そればかりか何不自由ない生活を与えてくれている。過度なスキンシップには困るけれど、クロスもディンも支えてくれて過ごしやすいように魔具をくれた。リンダは仲良くしてくれて、総侍女長も私の為になる事を教えてくれようとしている。

 王様は予想外に公平に私も見てくれたし、フォルも気持ち悪いお世辞やエスコートに慣れれば悪い人じゃないだろう。


 これは、いたたまれない。これまで私が頑張っていなかった訳じゃないけれど、心を入れ替えて頑張ろう。

 解説と椎名さんの質問に答える以外で役に立つ私じゃないんだから。


 クロスに甘えて雇われる事は選択肢に入らなかった。 クロスに甘えて雇われる事は選択肢に入らなかった。無理と言われたけれど、夜会にでるような人達と顔を合わさない、城のどこかで働かせてもらいたい。大変だろうけれど、すこしでも城の負担を減らしていつか街に出たい。城でお世話になるばかりより自立して暮らして帰る日を待つ方が良い気がした。


 私はいつか帰るんだ。それは譲れない。


 ダンスも礼儀作法も正直言えば嫌だ。そんなのに関係なく普通に暮らしていたい。

 けれど城で生活しているのだから、総侍女長の言葉が心に響いて、最低限を覚える意欲が湧いてくるのだから不思議だ。


 俯きがちになりながらも前向きな私の心が決まったのに、目の前のクロスは何かを企むような顔をしていた。


「安心して下さい。フォルには私からキッチリと招待状の出し方も含め、人に伝える話し方から色々と丁寧に教えてやっておきますからね。あの方にエスコートなど任せやしません。魔術師団団長にも私の方から、もっと分かるように分かりやすく言っておきましょう」


「いや、別にフォルは悪気く知ってると思ったんだろうし、団長さんも楽しそうな方でお話してみたかったん…。はい、すみません」


 決意が固まったので、まずクロスが話す増した冷気の先にいる二人を擁護しようと今を頑張った。

 そうすると、クロスと視線は合っていたた。綺麗な笑顔のままなのに、話すうちに私まで背筋が冷えて仕方がなくなる。しかも、更に冷気が増した気がしてしまい心の中で、フォルと団長に何の力にもなれなかった事を謝った。


「さぁ、今日はこのままでは休まれないでしょう。少し庭に出て歩いてみますか?」


 本当は休みたかったけれど、空気を変えるように明るく言ったクロスに無言で頷き腕の中で転移の光に包まれる。


 今日のクロスは何か違うと思ったけれど聞けないままだった。

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