王の問いの場3
「あの品々を全て元のように木箱に片付けるように。この場が終われば余の居室に運ぶ」
王が席に着き、宰相達に指示を出すと、椎名さんが慌てた様子で立ち上がる。
「お父様、それは私が……」
「そうだ。ジュリア、お前から、この国への土産だろう」
椎名さんは、自分に木箱を返してもらえると思っていたようだった。けれど、自分でお土産と言ったので王の言葉に何も言い返せず、代わりの様に私を睨みながら椅子に座る。
「さて、スズキユウリ。待たせたな。記録の石の中身は、真実であった。異世界から来たという話も、あの品々も不思議なものだがな。明日にでも、あの品々が何なのか余に教えてはもらえないだろうか」
何も反省していないような態度の椎名さんに睨まれて、ツンと私の方から目を逸らせた時に、穏やかな声の王に話しかけられた。
「え?あ、はい」
王と話をしたくても話せないのは嫌だけど、不意に話し掛けられるのも困る。
話し掛けられると思っていなかった私は、戸惑いながら短く答えた。
「勝手を言ってすまないが、よろしく頼む。それで、スズキユウリはこれからの事をどう思っておる」
「わ、私を元の世界に帰して欲しいです。お願いします。今すぐにとは言いません。時間がかかるようなら、仕事をしながらでも待ちます」
やっと、話を信じてもらえた王に、お願いが出来た嬉しさで涙が滲んでくる。
「お父様。ならば、この者を私の侍女に。それなら、時間のある時に私がこちらの言葉を教えてやれます」
私が椎名さんの侍女だと?
言葉を教えてやるぅ?
冗談じゃない。
その嬉しさに水を差したのは、椎名さんだった。言語変換の魔具が惜しくなったようにも聞こえる。もし、言葉を習わないといけないのなら、絶対に他の人が良い。
今なら、言っても良いはずだ。
私に得意げに笑って見せる椎名さんに言いたい事が山ほどあるけど、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせてから話し始める。
「椎名さんに、私の事を決めようとしてほしくないです。そんな権利、椎名さんに無いはずです。椎名さんは、自分が巻き起こした事なのに、始めから私の事を邪魔物扱いしてたよね?
部屋でメイドさんとディンさんの時と態度違ってたし。私が、押さえつけられてても、どこか行っちゃうし。あの時、すごく痛くて怖かったんだよ。
私まで転移したのが偶然だとは、分かってる。椎名さんにも、予想外だったのも分かる。
けど、私と二人の時に私が巻き込まれて此処に来て、来たくて来た訳じゃないから帰りたいって言っても、自分の事ばかりで厄介者扱いするだけだったじゃない……。魔具だけは、ありがとうって思えるけど……。
けど……だから、椎名さんに指図される侍女なんて、絶対に嫌。なりたくもない。」
結局、私の落ち着きは十秒もたなかった。
言いながら泣きそうになり、途中で何が言いたいのか自分でも分からなくなって止めてしまった。自分の気の弱さが情けない。
「ジュリア。スズキユウリの言う通りだ。黙っていろ。あと、スズキユウリは、お前より立場が下の人間ではない。お前が多大な迷惑をかけた者だ。それを、間違えるな」
王にも止められて、椎名さんはふて腐れて私を睨む。けど、無視だ。無視。今は、それ所じゃない。
私も落ち込む時じゃない。
王と目が合ったので、きちんとお願いの続きを始めた。
「あの……、私からこの魔具を取り上げないで下さい。本当に言葉が何も分からなくなるんです。それから、待つなら城から出て町で仕事を見つけて、一人で暮らしながら待ちたいんです。だから、仕事が見つかるまで生活できるお金も貸して欲しいんです。お願いします。必ず返しますから」
ネックレスを制服の上から手で押さえてお願いした。お金も他に借りれそうな人が居ないのだから仕方ない。
「城を出る?それは、許してやれん」
え?なんで?お城なんて嫌だ。窮屈そうだ。美形ばかりで、椎名さんもいるし。色々と怖そうじゃん。
せめて、町で何かの仕事を見つけて普通に暮らしながら、帰れる時を待ちたい。
「魔石が、こうして使われた事は極秘にしたい。それに、時計も知らなかったのに市井で働けるのか?まだ、この国の事を何も知らない赤子のようなものなのに。向こうで働いた事も無いのだろう?
国からとは別に余が金を出して生活させても良いが、生活しようにも全く魔力が無いのでは水すら自分で出せんのだぞ?
客人として、城に滞在すれば良かろう」
城に客人として滞在?それって、ただ秘密を守る為に?お客さんとして?嫌だ。周りに気を使って息がつまりそうだ。
けど、私は本当に何も知らない。お金の数え方も、どんな町なのかも、魔力を使っての暮らしがどんなものなのかも。魔力の無い私が仕事をしても、一人で生活できるのかも。
お金を出して貰えるのも助かるから、無理を言って出してもらう?けど、そんな大金を返せるはずもない。それで、仕事もせずに一人でいたら、考え込んで泣いてばかりになりそうだ。
王に言われて初めて気が付いて、全く魔力が無い事が不安になってくる。けれど、城は、嫌な事が多かったので嫌だ。外に行きたい。
私が立てた甘い計画が、一気にガラガラと崩れてしまって悩み始めてしまう。
「まぁ、それは今、この場で決めなくても良い。宰相補佐、相談に乗るようにしろ。出来るだけスズキユウリの良いようにしてやれ。
魔具は、取り上げるような真似はさせんから、安心しろ」
王の言葉に、宰相補佐を見ると目が合って頷いてくれたので、軽くお辞儀をした。優しそうな良い人に見える。
魔具も手元に残ると分かり安心する。けれど、それが無いと言葉が分からない事が不安だ。無くさないようにしないと。
「異世界への転移については、ここにいる二人の魔術師でジュリアに再度事情聴取をし記録の石も使え。問いも必要なら行う。
余の時は、突然すぎて記録も無いまま、ジュリアを部屋に監禁していたからな。
過去の転移は、文献で魔術師団団長が調べてみろ。調べるだけで良いぞ。調べるだけだ。分かったな。余計な事はするな。クロスフォードは、魔具の専門の者と魔鏡の修復をしながら、代わりとなる物を探すように。まずは、そこから始める事にしよう。
それと、スズキユウリに防御力の強い魔具を早急に用意しろ。わずかな魔力で、あの状態だ。悪意のある術を、ぶつけられたらどうなることか」
魔術師団長を見ると、目を輝かせて何度も頷いている。きっと調べるだけでは終わらないはずだ。そんな予感がした。
魔力で私が調子が悪くなった事を、気にかけてくれる王。巻き込んでおいて、全てを私のせいにする椎名さん。親子な事が不思議だった。
王は、転移の日の椎名さんの話と、クロスが部屋から持ち出した物を見て、椎名さんと私の話の両方に疑いを持っていたのかも知れない。
「スズキユウリ。城から出してやる事は出来んが、それ以外であれば願いを出来る限り叶えよう。
転移の準備が整うまで、どれほどの時間が必要か分からない。いつとも約束は出来んが、今はこれで良いだろうか」
王の言葉に頷いた。
まだ先の事は分からないけど私がお願いをしたこの場で、王が指示を出してくれた事で帰れる事に近付き安心できていた。
「そうか。ならば、これから何かあれば、宰相補佐か後ろの二人に言うように。そして、三人は余にも報告しろ。スズキユウリも良いか?」
「はい。ありがとうございます」
「では、次に移ろう。
スズキユウリ、ジュリア・ブーリンス。席の交代をするように。魔術師団団長、オーディーン、クロスフォードも場の交代をしろ」
え?なんで?終わりじゃないの?
お礼を言って下げた頭を上げ、王を見ると頷いてくれた。そして、聞こえた言葉の意味が分からない。
さっきまで、穏やかそうだった王の表情も厳しい顔つきになっていた。
「ユウリ。行きましょう」
クロスに促され王の指示通り、目を見開いて驚いた様子の椎名さんと席を交代して、私は椎名さんが座った席の隣に座る。
「お父様。何故、私がここに……」
「ジュリア。余は、これからお前に罰を与えねばならん。スズキユウリ。そなたからも、この者に何か罰を与えるか?」
「いいえ」
え?なんで?
何の罰なのかは分からないけど、無理だ。そんな事したくない。私は帰りたいだけだ。
王の問いに、勢いよく首も手も横に振る。
「どうして……、あの者を連れてくるつもりは」
椎名さんの言い訳を遮り、王は話を始める。
「スズキユウリから与えられる罰は、結果としてお前が巻き込んでおきながら、保護をしなかったばかりでなく、嘘偽りを並べたてたからだ。
余の罰は主に魔石の事だ。お前は国宝庫から持ち出したと言うが、それは国宝を盗み出したという事だ。
窃盗だ。それは、お前の罪で罰を受けねばならん。」
「ですが、私そんなつもりでは……。」
青ざめた顔で、椎名さんは王に言葉をかける。
「持ち出した理由は、よく分かっている。異世界とやらは、よほど楽しかったらしいな。お前の話ぶりで良く分かった。あんな顔を見たのは久しぶりだ。だが、本当に驚くやら情けないやら複雑だ。
だが、お前がどういうつもりでも、盗んだからには罰を受けねばならない」
王は、辛そうな表情になり、椎名さんは俯いた。これまで、王は椎名さんの話ばかり聞いていたので、椎名さんは自分には何も話がないと、どこか安心していたのかもしれない。
「お前の中庭の隅に昔、王妃が子供達の為に建てた小さな棟があるだろう。特別な行事が無い限りそこで、お前は一人で生活しろ。ここの場に居る者以外には、研究の為との理由にする。普段のジュリアを知る者であれば、それで納得するだろう。皆も良いな。
周りには壁を作り、お前が外を見ることも、出ることも出来ないようにする。壁の外からも同じだ。」
椎名さんは、もう何も言わずに俯いて黙ったままだ。
「食事の材料や日常で必要な最低限の物は、他の罪人と同じ物、同じ量を半月事に、まとめて壁の中に入れる。何かあった時の為に、連絡を出来るようにはしてやる。
そして、そこでお前一人で身の回りの事を全てして生活しろ。準備が整うまでは、お前を部屋に監禁とする。初日だけは、新しい寝具二組と三食を用意してやろう。まずは、使われていない棟の掃除から始めるが良い」
「全てって……」
「全てだ。棟にはお前一人しかいないのだから。今までのように侍女や下女は居ない。お前は魔力が少ないから水を汲み、食事を作る所から全てだ。誰の助けもない。お前が一人でやるのだ」
椎名さんは、唖然としているようだ。罪の重さが適当かどうかは分からないけれど、小さな頃からお姫様として何不自由なく育ってきた椎名さんには、とても大変な生活になるに違いない。
「そして、スズキユウリの持つ言語変換の魔具をまた作れ。そして、書籍を読み解け。種ならばそれくらいの期間なら問題無いはずだ。スズキユウリの世界に合うよう言語変換の魔具を改良し、書籍を読みお前が畑を耕し育て方を学べ。
便利な道具だというのなら、こちらの生活に合うように作ってみろ。
珍しく美味い料理というのなら、こちらの似た食材を探し城に申請し、お前が自分で作るなり厨房に作り方を詳しく教えろ。
市井と同じ畑の道具や、生活の品々を使い、お前が生活に不自由を感じたら改良しろ。その為であれば、書籍も魔具も魔石も余が許可すれば渡そう。
スズキユウリ。願う事もおこがましいが、余から国の為に願う。どうしても分からぬ時は、教えを請うても良いだろうか」
「知らない事の方が多いですけど……分かる事なら答えます」
国を出されて王に願われて、断る度胸は私には無い。
了承したものの、王が何故そんな事を言うのか私には、分からない。
「礼を申す。国からもスズキユウリに出来る限りの礼をしよう」
いや、それはいらない。私の世界の事だけど、本当に何も知らないから。
帰るまで、普通にさせて下さい。そっとしといて下さい。それだけで十分です。
「いや、それはいいです。気にしないで下さい」
また、勢いよく、首と手を横に振った。




