賢者の節度
「あなたは招待されていますね」
エコーがかかったような質問が、再度発せられました。
彼はじっと私を見ています。誠実そうで何やら私を憐れんでいるようにも見えます。澄んで深い色をたたえた瞳です。
私は何か言わなくてはいけないようです。
少し目を伏せて、「質問の意味が解らないのですが」と言いかけて、もしかしたら、と思い当りました。
「何の招待でしょうか」
質問に質問を返すのは、大変無作法な態度であることは承知していましたが、それしか言葉が思いつかなかったのです。というよりも、つい呟いてしまったというのが当たっているかもしれません。
明らかに彼は失望の表情を浮かべました。
これは、この面接に私が不合格になったということをはっきり解らせるような態度でした。私は非常に恐縮して、自分が小さくなったように感じました。
それから彼は賢者が愚者に対する節度を思い出したように、静かに頷きました。
「とうぜんク*、失礼、楽園への招待です」
このク*という言葉は彼の癖になっている言葉のようでしたが、実際は私の癖をマネしてるのかもしれません。さり気なく私の非礼を悟らせているのではとも思いましたが、それよりもその後の言葉に私は今更ながら、飛び上がらんばかりに驚いたのです。ク*楽園の招待は消えてはいなかったのだ、と改めて思い知らされたというわけでした。
彼はモゾモゾと上着をいじっていましたが、どこからか例の猫のおもちゃのようなものを引っ張り出してきました。ソフトクリ-ムもどきにはN、プラカードにはYと書かれています。
「このNはNo,YはYesです。どちらかのボタンを押して、答えてください」
と、ゆっくり近づいてきて、私に手渡ししました。
「私には質問の答えがわからないようになっています。だから正直に答えてください」
彼は私の目を見て言いました。
「質問してもいいですか」
と私は恐る恐るではありますが、口を開きました。




