目論み外れ
「君は僕が言っている事が理解できるよね?」
ま、待って。行かないで〜。
こちらを見るリンダの表情で私の心の叫びはちゃんと届いていたと分かる。申し訳なさそうに潤んだ瞳で深々と頭を下げながら退室しなくてはならないのも分かる。
いつもと違う硬い声のフォルのリンダへの指示がひっかかるけれど、口の動きと心でしか訴えられず見送るしかできなかった。
おかしな話だ。
私の計画では気合いを入れた演技で、フォルを庭に連れだして「うふふ」と気を使い笑いながらも当たり触りない会話をする。そして、覗かれている部屋にいるよりは開放的な時間を作れていたはずだったのに。上手くいくはずだったのに。
「やっぱりユウリのお茶は落ち着くね」
私は全く落ち着かない。
それがなんでまた、人の視線が気になる部屋でフォルとお茶を飲んでいるんだろう。
記録の石もあるらしいから部屋から出たかったのに。問いの場とは違い音声だけに思えるけれど役割は盗聴器だ。
気持ち悪くて仕方ない。
フォルを誘う言葉のどこが間違っていたんだろうか。
やはり、小説のヒロインのような可愛らしさがないから願いが通じなかったんだろうか。それとも迷惑だったか、平凡な顔の私が取って付けたような言葉や上目遣いをしたから気持ち悪かったんだろうか。
それはそれは……すみませんでした。私の精一杯の可愛い仕種のお願いだったんですけどね。ケッ。
しかも、その後でお茶を用意する間に数回目線がパチリと合ったはずなのに何回かはフイと逸らされた。
そんな態度にさらに凹んでしまう。そんなに嫌なら来なきゃいいのに。
一人反省会で落ち込んで、誘わなきゃ良かったと後悔していた時にフォルは機嫌よさそうな様子でまた微妙な感想をくれた。
それでさえ普段は気持ち悪いくらいのお世辞を言えるんだから素直に誘いにのってくれるなり、お茶にも美味しいくらい嘘でも言ってくれればいいのに、と文句が出てしまう。
ここに来てから感情の起伏が激しくて疲れてしまうな。
そんな反省会後の落ち込みの八つ当たりもフォルが持ってきた甘味とミルクを入れたミルクティーもどきを飲むと久しぶりの慣れた甘味と香がとても美味しくて、内心の文句は急激に薄れていく。懐かしい味だ。
単純なのか、トリップしてから短い日数のはずなのに懐かしさに肩まで浸りながら私の世界の事を思い出して止まらなくなりそうだ。
そんな所にフォルが季節の話題をだしてきて、半分話をきいていなかった所に忘れ差ってしまっていた話題がきてしまった。
「ところで昨日の事だけど、ユウリは妖精がどうとか言っていたけれど見えるんだろう?」
「は?」
そんな事を言った事や盗み見られて記録されている事などミルクティーのお陰ですっかり忘れて気が抜けていた。
フォルと話してる時も随分と間抜けな顔をしていたと思う。
「僕は気配と激しい感情ならわかるんだ。妖精達が最近とても喜んでいるんだ。ユウリが見えたからだろう?」
この人、何いってるんだろう。
言えない…。妖精達が見えて話せて遊んでました。精霊達に祝福も頂きました。
だなんて平凡を望むなら、とてもじゃないけれど言えれない。むしろ言わない方がいい気がする。
周りにつつぬけのこの部屋の中で言うなど、もっての他だ。
「いるんですか?ホントに?なら見てみたいです。庭にあんなに綺麗な花があるから、花の妖精頭に花を付けたりしてるのかな?」
「花?」
「そう。私の世界の物語の妖精達は小さな人に似てたり、頭に花を咲かせてたりする挿絵があったんです。木の妖精なら頭に葉っぱが沢山あったり?果実や野菜なら、やっぱり被りものになるんですか?」
さりげなくフォルに背中を向けて窓辺に立ち、全力ですっ全部でとぼける為に目の前に見える妖精と全く違う事を話す。
今も自分の白々しさを笑う妖精達を見聞き出来るけれど、ふて腐れた視線を向けるだけにして、あえて見ないように意識する。
「被りもの?」
戸惑うようなフォルに身振り手振りで被りもの説明する自分が必死になっている気もする。そんな勢いに負けたのかフォルは頷くだけだった。
「いや…僕も書物でしか知らないけれど、小さな人型らしいよ。愛らしいがユウリがそんな妖精達と戯れる姿は何とも言えないだろう」
王子様らしい素敵な笑顔をくれるけれど、絶対愛らしくないはずだ。
いつものフォルの様子にごまかせたと安心して、私は無難に笑って流す。
異性との会話や、お世話でも褒められ慣れていない日本人の私。困った時は笑うしかない。
そんな私を見てフォルは何故か笑みを深める。
「やっぱり見えるのか……。ユウリは分かっていないようだけど、これでも僕は本気なんだよ。そんな事なんか関係なく、ユウリの存在に惹かれている。今すぐにでも二人で深く深く繋がりたくなる程にね」
いつものお世辞の様に聞こえる割には、いつもと視線の強さが違う。笑顔のはずなのに狙われている気分になるのは何故だろう。
ごまかせてなかったと動揺している所に、口説かれているかと思える言葉は勘違いしてしまいそうだからやめてほしい。
どうしよう。
更に笑みを深めるフォルと混乱気味な私の空気に間抜けな音が響いた。
ポーン
「あ、あの…」
そして賑やかな足音と慌てたリンダの声が聞こえた所で勢いよくドアが開いた。
「フォルーニール様。あんなにお頼み申し上げておりましたのに!」
「チッ」
突然の侵入者はどこかで見た事がある人だった。
誰?どこかで見たぞ。
目線を侵入者に向けていると、舌打ちのような音が聞こえてフォルに視線を向けると私に背を向け立ち上っている。
私をかばうようにフォルが私と侵入者の間に立つが、侵入者は気にする様子もなく話つづける。
「ユウリ殿。突然の訪問大変申し訳ありませぬ。
クロスフォードに話しても、聞いているようで言葉巧みにごまかされ書類ばかりの仕事を増やされ、陛下もフォルニール様も頷きながら笑顔で巻かれました。これでも一応、魔術師団団長のとしての訴えのはずでしたのに。」
「あ……はぃ」
「こんな事ならば、魔術師団団長しか見られないという書物が見られるという権限などに目をくらますのではなかった。そうすれば、一魔術師として陛下の餌を見せびらかすような話しだけでなく、直接ユウリ殿の話しを聞く時間も取れたやもしれません」
勢いのなくなる団長の寂しそうな声に、何か言わないといけないのかとフォルの背中から顔を覗かせてみた。
「あの……とても周りに認められているからこその団長さんなんだと思いますよ?」
「しかし、それよりも自分の興味が沸く話しがあるのです!今より、やりがいも感じられるのです!」
すると、うなだれていた団長がガバリと音がしそうな勢いで顔をあげる。
その瞳の輝きからして、それって私の世界の事についてですよね?分かりやすくて助かります。
それにナイスなタイミングで来て下さってありがとうございます。ぜひ、お話しましょう。
「あの……それって私の」
「ユウリ、今日はこれを渡しにきたんだ。まだ時間はあるのに、もう行かなくてはならなくなったのが、とても残念でたまらない。けれど、ユウリが装う姿はまばゆくて仕方ないかもしれないだろう。今から楽しみで仕方がないよ。他の奴らに見せるのが惜しくもあるが、父上様も兄上様も楽しみにしていたよ。準備は僕にまかせておくれ」
空気が変わり喜んでいた私の言葉に被せるように、フォルは訳の分からない事を言って封書を私の手に握らせると魔術師団団長の腕をつかみドアに向かう。
「さ、ユウリの元気な様子は分かっただろ。帰るぞ」
「そ、そんな。やっとここまで来れたのですぞ!」
「そんな事は関係ない」
慌ただしく二人が出ていった部屋に取り残されたような私はしばらく呆気にとられていた。
「あの……ユウリ様?大丈夫ですか?」
「あ。大丈夫大丈夫。なんだろね?」
手にある封書は私の名前がこちらの文字で書かれていて、裏は家紋らしき物を押された蝋でしっかりと封をされている。差出人は王だ。
手触りも以前親がもらっていた結婚式の招待状のように高級そうで間違っても私がもらうようなものではない。
ファンタジーの世界でこんな封書をもらい嫌な予感がしてしまう。そんな私にリンダが「開封なさいますか?」と手を差し出してくれる。
そんな風に言われたら断れず開封してもらい目を通した。
『夜会のお誘い』
そんな文字が最初に目に入ってくる。
それでフォルのあの言葉か。私にまで、あんなお世辞を言うんだから絶対にこの世界の礼儀が私にはおかしく思えて仕方がない。そして周りには目もくらむような美形ばかりのはずだ。
行きたくない……。どうしたら当日、熱がでるだろう。
授業もサボった事もない私は、誰もが納得するであろう体調不良になる方法を一生懸命考えていた。




