王族の話し合い1
私の部屋から出た後、フォルは王と兄のアースティンと話し合の時間を持つ事を約束して図書の部屋に向かったらしい。
そうして、私の知らない所で夕食後に王の部屋に集い三人の密談が始まった。一番機密性が高いからと、場所をフォルが指定してまでの。
部屋には初め宰相と宰相補佐もいたが王に事前に「三人で」と念押ししていたからか、お茶の用意をした後すぐに宰相達は退室した。
始めは和やかに今日、離れの棟に移った椎名さんの様子が話題に上った。嫌がっていた椎名さんだが棟を見ると、初めは唖然としていてが、すぐに怒り始めたが元気な様子だった。なので宰相補佐に付き添っただけのフォルは手を振り城に戻った。
そんな、椎名さんを心配しながらの談笑に区切りが付くと話しを聞くだけだった王が口を開いた。
「で、どうしたのだ?ジュリアの話しだけなら人払いも必要ないだろう」
王の言葉にフォルは居住まいも表情も変わる。
「この場でお話したかったのはユウリの事なのです。
ユウリは、間諜の疑いもなくなり、これまでジュリアに巻き込まれた為に一時保護という名目で城の客人として滞在しております。
ですか、今日の様子ではどうやらユウリは妖精が見えるようでした。それは、ユウリの返答から察しただけの情報です。意志疎通か出来るのか、力を使役できるのか確認は出来ておりません。ですが、感じられて見られているまでの様子でした。個々の妖精の力は小さいとはいえ、数が集まれば想像もつかない物となります。ユウリに隠密の監視をつけ、真実を探る方が良いかもしれません。
ユウリの存在を隠しながら客人待遇をしている事で、周りからの探りも出始めておりますので警備の意味もこめてです」
フォルの話しが進むにつれ、ゆったりと構えていた目の前の王の纏う空気が引き締められ、お茶を飲んでいた兄である第一王子のアースティンもカップをテーブルに戻す。
「それで?」
「もしも、この情報が信じるに値するもの、つまりは妖精を使役できると確認できたならユウリは、この世界にいるかぎり国から出すべきではないと私は考えます」
続きを促した王の言葉に、緊張の為に手を握りしめながら答えたフォルに大きな息を吐き出した王は、ソファーに背を預けた。そのまま腕と足を組み目を閉じた。
「精霊士としての役割が出来る者が、この世界から消えて随分な時間がたつ。
書物によれば例え、一つの属性の妖精とでも繋がりが取れるのであれば、その上に存在するといわれる精霊とも繋がると伝えられておるが……。精霊が司る自然の力は偉大なだけに、にわかには信じられぬがの」
「ですから隠密を付け真実を探るのです。ユウリが我らの味方となれば我が国にとって救いとなる手立ての一つになるでしょう。逆になれば、あがらいようのない程の脅威となります。そうならない事を切に祈いますが……。
ですが、城を好まないユウリの意志も尊重したいのです。前から願いは伝えてありましたが、私は王位継承権を放棄したいのです。そして、臣下となりユウリを婚約者としてぜひとも城外で暮らしたいのです」
しばらくの沈黙の後の王の考えながらの言葉に対し、フォルは私の存在価値を高めるように畳み掛け押して願った。
関を切ったようなフォルの訴えに驚いたのはアースティンだ。予想だにしていなかった自分を捨てる様なフォルの発言に目を向いて言う。
「なにを言っている!もしも私が王位を継ぐとなれど、フォルを城から出すつもりは微塵もない!!フォルの見識や手腕は私には無いもので確かな物だ。このように信頼できるフォルを手放せるものか。もちろんユウリもだ!」
父とあれど、王の前でこんな感情をあらわにした事は無かったアースティンは王の不興を買ったかと内心うろたえていた。
そんなアースティンにフォルは「黙ってろ」と視線だけ向けたが、言葉は無視して、姿勢を変えず目を閉じた王に訴え続けた。
「誰も国を捨てるとは言っておりません。どこの場所でも国の為となる情報はあります。城から離れ、外から見る事で気付く事もあります」
フォルは、焦る事なく言葉続ける。
「兄上には幼き頃よりの妃候補として、隣国のサランがいます。他の候補もいるとはいえ外交的にも政略的にも婚約をしない選択は賢いものではないでしょう。幼い頃より皆で共に遊び、見ると今では二人の気持ちも通じあっているようすです。そんな兄上が表だってユウリに付く事はできないでしょう。
兄上の中で、いずれサランと婚姻し、なおかつユウリの気を引きながら結果、側室として扱おうなどと考えているなら、もっての他です。ユウリは立場的にすぐには帰れなくなるでしょう。
それとも、もしや今すぐにでも隠されてきた浮名の一つにユウリを加えようとしていますか?ならば、よしたほうが良ろしいです。
そもそも貴族会の男女の一夜の付き合いを了承し、割り切れるようなユウリではない。兄上がそれを行動に移したならば、私に加えディンやクロスも黙ってはいないでしょう」
フォルに言い当てられて思い当たる所があるアースティンは、心からのフォルへの想いを無視されても黙り込んでしまうしかなかった。
事実、貴族会に慣れているとはいえアースティンの一夜の付き合いはさほど多くはない。相手選びも避妊も細心の注意を払ってきた。
けれど王族だ。些細な事でも周りに注目され、浮名は流れる。
サランの事を大切に思っていたが、浮名の半分は真実だった。その為、王からは注意も受けていたがフォルの耳まで届いているとは思わなかったようだ。
根は真面目なアースティンは、幼い頃より王位を継ぐのは自分だと周りから言われ努力を続けてきたが、それは同じ母を持ち年が近く共に学ぶフォルニールがいたから励まし合い、刺激し合っていたからこそ出来ていた事だ。
そんな長年の関係を忘れたのか、継承権を放棄してまでしてフォルニールは自分から離れようとしている。兄である自分よりユウリを優先させて城外に出ようとしている。
自分がユウリを口説いたのは、ただの興味だったがフォルは違うと突き付けられた。沸き上がる動揺を抑えつけながらアースティンは思考を巡らせた。
「父上。もしも私の願いが聞き届けられるなら、ぜひとも私に辺境でも構いませんから領地を賜りたいのです。そして、ユウリが元に戻れる手立てが見つかるまででも共に暮らしたいのです」
「それでよいのか?」
やっと王が目を開け、口を開いた。その様子を話しを聞く耳は持ってくれていると判断して、少しだけフォルは安心した。
「ユウリが私を受け入れてくれるのならば。そして、いつか帰る手立てが見つかるも、私の近くにいる事を選んでもらいたい。今は、これ以上ユウリを我が国の事情に巻き込み城で窮屈にさせたくないのです」
昔から城を抜け出し市井に出かけていたフォルは、窮屈な立場の自分にユウリを重ね合わせているようだった。
話しに区切りがつき、二人が黙った時にようやく幾分落ち着いたアースティンが話しはじめる。
「いや、父上。ならばなおの事、辺境の地よりも私の側室候補として城におくのがよろしいかと……。あくまで名目上の候補です。そうすれば、帰る手段が見つかった時に何とでも言えます。
ユウリの作る解説は興味深いものが多いです。少し元の世界の話しを聞いただけでも複雑な機能の魔道具や技術、生活のしくみなど私達には想像できない物ばかりあります。
それに、ユウリが持つかもしれぬ力は、あまり知られていないですが戦略の一つになる力。妖精が見えるだけでも稀少です。
どちらも国内外に知られれば、余計な争いや騒ぎの種となりうるものです。
まずは、下級でも貴族の養女とし、私が望んだ為に父上と私達が後見となり側室候補としましょう。遠い異国で生まれた先祖返りの為に黒目黒髪としたら、珍しい容姿の理由にもなります。その立場と後見を作っておけばユウリの立つ位置も確かなものとなります。
その立場だからこそ、危険のないとは言えない城内の生活とはいえど護衛を強固にすれば命の危険も減り、他国へ流れるユウリの情報の目隠しにもなるはずです。
貴族界では風変わりにみられる事があっても、信頼をおけるユウリの望むような同年代の令嬢も紹介できます。ユウリは友人を求めていると侍女長から聞きましたので、気も紛れる事もあるでしょう。ユウリは不運に思うかもしれないが、この国に転移してきたからには、帰るまでとはいえ安全な日々が多いに限るでしょう。それに、その手立ても見つからずいつになるかも分からない、今。
私もユウリを国外に流れさせたくはないのです。ユウリの力と知識を他国に気付かせず、その力を国の為に活用させていく案とも考えていかないとならないでしょう」
「どちらも、認められんな」
二人が話し終え、しばらくしてから王は立ち上がりジャケットを脱ぐ。そうして靴も脱ぐとソファーの上で胡座をかいた。




