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無茶な提案

 このままではいられないと気持ちが少し落ち着いた所で洗面台に手をついて、うなだれた姿勢のまま思考を巡らせる。


 洗面所から出にくいけれど、いつまでもここに篭る訳にはいかない。ならば、ついでとばかりに妖精達に声をかけて小声で遊びながら続きにあるお風呂を済ませた。ちなみにトイレもこの一角にある。この空間には記録の石も覗きもないと、さっきも妖精達が教えてくれたので私が唯一の安心安全に思える場所だ。


 妖精が飛び交う明るい陽射しの中で湯舟に浸かるとほぅ一息つけた。


 こんなに恥ずかしい思いをした中で唯一良かった事に気が付く。それは、生理中ここで使用する物も吸収性に優れているらしい。繰り返し使う厚めの布性か、いつもの使い捨てかが違うだけと知ると予定日に備えができて余裕が生まれた。


 なんにしても聞かずに知らないままでいるより、恥ずかしくても知らない事を聞いておいて良かった。それはそれでカルチャーショックを受けたけれど、後は絶対に下着の様に自分で洗おうとまで決められた。


 そんな中で、これまで考え込んでいた気持ちも暖かいお湯に浸かり妖精達と遊ぶうちに段々と少しずつ軽くなっていった。のぼせそうになるまでつかってしまっていたので慌てて出て、部屋に戻りリンダが配膳してくれた夕食を今だマナーを知らないから自己流で慣れないナイフとフォークで行儀良く見えるように夕食もすませた。

 お箸が恋しいけれど、そんな事は言えない。ここは、洋風の食事なので切り分ける時はナイフとフォークが便利だ。左手を使う事は難しく切り分けてから、フォークを持ち替えて食べるからマナーがなってないと、きっと天井裏では呆れている事だろう。


 そんな食事が終わった頃にインターフォンが鳴った。応対に出たリンダを押し切るように入ってきたのはフォルだ。それはともかく後ろにクロスがいた事に驚いてしまう。


「やぁ、ユウリ。こんな時間に突然きてしまってすまないね」


「だから侍女を通しましょうと言ったのに」


「そんな事をしたら、きっと日付か変わってしまっているよ」


 鋭い。当たりだ。


 カップを持ったまま固まる私は洗いざらしの濡れた髪のままで部屋着を着て食後のお茶を飲んでいた。フォルの言うようにリンダを通していたら「できれば明日に」と当たり障りなく断ってもらっていただろう。

 けれど、今は目の前に立つきらびやかな二人の言葉にそのままお茶の時間になる事を断る術が私にはなかった。


 二人と向かい合わせに応接ソファーに座りリンダのお茶を飲む。フォルの用件は想像がつくが、クロスは分からなかったので伺うような視線を送りながら飲んでいた。


「そんな可愛らしい顔で僕を見つめられると照れてしまうな。ここにクロスまでいてすまないね。

ユウリの想いが綴られた手紙を受け取り父上に伝えに行っていた所にクロスが来たんだ。事情を話すと着いてくると言って聞かなくてね。」


「当然でしょう。フォルニール様だけという訳にはいきません。私もユウリに用がありましたしね」


 フォルもクロスも私に語りかけてくるが私としては頷くのみだ。フォルの言葉は受付けられないが用件が気になり目を向けたままでいると、予想通りの話題がでた。


「僕がユウリに何をすると思ってる。夜会の事を話すと言っただろ。ユウリは本当に夜会に出ないつもりなのかい?」


「せっかくなのにすみません。」


 やっぱりか。終わりと思ってたけど無理だったか。


 重ねて誘われ断るとフォルは私の答えを予想していたかのように話はじめた。


「そんなに畏まる必要はないんだよ。大した会じゃない。歓迎の意味もあるけれどこれはユウリをお披露目…じゃないな、皆に知らす為でもあるだ。もう変幻が使えるんだろう?変幻を使った姿だけでも夜会で披露しておけば周りに存在が知れて何かとユウリが動きやすなる。それとも、これからも先も出歩く時にベールを着けて、ずっと部屋に篭るつもりかい?いつまでとは分からない時間を。

 まぁ、僕としては装う姿は秘密のままの今のほうが嬉しいんだけど…。」

 フォルの言う事は理解できるが、私が装わない方が良いとも言われて私は何と答えを出したら良いんだろうか。


「あの…」


 夜会に出ずに動きやすくならないでしょうか。


 しばらくの無言の時の後に聞こうとしたら、遮られて聞けなかった。


「そうだ。ユウリ。棟を建てるかい?」


「むね?」


「そう。もちろんジュリアの様な扱いじゃない、ユウリの棟を。造りはだいたい応接、自室、寝室、リビング、客室が主なユウリの居住空間となるが、他はユウリと考えながら決めよう。庭も専属の使用人達も付けよう。そうすれば今より住みよくなるだろう?僕も棟を訪ねる楽しみが出来る。ユウリとの仲をもっと深めやすくなるだろうし」


 ちょっと待て。遠くを見て笑いながらフォルは何を言い出すんだ。

 それは私がお披露目の夜会を断るなら、私の為に豪邸を建ててお手伝いさんを何人も雇おうという事じゃないか。滅相もない。

 それに楽しそうに話しているけど、隣に座るクロスからフォルに向けられている視線と纏う空気の見たことがない冷たさが私は気になって仕方がないのに、フォルは気にならないんだろうか。


 私も小説で得た知識から考えた想像に現実をつけ足して手紙を書いたのに。


 ダンスも出来ず礼儀作法も箸の文化で育ったから、ナイフとフォークも行儀悪く使っている。なのにそんな一般市民の私が王族の内輪の夜会だなんて身の程が違いすぎるので今回は断る。

 作法も知らな過ぎて恥ずかしく思うからこれから練習しようとは思うけれど最近、体調があまり良くないの。迷惑かけたらいけないから申し訳ないけれどお断りするわ。歓迎してくれる気持ちは嬉しくとても有り難いが、今の待遇だけで十分で感謝もしているから私にそんな気を使わずどうか皆様で楽しんで。


 と、言い訳しながら、もう十分だから、そんなに気を使わないでほしい。と、丁寧に断ったのに…。


 なのにこの現状。予想外の方向に話が進んでいく。


「いらないです!」


 引き攣った笑みになりながらもフォルの申し出に首を横に勢いよくふった。いつか広告で見た一般住宅の広告のウン千万円という想像できない金額が頭に浮かんだんだのに、その上の豪邸に使用人達となるとそんなになっても仕方がないだろう。

 私の為にポンと豪邸を建てようだなんてどこの御曹子だ。あ、王子様だった。


 けれど、小首を傾げ流し目で私を責めるように見るフォルの口も大袈裟なそぶりも止まらない。


「困ったなぁ。遠慮しなくても良いんだよ。どちらも循環の手の一つだ。こちらがドレスを一着でも注文すれば、それに関わる民の収入に繋がる。あぁ、今回の夜会が中止の発表となると何倍の収入を得る機会が失われるだろうな。いったい何人の働き手とその家族達が気落ちするだろうか。

 いや、やはり一度の夜会よりも棟を建て良い人材を集めて雇い、知識を与えながら育てる方が幅広い層に長く職と収入を与えられるな。人選は難しくなるだろうが、身分もこだわらない方がこちらは安全で有能な人材の確保が出来るかもしれない。そしてそれは、互いの益になる事だろう」


 もしかして、私が夜会を断ると臨時収入が減る一般家庭の人が沢山いるという事ですか?だから豪邸ですか?


 豪邸よりも身近な買い物の度に値段と量と質を厳選する半額シールが大好きなパート勤めの母の姿が頭を過ぎる。母なら臨時収入があるとなれば、きっと喜び絶対に食卓に「今日だけね」なんて嬉しそうに言いながら御馳走を並べるだろう。

 そんな場を無くすとなると、なんだか罪悪感を感じてしまう。


「この城はそれほど贅沢をしていない。良い棟でも僕の懐だけで建てられる。それをユウリと語り合いながら建てるだなんて…。そうだ、そうしよう。僕もその方がいい。そうしたら、他に邪魔されず棟で澄んだの朝の空気の中で生まれたての妖精のような初々しいユウリとも、昼の生命力溢れるまばゆい笑顔のユウリとも、今日のように僕の自我を試すかのような月夜の女神に見えるユウリとも共に過ごす時間が密になり増えるだろう。夜会なんかよりずっと良い」


「棟はいりません!ここが良いです!で、出ます。私、夜会に出ます。」


 待て待て待て。だからって普通は豪邸をたてないだろうが。

 それにフォルの頭の中にいるユウリは私じゃない。妄想だ。


 思わず夜会を断りを取り消した。ここでハッキリ断らなければ、私は高額な金額が気になりいくらか家賃を払わければならないかと気になり仕方がない。しかも、そんな恵まれた環境だと市井で暮らす夢もくじけてしまいそうだ。


 周りが私が暮らしやすくなる方法の為にと開く夜会と理解出来て感謝を感じ、ひねくれた様なネガティブな自分も認め改めなければと思う。私の周りには良い人ばかりだ。椎名さん以外。


 私がネガティブな答えをだしたばかりに一般家庭に罪悪感を感じてしまう話をされ、追い撃ちをかけるように、棟を建ててフォルが入り浸る案が出てきてしまい私が受けたダメージは予想外に大きくなった。


 これが、夜会だけの…いや、ドレスだけの話題なら他の方に作ってあげて下さい。と言えたのに。

 もし、棟なんてたった日には毎日フォルのお世辞を聞かされるかもしれない。


 フォルが私が何の気がねもなく暮らせるように、私専用の家と不自由のないように使用人を雇い、寂しくないように訪ねて来てくれるとポジティブには考えられない。


「そう?残念だな。けど、良い案だから構想は練って現実にしよう。夜会のエスコートは僕がするね。では父上に報告してこよう。クロスとディンも出席するから安心したらいいよ」


 フォルのエスコートはさておき、ディンとクロスがその場にいるなら、まずそれを教えて欲しかった。

 二人がなんで参加するのかは知らないが、まずそれを言ってくれたら目の前のクロスに夜会で時間の空いたときに私の所にきてくれないかとこの場でお願いする事も出来たただろう。

 今はもう話しが大きくなりすぎて、頭が上手く動いていないような気がする。


 そんな私だったけれど直に夜会の参加の了承を聞けたからか、フォルあっさりと席をたった。


「今回のドレスは僕がプレゼントするよ。また仕立屋をこさすから好みを話すといいよ」


 何も聞いてなく、ぼんやりした私はフォルに顎を指で持ち上げられ頬に口づけられた。


「じゃあ、またね」


「あ、うん。気をつけてね」


 友達のように言うフォルにつられて私も素のまま手を振り答え退室するフォルを見送ってから気が付いた。


 棟とはいえ城壁内だ。それなら、誰でも来れるだろうし人間関係もそう変わらないかも知れない。そして、誰の人目にも触れない訳じゃない。この客室と何も変わらないじゃん。


 私がネガティブ思考だからそう思うんだろうか。


 いったい何の為の棟だ。それに棟によくフォルが来たりしていたら、さらに噂になるだろう。

 これは、見知った事実だ。私の世界に情報収集や噂が好きな子がいてよく教えてくれていた。

 夜会の出席を承諾しても棟はキッパリと断れて良かった。


 目立たず、ひっそりと普通に待つはずだったのに、どうしてこうなったんだろう…。


 苦虫をかみつぶしたようなクロスの隣で、私は大きなため息を落とした。


 勝負をしていた訳じゃないけれど、フォルの言葉巧みな脅しに負けた気分だ。


「ユウリ……」


 クロスは俯く私に無言の圧力と叱責を送ってくる。


 夜会を断った私が悪かった?けど、どうしても嫌だったから断った。すると、余計に面倒になった事は私にもわかる。


 けど、あの場でどうすれはよかったのよ~。


 内心泣きそうになりながら私はベランダに出た。



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