悩ましい早朝
また寝たとは言っても、考える事に頭が疲れたので放棄するように少しウトウト出来ただけだった。
何故かというと、ベッドで身体を起こして頭を抱える私の隣に眠るリンダが、寝返りをうった。すると、リンダが身に纏う薄いネグリジェのような夜着がはだけ、裾もめくれ上がり下着ギリギリまで足が現わになった事がきっかけだった。
思惑に気が付いた事もあり、刺激的すぎる寝姿に大きなため息がでた。
そんなリンダからは色気が漂い、スタイルも私から見ても魅力的で羨ましい。けれど残念な事に夜の相手の言葉の意味を察してしまった今では、変な誤解をまた生みそうで夜着を直してあげる元気はでてこない。
それよりも、リンダが訪ねてきてくれてから一緒にベットに入り寝付くまでの健全で楽しかった時間が、一気に夜のお仕事のお姉さんの仕事上の接待を受けていたような気持ちになってしまい落ち込んでしまう。
本当に楽しい時間だっただけに余計に寂しくもなってしまった。
今はあどけない顔でスヤスヤ眠るリンダだけれども、部屋に入って来た時は顔を赤くして緊張していた風だった。お茶を飲みはじめても、しばらくはいつもとは何か違うリンダだった気もする。きっと夜の相手を頑張ってくれるつもりでいたんだろう。
気遣いをしてくれた事に感謝しながらも、全く違う解釈をされていた事に落ち込む私。せめて春とはいえ肌寒い夜の空気で風邪をひかないようにとリンダを見ないようにしながら布団をかけ直す。
それから同じベットに寝る気になれず、クッションの柔らかな応接ソファーに横になると、大きな仕事を終えた達成感が味わえた。そして、一人きりで気が抜けて大きく息をつくと、本心までもが口から飛びだしてしまう。
「私、普通に彼氏ほしいんだけどな。同性の話し相手がいなくて寂しかっただけなんだけどな……」
予想だにしない出来事に頭は悩みはじめ一人脳内会議が始まった。
明日からリンダにどんな顔をして話せば良いんだろう。
そんなつもりじゃなかったのに……。私が求めていたのは、ガールストークだ。トークであってラブじゃない。
よし、普通だ。普通が一番だ。私が変に意識せず普通ならリンダも普通になるはすだ。普通の意味もよくわからないのに考えてしまう。
けど、なんて言えば普通?しかも、誤解がとける?
『リンダって寝顔も可愛いね。リンダの婚約者が羨ましいな。私も恋して彼氏と素敵な恋愛したいな』
よし。これだ。決まりだ。
これなら夜の相手の意味に気が付かないふりをしていける。リンダを褒めながら、私の恋愛対象は異性だとも伝わるはずだ。私の世界の私なら絶対言わない台詞だけど、ここは頑張るしかない。
昨夜、硬い表情のリンダから聞いた親が決めたらしい幼なじみの婚約者の話題から、私の世界の一般的な恋愛も伝えた。
実家は貴族らしいリンダだけれど、彼氏の意味も気持ちの通じる相手とくらいはわかるはずだ。
散々考えて出た天然気味な台詞を呪文のように唱えながら気合いを込める。
言うべき台詞が決まった事でいくらか落ち着いたからか、不意にクロスの受けている似た誤解が頭をよぎった。
もしかしたら同性を好むと誤解されたクロスもこんな気持ちだったのかな?
そういえば、昨日のキスはクロスに家族間の親愛のような、意味深に聞こえるような事も言われたような……。
その時の事は、この世界でも美形に入るだろうクロスからのキスに動揺しすぎて、何を言われていたかよく覚えてはいない。けれどクロスには証明と親愛で唇に二回もキスされた事になる。
日本の平凡な女子高生で奥手で乙女な私は、片想いの相手から告白されて両想いになれた彼氏と、ドキドキしすぎるくらいの時間を過ごしていく中での、ときめきに満ちたキスを夢みていたのに……。
それが、ファーストもセカンドもクロスからの証明と親愛のキス。
日本人の私は異世界文化に到底なじめそうにない。なじもうとも思えないし正直落ち込む。
文句の一つでも言えれば良いが、風習と言われたら黙るしかない。やるせない気分だ。
百歩譲って風習の違いを受け入れたとしても、やはり初めての唇へのキスは愛情表現が良かった。私のファーストキスへの憧れを返してほしい。
そんな恋愛感情ないキスを二回もしたくせにクロスは私に微笑み瞳の紫を濃くして、夜の相手を私にとも言っていた気がする。リンダの様子から夜の相手というのは、ベットの中での大人なピンクの関係の事だろう。
じゃあ、私の記憶が正しければ私がリンダとそういう関係になるならクロスを選びベットで関係しろという言葉の意味か?
無理無理無理無理。
ていうか、今は誰とも嫌だ。それは、絶対に好きな人とがいい。
今までとは違う想像をしてしまい余計に全てが恥ずかしくなってしまい一人で赤らむ頬を両手で隠した。
もう、誰とも顔を合わせたくない。
もうやだ、恥ずかしすぎる。今すぐ、私の世界に帰りたい。
そんな願いも叶う訳もなく、ソファーの上でクッションで頭を隠して考える中でウトウトしたけれど、目が覚めても何も変わらない。諦めたようにクッションを重ねたソファーから立ちあがった。
カーテンを開けて晴れそうな空を見てみてもループする頭の霧は晴れない。
「ユウリ様……」
「リンダ……。おはよう」
リンダの寝起きの声に振り返ると、そこにはナイトガウンを着てはいるが、しどけない寝起きの姿。思わず力が抜けてしまう。
「も、申し訳ありません。私、お相手を勤められなかった上にユウリ様より遅く目覚めてしまうなど……」
慌ててガウンの胸元を掻き寄せ、頭を下げるリンダに私まで慌ててしまう。
「そんな事ないよ。とても楽しい夜だった。ありがとう。
リンダって寝姿も可愛いし。透ける夜着も似合ってて魅力リップにクラクラしちゃった。普段の侍女服に隠れてたスタイルの良さに見惚れそうになったよ。リンダの婚約者が羨ましいよ。私も早く彼氏見付けて素敵な恋愛したいな」
「え……」
頬を染めていたのに段々と表情を無くすリンダに慌ててしまう。
「リンダは、とても可愛いよ。これからもたまに昨日の夜みたいに過ごそう。普通の友達みたいな付き合いがしたいの。普通の」
「力及ばず申し訳ありませんでした……」
私は、にこやかに最高の台詞を言ったはずなのに、肩を落として退室するリンダを見て何か余計な言葉を付けて間違ったかと嫌な予感がしてしまう。
考えるうちに立ち去るリンダを追いかけようと手は伸びるけれど、足まで動かす気力はもう残っていなかった。
そんな事もあってクロスの誤解を解くには、私が直球を投げても変化球が返ってきそうな言葉のキャッチボールになりそうで後回しに決めた。
次にクロスに会った時に変に意識しそうで、どうしてよいか分からなかったけれど、良い案が浮かばないから会わない事を祈るしかない。
そんなこんなの時間を私が過ごしている時に、当のクロスは宿舎の廊下にいたらしい。
「おや?ディン。おはようございます。帰りは今日の昼過ぎと昨夜ロイズに聞きましたが……」
「あんな家に長居しにくいだろう。仮眠だけして出てきた」
「そうですか。お疲れ様でした」
「ユウリは?」
「あぁ……、お変わりないですよ」
ディンの実家は城から急いでも馬で半日はかかる。それもディンの事情も知るクロスが長い遠征後の無理を労るような表情から、思わずこぼれてしまったような笑みとはっきりしない返答に変わった。それを見たディンは、何かあったと勘繰ってしまう。
「またユウリに何かしたのか?」
「口づけはしましたけれど……特には何も。侍女に夜の相手を求めたようでしたので、ならばこの容姿の私にしないかと話したくらいです。ユウリは、やはり不思議で可愛らしい方ですね」
クスクスと思い出し笑いをしながら楽しそうに話すクロスを見て呆気に取られたようなディン。
「口づけたって……それより、夜の相手を求めるとはどういう事だ?」
「寂しさのあまり侍女に癒しを求めたのでしょう。ならば、私が癒したかったんですけどね。
それより、伝達の魔具を持ってますね。もしかしてユウリにですか?使いこなせると良いですね。私も対となる魔具を用意したいので、後で詳しく教えて下さいね」
「お、おい……」
そう言うとクロスは話しは終わりとばかりに、珍しく慌てたようなディンに背を向け通路を歩いて行く。
「クロスがそこまで気に入るとはな……。やっかいだな」
一人残された通路でディンは、大きなため息を落として小さく呟いたのだった。




