王の問いの場4
「そういう訳にはいかん。余としても微力ながら助けとなる事を約束する。元の世界に帰れるようにも尽くそう。」
「いえ、ですから本当」
王に、私が嫌で断る本気は伝わらなかった。そればかりか、続く言葉をサクッと無視して、緩めた表情を引き締め王の顔になり言葉を遮った。王様なんて嫌いだ。
「ジュリア。品々の使用法や活用法が分からぬ時は、連絡しろ。折り返しスズキユウリの教えを連絡する。有り難く受け、参考にしろ。
木箱の全ては必要無いかもしれんな……。それは、余が選別していこう。不自然に大きな変化は混乱を生むだけだ。
ただ牢に入れ命を取るよりは、少しは民の為にもなるだろう。成果を余が認めれば、余の許可を得て一人が月に一度は、訪ねて行けるようにしてやる。だが、転移の理由以外はスズキユウリが元の世界に帰れると分かるまでは無いと思え。
何を思って持ち帰ったかは知らんが、物騒な書籍も渡さない。余は、戦をしたい訳ではない。
そんな物を、新たに作れば必ずどこかが真似をする。
余は、民が苦しむ戦をする以外の型で、民が幸せに生きれるよう国を守りたいのだ。
その役割の為に我等王族は民に支えられ、これまで生きてこられたのだぞ。それを、お前は忘れ自分の我が儘に好き勝手に魔石を使ったのだ。お前の盗んだ魔石は王族の物ではない。
もう前の戦の時の事を忘れたか。城の魔石は戦や災害から、国や民を守る為に使えるように国で保管しているだけの物だ。」
王は、少し語気を弱め諭すように椎名さんに話していた。けれど、相手は椎名さんだ。
「魔石の事は本当に悪かったと思ってます。
ですから、大きいのも小さいのも二番目を選びました。鏡で見た中の世界にどうしても行ってみたくて。文化も品々や書籍も、この国の役に立つかと思って。」
椎名さんは、涙を浮かべながら王に言う。
転移の日から私が見た、今までの椎名さんを思い出して考える。
これまでの王の態度から椎名さんは、ここまで厳しい言葉を聞くとは無いと思っていなかったのだろう。
「魔石の大きさや、数だけの問題ではない。私利私欲の為に国宝庫から魔石を無断で持ち出す事自体が罪となる。そして、それは盗みとなると言っただろう。それを、お前は国と言いながらも、自分の欲の為に使ったのだ。
本来なら種が根付き実を結ぶように、文化とはこの国の中から生まれて根付き育つもの。異世界の物が、そのまま根付くとは限らん。
お前はそんなに、父である王が治めるこの国が嫌か?そんなにスズキユウリの世界の文化等が羨ましく、暮らし続けたかったのか?」
「お父さま、それは違います。私は、お父様も好きで、この国も好きで良い所だと心から思っています。ただ、鏡の中の皆が、いつも自由で楽しそうに見え羨ましくなり行きたいと思っただけです。ちゃんと、戻るつもりでいました。」
椎名さんの言葉は、本当なんだと思う。話を聞いた私にも、なんとなく椎名さんの気持ちが分かった。
「それで行ってみて、本当に自由に楽しい事ばかりだったか?」
王は表情を少し和らげ椎名さんに聞くと、椎名さんは無言の首を横にふる。
「自由を求める気持ちは、余にも分かる。お前と同じ城だけで生きてきたからな。しかし、生きる為には場はどこであろうとも、誰しも何かしらの制限を受けるものだ。だからこそ、余暇を楽しめるのだろう。兄姉と違いどれだけお前は、甘やかされていると思っている。兄達は、余の跡を継ぐために補佐役として毎日忙しくしている。姉は、成人してから、亡き王妃の変わりとして努めている。
お前も、成人となれば嫁ぐまでは姉と二人その役割をと思っておったのに。他にも、お前にはお前の役割がこの国にはある。今の、お前は国に縛られず自由だったのだぞ。
上の三人も、昔から幼き頃に母を亡くしたお前をいつも気にかけ心配し、可愛がっていた。お前が今回の様な事を起こすまでの思いつめる何かがあるのなら、何故言わなかった。寂しければ寂しいと言い。する事が無く退屈であれば、何かする事があるか聞くなりすれば、こちらからも仕事を与えられたのに。
余が悪かったのだろうな。
余に言いにくければ、何故上の三人に話さなんだ。幼き頃から知る、宰相や宰相補佐、オーディーンにクロスフォードも居ただろう。
これからは、無茶な問題を起こす前に誰かに話せ。王女としての教育も宰相補佐に受け直させる。いい機会だ。」
最後の王の言葉に宰相補佐は口だけでニヤリと笑い、涙を流して素直に王の話に聴き入り、綺麗な泣き顔をしていた椎名さんの顔が強張った。
「今は、余より宰相補佐くらい厳しい方が、お前には調度良いだろう。
国の物を私物とした事は許される事ではないが、それを使ってお前は異世界に渡れたのだ。お前の改良した他の魔具も見たぞ。魔具だけに限らず、改良の力がお前にあるはずだ。
国に魔石と同等の物を返せとお前に言っても無理だろう。
その代わりに、お前が異世界で見聞きした技術や智恵や経験を、この国にあった形で民に返し幸せの助けとしてみろ。
しかし、スズキユウリ以外この世界からの異世界転移は、以後厳禁にする。魔術師団団長、分かったな。お前が嫌がる事を、これでもかというくらいしてから厳罰だ。絶対するな。良いな。余は言ったぞ。」
王の言葉に魔術師団団長は、たちまちシュンとなった。やりたくて仕方ないらしい。
私の転移の見学で我慢してくれと心の中で慰める。
手出しされたら危険な予感しかしないから、大人しくしててねと、可愛くお願いも付け足した。
そして、王は何か考える風にして重々しく口を開いた。
「ジュリアの罰の期間や扱いは、功績を民が認めてから余が判断する。それが何年になるか、一生になるやも知れん。身を粉にして、民の為に尽くせ。
そして、スズキユウリに誠心誠意、謝罪しろ。
それが、お前が国の宝を私利私欲の為に盗み出して使い物にならなくし、お前が起こした身勝手な行動に一人の罪の無い人間を巻き込んだお前の犯した罪の重さだ。良いな。ジュリア・ブーリンス。」
問いの場は、王の威厳で満ちていた。誰も口を開こうとしない。
私も、いつかディンが言った国の問題の意味と、椎名さんの行動の罪を王の言葉で初めて知った。
椎名さんの部屋での話の内容や、この場で私の世界の品々を見せながら楽しそうに話す姿、学校での誰とでも仲良くして笑っていた姿を思い出し、椎名さんに同情さえするほど私は場の空気に引き込まれていた。
けれど、椎名さんの罪の重さに私の事まで、加わっている事が嫌だ。感じなくて良い罪悪感を感じてしまう。
それに、国の問題にまでも巻き込まれたくない。やっぱり城は嫌だ。
そんな事を思って、王を見つめていた。
王が作り出した空気を破るのは、やっぱり王だった。
「ジュリア・ブーリンス。謝罪を」
「鈴木悠理さん。私の事に巻き込んで迷惑かけてごめんなさい」
やっぱり、椎名さんだ。しおらしい態度だけど、言葉の端々に不満が出ていた。
魔石に対する罪の重さや意味は分かっていても、私に対する罪の意味は分からずに謝罪も言われたからする感じだ。
けれど、それで良いと思った。椎名さんの、その謝罪のおかげで、私の罪悪感は少し軽くなったから。
「皆、この話は内密に頼む。前の戦から五年たったとはいえ今はまだ、周辺諸国を警戒している時だ。事実、怪しい動きもある。なので魔石が減ったという事実を極秘にしたい。誰にも口外しないように。
では、王族はアースティンを残し部屋に戻れ。団長らは、護衛を頼む。その後は職務に戻るように。ジュリアとメルティナには、騎士団団長が付くように。フォルニール、魔術師団団長を頼む」
王の言葉に、人の動きが始まった。
「ユウリさん。私、ジュリアの姉のメルティナと申します。今度、ゆっくりお話しいたしましょう。ジュリアの事、本当にごめんなさい。申し訳ない事をしてしまったわ。今日は、これで失礼させていただく事になるけれど本当にごめんなさい」
椎名さんに、よく似ているのに優しく優雅な雰囲気を持つメルティナは、私に伝わる謝罪をしてくれる。そして、俯く椎名さんに寄り添いながら騎士団団長と共にこの場を出ていく。
「ユウリ。やっと、君の事が分かったよ。ジュリアがすまない事したね。申し訳ない。
今のユウリは、瞳の星がくすんで見える。もし、僕がその固く閉じた蕾のようになってしまっている唇に口づけたなら、どうなるだろう。たちまちその唇はほころび、頬は赤く色付き、黒い瞳の中の星は昼間よりも煌めきはじめ、ユウリは愛らしく恥じらう顔を僕に見せてくれるだろうか。
あぁ。ユウリ、そんなに嫌がらないでおくれ。偶然に巻き込まれて、こうして僕達は出会えたんじゃないか。これは、ユウリと僕の運命の出会いなのかも知れないよ。次に会う時には、花までもが誘われ咲いてしまうような笑顔を僕に見せておくれ。また、ユウリに会いに行くよ」
「フォルニール様。その前に是非とも、私とお話しいたしましょう」
「魔術師団団長が、こちらに来そうです。余計にユウリを困らせたいのですか?」
フォルは私の片手を両手で握り、親族の前だというのに鳥肌が立ちそうな程、気持ち悪い事を笑顔で言う。
そして、クロスとディンの牽制をものともせずに指先に口づけてから、魔術師団団長を引きずるように問いの場を出てドアを閉める。
私はその後、すぐにスカートで指先をゴシゴシ拭いた。
フォルとの出会いが運命の出会いなら、今の私には運命の出会いだらけじゃん。余計に疲れた。
もう、会いにこないで欲しい。
「ならば、わしもユウリと運命の出会いをした事になるな」
意外な人の意外な言葉に、顔を向ければ王だ。けれど真顔だ。
どう対応すれば良いか分からない。そんな私を見て、王は表情を和らげる。
「ユウリ。目覚めたばかりなのに無理をさせて、悪かった。
隠された記録の石も見つけ出し回収した。今は、決まりで、わしが用意した物だけだ。それも止めた。完全な非公式だ。安心してくれ」
さっきまでの、王の威厳は消え去りカケラも無い。
問いの終わりが分かり、身体の力が抜けていく。
「今回の事、本当に申し訳ない事をした。王としてではなく、ジュリアの親として謝罪する。
ユウリの気持ちより、国の事を考えた罰に対してもだ。不服に思っているだろう。申し訳ない。」
いや、記録も謝罪も、もういい。
それより、非公式の王の態度の変わりように驚きだ。
「いえ。私は、帰れさえすれば良いので、私の分は軽くしてあげて欲しいくらいです。ただの偶然ですから」
「それで良いのか?」
「あの……私がお願いしたこの場で、すぐに指示を出してくれただけで私は満足していました」
「そうか、だかユウリの心配は無用になるかもしれん。アースティン、どう思う」
「父上、一生は言い過ぎです。あんな言い方をすれば、ジュリアがムキになります。ユウリ、私はジュリアの兄のアースティンと申します。アースと呼んで下さい。今回は、本当に申し訳ない事をしました。私からも謝罪します。フォルニールまでもが、あんなで申し訳ない。」
アースは、王に一番近い席にすわっていた人だ。フォルより少し大人びていて、顔立ちがよく似ている。性格は、違うようで安心した。
「陛下、では私達は荷物を運んで失礼させていただきます。ユウリ様も失礼します」
え?様?
宰相補佐が王に挨拶をして、優しい声で私にも挨拶をくれる。
けれど、この人は椎名さんに意地悪そうに笑っていた。絶対、裏がある。騙されないぞ。
自己防衛の為に、愛想笑いで会釈した私の予想は当たっているはずだ。
「分かった。頼むぞ。ユウリ、相談は明日で良いか?」
「え?はい」
相談って……仕事の事か。城の中でも一番普通の場所にしてもらおう。
仕事をするなら自分に何が出来るかを考えているうちに、宰相達も問いの場から出て行ってしまっていた。




