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クロスの作る理由

ディンが出て行くとクロスは、事情聴取の時の顔つきになった。

 私も、姿勢を正してクロスに向き合う。


「ユウリ、良いですか。これからの為の理由も先程、問いの場で話し合った二つの案ですが……。

あなたはジュリア様が城から抜け出して階段を落ちそうな所を助けた恩人です。その日から、この国のいるけれど名前と年齢しか記憶がありません。だから、なぜこんなに魔力が感じられないくらいになっているのかも、ユウリは覚えていません。そして、あなたの事をジュリア様が不憫に思い連れて来て部屋にいたとします。

こうすると周りからの目は暖かくなるかも知れませんが、ユウリの世界の話は一切できません。

話すのなら時期というか、慣れた頃に思い出したふりをして話す事になります」


 クロスの嘘と本当が入り混じる理由に、私が小さく頷くと話は続いた。


「それか知らない間に異世界から来て、気が付いたら城内の庭にいました。そして、ジュリア様の中庭に迷いこんでしまいました。そこで、ジュリア様に会い部屋の中に入っていました。これでも良いんです。部屋でのジュリア様の発言と態度は、ユウリを庇う咄嗟の嘘に見えるはずです。事実とは真逆ですが……。

今まで、異世界から転移してきた話を聞いた事がありませんけれど、私達が知らないだけかもしれません。

ユウリが悪目立ちするかも知れませんが、ユウリの隠し事は少なくなり周りに受け入れられた時には楽になります。どちらにしますか?」


「その理由で周りは納得するんですか?」


「どちらも、ユウリに魔力が無く世間を何も知らない理由にはなります。けれど、疑問を持つ者もいるでしょう。噂にもなります。ですが、時間がたてば大丈夫でだと思います。髪と目も黒で珍しいですが何かあれば、私達に言って下さい。」


 髪と瞳は珍しいらしく、理由に関係なく人目をひくだろう。


「じゃあ、後の方でお願いします。嘘をつき続けたり、振りをする自信がありません。椎名さんの研究の理由にしてくれても構いません」

 クロスの役割もあるからか、言いにくそうに分かりやすく話してくれる。私の立つ立場の予想まで教えてくれる。

 調書を見ながら考えてくれたんだろう。


 けれど、これから沢山の嘘やごまかしで魔石の事を隠す余裕なんてある訳ない。覚えないといけない事ばかりだ。


 二番目の理由なら椎名さんが償う罪の時間のカムフラージュくらいにはなるだろう。

 王も辛い立場のはずだ。気にするなと言われても、気になる。少しは楽になるかもしれない。

 けれど、私の中で色々考えて後付けした気持ちだ。


 どちらも注目を浴びるなら沢山の嘘をつき続けるより、少しの嘘で普通に気楽に過ごしたい。

 それが、私の中でそれを一番に考えて二番目を選んだけだ。


「こちらの秘密を守ろうとするばかりに、ジュリア様を良く見せる理由になってしまいます。何の罪もないユウリに、嘘や負担ばかりをかけて申し訳ありません」


 私は、そんなに気にしていないのにクロスは、珍しく俯いて話した。

 自分で考えろと言われる方が私は困るのに。


「いいんです。理由も考えてくれたし。けど、客室はやめて下さい。居室がいいんです。あ、仕事をする前にこの世界の常識も教えてもらえると助かります」


 王やディンやクロスの言い方だと、私が客室に行けば何もする事はないように思える。今より息が詰まりそうだ。それだけは避けたい。


 私の言葉にクロスは、眉を下げ困ったような表情になる。

やっぱり、王の言うことだから居室は駄目なんだろうかと、私もクロスの顔を伺うようになる。


「ユウリは、ディンの居室だから良いのですか?」


 は?なんで?


「いえ、違います。客室でどう過ごしたら良いか分からないから居室がいいんです。もともと一般市民ですから、お城でお客さん扱いなんて緊張して慣れそうもないだけですし。けど、何も出来ないし他の部屋も知らないから、できれば居室がいいんです。」


 私は、椎名さんの部屋と問いの場と留置室とディンの居室しか知らない。その中で私がいれそうな部屋ってディンの部屋しか無いじゃないか。


「では、今夜は私の居室にしましょう」


「え?」


「ユウリの防御の魔具も作りたいですから、ちょうど良いではありませんか。ディンには手紙を書いて置いて行きましょう」


『ユウリは今夜、私の居室で私と夜を共にします クロス』


 クロスが書く置き手紙には、クニャクニャした記号のような文字で、そう書いてあった。


 なんて微妙な言い回しだ。まるで、一つのベッドに寝るようじゃないか。


 けれど読めた事が嬉しくなり、私も筆記用具を借りて付け足す事にする。

 前に名前を書いた時は、日本語だった。なので今度はこちらの文字を意識してみると、頭の中に浮かんでくる。それを、そのまま書いてみた。


『クロスさんが防御の魔具を作ってくれるそうです。今夜は、ベッドで休んで疲れをとって下さい。今まで、ベッドありがとうございました 悠理』


 おおっ。書けた。意味も合ってる。名前は漢字だ。凄い。


 日本語のように読み書きも出来る魔具の力に感動すらしてしまう。


「こちらの文字になってますね。読めます。これは名前ですよね?」


 驚いたようなクロスの声からも、魔具の力の凄さが分かる。これを作った椎名さんの、王の言う改良の力は凄いものなんだろう。


「では行きましょうか」


 置き手紙を見つめる私の後ろに立つクロスから、両腕が前に回ってくる。綺麗な白銀の長い髪が私の黒髪に重なる。

 てっきり、歩いて行くものだと思っていた私は、驚いてクロスを見上げた。


「転移しますよ」


 微笑むクロスの顔が思ったより近くにあり、身を引いてしまう。


「私、歩きますよ?何かの時の為に、魔力の使用は抑える決まりなんじゃ……」


 王の問いも終わったし、私も出歩いて良いはずだ。

 けれどクロスは、距離を縮めて私の耳に口を寄せ、甘く聞こえる声で囁く。


「今が何かあった時ですよ。ユウリの足を他の奴に見せたくない」


 すみません。慎みを持ちます。


 顔が赤らむような言い方をして、さりげなく私の足を撫でるとクロスは転移を始めた。


 クロスの居室に着き、目を開けると見た事が無い道具や小物がたくさん並ぶ大きな棚が目についた。それらの大きさや形は色々だけど、本と一緒に整理されている。

 応接セットは無く、代わりに四人掛けのダイニングテーブルに似た机があった。


 暖炉には火があり、前にディンの部屋と色違いのラグが敷いてある。

 絵本の魔法使いのおばあさんのような、大きな鍋のある部屋じゃなくて安心できる。


「ピアスの穴は開けてありますか?」


「いいえ」


 転移の腕を解かれ、机に向き合って座ると、色々な道具を用意し始めたクロスに聞かれる。



「防御の魔具がピアスなので言語変換も目立たないピアスにして、外れないようにしようかと思っていたのですが。もちろん、ユウリは自由に外せますよ」


 椎名さんは、ネックレスは高価だと言っていたから、盗まれないように隠さないといけない。目立たないのなら、その方がいいに決まってる。

 シャワーを魔石で止められる事と、ピアスを外せる事と同じらしい。


 アクセサリーならネックレス、ブレスレット、アンクレット、指輪やっぱりピアスが一番いいか。外れないし、目立たないなら余計に良い。


「ピアスにします。私の世界では普通に開けています」


 決めたものの内心、痛そうで少し怖くてなってしまう。


「分かりました。では、言語変換の魔具も見せてもらえますか」


 クロスは、今から作りかえるつもりらしい。

 失敗したらどうしよう。つい、制服の上からネックレスを手で隠すようにしてしまう。


 そんな私を、クロスは小さく笑って教えてくれた。


 魔具とは簡単に言うなら、魔力のある器に術を入れた物。だから、作り変えると言っても、違う魔力の器に術を調節しながら移し変えるだけになる。失敗も少ないらしい。


「このピアスの魔具は、ネックレスより魔力が上になります。言語変換の術を凝縮して完成させれば性能も良くなり、ユウリの言葉が相手に綺麗に伝わるはずです。防御の魔具のピアスの力も私並に強い物です」


「わぁ、可愛い」


 言語変換と防御の魔具のピアスは、真珠色と桜色の可愛い小花の形だった。真ん中にある小さな紫色の石が魔石だろう。クロス並の防御の力は分からないけれど、可愛いピアスで嬉しくなる。


「気にいって貰えて良かったです」


 クロスが微笑み、それから『よく聞こえる、普通、聞こえ悪い』を紙に書き聞こえ方を指で示し、クロスとジェスチャーで会話しながら魔具の作り変えをした。


 そして、言語変換のネックレスを手に握り試すと、相手に綺麗な言葉に聞こえるピアスになった。

名前は相変わらず『ユウリ』だけれど仕方がない。

 ネックレスは、青い石を外し小さな魔石を付けてくれる。魔力の少ない人も魔石を使う事があるので、持っておいた方が良いそうだ。


 怯える私の右耳に楽しそうにクロスが付けてくれた、小花の二つピアス。鏡に移して見ると余計に可愛く見えて、自然と顔が綻んだ。

 これで、無くす事も盗られる心配もない。あんな気持ち悪すぎる思いをする事もない。

 私の不安も随分と小さくなった。


「よく似合っていますよ。私が選んだピアスをユウリが付けて、喜んでもらえるなんて嬉しいです」

 嬉しそうなクロスの白銀の髪と瞳に、部屋の明かりが反射して輝いて見える。いつも綺麗な顔もより中性的に魅力的に見えた。


「クロスさんって綺麗ですよね。瞳も魔石の色より綺麗です」


 本人が目の前にいるのに、つい口から出てしまった。私にも、その綺麗さを少し分けてほしい。


「瞳は幼い頃から、よく魔石に例えられます」


 魔具を片付けながら、クロスは何の感情もこもらない声で返事をくれる。


 そうかな……


 ネックレスの魔石を見ると紫色で綺麗だけど、どこか暗さがある。


「ユウリ?」


 クロスの瞳を見ると、透明感のある綺麗な紫だ。紫が濃い時も深みがでるだけで、魔石のような暗さは無かった。


「いや、絶対に魔石より綺麗ですって。私の世界の宝石のようです。紫色の宝石があって綺麗なんですよ」


 クロスとの距離を少し縮めて、綺麗で珍しい紫の瞳をみる。クロスに戸惑ったように身を引かれたけれど、瞳の中の私まで見つめ続けた。


「違う。やっぱり、宝石より瞳のほうが綺麗に見える……」


「ありがとうございます」


 私の呟きで、とても綺麗な笑顔になったクロスに突然抱きしめられた。


「ユウリ……。フォルニール様の言葉ではないですが、これが偶然巻き込まれたのではなく運命だとしたら、この世界でユウリは幸せになれるでしょうか」


 クロスが私の頭に頬をよせ切なげに言う。


 そんな事、私に分かる訳がない。ただ、これからいつになるか分からない時を待つだけだ。その日の為に頑張るだけだ。




 けれど、運命?


「運命なら仕方ないですね。ここで、一緒に幸せになれる人を見付けます。けど私は、偶然巻き込まれたと思っています」


 自分で言いながら、涙が滲んでくる。

 これが、運命なものか。

 小説のように召喚された勇者や巫女や花嫁などの役割がある訳でも、誰にもない特別な力がある訳でもない。

 巻き込まれたこの世界では、魔力すらなく他の人より何も出来ず守られるばかりの私だ。 本当は自分でやると言ったけど、何も知らない場所で知らない人に囲まれる仕事も、出来るかどうか不安だらけだ。


 そのまま涙が止まらなくなり、ラグに誘導されクロスの膝の上に座らさる。クロスの胸で抱きしめられ、泣きながら今までの心の澱みを全て口にして吐き出した。


 それから、居室にディンが来たらしい。


 私は、そのまま泣き疲れて、クロスの膝に子供のように抱かれたまま眠っていた。


「ユウリは寝たのか。おい、居室でどこから聞いていた」


 クロスの前に膝をついて座り、不機嫌を隠そうともせずに聞くディン。


「気が付かなかったんですか?ユウリがディンに訴えていた位からです」


「なんで邪魔をする」


 ディンはクロスを睨むと、耳のピアスを気付き髪を避け確認するように見て顔をしかめる。

 そんなディンにクロスは、どこか得意げな表情で言葉を返す。


「それは当たり前でしょう。これだけ密度の濃い時間を過ごしているのですから。あ、ユウリに夕食も着替えも入浴もさせていませんでした」


「なにやってんだ、お前。らしくない」


 ディンが泣いた跡を見見付けて、親指でソッと泣き腫らした瞼を撫でる。


「一緒にいると楽しくて、すっかり忘れていました。

ディンも胸に縋られて嬉しかったでしょう。私の胸で泣くユウリは、たまらなく可愛いかったですよ。とても沢山の不満や不安や憤りを抱えてられました。

本当に不思議な人です。その前まで、嬉しく楽しそうだったんですよ?

私の瞳を魔石ではなく、宝石に例えてくれました。とても、綺麗な宝石だそうです。そんな事を言われたのは初めてです。それに、甘えられるのも良いものですね」


 とても嬉しそうに話すクロスを、呆れたように見てディンは子供のように言う。


「けど、泣かせるな。俺が先に目をつけたんだぞ」



 自分が泣かせた訳じゃないと、不満を滲ませクロスはディンに言葉を返す。


「狩りじゃあるまいし。


いつも女性と遊びはしても、執着はしないでしょう」


 ディンは、クロスを軽く睨み、視線を隠されてない足に向けると手で優しく撫でながら言う。


「今までの女はな。今回は違う。ユウリは、狩りに似たような物だ。捕まえて懐かせる」


 そんなディンの様子ににクロスは、面白そうに小さく笑って挑むように話し始める。


「怯えさせているくせに、言葉だけ強気で。甘やかして懐かせたい、でしょう。ユウリが帰る事を考えると、今から寂しくなりますね」



 最後にクロスは、泣き腫らした瞼に目を向けると、ディンも言葉に釣られて視線を動かした。


「だが、それがユウリの願いだ。手を抜くな。ベッドに寝かせるぞ」


 そのまま、ディンはクロスの膝から取り上げるように、背中と膝裏に腕を差し入れ抱き上げる。


「分かっています。そこまで邪悪になれる程、まだ本気になっていないですよ」


「まだ?まぁ、俺もだけどな」


 クロスは小さく笑いながらディンより先にベッドに向かい布団をめくり整える。

 その間、あどけなく幼く見える寝顔をディンは見つめ続けた。


 そして、私は翌朝お腹が空いて目が覚めた。今日も、私は健康らしい。泣いて目を腫らしていても、澱みを流してスッキリした気分だった。



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