苦手だと思う人
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私が心の中で自分に言い聞かせながら、隊長室のドアを開けるとクロスの言った通りランバートがいた。
ランバートの魔術師の服はクロスの着ているものと少し違う。ゆとりが少なく身体に添い、両足の外側のスリットが深く動きやすそうだ。細身の身体にも似合っている。
「ユウリちゃん。じゃあこれから陛下の部屋に行こうか」
そして、私をちゃん付けで呼び、これから遊びに行くかのように爽やかな笑顔で誘う。
チッ。もう口調や笑顔には騙されない。美形やモテそうな奴なんか嫌いだ。ふん。
クロスの証明のキスで荒んだ私は、小さく舌打ちまでしてしまう。
けれど、モテそうなランバートは私の態度を全く気にしていなかった。
「隊長から少し聞いたんだけど、異世界から来たって本当?」
棟の通路にいる人達からの注目を浴びた騎士団と魔術師団の棟続きの第一宿舎を出ると、声をひそめて聞いてくる。
「だからどうしたの?」
目付き悪く見上げるようになるランバートは、何やら楽しそうだ。
「これから情報流すらしいから、それだけ極秘で聞いたんだ。今度、どんな所か教えてくれない?」
異世界から来た情報?理由の事か。なんでわざわざ流す必要があるのかは知らないけれど、好きにしたらいい。
けれど、二番目の理由だからこんな風に、これからも聞かれるんだろう。
今、私の世界の話をしたら泣くのは目に見えている。これから頑張るつもりなのに泣きたくない。
それに今日一日だけの付き合いのランバートに興味本位で聞かれても、まだそれに答えて話したくない。
これから王に私の世界の品々の話をする事とは気持ちが違う気がした。
「嫌だ。どうして今、思い出して辛くなるような事を話さないといけないの」
ランバートの言葉に足を止めて、顔も見ないで答える。八つ当たりも含まれて言い方もきつくなる。
もしこれが、ロイズだったら話していたかも知れない。けれど、ロイズなら私から話すまで何も聞いてこない気もした。
「ユウリちゃん。辛かったの?」
「違う。そういう意味じゃない」
辛かったんじゃなくて今は、思い出して話す事が辛いんだ。触れないでほしいだけ。
帰る時を待つ時間を、早く普通に過ごせるようになりたいだけ。同じ仕事をする人達には、聞かれたら最低限は話すつもりでいる。
ランバートと二人の空気が気詰まりになり、一人足を進める事にした。
「じゃあ、どういう意味?それに、ここの事を何も知らないのに、よくそんな強気になれるね。怖くないの」
「怖いですよ。私、本当に何も知らないから。だから、今は色々な事を覚えて慣れたいの」
「じゃあ、教えてあげようか?」
教えてくれる?
立ち止まりランバートを振り返ると、数歩離れた位置から私を見てるだけだ。
この人は、異世界に興味があるだけなんだろう。さっき私の世界の話を教えて欲しいと言った時と違い笑顔のカケラもない。
「そっちに行くと庭に出るよ」
え?うそ。それなら、何で早く言わない。
「こっちだよ」
ランバートは爽やかな笑顔で、右に曲がる方向を指さしているけど、なんだか拍子抜けだ。
「もっと色々、教えてあげる。だからユウリちゃんの事も教えて?」
「なんで教えなきゃならないの?」
「純粋にユウリちゃんのこと知りたいから」
どうしよう。
ランバートも癖がありそうなのに、私も純粋にホロッと来てしまいそうだ。
クロスやディンに疑われる事情聴取の日々と王の威厳にあてられたせいだろうか。
それか久しぶりの外の陽射しと空気の中、爽やかに見えるランバートの笑顔のせいだろうか。
数歩距離を開けたまま、またランバートから目が離せず観察しあってしまう。
「ユウリちゃんは、色々と知りたくない?」
ランバートが甘く誘うように柔らかい声で語りかけてくる。
「……何を教えてくれるの?」
「何を知りたいの?何でも教えてあげるよ。僕が知りたい事は、ちゃんと言ったよね」
ランバートは情報通?
何を知ってる。もしかして探ってる?
けれど、あのクロスの紹介だ。怪しい訳じゃないだろうけど、胡散臭さ満点だ。純粋にと言われても、私に隠し事があるから疑ってしまう。
もうやだ。早く王の部屋に行きたい。
「あ。いた。間に合って良かった」
「ロイズ……」
呑気に聞こえる声に振りかえるとロイズだ。今日の顔には嫌そうな言葉が書いてある。
あ、こいつと一緒?まいったな。
私の立つ位置は、二人の中心。迷う事なくロイズの方に足を進める。
私はロイズの隣に、追いついてきたランバートは私達の前に立つ。
「どうしてロイズが来るんだ?」
「うちの隊長に言われてさ。ユウリどうした?元気ない?せっかく綺麗なのに」
私の心配をしてくれるロイズの袖を掴んで、俯いて首を横に振る。私は、ランバートの言葉よりロイズの顔の文字を信じる。
「何だか俺、嫌われたみたいなんだ」
「ふ〜ん。まぁ、時間も無いから今は行こう。ユウリ、あとで俺と話そうか」
「ロイズはユウリちゃんのこと知ってるのか?」
「少しだけ。ね?」
ロイズの顔を見るとにこやかだ。問い掛けの言葉に、袖を摘んだまま頷く。
ロイズの態度は、最初から何も変わらず私は楽だった。
そして、人を疑う事も疲れるものだという事をランバートといて初めて知った。
そして、無言のまま三人で歩き始める。城の裏手の入口から中に入るとロイズが食堂や厨房、洗濯場の場所を教えてくれながら通り抜ける。
初めて見る城の中心部のあたりは、通路が広く天井も高い。歴史ある大きな美術館の空気にも似ている。
城の奥に進むにつれ辺りは静かになり、護衛のような騎士や魔術師も増えていく。
緊張しながら、やっと王の部屋の重厚な扉の前に着くと、ランバートが扉をノックする。これから王に会うのだと私は姿勢を正した。
王の部屋のドアを開けたのは、難しそうな顔をした宰相だ。
「ユウリさん。お待ちしておりました。お前達はもうよろしい。迎えの時は連絡をしよう」
私、一人招き入れられ応接室の奥の部屋に向かい教わったばかりの礼をとる。
「おお、ユウリすまないな。ドレスもよくユウリに似合っているぞ」
「ありがとうございます。遅くなりすみません」
奥の居室にいた王は、笑顔は無いものの表情は厳しくない。おかげで少し落ち着いていられた。
問いの場と同じように品が良く感じる王の部屋の中央に大きなテーブルがある。机の上には椎名さんの大きな木箱が三つ並べてある。その隣のトレイには苗物まであった。
「こんな事まで願ってすまないが、ユウリ頼む」
私の視線に気が付いた王が木箱の蓋を開けた。
薬、工具等や保存食の数々に化粧品や服や木の玩具もいくつかあるけれど、数が多いのは書籍と種だ。広辞苑まである。
普通のお土産に見えない品々に、国の為に持ち帰ったのかと思った。だけど、椎名さんだ。絶対に自分の興味の方が強そうなだけの気もする。
書籍を農業、医学、調理などの種類事に分類する。
『楽しい農業大百科』からはじめ、目次に目を通しながらページをめくり、種や苗があればそれも一緒に王に内容を説明する。すると、宰相が私の言葉をメモしていく。
続けていくうちに私は、喉がカラカラだ。
王がとても興味深そうだったので、防御のピアスのお礼がてら言語変換の魔具を外して手に握らせる。
すると、王は目を輝かせページをめくり指さし、一方通行に話し出す。
私に通じる訳がない。こうなると王の威厳も何もなく、ただの人だ。
魔具を行き来させ、質問に答える為に広辞苑をひきながら説明する時間を過ごし、時計が3時を指した頃に王が恐ろしい事を言いだした。
「ではユウリ。書籍も半分以上残っておるし明日も頼むぞ」
「え?」
「一応、わしも内容は把握しておきたいからな。駄目か?」
「……分かりました」
断れるはずもなく、宰相補佐の部屋に向かった。そこで、宰相が宰相補佐に明日も王の部屋に行かなくてはならない事を宰相が伝え部屋を出ていった。
部屋の中の机には、宰相補佐と総侍女長。緊張しながら席に着く。
「私、宰相補佐のサナンダーユンと申します。」
眼鏡を光らせる宰相補佐。
「先程、総侍女長と話しもしたのですがユウリ様が働かれるなら食堂などいかがですか?」
「今のユウリ様は、侍女には無理があります。食堂には魔力を使わない作法も気にしなくて良い仕事もありますし、洗濯もありますが量も少なく自力で大丈夫でしょう。時間も不規則で、水が冷たくはありますけれど。今は、食堂から始め慣れたら他を考えるとの方が働きやすいと思います」
宰相補佐と総侍女長の言葉に黙って頷く。まるで学校の先生達と話しているようだ。
「よろしいのであれば、陛下とのお話が終わるまでは隊長の宿舎にある客室で過ごしてもらいます。これは、譲れません。ユウリ様も人目につく城内の客室や、隊長と男女の噂がたつよりは良いでしょう?
ですが、今朝の事もすでに噂になっています。仕事を始められてもしばらくは騒がしくなりますよ?」
「気をつけます」
どの道、私の周りは騒がしくなるはずだ。それより、自分の居場所が見つかりそうで楽しみになってくる。
「わかりました。では、まずは陛下との事が終わり次第また、部屋を移りお話しましょう。迎えは頼んであります。部屋で少しお休み下さい」
宰相補佐の言葉から、しばらくするとインターフォンの音がした。総侍女長がドアを開けるとディンがいる。
「迎えは、ディンですか?」
「ランバートはクロスの手伝いに行った。ロイズには、こいつを連れての転移はまだ無理だろう」
宰相補佐の疑問にディンは私を見つめて答える。
「それもそうですね。ユウリ様は、夜は宿舎の客室で過ごしていただく事になった」
「分かった。じゃあ、夜まで俺の居室にいさす。夕食と入浴をすませたら、客室に送る。じゃあな」
ディンは、私に近付き片手で腰を抱くと、私や宰相補佐や総侍女長が何か言う前に転移してしまう。
着いたのは、ディンの居室だ。
「客室じゃ……」
言いかけているとディンが両腕を腰に回して来るから、身体が逃げてしまう。そんな私にディンは真剣に問いかけてくる。
「クロスの部屋はどうだった?」
え?
ディンの顔が私のピアスをしている耳に近付き、低く懇願するように囁く。
「俺の部屋にいろ」
そして、耳たぶがディンの唇に挟み舐められる感触をさせた後、唇の端に口づけられ心臓が跳ねてしまう。
「ドレスもよく似合ってる」
そのままディンは私から離れ、カーテンを開けて窓を開ける。今日は天気も良く風が気持ちいい。
なのにカーテンを開けていたディンの背中が、今日は元気なさそうに見えてしまい顔が赤くなりながらも心配になってしまう。
「客室は夜からでも良いだろう。ここで休め。昼は食ったのか?」
「まだです」
「なら、持ってくる。ここにいろ」
クロスもディンも何か私にキスしすぎだ。欧米のように慣習なのか?
ディンが居室を出て行くと私は応接セットに座り、ぼんやり窓の外を眺めていた。晴れた空は青く、植え込みの緑に目をむける。
すると、植え込みの中の小さな光に気が付いた。眩しいから?目を擦る。
それでも消えない、いくつかの小さな光。目を凝らすと小さな人がローブを纏い、葉の上を飛び跳ねながら遊んでいるようだ。
噂の小さいおじさん?
それにしては綺麗すぎる気がする。土の上や、風にのるように空中にもいる。
もしかして妖精?魔法があるから普通に妖精もいるの?
その姿を観察しながら、可愛いらしさに癒されていた私だった。




