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王の問いの場2


「お父様……私も、ですか?」


 王の言葉に椎名さんは、しおらしく立ち上がると小さな声で質問した。


「それしか、スズキユウリの話の真偽を見分けられないだろう。

ジュリアは階段で落ちそうになった所を、スズキユウリに助けられた。ならば、今度はジュリアがスズキユウリの助けにならないといけないだろう」


 王の声は、私の時とは違い椎名さんを少し宥める様に聞こえる。それでも、俯き無言のままいる椎名さんに痺れを切らしたような王は、お腹に響く厳しい声で静かに続けた。


「このままでは何も進まない。ジュリア、これはお前の問題でもある。そして、お前だけの問題でもない」


 王は、椎名さんの返事を待たず、記憶の石のトレイを移動させ、真実の石のトレイを前に置いた。そして、無色透明な真実の石にゆっくり片手と乗せると椎名さんを見る。


「ブーリン王国、第三王女ジュリア・ブーリンに問う。記録の石にあるスズキユウリの言葉は真実か?」


 王は、問いを行い真実の石から手を離して立ち上がる。

 そして、自ら両手でトレイを持ち歩き始め、驚いたように顔をあげていた椎名さんの隣で止まる。


「お父様……」


 椎名さんの泣きそうな呼びかけを無視して机にトレイを置くと、背の高い王は腕を組み椎名さんを見下ろし厳しい声で言う。


「真実の石に手を置き答えてみろ」


 また俯いて無言になり動かない椎名さんの姿を王が悲しそうに見ると、大きな手で細い椎名さんの左手首を掴み真実の石の上に乗せる。


「ジュリア。答えろ」


 手首を捕まれた椎名さんが王を仰ぎ見るようにしても、王は逆らい難い声で言い手を離し腕を組む。


「……はい」


 ようやく、椎名さんは観念したのか短く答えると、真実の石は白く濁り始める。

 そして、王が片手で目を覆い大きな溜め息をついた時には、無色透明だった真実の石が真っ白になっていた。


「ジュリア……なんて事を……」


 初めて聞こえた声と何かが倒れた音に目線を動かすと、一番端に座っていた金髪の若い男性の声だったらしい。その男性は、机に手を着き立ち上がっている。

 後ろでは、騎士団団長が困惑した様子で倒れた椅子を起こしている。


 よく見ると、フェルは机に頬杖をついて身動きひとつせず、無表情で真実の石を見つめていた。椎名さんの隣の若い女性は、今にも泣きそうな顔をして椎名さんの右腕に、両手で縋るようにしている。


 その後ろにいる魔術師団団長は、何故か目を輝かせて椎名さんの方を見ていた。

 宰相と宰相補佐は、王の席の後ろで二人険しい顔をして、こそこそ何か話し合っている。


 事情聴取の記録の石は、椎名さんへの問いの材料に使われた。これでやっと、私の言葉の記録を信じてもらたはずだ。


 けれど、全く嬉しくも無く、安心もできない。


 椎名さんに巻き込まれた私は、この場に一人ぼっちだ。

 なのに私を巻き起こした椎名さんには、気にかけてくれる親しそうな人がこの場だけで六人もいる。


 そんな椎名さんが羨ましくて、目の前の暖かな空気に孤独感が膨らみ負けそうになりながら俯いた。

 私の言いたい事が、全く言えていないから涙を我慢していただけだ。


「鈴木さんの話の通りです。でも、一番大きな魔石じゃなく二番目の物と、二番目に小さな物にしました。」


 そして、ようやく椎名さんが話し始めた。けど、何かおかしい。持ち出した魔石のチョイスから微妙すぎる。


「魔石を勝手に持ち出してしまった事は悪いと思っています。小さい方の魔石を使えなくしてしまった事も。でも、あの大きな方の魔石は、あの者が勝手に付いて来さえしなければ、魔力が残り使えていたはずです。

私、あの者を連れて来るつもりなんてありませんでした。私、一人でしたら大きな魔石も、あそこまで酷い状態になっていなかったはずです」


 は?今、あの人何て言った?


 私が思うと同時に両隣から、大きな溜め息が聞こえる。


 椎名さんは、やっぱり椎名さんだった。

 私を指差しながら、まだ何か王に訴えている。


 どうしよう。言い返したい。何か言ってもいいのかな?


 そう思っているうちに椎名さんは、次の行動に移っている。


「それに、お土産もありますの。木箱をこちらに持って来て下さい」


 椎名さんは後半は、宰相達に話しかけていた。

 そんな椎名さんを見て私は、転移当日の武勇伝の様に楽しそうに語っていた姿を思い出した。


 ここは、あんな風に椎名さんが悪びれもせず伸び伸びと語る場では無いはずだ。

 私は、あんなに気持ち悪すぎる思いまでして、やっと異世界転移の話を王に信じて貰えたのに。やっと王に、お願いができるのに。


 けれど、私の目の前で椎名さんは周りの王族の様子を伺いながら、胸元から鍵を取り出し木箱の鍵を開けている。

 私は苛立ちが込み上げてきて、声を掛けようと椅子から立ち上がった。


「ユウリ。駄目です。発言を許されていません」


「そうだ。そのまま、座っておくんだ。身体は大丈夫か?」


 後ろから、今まで無言だったクロスとディンに声を掛けられ驚いて、振り返り近付いて二人の顔を見上げる。


 どちらも険しい顔をしていた。


 私は、二人を信頼はしていないけど、事情聴取からは異世界転移の話を信じて、優しくれる人達と思っていた。


「大丈夫です。でも……。私、王様にお願いしたい事があるんです。」


 孤独感が強まると共に二人に対して怒りが込み上げてくる。


 力になります。

 一人じゃない。


 そう言ってくれたのに。


「それは、分かっている。だが、座れ。クロス診てやるか?」


「ユウリ、落ち着いて下さい」


 なのに、大きく厳しい声でディンに言われ、怖くて身体がビクッとしてしまう。クロスの声までもが戒めるようだ。


 二人は、私の力になってくれると言っていたはずなのに、更に二人の言葉に厳しく動きを止められる。

 二人に裏切られたかと悔しくなり、そのまま俯いてしまう。


 クロスが私の片腕を持ち、背中に手を添えた。そして、私の顔を少し覗き込みクロスの顔は離れていった。


「ここは、問いの場だ。お前は問われる立場だ。静かにしていろ。分かったか」


 そのまま、少し大きく厳しい口調で諭すようにディンが話す言葉と重なり、耳元でクロスの早口な低い囁きが聞こえる。


「そのまま、調子の悪いふりを続けろ。記録されているかもしれない」


え?


「見るな」


 囁きに驚いて、顔を上げようとしたらクロスの強い囁きに止められた。

 初めて聞くクロスの話し方に、ますます訳が分からなくなる。


 いつもと違うクロスに、支えられるように椅子に誘導されて座った。


「まだ、陛下があちらで話をされている途中だ。お前が勝手な真似をする事は許されていない」


「今、陛下は様子を見てるだけだ。落ち着け。騒ぐな。まだ早い。必ず話せる」


 ディンが少し大きな声で話す言葉をカムフラージュにするように、クロスの聞き取りやすい早口な低い声の囁き。


 横目で見ると、私を支えて椅子に座らせたクロスは、中腰で長い髪で顔を隠すように俯きがちだ。


 やっと意味が分かった。

 今も、二人は私の味方をしてくれているんだ。


 椅子に座ると私は、ディンが机に置いてくれた美味しい水を飲み干した。

 私を支えるようにしていた、腕にかかったクロスの顔を見て優しく払うように外す。


「もう、大丈夫です。すみませんでした」


 二人の行動の意味は分かったけれど、他にそれをどう秘密に伝えれば良いか分からずに、取りあえず前を見て謝り姿勢を正した。


 すると、クロスは背中に添えた手で私の脇腹を不自然に撫で上げて、元の位置に戻る。

 反対側のディンは、空のグラスを机から下げる時に、耳元で小さく「まだ我慢だ」と低く囁いた。


 私の、慣れない秘密の返事は伝わったようで、二人が秘密の返事をくれた事が嬉しかった。


 前を向くと、どうしても椎名さんが気になり大きな机に目を向ける。


 机の上には、学校で使う物から漬物、ジャム、インスタント食品等。飲み物、お菓子、衣類に工具、大量の種の袋と書籍、便利道具等が並んでいる。


 生クリーム等の乳製品類にプリンやゼリー等の要冷蔵の商品もあり、腐っていないか心配になってしまう。

 結構な数があり、見慣れた物を見つけると嬉しくなりなる。台車には、木箱がいくつか積まれていたらしく、机の上には大きな木箱が三つも並んでいた。


 真実の石のトレイは、いつの間にか王の席の前に戻っていた。多分、宰相が運んだんだろう。


 椎名さんは、王にどんな風に私の世界で過ごしたか話ながら楽しそうに机に見やすいように並べている。

 王は腕を解き、片手を机に着いて表情を和らげて椎名さんを見ているが、どこか辛そうに見える。


 フィルは、興味深そうに机の上の品を手に取り眺めて、他の二人の王族は王の様子を伺いながら手にしていた。


 後ろにいる騎士団団長は厳しい顔つきなのに、魔術師団団長は落ち着きなく見える。


 山になっていた本の説明を椎名さんが喋り終えた頃、王は分厚い本を一冊手に取り椎名さんに聞いた。


「楽しく、色々な経験をしたようだな。驚いたぞ。だが、せっかくの書籍だか、この文字は読めないな」


 ずっと無言だった王の問いかけが嬉しかったのか、椎名さんは笑顔で当たり前に答えている。


「お父様。魔具を使えば読めれます」


 王は、そんな椎名さんの答えに目を細めて聞いていた。


「この文字を読める魔具は、スズキユウリの持つ一つしかないだろう。今、使っている物を取り上げるつもりか?」


「今の魔具で試しても駄目でした。鈴木さんに魔具を借りて、鈴木さんに此処の言葉を教えれば良いのですわ。

本を読み意味の分からない言葉があれば、鈴木さんに聞けば分かるかもしれないですから。私も、時間がなかったのであまり読めていないのです」


「どういう事だ?」


 そうだ。取り上げるを借りると言い変えた椎名さんは、私から借りた魔具を返すつもりは無いはずだ。


「魔力のない鈴木さんが言語変換の魔具を使った言葉は、私達に違和感があります。魔力のある者が言語変換の魔具をつけると、鈴木さんの言葉が鮮明に聞こえます。

そんな変化があるのなら、魔力のない世界の本を、魔力の無い鈴木さんに読ませるんです。それを言語変換の魔具を通して魔力のある者が聞けば、より深く理解できるかもしれません。

その者を使えばいいじゃないですか。」


 なんだと?読ませる?その者を使う?


 私が立ち上がろうとして座る椅子が動くと、ディンが椅子の足を蹴り、クロスが背中に手を添えた。


 そして、王は深い溜め息をつき本を机に置いた。


「ジュリアは昔から本が好きだったからな。だが、これ以上スズキユウリに迷惑をかけるな。皆、席に着け。ジュリアお前もだ。」


 そして、王は椎名さんの頭を優しく撫でると一番奥の席に向かい静かに歩き始めた。

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