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緊張

「そう悩むな。今のお前は前も後ろもむいてないんじゃないか?周りを見ながら立ち止まって、どうすれば前に行けるか考えているんだろう。その証拠に自分の望みを直に王に伝え仕事も得た。大丈夫だ。ユウリはユウリの道を行くがいい」


 そうだろうか?

 ここに来てから、早く帰して欲しくて、出来ないならそれまで庶民的に普通に暮らせる現状を精一杯望んで考えていただけなのに。


 ディンの言葉が巻き込まれただけで本来ここにいる存在ではないと頑なになりながら頑張っていた私を、ここにいて良ていいんだと肯定してくれているようで嬉しくてたまらなくなり泣き笑いになるのが自分でも分かった。


「変幻を使わない素のお前の姿を俺は見てみたい。その方がこの……いいと思うしな」


 そんな私をディンは怖ず怖ずと胸に抱え込み頭に耳にいつつも口づけながら泣き止むまでずっと髪を背中を撫でていてくれていた。


 その日、部屋に戻ったのは夜も遅く久しぶりによく眠れた気がする。



『ユウリ。あの人達だれ?記録する石も置いていたけど……』


 だれ?と、私に聞かれても……。


 不思議な事を妖精に聞かれたのは翌朝の事。

 その朝は、普通に部屋着に着替え洗面で泣いてしまって腫れた目に驚いて悩んだ。そして、朝食を用意してくれたリンダと普通に挨拶を交わすと目を心配してくれていたけれど、心配してくれた事が嬉しくなり安心して下がってもらった。リンダの少し元気のない様子が気になったけど、急いでいる様子だったので後で話しをしようとお礼を言って送り出したのだ。


 その後、天気も良かったので窓を開けた途端に入ってきて慌てたように話しかけてきた妖精の言葉の意味がわからず首をかしげる。


『だって、天井裏から誰か見てるよ。二人いる。石は棚の上に置いてたよ。ユウリには見えない所だよ。変な所から魔力をかんじるから見たらあったから』


「嘘っ。それに誰か見てる?私を?」


 記録の石がどんな物か知っているから、ついひそひそと話す妖精に私もさりげない態度でさらに小声でたずねると、縦に首を振られた。

 それにすぐに返事もせずにベランダに向かい外にでる。どう普通に考えてもおかしい状況だ。


「生きてる人?」


『生きてるよ。男の人達。なんだか真面目な顔して穴から覗いてる』


 よかった。けれど、異常な状況に変わりはなくてとても気持ち悪くて怖い天井裏だ。今の私の所から棚の記録の石は見えないので私の映像は残らないだろう。後で確認しないといけない。

 とても嫌な気持ちになるけど、ほんの少し気は楽になる。けれど、突然、いつ天井を破り降りてきて刃物で襲われたりしたら私にはどうしようもない。刃物と敵意に囲まれた過去の経験もあるから身の毛がよだつ。


 天井裏にいる人達が怖い。

 まず、良い人は天井裏から覗くような真似はしないだろうから、悪い人だろう。そうなって初めて、妖精と内々にすぐ助けを求められる祝福に守られているように感じられて素直に感謝できた。


 怪談も怖がる私だから見えない誰か分からない幽霊にも怯えるが、こうなれば危害をくわえてくるかも分からない生きている人の方が怖くなる。聖霊達の時に感じた怖さの種類が違う。


 なので、ここはちゃんと何がいるか確かめて安心したくなり深呼吸のふりしながら、また妖精達に震える声で情報を求めた。


「いつから?」


『ずっと見てた様子だけど、熱心になったのはユウリが窓を開けてからだよ』


 窓を開けてから?しかも熱視線だと?なんで?


 今も届いているかもしれない熱視線を避けるようにバルコニーの柵にもたれかかり、すぐ下の庭の花を覗きこむようにし、顔を結っていない髪で隠しながら話しを続けた。


 「ずっと」や「熱心に」なんて怖すぎる。そんな事をされる筋合いもトキメク熱烈な出会いもなかったはずだ。


 開きなおり怒ろうとしたけれど、どうしても足が震えて怖さが先にたってしまう。


「なんで?もしかして……私に襲い掛かってきそうな感じ?」


『理由までは分からない。さっき、ユウリが部屋に呼んでくれた時に気が付いたから。

 危害を加えたりはなさそうだけど……。ありそうだったら僕たちが出来る限り守って教えてもあげる。その前にユウリの魔具には上の人達の祝福があるからすぐに伝わるし大丈夫だよ』


「ありがとう。けど、じゃあなんでいるのかな?」


 もしかして、この世界のスパイみたいな人達か?

 そうだとしたらなおさら、そんな人達が私の所に居るのか意味が分からないが、監視されているようで良い気はしない。それに、いつ部屋に降りてくるかと怖くなる。


 私の味方となると言ってくれている妖精たちと話せて、初めの頃よりいくらか落ち着けてはきていた。すると、重大な乙女のヒミツも思い出してしまい、いよいよ両手で顔を隠すようにしてその場にへたり込んでしまった。


 私、今朝トイレに行ったぞ。しかも大きいのを快調にした…。

 何も隠さず着替えもした。

 今朝の寝相も両足で上掛けをはさんで夜着もめくれて少し寒くて目がさめたぞ……。


 いや〜!覗きじゃん〜!!しかも盗撮もじゃんか!!

 天井裏から、やってる事はただのストーカーの覗きで変態チックなだけじゃないか!!


 あ!しまった伝達の魔具つけてたんだ!


 あちこち気になる事もあるがインターフォンも鳴らないし転移の気配もない。ディンの声も聞こえないから伝達は大丈夫なはずだ。


 便利な魔具の不便さにヒヤヒヤするがじっとしていては、これからの生活がくつろげず、物凄い羞恥ばかりになってしまう。

 頼れる所があるので怖さは薄れたけれどダメージは予想外に大きく、よろめく足どりで小声で妖精に着いて来てくれるように頼んだ。


「見てる?」


『見てないよ』


 それから、さりげなくトイレとお風呂に足を進め妖精達と確認をする。

 妖精情報によると、トイレとお風呂と試しに着替えるふりをしてみても覗いてないし石もないらしい。寝室も見てるようだったけれど、後の心配は寝相だけだ。そこは夜に確認しようと妖精と約束した。

 無駄に豪華だと思った天蓋つきのベッドだけど一度も使った事のない、カーテンのような薄い布をキチンと使い周りを囲えば更に視線にさらされる事は防げるはずだ。少しは安心できるだろう。


 朝から妖精達と神経を尖らせて視線を気にしながらも、なんとか普通に解説をこなし私は頑張っていた。

 ゆうべディンの胸で泣いた事など思い出して顔を赤くさせてジタバタする暇もないほど余裕がなく、かといって集中も出来ず肩がこったけれど……。


 それが午後になり軽い少量の昼とり、部屋に居づらくベランダにいるとインターフォンがなった。

 相手を確認するとフォルだった。スッカリ忘れていたがお茶会の時間らしい。


 けど、石もあり覗かれてる部屋でお茶?それは嫌だ。これはチャンスかもしれない。

 よし!女優になろう!


 ドアを大きく開けると明るい輝く笑顔の完璧な王子様がいる。


「フォルニール様。私、お部屋にお花を飾りたいんです。朝から部屋を見回すとなんだか殺風景に思えて……。だから、庭に咲いてある花を少し分けてもらっても良いでしょうか?」


 負けないわ!

 余計に息が詰まるような客室からさりげなく出られるチャンスに、フォルの煌めきを見ても昨日とは違い自ら近寄り、心から笑すらわいてくる。

 天井裏から見られてるいつもと違う朝の怪しい行動もこれでカバーできるはずだ。我ながら百点をもらった気分だった。


「おや?そうなんだね。なら庭師にまかせよう。ここはいいから伝えて来ておくれ。1時間ほど休憩もとるといい」


なんですと?


すがる視線に申し訳なさそうにリンダ退室




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