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王と交渉


 その後すぐに宰相は部屋を出て行ってしまった。宰相は意外と話しやすい人だったので居てほしかったな。


 ため息を落として両隣に座る王子を無視して解説を作り始めた私は、話し掛けるなオーラを作る。今日も進めて早く終わらせたい。

 なのに王子様の二人は、そんな私を全く気にしてはくれない。フォルは気持ち悪い事を言うけれど、アースは穏やかな王みたいな落ち着きのある人かと思っていたのに違うようだった。いや、王なみに私の世界に興味はあるらしい。


「ユウリの世界では、時や月日はどう数えるんだ」


「兄上、こちらに書いてある物ではないですか?ユウリ、そうだよね?」


 私の右側に座るアースの問いに左側に座るフォルが宰相のノートをめくり、私に差し出し聞いてくる。


 手を止めノートを見てアースに顔を向けると、窓から入る日差しに金の髪が煌めき青い瞳も好奇心に輝いている。澱んだ心の私には眩しすぎます。


「そうです。この横棒が私の世界の月日の数え方で、下がこちらの世界の月日。気温とかは分かりませんが、日数や四季は同じような感じかも知れません」


「ユウリ、今の気候ならどのような作物が良いのだ?」


「兄上、それも候補がこちらに。作物を育てる事に関しては、こちらが考えジュリアに渡し改良させるのではないですか?そこまでユウリに甘えるのは如何な物かと」


「しかしな…。そもそも、フォルニールには聞いてない。私は、ユウリと話したいんだ」


「あの…、私は農作物を育てた事はありませんから、聞かれても答えられる事はごくわずかです。気温や肥料やあるので育ててみないと分からない事の方が多いと思いますよ?」


「それもそうだな。ジュリアも、明後日には中庭の棟に移る。畑も魔具もまだ出来てはないらしい。私も育ててみたい気もするが…」


「それは、父上に聞いてからの方が良いでしょう。鉢植えで育てられる野菜もあるようですし。ユウリ、そうだよね?」


 頷きはするが正直いうと邪魔だ。しかも面倒くさい。私を挟んで話しをしてほしくない。けれど、昨日のように王と宰相だと緊張が続き結構疲れてしまう。どっちもどっちだ。


 出来る事なら椎名さんの話しも聞きたくなかった。関係ないと思いながらも、どうしても椎名さんのこれからの生活を考えると気分が沈んでしまう。


 そうだ。書籍を客室に持ち帰り普段着のくつろいだ空間で解説を作ろう。見やすく、時間や月日の解説も作っておけばいいんだ。一人の方が絶対はかどる。


 そんな完璧な素敵計画を立てた私は、王子達の相手をしながらの解説は少ししか進まなかった。 どんよりと疲れただけの夕方には、部屋に来た王に素敵計画も却下されてしまった。


「一応、異世界の品は管理を厳重にしている。解説つきだしな。警備も結界もこの部屋が一番厳しいものだからこそ、ユウリに足を運んでもらっている。ユウリの時間を無駄にせぬ為に誰かしら人を置いておる。

人目を避けたいのならば、ここに茶も食事もユウリが来る前に用意しておこう」


 思案しながらの王に言われてしまった。けれど、このままでは食堂のお姉さんが遠ざかるばかりだ。椎名さんのお土産は書籍が多いので、誰かいて解説しながらなのでなかなか進まない。正直、質問するなら後からまとめてにして欲しい。

 それを伝えると、口元に笑みを浮かべる王。


「ならば、特別に城内の客室に移るのならば持ち帰る事を許可しよう。宿舎の客室より厳重だからな。ここの部屋に来るにも、移動が短くなり更に人目につかんぞ。まだ、木箱の品も多くあるから時間もかかるだろう?」


 やっぱり私が全部を解説しないといけないの?こんな事にまで巻き込まれ、さらに椎名さんを嫌になってしまいそうだ。それなら、私も手を抜けば良いのに周りの熱意を感じてしまい、抜くに抜けない。

 私の顔にふて腐れ加減が出ていたのかも知れない。王は、顎をさすりながら私を見て口を開いた。


「今のようにユウリに甘えてばかりもいかんしな。ユウリ、この解説に対する給金を支払い休日とある程度の自由も与えるようにしよう。慣れるまでは一人で出歩かせたくはないがな。だから城内の客室に移り解説をせんか?侍女もつける。全て終わり働く方法を考えるというのはどうだ?」


 城内の客室に移ると一人で解説が作れ、早く気楽になれそうな気がする。しかもお給料が貰えるなら、お金を貯めて上手くいけば町で暮らせるかも知れない。


「けど……、全部私が解説するんですか?」


「言語変換の魔具を作ったとしても、基本がユウリの世界だから解説がなければ書籍の内容も役に立たん事の方が多いだろう。書籍をジュリアに渡すにしても内容は把握しておきたい。危険な物も一応は知っておきたいのでな」


「ユウリ、良いじゃないか。君の知識は国に無いものだ。民に役立ちユウリの地位も作れる」


 フォルは黙っておけ。私は、この世界に長居するつもりは無い。民も地位も関係ない。王の提案も私にはバイト感覚だ。

 引き止めるように握られた手を強引に取り戻して王に訴える。


「なら、町に遊びにも行かせてもらえますか?侍女も最低限にしてもらえますか?解説が終われば、客室から出してもらえますか?他にこれからの希望もあれば聞いてもらえますか?なるべく普通に暮らしたいんです」


 なんだか、上手く王に転がされている様な気までしてきて悔しくなる。海千山千の相手に太刀打ちは出来ないが、言いたい事は言っておきたかった。


 それに、自由になるお金が貰えるのなら、町の様子を見てみたい。魔力のない私でも出来るか見て、城を抜け出し町で暮らして待つ希望がまた見える。


 私は、窮屈そうな城の客室に篭り解説という国の助けを求められる立場から早く解放される案を選ぶことにした。


「出来る限りユウリの望みに答えよう。城から出て暮らす事は許せんがな。悪いようにはせぬから、安心して客室に移るがいい」


 私の考えている事は王には丸分かりだったらしい。


 ちっ。秘密をもらしたりしないよ。城を出るのは、ちゃんと一人で暮らせるか見てからだよ。

 とりあえず、休みと給金と城内の自由は確保できるだけでも良いのかも知れない。


「……この解説が終わるまで城の客室でお世話になります」


「ならば、いつか夜会に招待しよう。言うならばユウリは国の客人だ。王である父上にそのような小生意気な態度を取れる人間など、そうはいない。はかなく愛らしい見かけによらず強かそうな中身。そんなユウリに似合うドレスを私が用意するので安心するがいい」


 なにを言う。行く訳ないだろう。何より、そんな面倒そうな会に行きたくない。意地悪されたら嫌だろうが。


 アースの言葉に慌てて振り向くとフォルも悪乗りし始めた。


「いいですね。本格的に装うユウリを私も見てみたいです。きっと、ユウリの魅力に誰もが目を離せなくなるでしょう。そして慣れぬ場で心は緊張に震えているのに、手を差し出せばそれを隠すかのように威嚇する子猫のようなユウリ。いつになれば、何を差し出せば僕だけになついて甘えてくれるんだい?」


 だめだ。一気に疲れてきた。自分の願いを叶える最短の道が一番疲れるのは、どこも同じなんだろうか。また、大きなため息が出てしまう。私の幸せが逃げてしまいそうだ。お願いだから逃げないで。


「あの、夜会は遠慮しておきます。私には似合わない場所すぎて行きたくないんです。あと、今夜は今の客室に帰らせて下さい。お願いします」


 なおも話し続ける王子二人に肩を落とし、俯いて一番立場が上の王に断った。


「色々と苦労かけるな。すぐに迎えがくるだろう」


 労るような王の言葉に頷くと王の隣に歩み寄り、見かけは良いのに本当に国を引っ張っていけるのかと次回あるらしい夜会の話をしている王子達を見つめた。




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